2009年06月20日(土)  台詞もト書きも日々の生活の中に

『月刊ドラマ』に依頼された「セリフとト書き」という欄の原稿を書いている(今月末締切なので、7月発売の8月号に載るのでは)。台詞もト書きも日々の実感から拾い上げられるもので、脚本は何気ない毎日の喜怒哀楽から生まれる……そんな内用になっているが、当たり前の生活に感動を見出せるチカラは、脚本家に不可欠な資質のひとつだと思う。コピーライター時代、「生活者の視点を忘れるな」と口酸っぱく教えられたが、脚本を書く上でも、とても大切な心がけだ。締切に追われていても、アイデアが便秘気味でも(むしろそういうときこそ!)、生活をおろそかにしてはいけない。

そんなわけで今日は家族サービス。あと2日で2才10か月の娘のたまのリクエストに応えて、一家3人で上野動物園へ。自分から言い出したくせに終始指をくわえ、動物たちを見ても「ふーん」という反応。「あれのりたいよお」とモノレールを見て泣きわめき、「じゃあ、帰るときに乗ろうね」となだめたら、「帰る」と言い出して、きかない。仕方なく乗せると、乗っている間は大して喜ばず、降りるときになって、「のりたい!」と騒ぎ出す。「今乗ったでしょ」「もっとのる」の押し問答で、動物園を見回しても、檻の中も含めて、最も手がつけられない生き物になっていた。

「このわがまま娘は、はあ……」とため息つきつつも、いつか娘がぐずる場面を書くときには、今日のことを思い出そう、と心に刻んだ。

家に帰ると、ぐったり。でも、お昼の時間。泣きぐずったたまはおなかをすかし、なだめるのに体力を消耗したわたしとダンナも疲れ果て、買い物に行く気力もない。「おなじみのレトルトカレーうどんか、朝ご飯みたいだけどベーグル(楽天のベーグル屋 エルクアトロギャッツで購入した15個2000円送料込みのものを冷凍庫にストック)とスープか」と選択を迫ると、「カレーうどんでいっか」と妥協感ありありな返事。「ごめん、今ので、作る気なくした」と言うと、「じゃあ、寝て空腹を忘れるか」とダンナは昼寝を始めてしまった。

これまた「お昼どうする?」の小ネタとして使えるかもなあ、と冷凍ベーグルをチンしてたまと分け合いながら思った。

2008年06月20日(金)  マタニティオレンジ301 太ももで豆腐うらごし
2005年06月20日(月)  『子ぎつねヘレン』ロケ見学3日目
2004年06月20日(日)  日本一おしゃべりな幼なじみのヨシカのこと
1998年06月20日(土)  カンヌ98 1日目 はじめてのカンヌ広告祭へ 


2009年06月19日(金)  報酬系とドーパミンと子守話80話

朝日新聞別刷り「be」の6月6日付けサイエンス版に「報酬系」のことが載っていた。脳には報酬系と呼ばれる神経回路があり、そこが損得勘定をして人の行動を左右しているという。昨日の日記に書いた「感想力」はまさにこの報酬系の活性剤だといえる。いい感想をくれる人に、いい仕事で応えようという意欲が湧くのだ。

報酬系という親しみやすい単語が脳研究の分野の用語として使われていることが興味深く、調べてみると、この報酬系は「ドーパミン」に関係しているらしい。ドーパミンという単語を知り、その響きにはまったのは、今の半分ほどの若さだった大学生の頃。チアリーダー仲間で読書家の理系だったヤスコちゃんが「脳がドーパミンという快楽物質を出すと、苦しみが快楽になる」ということを教えてくれ、もう一人の同期のトンちゃんとともに「ドーパミン、ドーパミン」をかけ声にランニングや筋トレをしていたのが懐かしい。ランニングハイもドーパミンの仕業だが、褒められたり報われたりするときの満たされた気持ちもまたドーパミンが運んでくるものだったのだ。

頑張れば報われると信じられると、努力は苦ではなくなるという見地からも「褒めて育てる」は一理あるらしいが、子どもを育てる側からいえば、子育ての苦労を吹き飛ばし、喜びに換えてくれるのは、子どもからの報酬だといえる。「ママ だいすき」「ママ また つくってね」その一言で、どこからかチカラが湧いてくるし、子どもの成長を日々見られることがごほうびだと思えるからこそ、愛情を注げる。実際、記事によると、母親は、他の子の写真よりも自分の子の写真を見たときに、報酬系が最も活発に働くという。パブロフの犬のように、わが子の顔を見ただけで報酬系が反応するらしい。

今日で80話目の子守話(火曜日に行った回転寿司がかなり気に入ったらしく、「くるくるやさん また いこうね」を連発。なので寿司ネタで)も、報酬系がはりきった結果。「これを聞かせたらどんな顔するかな」の期待と、聞かせたときの反応が、おはなしの種から花を咲かせる水や栄養になっている。「今年中に100話」の目標達成まで、あと20話。

子守話80「おすしと くるくる」

あるひ パパと ママが たまちゃんに
「くるくる まわる おすしやさんに いこっか」と いいました。
ダンスが だいすきな たまちゃんは
「たのしそう!」と おおよろこびで でかけました。

