2009年11月16日(月)  金蘭千里中学校講演「宝物はあなたの中にある!」


大阪にある私立の金蘭千里中学校にて講演。『子ぎつねヘレン』も応援してくださった今井雅子ファンの方のご紹介というわけで、その方が持参されたヘレンちゃんを手に記念撮影。

2年生の皆さんに「宝物はあなたの中にある!」をテーマにお話。先生方の他に父兄の方も何名か。地元大阪出身で、今日は実家のある堺から泉北高速に乗って天下茶屋で堺筋線に乗り換えて来ました、と大阪弁で語り始めると、親近感を持ってもらえた様子。


講演の内容は2年前に大学生を前に話した内容(>>>2007年10月26日(金) 愛知工業大学で「つなげる」出前講義
)をアレンジ。前回は作品ごとに「アイデアをどう結びつけたか」を話したが、今回は事前に授業で『子ぎつねヘレン』を観てくれているとのことで、ヘレンを引き合いに出しながら、「原作から脚本、映像になるまで」を説明したり、脚本開発や撮影の裏話を披露したりした。最初に刷った脚本で役者さんを口説き、決まった役者さんに合わせて脚本を書き直すこと(これを「あて書き」と言う)、ロケハンに行ったら太一とヘレンの家出先に想定していたゲームセンターがなくて、代わりに貨車でどうかと提案されたことなどを話す。


脚本家にとって大事な「つなげる力」は、「引き出しを使いこなす力」と言える。その引き出しの中身は、日々のちょっとした心がけで充実させることができる。それは、好奇心と想像力を掛け合わせて、「おもしろい!」と感動すること。感動したことは記憶に刻まれる。外国語もそう。丸暗記よりも、そうか、なるほど、と感心しながら覚えたほうが身につく。「L'arc en ciel」はフランス語の「虹」で、分解するとarc(アーチ)とciel(空)になる。空にかかるアーチで虹かあとうなずいたら、もう忘れない、


好奇心と想像力のアンテナを張っておくと、おもしろいことや出会いがどんどんあるし、どんどんつながる。金蘭千里中学校は進学に熱心な学校らしいが、おもしろがって学んだことは、受験を乗り切るだけじゃなくて、一生ものの財産になってくれると思う。


最後は『ブレーン・ストーミング・ティーン』の中にある言葉「宝物はあなたの中にある!」で締めくくる。

質疑応答の口火を切ったのは校長先生。「自分の意図したメッセージがうまく観客に伝わらなかった場合、どう感じるか」という質問に「作品は受け取ってくれる人がいて完成する。いろんな見方があっていいし、感想から発見すること、学ぶことも多い」といったことを答えた。

続いての先生は「中学校時代はどんな生徒でしたか」「作品を書くための専門知識はどこから得ますか」。中学校時代はソフトボール部の万年補欠で、週末は試合応援ばかり。でも、クラブ活動は最後まで続けなさいという母の方針で、続けたことが根気強さを養ってくれた。文化祭では脚本を書いたり演出したりした。作品に必要な専門知識は、たとえば『子ぎつねヘレン』なら獣医監修の方がついて、用語などは助けてもらえるが、幅広く知識を身につけるためには新聞を読むのがいちばん、と答える。

生徒さんの質問トップバッターは「小心者で人前で話すのが苦手」だという男の子。でも、手を挙げて真っ先に質問する勇気はさすが。わたしが中学生の頃はみんなの前で声をあげるのが極端に苦手だったが、「活発な人を輪の外から眺めている気持ち」を知っていることは、わたしにとっては大事なこと。恥ずかしいと思うのは自分を否定されるのを怖れるからで、裏を返せば、それだけ自分が好きということ。その気持ちも大切にしてほしい。

彼が「『つばさ』観てました」と言ってくれたのに乗じて、年末放送の総集編とスピンオフの宣伝をさせてもらった。

生徒さんのお母さんからは、母親からどんな風に育てられたかという質問があった。何事も最後までやり通せと言われて、続けることの大切さをたたきこまれたこと、中学一年のときに当時の東ドイツに連れて行かれたことがその後の人生に大きな影響を与えたことを話す。でも、後から思ったのだが、母がしょっちゅう「あんたはおもろい子や」と言ってくれたことが、わたしに自信をくれたように思う。ここにも「面白がることが力を伸ばす」法則が生きている。

