2009年04月01日(水)  (ホームレス)公田耕一氏と(アメリカ)郷隼人氏

毎週月曜の朝日新聞朝刊に掲載される朝日歌壇からこのところ目が離せない。掲載された歌の作者名の上には(東京都)のように所在地が記されるのだが、(ホームレス)公田耕一という作者が昨年の暮れ頃に現れた。すでに(アメリカ)郷隼人という常連がいて、漢字ばかりの地名の中でカタカナ4文字が異彩を放っていたのだが、編集者が(住所不定)ではなく(ホームレス)の表記を選んだことで、カタカナ所在地作者が双璧を成すことになった。

(アメリカ)郷隼人氏の作品は、わたしが見る限り100%ではないかと思われる高い掲載率を誇り、三十一文字の私小説を連載で読みながら主人公の郷隼人氏を少しずつ理解している。どうやらアメリカで服役中で、その年月は数十年を数えるらしいが、その一週間、一週間は短歌の投稿で刻まれている。塀の内から塀を越え海を越えた歌が毎週のように掲載され、読者は彼の無事を知るが、作者本人は朝日新聞を読み、掲載の有無を確かめる手だてはあるのだろうか。

一方、(ホームレス)公田耕一氏の三十一文字私小説も、ときどき休みの週はあるけれど、作者の人となりを想像するのに十分。赤いきつねと迷った挙げ句に朝日を買うという内容の歌があったりする。2月頃に「連絡求む」の記事が朝日新聞に載った際に紹介された「選に漏れた歌」によると、体を悪くされている様子。その記事を追って「ホームレス歌人の記事を他人事のやうに読めども涙零しぬ」という歌が掲載された。読者からのお便り欄にも反響があり、さらに「連絡を取る勇気がない」との申し出があったという続報が載り、それでも(ホームレス)公田耕一氏の投稿と掲載は続き、ますます朝日歌壇から目が離せなくなるのだった。

そして、一昨日の朝日歌壇を開いて、あっとなった。

温かきコーヒーを抱きて寝て覚めれば冷えし
コーヒー啜る   (ホームレス)公田耕一

囚人の己が〈(ホームレス)公田〉想いつつ
食むHOTMEALを   (アメリカ)郷隼人


気になる二人の作品が並んで掲載されている。公田氏と郷氏のそれぞれに思いを馳せ、「公田氏の上には屋根がなく、郷氏の上には屋根があるのだろうか」などと考えたことはあったけれど、二人の一方がもう一方を想う場面を想像したことがなかった。「あの人はあたたかいものを口にしているのだろうか」と思いやる郷氏への返事のように、公田氏はカイロ代わりに抱いて冷めたコーヒーを詠んでいる。今週も公田氏は赤いきつねの代わりに朝日を買っただろうか。アメリカからのメッセージが家なき人に届きますように。もしかしたら、近いうちに公田氏の歌に郷氏のことが詠み込まれるかもしれない。(アメリカ)と(ホームレス)が短歌を通じてつながった瞬間に興奮を覚えた読者はわたし一人ではないだろう。二人のカタカナ詩人を見守るたくさんの読者と、わたしもやわらかくつながっている気がする。

今日は春の嵐で夕方から雷雨。娘のたまは雷が珍しいらしく、窓の外がピカッと明るくなるたびに不思議そうに見ていた。というわけで、今夜の子守話は雷一家のお話。たまは気に入ったのか、終わるたびに「かみなりのはなし」と再演をせがみ、3回繰り返して聞かせた。
子守話52 かみなりかぞく

そらがピカッとひかって 
ドンガラガッシャンとおとがして
あめがザーザーふっている。
どうして こうなっているか わかる?
そらのうえで かみなりのかぞくが おおげんかしているから。

ピカッとひかるのは かみなりママの てかがみ。
かみがたが うまくきまらなくて 
あさからずっと かがみとにらめっこ。
「おい いつまで やってんだよ! 
 はやく ばんごはんを つくってくれよ!」
おなかをすかせた かみなりパパが おこりだして
たいこをたたいて ドンドンドンドン。そうしたら
「もう しずかにしてよ! べんきょうできないよ!」
かみなりにいちゃんも おこりだして
あしをふみならして ドンドンドンドン。そうしたら
「うるさくって でんわがきこえない!」
かみなりおねえちゃんも おこりだして
かべをたたいて ドンドンドンドン。そうしたら
「しずかにしないと ごはんつくらないわよ!」
ばくはつあたまのママも いかりがばくはつして
なべをたたいて バンバンバンバン。そうしたら
たなのものがゆかにおっこちて ドンガラガッシャン。
ねんねしていたかみなりあかちゃんが めをさまし
エーンエーンとなきだして あめがザーザーふりだした。

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