ところが くるくる まわるのは たまちゃんではなく おすしでした。
すっかり まわるつもりだった たまちゃんは がっかりです。
「ママ おねがい。いっしゅうだけ まわらせて」と おねがいすると
「ちちんぷいぷい。たまちゃん おすしぐらい ちいさくなあれ」と
ママが まほうを かけてくれました。

ちいさくなった たまちゃんを ママは
おやゆびと ひとさしゆびで ひょいと つまんで
まわってきた いなりずしの おさらに のっけました。
「いっしゅうだけ まわったら もどるんだぞ。
 いなりずしの おさらごと ひきあげるから」と パパが いいました。
「はーい。いってきます」と たまちゃんは いくらの つぶより 
ちいさくなった てを ふって しゅっぱつしました。

おさらから ながめる けしきは とても ゆかいです。
「みてみて。おやゆびひめ みたいな おんなのこが のってる!」
いなりずしの よこに ちょこんと たっている たまちゃんを みて
おきゃくさんたちは おおさわぎ。
でも だれも たまちゃんを たべる ゆうきは ありません。
「バイバーイ」と あいさつして 
たまちゃんは つぎの テーブルへ むかいます。
パシャリと しゃしんを とる おにいさん。
「わたしも のりたいよう」と なきだす おんなのこ。
「おにんぎょうの かたちの おすしなんて あったかしら」と
てんいんさんは めを ぱちくりさせました。

あっというまに いっしゅうの たびが おわって 
たまちゃんは パパと ママがいる テーブルに もどってきました。
「たまちゃん さあ おしまいよ」と 
ママが いなりずしの おさらに てを のばしました。
「やだ! もう いっしゅう まわる」と たまちゃんが いうと
「やくそくは やくそくだ」と パパ。
でも くいしんぼの ママは いたずらっこの たまちゃんが いないと
ゆっくり おすしを たべられるので
「じゃあ もう いっしゅうだけね」と ゆるしてくれました。

たまちゃんは おおはりきりで にしゅうめを まわりはじめました。
ところが おきゃくさんは もう びっくりして くれません。
たまちゃんが てを ふっても おすしに むちゅうで しらんかおです。
たまちゃんは ゆかいな きもちが きえて
だんだん こころぼそく なってきました。

ながい ながい にしゅうめが おわって
パパと ママの いる テーブルが みえてくると
たまちゃんは なみだが でそうに なりました。
「パパ ママ ただいま!」
たまちゃんが おおきな こえで いうと
ママが たまちゃんの ほうを みました。
ところが なんということでしょう。ママが てを のばしたのは 
たまちゃんが のっている いなりずしの おさらでは なくて 
その うしろから きた まぐろの おさらだったのです。
パパも あなごの おすしを ほおばるのに いそがしくて 
たまちゃんに きづいて くれません。

ぐずぐずしていると パパと ママの いる テーブルを
とおりすぎてしまいます。
たまちゃんは いなりずしの おさらから ジャンプして
テーブルに もどろうと しましたが
きゅうりまきの きゅうりより みじかい あしでは むりでした。
「パパ ママ さようなら〜」
その こえも パパと ママには とどきません。
たまちゃんの さんしゅうめの たびが はじまりました。

パパと ママが みえなくなると なんだか もう にどと 
パパと ママに あえないような きがして
たまちゃんは なみだが ぽたぽた おちてきました。
「ちいさくなって まわりたい なんて いわなきゃよかった」
「いっしゅうだけで やめとけば よかった」
くやんでも もう ておくれでした。

と そのときです。
めのまえに とつぜん おとしあなが あいて
いなりずしの おさらは あなに おっこちてしまいました。
たまちゃんも いっしょに まっさかさま。
なんしゅうも まわった おすしは すてられて しまうのです。
たまちゃんも ゴミに なってしまうのでしょうか。
そうしたら ほんとうに パパと ママに あえなくなってしまいます。

どうしよう どうしよう どうしよう。

どすんと おすしの ゴミの やまのうえに しりもちを ついた
たまちゃんは びっくりして めを さましました。
あれれ そこは くるくる まわる おすしやさんの なかではなく
たまちゃんの おうちです。
たまちゃんが ベッドから おっこちた おとで
パパと ママも めを さましました。
「どうしたんだい たまちゃん」とパパ。
「こわい ゆめを みたの?」とママ。
たまちゃんは パパと ママに だきついて 
「もう おすしやさんで まわりません」と べそを かきました。

明日公開の映画のお知らせをひとつ。
【おしらせ】魔女田さんプロデュース『築城せよ!』明日公開

侍の魂が乗り移ったホームレスがダンボールで城を建てるという発想にぶっ飛んだ(>>>2006年12月12日(火) あっぱれ、『築城せよ。』!)中編『築城せよ。』が、劇場版長編『築城せよ!』となって、いよいよ明日公開。タイトルの「。」が「!」になって、さらにパワーアップしているそう。『風の絨毯』で1億5千万円集めたプロデューサーの魔女田さんこと益田佑美子さんの錬金術にも磨きがかかり、この不景気に「キスかキフか?」を迫って(>>>2009年01月21日(水) キスかキフか? 非常時に強い女と自転車の会!)800社から制作資金を集めたのはアッパレ。