質問に反射神経で答えるときの脳内は、ブレーン・ストーミング状態。自分の回答を客観的に聞きながら、へーえと思ったりする。

他には「スランプのときはどうしますか」という男の子からの質問。あまりスランプはないが、やる気が出ないときは無理して書こうとせず、まったく違うことをやって気分転換する。そうすると、また書きたくなる。仕事で一緒になった出演者の印象を聞いてくれた子もいた。

「仕事は楽しいですか」と質問した女の子がいて、そのシンプルさが印象に残った。「楽しいです」と答え、「仕事を楽しくするのもつまらなくするのも自分次第です」と付け足した。彼女は「どうやったら今日の話のような心を打つ言葉が出て来るんですか」と二つ目の質問をした。たとえば、「傘と心は〜」の言葉は、『風の絨毯』プロデューサーの益田祐美子さんが英語を教わっていたときの例文だったと紹介。日々の経験の中でわたしの心を動かした言葉が、彼女の心にも何かを残せたとしたらうれしい。

講演の後に校長室で歓談しているところに、生徒さんたちが次々と訪ねてきたとき、サインではなく握手を求めたのは彼女一人で、「仕事が楽しいのはいいことです」とあらためて言い、しばらく握手の手を離さなかった。もしかしたら、彼女は自分の毎日を楽しくする方法を探しているところなのかもしれない。

時計を持っていなかったので時間がよくわからなかったが、質疑応答も含めて2時間近くだったような……よくしゃべった。

校長室にて、中学校と高等学校の校長を兼ねる辻本賢さんと歓談。気さくでとても話しやすい方。わたしのサインを求めに来た女の子たちに「入れ入れ」と手招き。校長先生と生徒さんの距離が近い。今も教壇に立ち、公民を教えているとか。下敷きやらノートやらペンケースやらに生徒さんの名前と「宝物はあなたの中にある!」と今日の日付と今井雅子のサインを書き入れた。お母さんが質問してくれた生徒さんが来たので、USJの短編小説「クリスマスの贈りもの」の小冊子にお母さんあてのサインを入れて手渡した。

校長先生は映画青年だったそうで、学生の頃、早朝の映画館を借り切って自分の好みの作品を自主上映し、そこでの一年分の収益をつぎこんで無料上映会を開いたりしていたとか。あたたかみのある自慢の校舎は卒業生が設計を手がけたそうで、ゆったりとスペースを取った階段に「赤絨毯を敷いて結婚式挙げたらええと思うてるんですよ」。

学校はホーム、卒業生を含めた生徒とその家族、職員とその家族は大きなファミリーだと考える校長先生。その精神は、障子張りのパネルを開けると登下校する生徒が見える校長室のたたずまいにも見て取れる。わたしもまた帰ってきたいと思える素敵な学校だった。

2008年11月16日(日)  『七人は僕の恋人』→シブヤさんの結婚パーティ
2007年11月16日(金)  三丘スポーツ史3に『寄り道ブドウ』掲載
2006年11月16日(木)  映画『フラガール』に拍手
2005年11月16日(水)  『天使の卵』ロケ見学3日目 ミラクル


2009年11月15日(日)  エクスプレスカードで大阪へ

まわりからすすめられ、JR東日本のエクスプレスガードに入る。年会費が1000円かかるが、割引料金で新幹線の切符が買えて、出発前で発券前なら何度でも変更可能で、乗った回数に応じてグリーン車にアップグレードできるという。後から送られてくるICカードを使えば、料金はさらに割引になり、チケットレス乗車ができて、スイカと重ねて使うこともできるらしい。

