2007年10月26日(金)  愛知工業大学で「つなげる」出前講義

益田祐美子さんの紹介で、愛知工業大学での1コマ90分の時間をいただいた。昨夜、たまを寝かしつけたついでに一緒に寝てしまい、「しまった! パワーポイントが未完成」と二時過ぎに飛び起き、ファイルを仕上げたのが四時前。頭で組み立てたスライドの順番と、実際に話そうとする感覚の順番のずれを試行錯誤で調整していると、びゅんびゅん時間が過ぎる。プレゼン前っていつもこうだったな、と広告会社時代を思い出したりした。

新幹線の前でもう一度おさらい。名古屋駅で担当の森豪教授に迎えていただき、タクシーで大学へ。愛・地球博の跡地を通り過ぎ、高速代も含めると九千円を超える距離。移動しながら「学生は六千人ほどで、女子は約一割」「来年創立五十周年。それに合わせて学生の手で映画を作る計画がある」「今回の講義は、学生に広い視野を養ってもらうためのもの」といったお話をうかがう。益田人脈の十五人の映像関係者が週替わりで持論を語る90分。わたしの学生時代に受けてみたかった。

事務室で講義開始時間を待つ間、和紙職人であり大学職員である佐藤友泰さんより奥の深い和紙の世界を語っていただく。もとは、書道用の紙を極めたのがきっかけで、この道三十年。利益を追い求めると妥協が生まれるからと、収入は定職から得て紙では稼がない、と決めているところが職人。

広い大学構内の移動に時間がかかり、五分遅れて講義をスタート。百人に絞り込まれたという学生さん、男子が圧倒的多数。開始早々居眠りを決め込む者、若干名。この人たちを起こすつもりで話しはじめる。

脚本家の仕事は動詞ひとつでくくると「つなげる」ではないか、というbukuの連載エッセイ第一弾での発見をふくらませ、「発注の9割はコネ 作業の9割はブレスト」であることを今井雅子作品の実例で紹介。今日の講義もコネ×ブレスト。自分と学生さんたちとの接点=「わたしもかつて学生であり、彼らはやがて社会人になる」をとっかかりに連想ゲーム感覚で構成を組み立てた。


後半は実践編。人をつなげる「人脈」とアイデアをつなげる「発想力」のかけあわせで「つなげる力」は最大化されること、それぞれの強化方法などを話す。

そして、わたしが就職した広告会社の入社試験に出題された「紙コップの使い方を思いつく限り考えよ」を例題に、学生さんたちに一人ブレストに挑戦してもらう。壇から降りてマイクを向けると、しどろもどろになりながらも「糸電話」が出た。さらに助け船を出して「水を飲む」「採尿」を引き出す。

もう一人は、考え込んでしまったので、「コップをベランダに移動させてみましょう。このとき、ビジュアルを思い浮かべるのがポイント。さて、あなたのベランダには何がありますか」と問い方を変えると、「洗濯物があります」の答え。わたしはとっさに「紙コップに洗濯物を入れるのは難しいですが、洗濯バサミを挟むのには使えますね」と返したけれど、「長袖の内側に入れて、ピンっと張らせるのに使えますね」という答えがあったと後で気づいた。


スライドをあと十枚ほど残したところで突然「ありがとうございます」と森教授に言われて面食らう。4時20分から5時50分までのコマだったので、てっきり最終だと思っていたのだが、まだこの後に講義があり、おしりがつかえていた。駆け足で十枚を消化し、わたしの書いた本にサインを求められたときに添えるメッセージを贈る言葉としたところで時間になり、学生さんたちは一斉に大移動を開始した。

次の教室に移動する頃には、聞いた話はほとんど消えてしまって、週末を超えれば、何も残っていないかもしれない。それでも、一言二言、あるいは言葉という形でなくても、何かこれからの人生につながるものを受け取ったと言ってくれる学生さんが一人でもいてくれたら、「つなげる仕事」を果たせたことになる。

2004年10月26日(火)  ジュアールティー1年分

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