2008年06月19日(木)  「第2回万葉ラブストーリー」受賞作発表
2007年06月19日(火)  父イマセン、ピースボートに乗る。
2005年06月19日(日)  『子ぎつねヘレン』ロケ見学2日目
2004年06月19日(土)  既刊本 出会ったときが 新刊本
2003年06月19日(木)  真夜中のアイスクリーム


2009年06月18日(木)  「出張いまいまさこカフェ」を支える「感想力」

少し前、新聞で酒井順子さんが「編集者に求められるのは『感想力』だ」という趣旨のことを書かれていて、紙面を前に大きくうなずいてしまった。身を削って書いた原稿への反応を、送った本人はドキドキそわそわしながら待つ。「受け取りました」だけのそっけない返事だと、「で、どうだったの?」「ダメだったのかしら」と気になるが、その報告さえ来ないと「100時間かけた労作が黙殺!」「よっぽどコメントに困っているのか」と気を揉んだり、気に病んだりする。

よくあることで、相手は単に忙しかったり忘れていたりするのだが、こちらが思うほど原稿が重く扱われていないことは物語られる。そんななかで心のこもった「感想」が送られてくると、「砂漠にダイヤモンド!」のきらめきを放ち、「この人の仕事が最優先だ!」という気持ちになる。ダメな原稿を褒めて欲しいのではなくて、こちらが原稿を書いた心意気を相手が引き受けたことが伝わる一言が欲しいのだ。

いい感想をくれるといえば、エッセイ「出張いまいまさこカフェ」の連載でお世話になっている池袋シネマ振興会のフリーペーパーbukuの編集者・北條一浩さん。原稿を送ると、「受け取りました」の返信とともに、毎回短いけれど気のきいた感想を送ってくださる。「面白かった」だけでなく、どこがどう面白かったか、具体的に書いてあるので、ありがたい。たとえば、

「オレオクッキー」と「大気圏」という比喩がすごく面白いです。「なるほどな」というより、むしろ「オレオクッキー」や「大気圏」について考えさせられるというか。言ってる事、わかりますか(笑)?

これは〈オレオクッキーにたとえれば、クッキーの部分が打ち合わせ、クリームが執筆。それぐらいホン作りに占める打ち合わせの比重は大きい〉〈白紙の状態から方向性を探る企画段階の打ち合わせでは、「どんなホンにしようか」を念頭に置きながら、核心から少し離れた大気圏あたりの話をすることが多い。(中略)そんな雑談のなかに、「それで行こう!」と光る発見があり、一気に大気圏突入となることはよくある〉というくだりを面白がってくれたもの。同じメールの中で、感想に続けて、

「いただいた原稿でまったく違和感ないのですが、1点だけ。「ハコ書き」とは何か、そこだけサラッと、カンタンな説明というか形容をつけていただけるとうれしいです。その分、文字数が増えても、どこかで調整していただいてもどちらでもかまいません。あくまで一般の、業界外の人にも読んでほしいので。

と修正の依頼があったが、こういう心配りのきいた書き方をされると、「喜んで!」と快く直しに取りかかれる。北條さん自身が原稿を書く人で、bukuではインタビュー記事も担当されているので、書き手の立場がよくわかるのだろう。わが身を振り返ると、人の原稿にどれだけの敬意を払えているだろうか。北條さんの感想力を見習いたい。

6月下旬発行のbuku21号に掲載される「出張いまいまさこカフェ」12杯目は、前回書いた毎日映画コンクールのスタッフ部門2次選考会の続編で、タイトルは「映画鑑賞で相性診断」。北條さんからの感想は〈丁々発止の選考の様子から、「シネマお見合い」にストンと落すところがとても面白かったです。しかし、濃い時間を過ごされましたね!〉。bukuは3か月に1回発行だから、12杯でまる3年連載が続いたことになる。毎回気持ちよく乗せてくれる編集者の感想力の賜物だ。

2008年06月18日(水)  堺名産 小島屋の『けし餅』
2007年06月18日(月)  マタニティオレンジ132 たま300日
2005年06月18日(土)  『子ぎつねヘレン』あっという間の見学1日目
2000年06月18日(日)  10年後に掘り出したスケジュール帳より(2010/11/26)


2009年06月17日(水)  海へ帰ったサンマクジラと足利事件の17年半

たまった新聞をまとめ読みしていたら、「サンマクジラ」の続報があった。「サンマクジラ」というのは記事にあった言葉ではなく、5月28日付の朝刊一面に載った「動けぬ巨体 激やせ」の写真を見て、「サンマみたいだ」と思ったことから勝手に名づけた。和歌山県田辺市の内之浦湾の浅瀬に、仲間とはぐれた大型のマッコウクジラが迷い込んで2週間、餌も食べずにやせ細っていくかわいそうな姿を記事は伝えていた。

何とか海へ返そうと、あの手この手の追い返し作戦が試みられたが、迷いクジラは反応せず、地元では死んだ後の処理をどうしようかと検討を始めていた。ところが、何がきっかけだったのか、そのクジラが突然、沖へ向かって泳ぎ出し、背びれを高く持ち上げて海中へ潜っていく姿が目撃されたという。一体どこにそれだけの力が残されていたのか。背びれを上げた角度から相当深く潜ったのではと予想され、水深千メートルほどまで潜れば豊富な餌にありつけるという。ぐったりと動かなかったサンマクジラが、深い海の底で、ひさしぶりのごちそうをモリモリ食べて、クジラらしい体格を取り戻す姿を思い浮かべたら、じいんとなった。目の前で見守っておられた方々はなおのこと感慨深いだろう。