今日の大阪出張が、エクスプレスカードデビュー。ICカードは未着なので、ネットで予約したチケット(e特急券+乗車券)をエクスプレスカードを使って駅券売機で受け取ることに。いきなり丸の内側の改札でつまずく。「ここはJR東海の改札なので、こちらの券売機では引き換えられません。八重洲口側におまわりいただくか、スイカで入って精算してください」とのこと。スイカで入り、券売機でチケットを受け取る際に「スイカまたは乗車券があれば入れてください」の指示が出たので、入れた。これで精算ができたことになるらしい。入場券料金がかかったのかどうかは不明。おっかなびっくりだったが、なんとかチケットは入手でき、領収書も出てきた(領収書はオンラインでも出力できる)。

この部分を読んだご近所仲間で鉄道ファンのT氏より以下のような指摘をいただいた。

東海道山陽新幹線の「エクスプレス予約」自体はJR東海とJR西日本の展開するサービスなので、「JR東日本のエクスプレスカード」という記載、大手町側の改札はJR東日本管轄なので東海のチケットの発券ができないのであって記述が逆、事実とちょっと違うものなのでご指摘させて頂きます。

エクスプレス予約は東海と西日本の2社で運営していますが、それぞれ対応するクレジットカードを発行しており、JR東海は「エクスプレスカード」というカード、JR西日本は「J-Westカード」というカードを発行しています。(それぞれICカードの「Toica」、「ICOCA」が対応しているのですが、あまり 複雑になるのでここでは割愛)

エクスプレスカード:
http://expresscard.jp/

J-Westカード:
http://www.jr-odekake.net/j-west/

類推するに、いまいさんはJR東海の「エクスプレスカード」に入会されたのかなと思います。


とのこと。自分の入ったカードの正体もよくわかっていなかったとはお恥ずかしい。上記日記の「JR東海」と「JR東日本」を逆にしてお読み頂きたい。

また、JR東日本のVIEWカード保有者もモバイルSuicaにしている場合のみ、東海道山陽新幹線のエクスプレス予約が可能となる特約(1,050円年会費別途必要)があります。

VIEWエクスプレス特約:
http://www.jreast.co.jp/MOBILESUICA/use/ex-ic/howto.html

東京と関西圏で行動することの多い、いまいさんの行動パターンを考えると、東海道新幹線に乗車すること以外にメリットのない東海のエクスプレスカードに入会するより、東日本のVIEWカードでモバイルSuicaにするか、西日本のJ-Westカードに入会し、ICOCAを持つことのほうが便利でお得だったと思い、事前に聞いて頂ければ…。と、少々残念です。

なお、東京での在来線の利用や、大阪での在来線の利用がある場合は、EX-ICサービスよりもe特急券のほうが安価になる場合などありますので、今後詳しくなってくださいね。


とのことで、鉄道のことならT氏に聞け、を怠ったことを反省しつつ、今後入会を検討される方はご参考になりましたら。

お弁当を吟味する時間があまりなく、駅弁は深川弁当。茶色のグラデーションだったが、なかなかしっとりとおいしかった。このあと大阪で一時から始まった打ち合わせが終わったのは、8時。しっかり腹ごしらえしておいて正解。

移動のおともは『毒笑小説』(東野圭吾)と『からくりからくさ』(梨木香歩)。一冊目を読み終えて二冊目にさしかかった頃に新大阪に着いた。

打ち合わせの後、お好み焼き屋でコースをいただく。餅やらキムチやら豚やら海鮮やら。こんなに粉もんを食べ尽くすのはひさしぶり。大阪やあと感激する。締めの汁ものにまでちっこいお好み焼きが浮かんでいた。

2008年11月15日(土)  陶芸教室の成果
2007年11月15日(木)  マタニティオレンジ204 最近の目覚ましい成長
2005年11月15日(火)  『天使の卵』ロケ見学2日目 旅人気分
2004年11月15日(月)  「トロフィーワイフ」と「破れ鍋に綴じ蓋」
2002年11月15日(金)  ストレス食べたる!


