2007年11月16日(金)  三丘スポーツ史3に『寄り道ブドウ』掲載

ずっしりと重みのある小包が届いて、開けてみると、『三丘スポーツ史3』という箔押しの立派な冊子が現れた。わたしの母校、三国丘高校の運動部を束ねる三丘体育会が発行している記念誌で、体操部出身のわたしにも寄稿の依頼があり、春に原稿を送っていた。巻頭を飾るのは日本サッカー協会会長、川淵三郎氏。7期の卒業生で、41期生のわたしの34年先輩にあたる。チェアマンと同じ冊子に自分の文章が納められるとは、ありがたき幸せ。ちなみに、チェアマンはとても母校愛にあふれた方のようで、母校をサプライズ訪問されることもあるのだとか。

わたしの寄稿文は、職業色を出して脚本風に。「部活は3年間続けなさい」というのが母親の教えで、中学校時代にやっていたソフトボール部がなく(続ける気持ちもなかったけれど)、小学校の頃にかじった器械体操をやることにしたのだけど、大会入賞を狙うような部ではなく、上下関係も厳しくなく、部活の後の甘いものがおいしく感じる程度のほどほどの練習量で、わたしにはちょうどよかった。

寄り道ブドウ
ある昼下がり。東京のとある喫茶店のテーブルにて。
雑誌記者が脚本家の今井雅子を取材している。
記者「出身は大阪で、高校は……(手元の資料を見て)あれ、三国丘って甲子園出たことありますよね」
今井「よくご存知で」 
記者「進学校なのに出場ってけっこう話題になってましたよね」
今井「わたしが入学する少し前なんですよね。わたしの在学中は初戦敗退ばっかりでした。授業さぼって応援に行きましたけど」
記者「ご自身も運動部に?」
今井「はい。器械体操部に。小学生の頃、教室に通ってたので」
記者「文武両道だったわけですね」
今井「両道っていうと、学業も武道もバリバリって感じですけど。入賞を狙って猛練習するような厳しい部じゃなくて、学業が本業なら、武道は寄り道って感じでした」
記者「寄り道武道ですか」
今井「なんか、おいしそうですね。寄り道ブドウって」
記者「お好きなんですか、ブドウ?」
今井「食べることが好きなんです。部活の帰りに駅前で買い食いするのが楽しみでした。アイスとかクレープとか生ジュースとか」
記者「寄り道ブドウの帰り道に、また寄り道ですか」
今井「(笑って)運動の後の甘いものが楽しみで体動かしてた、みたいなとこありますね。OBからの差し入れのカルピスとか、部員全員に行き渡るように薄めるから、とんでもなく薄いんですけど、やたらおいしかったです」
記者「青春ですね」
今井「若さがなきゃ飲めない味です」
記者「他に部活動の思い出は?」
今井「部室があったんですよ。廊下がミシミシ鳴る本館の一階に」
記者「練習場とは別ですよね?」
今井「(笑って)開脚もできない広さです。畳二畳ぐらいの部屋に漫画がびっしり詰まった棚とベンチがあって。授業が休講のときや、たまに休講じゃないときも、よくそこで過ごしました」
記者「授業中も寄り道、ですね」
今井「教室以外に居場所があるって、いいんですよ。隠れ家みたいで。ピアスも部室で開けましたね」
記者「え? ご自分で?」
今井「開けあったんです。耳鼻科だと三千円取られるけど、ホチキスみたいなキットだと千円ちょっとだからって。耳たぶを冷やすと麻酔代わりになるって聞いて、三国屋っていう校門前にある食堂でコカコーラの紙コップに氷だけ入れてもらって」
記者「よく覚えてますね。(手元の資料を見て)卒業が平成元年だから、二十年近く前のことですよね?」
今井「もうそんなになりますか。二十年かあ。三国屋も店を閉めちゃって、本館も老朽化で建て替えちゃったんですよね」
記者「体操部は今もあるんですか?」
今井「え? なくなったとは聞いてないですけど。ありますよね、きっと」
記者「当時の仲間とは今も連絡を?」
今井「はい、何人かとは」
記者「二十年物の友情ですね」
今井「部活をやっていると、交友関係も教室の中だけじゃなくて広がるんですよね。先輩後輩とか、大学生や社会人になったOBとか。他の高校の友だちもできたんですよ。合同練習会や大会で知り合って」
記者「体操部の大会ってどんな感じなんですか」
今井「オリンピックなんかでやってるのと競技は同じです。技のレベルがうんと低いですが。大会の前日に、会場の設営をするんです。床運動のマットは木に布を貼った畳大のボードを何十枚も組んで作るんですけど、巨大パズルを組み立てるみたいで大仕事でした」
記者「そのマットの上でくるくる回ってたわけですか」
今井「宙返りってことですか? わたしはバック転止まりでした。自分で選曲して振り付けするんですけど、緊張して頭マッシロになると、振り付けが吹っ飛んでしまうんです。そういうときは、適当にくるくる回ってましたが」
記者「体操部での経験が、その後の人生で役に立ったりしていますか」
今井「わたしは広告会社のコピーライターを経て、脚本家になったんですけど、広告を作るにしろ映画を作るにしろ、どの大学を出たかよりも、人生でどんな経験をしてきたかが物を言うので、学業以外に打ち込むものを持てたことは、いい栄養になっていると思います」
記者「実りの多い寄り道だったわけですね」
今井「三年かけて熟した、おいしいブドウでした」
記者「こういうインタビュー記事をでっち上げるのも朝飯前というわけですね」
今井「そうですね。教室でも多くのことを学びましたけど、視野を広げたり、頭をやわらかくしたりしてくれたのは、体育館や部室で過ごした時間なのかな、と思います」
記者「運動部に限らず、寄り道はすべし、ですね」
今井「文化祭や体育祭にもとても気合が入る高校だったんですが、そういう偏差値に直接関係ないところに時間や労力を費やせることが、人間を豊かにしてくれる気がします。時間は作るもの、というやりくりの発想を持って、今の在学生たちにもたくさん寄り道を楽しんで欲しいですね」

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