命のたくましさを伝える記事に心を揺さぶられ、元気づけられる一方で、普通に生きることを奪われた命の記事には、やり場のない憤りや空しさで心が揺れる。このところ連日取り上げられている足利事件の菅家利和さんの失った17年半。どんな償いがあろうと埋められないその時間を、どのような無念で向き合ってきたのか、インタビューを読みながら想像している。6月8日の読売長間、〈絶望の「自白」〉の大見出し、〈「やってません」13時間〉の横見出し、〈菅家さん「悲しくて泣いた」〉の黒ベタ白抜き見出し。「やったんだな」「やってません」の押し問答の取り調べが13時間続いて、気持ちが折れ、「刑事の両手を力いっぱい握りしめ、泣いてしまった」という。「刑事は私がやったから泣いたと思ったらしいが、本当は、いくらやってないと言っても聞いてもらえなくて、悲しくて泣いた」。なんという絶望。望みが絶たれるのは、こういうことなのだ。あってはならないことが起きてしまった。

2008年06月17日(火)  マタニティオレンジ301 苦心作のアルバムが届いて、「おひまい」
2005年06月17日(金)  『子ぎつねヘレン』ロケ地網走は歓迎ムード
2000年06月17日(土)  10年後に掘り出したスケジュール帳より(2010/11/26)


2009年06月16日(火)  親子で「まわるおすし」デビュー

保育園の迎え時間のギリギリまで締切と闘い、夕食の計画は空白。保育園から娘のたまと手をつないで帰りながら、「まわるおすしにいこっか」と提案すると、「いく! たまちゃん まわる!」と食いついた。あなたは回らなくてよろしい。店の前を通るたびに「ここ、まわるおすしのお店なんだよ」と教えていたのだが、寿司ではなく自分が回ると思っていたらしい。

通されたのは、レーンから垂直に伸びる二人がけのテーブル席。レーン側にたまを座らせる。手当たり次第皿をつかまえるので、危なっかしい。たまは初めてだが、わたしも最後に行ったのがいつだったか思い出せない。タッチパネルで注文できることに驚き、その注文品の到着をパネル画面が知らせてくれることに二度驚き、浦島太郎状態。会社時代に仲良くしていたヤギサキ嬢が人生初の回転寿司体験を前に「お皿をつかまえられるかな」と心配して、「そんなに高速回転しないよ!」と友人たちで大笑いしたが、今夜のわたしは、相当笑える素人だった。お茶の入れ方を忘れてオロオロ、お茶だと思ったらお湯で、今度はお茶の葉を探してオロオロ……。そこに我慢のできない2歳児が加わり、「たまちゃんの おすし こないよ!」「たまちゃんの おすし いっちゃったよ!」の大合唱。

たまは「生しらす」と「ねぎとろ」を気に入り、「大学いも」「プリン」「ジュース」と甘いものもペロリ。たまのために取ったサビぬきのトルティーヤ巻きやいなりは見向きもされず、わたしが面倒見ることに。二人で7、8皿食べれば十分だろうと思っていたら、倍の皿数になった。店と道路を隔てた向かい側にワゴン車のクレープ屋が来ていて、店に入る前は「後で行ってみようか」と話していたのだが、満腹だし、甘いものを食べ過ぎたし、クレープはもう入らないと判断して、家のほうへ歩き出すと、「あとで いいにおいやさん いこうねって いったじゃない!」とたま。魚のDHAで記憶力がさらに良くなったか? なんとかなだめすかして家へ帰ったけれど、においだけはいただいた。そんなわけで、今夜の子守話は「いいにおいやさん」の話。

子守話79「いいにおいやさん」

たまちゃんとママが おさんぽしていると
みちの むこうがわから いいにおいが してきました。
「あまーい におい。これは クレープね」と
ママが いいました。

クレープがやける いいにおいは みちの むこうがわに とめた
オレンジいろの ワゴンしゃから ながれてきます。
「クレープやさんだ」「いってみよう」
ママと たまちゃんは うきうきと あるきだしました。

ところが オレンジいろの ワゴンしゃに ちかづいていくと
やきいもの においが ながれてきました。
「あれれ クレープやさんじゃなくて やきいもやさんかな」
ママと たまちゃんは くびを かしげました。

もっと ちかづいていくと 
こんどは カレーライスの においが してきました。
「あれれ いったい どうなってるの?」
ママと たまちゃんは かおを みあわせました。

「いらっしゃい なんのにおいに しますか」と
くるまの なかから おにいさんが こえを かけました。
オレンジいろの ワゴンしゃは クレープやさんでも 
やきいもやさんでも カレーやさんでも ありませんでした。
いいにおいを うってくれる おみせだったのです。

くいしんぼの ママは さっきの クレープの においを 
「もういちど」と おねがいしました。
おにいさんが 「クレープ」と ラベルに かいた びんから
ひとしずくを おさらに たらして かぜを ふきかけると 
ふわあっと クレープの あまい においが ひろがりました。
ママは うっとりと めを とじて においを すいこみながら
「バナナと チョコレートクリームも いれてくださいな」と いいました。
おにいさんが 「バナナ」と「チョコレート」のびんから 
ひとしずくずつ おさらに たすと 
バナナチョコレートクリームいりクレープの においに なりました。