2009年11月14日(土)  11月は締切ラッシュ

来月発売の「月刊シナリオ」作家通信(脚本家の近況を綴るコーナー)の原稿を書く。一年に一度ペースで依頼があり、作品の宣伝をするチャンスをいただいている。今回はUSJサイトで公開している短編小説「クリスマスの贈りもの」と1/21発売の『ぼくとママの黄色い自転車』DVD、脚本協力した朝ドラ「つばさ」総集編の年末放送とその前に放送予定のスピンオフの脚本を書いたことを案内した。

今月は3か月に一度の池袋シネマ振興会のフリーペーパーbukuと、2か月に一度のJR社員向け定期購読誌「クリエイティブ21」の締切が重なった。2と3の最小公倍数は6だから、半年に一度のこと。bukuに連載中のエッセイ「出張いまいまさこカフェ」は12月18日発行の次号で14杯目。「クリスマスの贈りもの」執筆で味わった「原作者のキモチ」について綴っている。一方、クリエイティブ21は11月発行号に第一回〈「書き鉄」スイッチ〉が掲載され、あと5回、一年間の連載予定。第2回は車内アナウンスをネタに「声色いろいろ」というタイトルで原稿を練っている。どちらも11月下旬締切なので、これぐらいにだいたい固めて、何日か発酵させて、締切前に起こして最後の仕上げをする。

さらに年賀状代わりに発行している毎年新聞のネタと文面もそろそろ考えないと。

本業の脚本の締切も重なり、コメディ路線の短編映画と朝ドラ「つばさ」スピンオフ(9分半の短編2本)を決定稿に向けて磨いているところ。

2008年11月14日(金)  百均ブログ探偵と『江戸宵闇妖鉤爪』
2007年11月14日(水)  マタニティオレンジ203 サロン井戸端「お金で買えないもの」
2006年11月14日(火)  マタニティオレンジ29 読書の秋
2005年11月14日(月)  『天使の卵』ロケ見学1日目 なつかしの京都
2004年11月14日(日)  『バニッシング・ポイント』@ルテアトル銀座


2009年11月13日(金)  「クリスマスの贈りもの」に帯コメント!

ユニバーサル・スタジオ・ジャパンの期間限定サイト「Limited Christmas」で読める今井雅子の初めての短編小説4編「クリスマスの贈りもの」、お読みいただけましたでしょうか(こういうときは文体もあらたまります)。

公開されて今日で2週間ですが、思った以上に評判が良く、脚本作品よりも反響があることに驚いたり戸惑ったりしつつも素直に喜んでいます。USJのクルーの皆さんにも評判上々なのは何より。自分たちが働く舞台をいっそう好きになってくれれば、ゲストの人たちにもっと特別な瞬間をプレゼントできそう。


ユンソナさん、SHEILAさん、近藤夏子さん(キャンペーンソング「全部がプレゼントだ〜クリスマスの贈りもの」を歌っています。タイトルも連動!)、和希沙也さんに帯コメントを寄せていただきました。それぞれ自分の言葉で作品の感想を語られていて、感激。帯をクリックすると、コメントの全文を読めるので、ぜひ「クリスマスの贈りもの」ページへ(2010/1/17追記:2010/1/6サイト終了にともない、縦書き文庫に引っ越して再公開)。

プレスツアー用に作った小冊子の増刷版(地元大阪の幼稚園などで配られるそう)にもユンソナさんのコメントが入りました。無事お子様からパパ、ママの手に渡って物語が届きますように。


2009年11月12日(木)  もはや「森ガール」ではない!?

朝の情報番組で「森ガール」なる言葉を知る。昨日の「リア充」といい、知らない言葉が多い。広告会社勤めを続けていれば、情報にアンテナを張った同僚たちから即座に伝わっただろうことが、こもり型フリーランス仕事をしていると、知るまでの時差が生じる。

「森ガール」とは「森のそばに住んでいそうな女の子」を指し、彼女たちが身にまとうものにその特長があらわれるらしい。原色ではないナチュラルな(森にありそうな)色使い、体をしめつけないゆったりしたライン、森の動物たちを思わせるふわふわ、もこもこした肌触りを好むという。森と相性のいいおとぎ話に出てくる世界観も好む。たとえば、赤ずきん。

テレビ画面に映っていたものも、もしかしたらそうかもしれないが、わたしがここ数年愛用しているfranche lippee(フランシュリッペ)のファッションは、まさに森ガール風。Baby Jane Cacharel(ベイビージェーンキャシャレル)の日本撤退にショックを受けたとき、失望を埋めるかのように目の前に現れたこのブランドの、「着られる絵本」のような服に一目惚れしては、ワードローブに加えている。春には「不思議の国のアリス」をモチーフにしたワンピースの大人用と子ども用を微妙にデザインの違うおそろいで買い求めた。情報番組によると「親子で森ガール」という人たちも見受けられるらしい。

森ガールは人が集まる繁華街や夜のにぎわいよりも静かで穏やかな時間を好み、家でお茶をするのがいちばん落ち着くのだという。それはわたしにも言えること。

わたしって、森ガールだったのか!

そう思ったとき、記憶の底から浮かび上がった情景は、会社でひとつ後輩の男の子と会話しているわたしの姿。5つほど下の新入社員の女の子たちを「あの子は○○系ギャル」などと分類したのち、「わたしは何系ギャル?」と聞くと、その男の子は「今井ちゃんは、もはやギャルではない」。あれから10年あまりの歳月が経っているし、とっくにギャルでないなら、当然もはやガールではない。

森ガールでないとしたら、森女?

なんだか、森の奥でスープをぐつぐつ煮ている魔女みたいだ。

2008年11月12日(水)  いろんな思いがぐるぐると『ぐるりのこと。』
2007年11月12日(月)  寝耳に水
2006年11月12日(日)  マタニティオレンジ27 川の字 朝の字
2004年11月12日(金)  何かと泣ける映画『いま、会いにゆきます』
2002年11月12日(火)  棗
2000年11月12日(日)  10年後に掘り出したスケジュール帳より(2010/11/29)


2009年11月11日(水)  生まれる前の記憶の追伸

朝ドラ「つばさ」の撮りきりセレモニー後のキャスト・スタッフ集合写真を「みせて」と娘のたまが手をのばした。百人以上が集まった写真だから一人一人はずいぶん小さく写っているのだが、その中から「ちゅばさ」「ゆうかちゃん」とお気に入りの登場人物を見つけて行く。「ちゅばさのおじいちゃん」と指差したのは竹雄役の中村梅雀さん。「おじいちゃんじゃなくて、お父さんよ」と訂正すると、「このひと あまたまどう つくってるんだよ」と教えてくれる。「甘玉堂じゃなくて、あまたまだよ」と正したが、惜しい。靴に砂が入ったときに「くつに おすなば はいっちゃった」と言うのと同じく、意味はわかっているのかもしれない。

「つばさ」の放映中は内容がわかってるんだかいないんだかという感じだったが、放映が終わってから言葉が追いついてきて、「ちゅばさとなかよしのしょうたくん」と言ったりする。実はわかって観てたんだなあとうれしくなる。

言葉が追いつくといえば、以前日記に書いた生まれる前の記憶をときどき話してくれる。「たまちゃん おなかのなかでも おゆび すっていたのよ」と言うので、「そんなに長く吸ってるなら気が済んだでしょ」とわたしが言うと、「まだ きは すんでない」と妙に正しい日本語で言い返す。指を吸い続ける言い訳なのかなとも思うが、エコー写真を撮ると、いつも指をくわえていたのは事実だ。「かたが でなかったんだよね」とも言う。超特急で子宮口全開まで進みながら、頭はもう出ているのに肩が引っかかり、その数センチを進ませるのにあと数時間を費やした。「ママを ぎゅって おしてたのよ」とも言うから、たまもたまなりにお産を進めていたらしい。

この話をすると、「うっそー」「へーえ」などと最初は驚かれ、やがて「神秘ねえ」としみじみされる。ノストラダムスの大予言と同じく、言葉をどう解釈するかで「そうとも取れる」という範囲のことかもしれないが、生まれる前から記憶があるということに、やすらぎを覚える人は多い。