こんどは たまちゃんの ばんです。
さあ なんの においを おねがいしましょうか。
たまちゃんは うーんと かんがえて
「にじの いいにおいを くださいな」と いいました。
あめあがりの そらに かかる なないろの にじは
どんな においなんだろうと たまちゃんは しりたくなったのでした。

ところが おにいさんも うーんと かんがえました。 
ずらりと ならんだ いいにおいの びんの なかには 
「にじ」のラベルは なかったのです。
「たまちゃん ほかの においに したら?」と 
ママが いいましたが たまちゃんは いいだしたら ききません。

しばらく かんがえていた おにいさんが
「そうだ」と てを たたきました。
いいことを おもいついたようです。
おにいさんは ならんだ びんの なかから 
ななつの びんを とりだしました。
そして 「めを とじて くださいな」と たまちゃんに いいました。

たまちゃんが めを とじると いちごの においが しました。
たまちゃんの あたまの なかに 
いちごみたいな あかい いろが ひろがりました。

いちごの においを おいかけて みかんの においが しました。
たまちゃんの あたまの なかは
あかいろと だいだいいろに なりました。

こんどは レモンの においがして
そのあとに はっぱの においが しました。
たまちゃんの あたまの なかに
あかいろと だいだいいろと きいろと みどりいろが ならびました。

さあ つぎは なんの においでしょう。
うみの しょっぱい においが してきて
たまちゃんの あたまの なかに うみの あおいろが くわわりました。

そして この あまずっぱいのは なすの おつけものの におい。
うみの いろよりも ふかい あいいろを
たまちゃんは おもいうかべました。

それから もういちど あまい くだものの においが しました。
むらさきいろの ぶどうの におい。
あかいろ だいだいいろ きいろ みどりいろ
あおいろ あいいろ むらさきいろ。
たまちゃんの あたまの なかに ななつの いろが そろいました。

「さいごに おかあさんが ぎゅっと だっこしてあげてください」
と おにいさんの こえがしました。
おかあさんが たまちゃんを ぎゅっと だっこすると
おひさまの においを いっぱい すいこんだ 
せんたくものの いいにおいが してきました。
たまちゃんの あたまの なかに
よく はれた あおい そらが ひろがって
きれいな なないろの にじの はしが かかりました。

2008年06月16日(月)  「SKIPシティ Dシネマ映画祭」で審査員やります
2007年06月16日(土)  お宅の近くまでうかがいますの法則
2005年06月16日(木)  Hidden Detailのチョコ名刺
2002年06月16日(日)  一人暮らしをしていた町・鷺沼
2000年06月16日(金)  10年後に掘り出したスケジュール帳より(2010/11/26)


2009年06月15日(月)  「(ホームレス)公田耕一氏と(アメリカ)郷隼人氏」のその後

2009年04月01日(水)の日記に「(ホームレス)公田耕一氏と(アメリカ)郷隼人氏」のことを書いたところ、朝ドラ「つばさ」並みの反響があった。両歌人に興味を持って検索し、今井雅子日記にたどり着かれる方が毎日数十名単位で現れ、「気になっている人がこんなにいるのか」と二人の知り合いでもないのにうれしくなっている。

朝日歌壇目当てで月曜の朝日新聞朝刊が待ち遠しくなり、一週間の始まり(くどいけれど、「月曜日から始まる」派!)の楽しみがふえた。感情移入できる登場人物がいると、ドラマや小説が面白くなるのと同じく、「今週のあの人はどうなっているか」という期待を膨らませて、紙面を開き、名前を探す。(ホームレス)(アメリカ)のカタカナは(東京都)などの漢字の中でひと際目立つのだが、その二つがないからといって気をぬけない。「公田耕一氏、郷隼人氏あて」の歌が潜んでいたりするのだ。4月6日には、こんな歌が掲載された。

獄中から青テントから歌々は生きよと迫る癌持つ我に
(東京都)北條忠政

この歌を見ると、次回からは「(東京都)北條忠政」さんの歌も探すことになる。5月4日には、こんな歌。

郷さんはやはり薩摩の人なりし「きばいやんせ」とエール送らん
(鹿児島市)山本幸子

そうなると、郷氏が薩摩の人だとわかる歌も最近掲載されていたことになる。新聞はまとめ読みだけど、朝日歌壇だけは毎週チェックしていたつもりだが、見落としてしまっていた。ご本人ではなく他の方の歌から郷氏のことを教えてもらった。

もちろん、ご本人の歌を手がかりに人となりを想像していく楽しみは、ジグソーパズルを組み立てているうちに絵が浮かび上がって行くようでもあり、推理小説を読むような知的な興奮も味わえる。最近の(ホームレス)公田耕一さんの作品。