2008年11月11日(火)  四半世紀前の「今」の『昔も今も笑いのタネ本』
2007年11月11日(日)  マタニティオレンジ202 子育て戦力外の鈍感力
2006年11月11日(土)  ウーマンリブvol.10『ウーマンリブ先生』
2003年11月11日(火)  空耳タイトル
2002年11月11日(月)  月刊デ・ビュー


2009年11月10日(火)  「リア充」と朝日歌壇

たまった新聞をまとめて読む。新聞ではなく旧聞である。毎日ちょこちょこ目を通せばいいのに、それをさぼって、古新聞が雪崩を起こしそうなほどたまった頃に格闘の決意をする。ばっさばっさとページをめくってもけっこうな時間がかかる。日記も同じく、ためてしまう。この日記を書いているのは約3週間後の11月24日。「新聞整理」というキーワードを手がかりに記憶を掘り起こしている。

「リア充」という言葉を新聞に教わる。リアルな生活が充実していること、の意味らしい。恋愛なりサークル活動なりバイトなり、生身の人間の実感に、ネット上でのつながりや楽しみと区別してわざわざ名前がつく。そういえば、5、6年前に、友人が「ネットの友もリアルの友も大事」と言い、そういう区分けがあるのかと驚いたが、彼女の中では当時すでに二つの生活が並行して存在していた。

自分が手がけた作品をネットで知らせ、反響をネットで知るわたしの場合は、ネットとリアルは分けられるものではなく、密接に結びついている。ネット上で知り合う人とは作品が仲人になる場合が多いし、ネットの生活の充実とリアルな生活の充実は連動している。USJの期間限定サイトLimited Christmasに書き下ろした短編小説は、長年応援してくれた友人の熱意で実現した仕事で、ネットでの広がりをメールで分かち合うことで、また友情をあたためあうという、まさにネットとリアルの掛け合わせだ。

リアルかバーチャルかということを考えつつ新聞を整理していて、朝日歌壇はどちらだろうと思う。インターネット応募はできず、ハガキで出して紙面で確かめるアナログな世界であるが、応募者同士のつながりはリアルではなく、紙面を共有する縁はバーチャルなものだ。けれど、新聞の活字のもたらす効果か、短歌の向こうに生身の人間や生活を感じる。

ホームレス歌人の公田耕一さんとアメリカの獄中から投稿する郷隼人さんが気になり、朝日歌壇観察を続けている。2009年08月03日(月) 応援団と朝日歌壇と子守話はエールつながり以来日記に綴っていなかったので、ひさしぶりの観察記を。

8月16日 公田さん、郷さんともに採用。
馬場あき子選
マクドナルドの無料コーヒー飲みながら方代さんの伝記読み継ぐ (ホームレス)公田耕一
精魂をこめて造園せし我の禅ガーデンは踏み躙らるる (アメリカ)郷隼人
高野公彦選
朝顔もラジオ体操も〈白熊〉もみーんな懐かしい祖国(くに)の夏休み
公田さんのマクドナルドの歌は高野さんにも選ばれていて、「方代さんの伝記」とは「田澤拓也著『無用の達人 山崎方代』か」と選者の推測がコメントされている。
この日は他に、
大寺も我も等しく青時雨回廊に添ふ水音聞くなり
(飯田市)福岡重人 
に心惹かれた。「毎回点字の応募」と選者・永田和宏さんのコメント。

8月30日 この日は郷さん採用、公田さんの歌は見当たらず。
辞書もあり、三食・洗濯(ランドリー)・医療にシャワー全て無料(フリー)のわれらの暮らし

9月7日
瓢箪の鉢植えを売る店先に軽風立てば瓢箪揺れる
公田さんの歌を見つけると、ほっとする。歌が届くことで、安否確認をしている。
点訳の朝日歌壇の今届きなぞりてさがす公田耕一(都留市)長田美智子
この人の歌に、そうそう、と共感。この後約一か月の朝日歌壇が行方不明。毎週月曜の朝日歌壇だけは目を通し、切り抜いて別にまとめてあるのだが、公田さん、郷さんともに掲載されていない場合は切り抜かないので、もしかしたらそういう週が続いたのかもしれない。