5月4日掲載
リサイクル文庫にひつそり黄ばみたる「清唱千首」戀の部を読む

5月25日掲載
ララ物資ならぬ支援のジー・パンのウエスト58が入りぬ

6月1日掲載
林芙美子を二千回生き華やげど「放浪記」とは淋しき言葉

6月8日掲載
辞書持たぬ歌作りゆえあやふやな語句は有隣堂で調べる

これらの歌から、「リサイクル文庫は図書館にあるものかな。前にもたしか図書館の歌があった」「ウエスト58は厳しい生活で痩せたからなのだろう。そういえば、体調を崩したような歌もあった」「森光子さんの記事は新聞で読んだのかしら。やはり朝日かな」「有隣堂でホームレスが辞書を立ち読みしていたら目立つのでは」などと想像したり思い出したりする。選者の一人、高野公彦氏によると、〈「清唱千首」は塚本邦雄の評釈書」〉とのこと。

塚本邦雄の「日本脱出したし 皇帝ペンギンも皇帝ペンギン飼育係りも」という歌には、短歌に疎いわたしも見覚えがある。この人の歌集も読みたくなる。ララ物資とはララ=LARA;Licensed Agencies for Relief in Asia:アジア救援公認団体が第二次世界大戦後の日本に提供した食料品、医薬品、日用品などの援助物資のことらしい。

掲載賞品である葉書を取りに来てくださいという朝日新聞からの呼びかけに、今は名乗る勇気がないと返事を寄越されたそうだが、公田氏の歌には、彼の行動範囲がうかがえるヒントがちりばめられていることが多い。探さないで欲しいと言いつつも、見つけて欲しいという複雑な気持ちもあるのかもしれない。放浪時代の「つばさ」の玉木加乃子のように。

今週は月曜が新聞休刊日で、昨日6月14日付けの日曜朝刊に朝日歌壇が載った。その中に

有り難し「きばいやんせ」と励ましの言葉届きぬ異国の独房に

と(アメリカ)郷隼人氏から、5月4日付けの「きばいやんせ」の歌に返歌があった。短歌連載の形をした現在進行形小説を読んでいるようで、実に面白い。活字では「独房」に「セル」とルビを振ってあるところが英語圏の刑務所らしいが、cellと聞くと「細胞」を連想してしまうわたしは、狭い窮屈な部屋を思い浮かべた。そんな心の動きもまた短歌になるのだろうが、人の歌を読んだ感想を歌を詠む技術はまだない。けれど、毎週読んでいるうちに自分も参加したくなったので、身近な題材であるわが子を詠んだ吾子短歌を初投稿してみることに。さて、結果はいかに。

2008年06月15日(日)  マタニティオレンジ300 3か月でこんなに変わる 
2007年06月15日(金)  マタニティオレンジ131 映画『それでも生きる子どもたちへ』を観て
2005年06月15日(水)  『秘すれば花』『ストーリーテラーズ』
2002年06月15日(土)  『アクアリウムの夜』収録
2000年06月15日(木)  10年後に掘り出したスケジュール帳より(2010/11/26)


2009年06月14日(日)  朝ドラ「つばさ」第12週は「男と女の歌合戦」

6月17日発売の『「つばさ」サントラ(正式名は「NHK連続テレビ小説「つばさ」オリジナル・サウンドトラック」)』が届き、早速パソコンに向かいながら聴いている。番組では一部しか聴けない曲をたっぷり、じっくり。全28曲収録だけど、全体の3分の1にも満たない数なのだとか。第一週の試写のとき、音楽の住友紀人さんが隣の席に座られてお話する機会があり、「ドラマでこんなに曲作ったことないです」とおっしゃっていたけれど、毎週違う顔を見せるカメレオンドラマなので、何パターンが作って使い回すということが難しいのかもしれない。

全26週の放送は間もなく折り返し。15日からの(「来週から」と書きたいけれど、「日曜日が一週間の始まり」説があるので……)第12週は、「男と女の歌合戦」。第8週「親子の忘れもの」、9週「魔法の木の下で」に続いて、「脚本協力 今井雅子」のクレジットが月曜から土曜まで毎日表示(通常週の6倍!)される今井雅子増量週間。

今回は、タイトルからお察しの通り、のど自慢! ヒロインつばさ(多部未華子)が勤める川越のコミュニティ放送「ラジオぽてと」でのど自慢大会が開かれる。 つばさの同僚、伸子(松本明子)の別れた旦那・良男(太川陽介)がひょっこり現れるけれど、伸子は頑な態度。一方、玉木家では、つばさの父・竹雄(中村梅雀)が母・加乃子(高畑淳子)の愛を信じられなくなり……。果たして、ヒビが入った夫婦の仲は修復できるのか、ヒロインつばさは今週も悩み、「つなげる」行動を起こす。(ところで、太川陽介さん、「心の翼」という歌を出しているのですね。「つばさ」+「歌」つながり!)。

のど自慢大会のテーマは「愛」。そういえば、『天地人』の兜にも「愛」……というわけで、今週の注目アイテムは様々な形の「愛」。毎週あの手この手で「愛の形はひとつじゃない」ことをメッセージしている「つばさ」に、かつてない数の「愛」アイテムが登場。ハート大好きなわたしは、小道具にもドギドキ。歌謡ネタも盛りだくさん、懐メロも続々。 いつもながらドタバタで笑って、ほろりと泣ける、愛にあふれた一週間。いつも観ている方もときどき観ている方も観ていない方も、ぜひ。演出は「つばさ」初登場の大杉太郎さん。

連続テレビ小説「つばさ」(月)〜(土)放送中
【放 送】総合・デジタル総合 8:15〜8:30
     デジタル衛星ハイビジョン 7:30〜7:45
     衛星第2 7:45〜8:00
【再放送】総合・デジタル総合 12:45〜13:00
     衛星第2 19:30〜19:45 /(土)9:30〜11:00(一週間分)

◆NHKオンデマンド配信(>>>こちら)でつかまえる手も。


続く第13週「恋のバリケード」、第14週「女三代娘の初恋」を経て、第15週「素直になれなくて」は、再び「毎日クレジット」週。引き続き「つばさ」をお楽しみください。

2008年06月14日(土)  高校生だった三人が母になって
2007年06月14日(木)  『坊ちゃん』衝撃の結末
2002年06月14日(金)  タクシー


2009年06月12日(金)  永遠キャベツと永遠パイナップル

キャベツの芯は茎で、そこから葉っぱが出て、うまくいけば、再びキャベツを収穫にできることを先日知った。わが家はキャベツの在宅率(?)高し。いつもは芯のぎりぎりまで食べて、いちばん固いところもスープストック用のくず野菜に使ったりしているが、早速芯を浅い水につけてみた。

毎日水を取り替え(人参のへたもそうだけど、水を替えないと、臭くなる)、待つこと一週間足らずで、かわいい芽のような葉っぱがあちこちから顔を出した。どんどん伸びてまあるいキャベツになあれと思ったが、葉っぱが大きくなる前に枯れ始めてしまった。水栽培から土栽培に替えるべきだったのか。でも、きれいな黄緑がキッチンを明るくしてくれ、「ほうら、キャベツの赤ちゃんだよ」と娘にも見せ、観葉植物として楽しめた。

パイナップルの芯も同じく茎で、芯から収穫を続ければ、ネバーエンディングパイナップルも夢じゃないとか。今度はパイナップルでも試してみよう。

情報源は、朝ドラ「つばさ」の続きに見ている「生活ほっとモーニング」のガーデニング特集。他にも「玉子パックを使って発芽させるワザ」(パックの蓋をかぶせることで乾燥を防ぎ、ミニ温室状態を作れる)が紹介されていて、こちらも早速やってみた。番組で観た通りにパックに穴を開け、水受けように穴の開いていないパックと二重にし、土を敷き、種を蒔き、水をやり、毎日水をあげていたら、芽ではなくもわもわと白いカビが生えてきて、悪臭に加えて虫まで湧いてしまった。何がいけなかったのか、野菜・くだもの用の土を使ったのに……と思ったら、「土」ではなく「肥料」! 100%肥料の上に種をまいて水をやり続け、カビの温床を作ってしまったのだった。

永遠キャベツに挑戦するのは、まだ早い。

2008年06月12日(木)  中田金太さんの置き土産『玉虫厨子』と対面
2007年06月12日(火)  想像力という酵母が働くとき
2005年06月12日(日)  惜しい映画『フォーガットン』


2009年06月11日(木)  怒り-anger-は危険-danger-の一歩手前

ログ解析の逆引きのことを書いた一昨日の日記でも触れたけれど、訪問者がどうやってこの日記にたどり着いたか足跡をたどっていくと、自分が書いた日記なのに忘れていたことに再会することがよくある。「Friends」の詩もそのひとつ。一時期チェーンメールでどんどん転送されてきた英語の詩を訳して載せていたのだけど、Friendsは2002年05月29日(水)(『SESSION9』というホラー映画の感想を綴っている)から2002年06月06日(水)(「同窓会の縁」について綴った)まで7回に分けて掲載していた。ちょうど今から7年前のこと。詩の最後に「友だち週間です。今すぐ20人に転送を」と締めくくられていて興ざめしたチェーンメールだったのだけど、台詞に使えそうな名文句がちりばめられているので、ここにあらためて全文を紹介。"Yesterday is history.Tomorrow is mystery"の部分が昨年公開された映画『カンフーパンダ』の台詞で使われていたようで(これもまたログ解析で足跡をたどって知った)、公開中はそのフレーズでの検索が多かった。

Friends 友だち



Many people will walk in and out of your life.

But only true friends will leave footprints in your heart.

To handle yourself, use your head;

To handle others, use your heart.

何人もの人が あなたの人生を通り過ぎていく。

けれど あなたの心に足跡を残すのは 本当の友だちだけ。

自分に言うことを聞かせるには 頭を使いなさい。

他人に言うことを聞いてもらうには 心を使いなさい。

Anger is only one letter short of danger.
If someone betrays you once, it is his fault;
If he betrays you twice, it is your fault.
怒り-anger-は危険-danger-の一歩手前。
誰かがあなたを一度裏切ったら、悪いのは彼だけど
彼があなたをもう一度裏切ることになったら、悪いのはあなた。

Great minds discuss ideas;
Average minds discuss events;
Small minds discuss people.
優秀アタマはアイデアについて議論し、
平凡なアタマは出来事について議論し、
退屈なアタマは他人について議論する。

He, who loses money, loses much;
He, who loses a friend, loses much more;
He, who loses faith, loses all.
お金を失うことは痛手だが
友人を失うことはそれ以上に痛く
信頼を失うことは致命傷である。