10月12日以降、郷さんの採用は続くが、公田さんが姿を見せなくなった。
ソルダッド山の禿げたる稜線に月の船出づ絵本の如き (アメリカ)郷隼人

10月19日  
日本より一日早し秋分の日も真珠湾攻撃慰霊日も
「ひとり寝の子守唄」など呟きて寝床(バンク)より観る月の光(かげ)かな

10月26日 
獄中死遂げたる人が二人共我と同居したことがあった 
夏時間おわり標準時となりぬただそれだけのこと秋は来にけり


11月2日
銀舎利のご飯を常に夢みるは我も山頭火のようなもの

11月9日には郷さんも姿を見せなかったが、興味深い歌があった。
菜菜ちゃんがママになったとアテネから写真が届く「美菜(ミイナ)エレニ靖子」(横浜市)宮本真基子
佐佐木幸綱選第10席のこの歌について、〈安楽死の詠み人 孫の名に「再生」〉の見出しでコラムがあり、オランダで10年、がんと闘った後、97年に安楽死を選択、52年の生涯を閉じたネーダーコールン靖子さんのことが紹介されている。歌にある「菜菜ちゃん」は靖子さんの娘、「美菜エレニ靖子」さんは孫となる。靖子さんは朝日歌壇の常連であり、「臨終を看取った知人が作歌ノートから筆写、ファクス投稿し、選者全員が採り、共選の星印が四つついた」という。その歌、
座すことの叶う日再び来ることを祈りて入りし三たびのオペ室
に覚えがあった。掲載時に見たのか、その後どこかで紹介されていたのが目に触れたのか、一度読むと記憶にくっくり刻まれる強い歌だ。そうか、この歌を詠んだ人の娘さんがお子さんにお母さんの名を……。ここにもバーチャルなはずなのにリアルな生の実感がある。「没後10年余、遺族との連絡を保った歌友の存在に心打たれた」とコラムにあるが、常連だった頃から知る人にとっては感慨もひとしおだろう。巻頭に家族の肖像写真が付されているという遺歌句集『オランダはみどり』も手に取ってみたくなった。

そして、公田耕一さんはどうしていらっしゃるのか。

2007年11月10日(土)  「神憑り」な女優・内田淳子さん
2004年11月10日(水)  トレランス二人芝居『嘘と真実』
2002年11月10日(日)  黒川芽以フォトブック


2009年11月09日(月)  ベルリンの壁崩壊20周年で東ドイツを想う

新聞で「ベルリンの壁崩壊20周年」を知る。壁の残骸の亀裂に一輪一輪花を差し込んだり、美しくペイントされた発泡スチロールの壁を倒したりという祝い方にドイツらしさを感じる。

そうか、あれから、もう20年か。

中学一年の夏休み、母に連れられ、妹とともに向かったはじめての海外旅行先は、旧東ドイツだった。若いうちに地球にはこんな国もあるんやでと教えたいということで社会主義の国を選んだ母のセンスはなかなかのもので、その後のわたしの人生は、この旅行におおいに影響を受けている。

ベルリンの壁の存在を意識していたのも、そのひとつだ。

20周年ということは、壁崩壊は1989年。1993年実施の第2回学生「大陸・夢の旅」作文コンクールで受賞した「再会旅行」には、その興奮が綴られている。旅行で知り合って以来文通を続けて来たアンネットとの再会を計画する内容で、大賞賞金を射止めたら双方の国を訪ねあう往復旅行にできたのだけど、賞金に見合った片道旅行となった。(2019年11月10日、脚本家・今井雅子facebookページのノートに全文掲載)

旧東ドイツとアンネットのことは、日記にもときどき登場している。

2002年10月24日(木) JSAを読んで考える 北と南 東と西

2005年03月25日(金) 傑作ドイツ映画『グッバイ・レーニン!』

2009年08月07日(金)  聞きたくないレーガン大統領と東ドイツの絵はがき

アンネットの家へは何度か訪問し、毎回歓待を受けている。いつか彼女の一家を日本に招待して、往復再会旅行を実現させたいと思う。

2008年11月09日(日)  はじめてヤフオクで買い物
2007年11月09日(金)  島袋千栄展『メリーさんの好きなもの』
2006年11月09日(木)  マタニティオレンジ26 六本木ヒルズはベビー天国
2005年11月09日(水)  『ブレーン・ストーミング・ティーン』がテレビドラマに
2003年11月09日(日)  小選挙区制いかがなものか
2002年11月09日(土)  大阪弁


2009年11月08日(日)  ゆったりまったりご近所さんの会

ひさしぶりにご近所仲間でお昼を食べましょうとなり、このメンバーでよく行く播磨坂のイタリアン「タンタローバ」へ。このお店のワンプレーとランチは何度食べても裏切らない。それを知っている人たちで店はいつもにぎわっている。

天気がいいので腹ごなしに小石川植物園まで歩く。そこでまた知り合いの一家に会い、合流する。子どもたちが走り回る傍らで、大人たちは大人の話をする。どんぐりを拾ったり、落ち葉の絨毯を踏みならしたり、体いっぱい秋を味わう。

おいしいカレー屋の話が弾んだせいか(素揚げ野菜どかどかの小金井のプーさんにまた行きたい!と話す)、今度は小腹が空いて、植物園から5分ほど歩いた白山ベーグルで、お茶。高温でカリッと焼き直して出してくれるベーグルは、これまた裏切らないおいしさ。お茶を飲んでベーグルを食べても500円でおつりが来るのもすばらしい。

よく歩き、よくしゃべる。万歩計は11227歩。

2008年11月08日(土)  7か月ぶりにご近所さんの会
2005年11月08日(火)  『スキージャンプ・ペア〜Road to TRINO2006〜』
2003年11月08日(土)  竜二〜お父さんの遺した映画〜


2009年11月07日(土)  『本からはじまる物語』

読書の秋にふさわしい『本からはじまる物語』という名の本と目が合い、手に取った。

「18名の作家が「本」「本屋」をテーマに掌編小説で競演!」という惹句がついている。

「飛び出す、絵本」恩田陸
「十一月の約束」本多孝好
「招き猫異譚」今江祥智
「白ヒゲの紳士」二階堂黎人
「本屋の魔法使い」阿刀田高
「サラマンダー」いしいしんじ
「世界の片隅で」柴崎友香
「読書家ロップ」朱川湊人
「バックヤード」篠田節子
「閻魔堂の虹」山本一力
「気が向いたらおいでね」大道珠貴
「さよならのかわりに」市川拓司
「メッセージ」山崎洋子
「迷宮書房」有栖川有栖
「本棚にならぶ」梨木香歩
「23時のブックストア」石田衣良
「生きてきた証に」内海隆一郎
「The Book Day」三崎亜記

気に入っている作家さん、気になっている作家さんの作品が「当たり」だとほくほくする。巻頭を飾る恩田陸さんの「飛び出す、絵本」は、さすが。ひとつ前に読んだ長編『MOMENT』で出会った本多孝好さんの「十一月の約束」も好き。この人の書く人と人のべたべたしすぎないけれどしっとりした距離感が好き。ずいぶん前に『プラネタリウムのふたご』という分厚い本でファンタジーン世界に浸らせてくれたいしいしんじさんの「サラマンダー」は、やっぱりいしいしんじ色をしていて、大人の童話という雰囲気。一時期はまった篠田節子さんの「バックヤード」は、本屋の地下に集まる霊たちの正体の設定(ネタばれになるので読んでみてのお楽しみ)が秀逸。

面白いのは、本を「鳥」にたとえた作品が多いこと。ページを翼にたとえた作品もあった。一作目と最後の作品がそうだったので、とくに印象に残ったのかもしれないし、あえてそうした編集者も「本とは鳥のようなもの」だと感じたのだろう。本はページの翼でどこへでも連れていってくれる。

そういうわけで、わたしも本を鳥にたとえた子守話を考えてみた。まとめる時間がないので、後日。

2008年11月07日(金)  お風呂で牛乳屋さんごっこ
2006年11月07日(火)  シナトレ6『原作もの』の脚本レシピ

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