Beautiful young people are accidents of nature,
Learn from the mistakes of others.
You can't live long enough to make them all yourself.
美しい若者は、自然が生み出した事故に過ぎない。
人は、他人の過ちから学ばなくてはならない。
すべてを自分のものにするには人生は短すぎる。

Friends, you and me ....
You brought another friend ....
And then there were 3 ....
We started our group ....
Our circle of friends ....
There is no beginning or end ....
友だち、あなたとわたし
あなたは別な友だちを出会わせてくれ
三人になった
わたしたちはグループをつくり
友だちの輪ができた
その輪にははじまりも終わりもない。

Yesterday is history.
Tomorrow is mystery.
Today is a gift.
昨日は歴史
明日は神秘
今日は贈りもの

作者不詳/今井雅子訳


他に『BANK(時間銀行)』『Snuggle(ギュッ)』『The Value of a Smile at Christmas(クリスマスの価値ある笑顔)』『HEAVEN'S VERY SPECIAL CHILD(天国の特別な子ども)』『If I had my child to raise over again(もしも、もう一度子育てができるなら)』『If all the raindrops(もしも雨粒が)』といった詩の訳も日記のあちこちに掲載していて、これらのフレーズもちょくちょく尋ね人になっている。

2008年06月11日(水)  大学ノート80冊分の日記
2007年06月11日(月)  茨木のり子さんの言葉の力
2005年06月11日(土)  東京大学奇術愛好会のマジックショー
2002年06月11日(火)  『風の絨毯』同窓会
2000年06月11日(日)  10年後に掘り出したスケジュール帳より(2010/11/26)


2009年06月10日(水)  生クリームよりどら焼き

今日のおやつは、徒歩圏にある「福どら」の栗どら焼き。「栗いっぱい」という名の通り、栗あんの中に栗の塊が見え隠れして、初夏なのに秋の気分を味わった。

学生時代、「ケーキバイキングで10個食べてきた」と喜んでいるわたしに、下宿先の大家のミチコさんが言った。「雅子ちゃん。甘いものは数じゃないのよ。おいしいものをひとつだけ食べたほうが幸せだなあって思うときが来るから」。「10個はちょっときつかったけど、ケーキ1個より2個のほうが幸せに決まっているではないか」と若い胃袋の持ち主は思ったが、どら焼きひとつを手で割って口に運び、しみじみと味わうようになって、あのときのミチコさんが言ってたことは、こういうことなのかと納得した。

生クリームよりも小豆を好んで口にするようになったのは、いつ頃からだろうか。週一回ペースで通っていた近所のケーキ屋にぱったり行かなくなり、デパ地下で素通りしていた和菓子コーナーに足を止めるようになり、気がつけば、何かおやつをというとき、ケーキよりおまんじゅうを買い求めている。2002年09月25日(水)の日記に「バタどらなしでは生きていけない」と大げさなことを書いているが、宮崎映画祭で出会った日高屋のバタどらにはまった頃が「クリームか小豆か」の分岐点だったのだろうか。どら焼きの出番が多いのは、和菓子の中では洋菓子に近い存在のせいかもしれず、そうすると、今後はおはぎや道明寺へと嗜好が移るかもしれない。

どら焼きの中では、皮の焼き色がまだらになっているものが、とくにわたし好み。日本橋にある玉英堂彦九郎(ぎょくえいどうひこくろう)の「とら焼き」(皮が虎のようにしましまなので「とら」焼きらしい)、東十条にある黒松本舗の「黒松」は、いずれも絶品。

最近食べたどら焼きでは、朝ドラ「つばさ」の舞台、川越にある亀屋の「亀どらのつばさ」(「朝どらのつばさ」にかけている?)が、ふわふわの皮と上品な白あんで、とてもおいしかった。娘のたまが食いつき、「ちゅばさのどらっどらー、またばべようね」とせがむので、今度川越に行ったら探そう。亀屋さんはそこかしこにあった覚えがある。「あさどら」と言えば、神楽坂の梅花亭のどら焼き。一度差し入れに持って行こうと思いつつ、なかなかお店に立ち寄れずにいる。

5月23日の日記に書いたサラリーマン転覆隊の村田淳一さんと元同僚の宇野実樹嬢の船上結婚パーティのお土産、オリジナル焼き印入りどら焼きは京都の阿月というお店のもの。持ち込んだデザインの焼き印を作り、どら焼きに押してくれるらしい。おめでたい配りものがあるときに、使ってみたい。

【お知らせ】さだまさしニューアルバムに「ぼくママ」主題歌収録

8/22公開、今井雅子脚本の6本目の長編映画『ぼくとママの黄色い自転車』。さだまさしさんが書き下ろした主題歌『だきしめて』を収録したアルバム『美しい朝』、本日発売。

「抱きしめて」といえば、2002年06月25日(火)の日記のタイトルは「ギュッ(hug)ギュッ(Snuggle)」。「抱きしめて」な写真と英語詩(今井雅子訳つき)を掲載。

2007年06月10日(日)  マタニティオレンジ130 親が子にできるのはほんの少しばかりのこと
2005年06月10日(金)  『メゾン・ド・ウメモト上海』の蟹味噌チャーハン
2004年06月10日(木)  「きれいなコーヒー」と「クロネコメール便」
2002年06月10日(月)  軌道修正
2000年06月10日(土)  10年後に掘り出したスケジュール帳より(2010/11/26)

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