2009年08月02日(日)  七大戦演舞も朝ドラ「つばさ」第19週も「太陽がいっぱいだ」

全国七大学総合体育大会、通称「七大戦」。北大、東北大、東大、名古屋大、京大、阪大、九大の7つの旧帝国大学の体育会(運動部)が年に一度、持ち回りで集い、優勝を競う大会で、「七帝(しちてい)」とも呼ばれる。各大学の応援団も応援に駆けつける一方、演舞会やパレードで日頃磨いた技と気力を競い合う。第48回を数える今年の開催地は東大で、今日は本郷キャンパスで演舞会が開かれるというので、後輩たちの活躍を見に出かけた。大会キャラクターは、ハチ公ならぬナナ公。

自分の大学や他大学の先輩後輩とすれ違ったり鉢合わせたり。顔は覚えているけど名前が出てこない人もいるが、応援団ではとにかく挨拶しておくに越したことはない。その昔、鬼と怖れられた先輩がいい大人になり、子どもを連れていたりする。

応援団出身者をおおまかに3つに分類すると、応援団的生き方が抜けず、応援団のつきあいや行事を最優先させる「根っから型」(リーダー部出身者、とくにリーダー部長経験者に多い)、応援団をネタに宴会芸や飲み会の話題に活用する「ミーハー型」(わたしはここに属する)、応援団にいたことを何かの間違い、消したい過去であると位置づけ、カミングアウトを避ける「なかったこと派」となる。「根っから型」は七大戦がどこで開催されようと駆けつけ、「ミーハー型」は近くで開催すると顔を出すのだが、今日も「この日のためにわざわざ!」な方々が多数。演舞が始まると、「気合入れろ!」「声出てねえぞ!」「聞こえないぞ!」と喝を入れる野次が飛ぶが、その声は現役団員のそれより力強く、よく響いたりする。団旗(ご覧のように身長の何倍もある見事なもの)の上げ下ろしにも、自分たちもやっていただけに厳しい声が飛ぶ。途中の旗手紹介で、団旗を床と平行になるまで下ろした姿勢で耐えるという場面があり、わたしがかつて見たことないほどの忍耐を披露してくれたが、「まだまだ!」「気合入れい!」と野次を飛ばすOB軍団は、後半のしんどいときに「上げ方忘れたんか?」と突っ込むなど情け容赦ない。

応援歌3曲、逍遥歌、旗手・鼓手・司会の紹介、マーチメドレー、締めは学歌斉唱という一時間近いステージ(これを7大学分やるので、朝から晩まで一日がかり)。わたしがいた頃はチアだけで20人を超える大所帯だったけど、現在はリーダー部、ブラスバンド部、チアリーダー部あわせて30名。しかし、発せられるパワーや演舞の完成度には目を見張るものがあり、よくやってる、と頼もしさと誇らしさを味わった。チアの振付けはずいぶんシャープになり、衣装もメイクも垢抜けて、部員もスタイルのいい華やかな子ぞろい。今の子はかっこいいなあ、と眩しくなったり、わたしもあんなことやってたなんて若かったんだなあと懐かしくなったり。

応援団の演舞を見ると涙が出そうになるのは、そんな感傷のせいだけではなく、現役時代からそうだった。声を出すのもジャンプするのも力を出し惜しまず、終わったら倒れてやるぐらいの気迫が数十人分集まると、迸るエネルギーに圧倒されて、言葉を失い、ただ痺れる。わたしの結婚パーティでお祝いの演舞を観た同僚の広告関係者らは、「あんなに一生懸命に何かをやってる人って初めて見た」と驚き、「カルチャーショックを受けた」とさえ語っていたが、がむしゃらが敬遠されつつある昨今、どうしてそこまでやるのかというひたむきな姿には希少価値があり、敬意をかき立てられる。

NHK「おかあさんといっしょ」の歌「ドンスカバンバンおうえんだん」が大好きな娘のたまは、「ドンスカバンバンおうえんだん、見に行こっか」とわたしに誘われ、喜んでついてきたのだが、大音量の太鼓と気合の入った大声に恐れをなし、泣き出してしまった。終わった後で「ドンスカバンバンおうえんだん、やらなかったね」と愚痴っていたので、期待していたものと大違いだったよう。他の大学の演舞を見るのはあきらめ、三四郎池を散歩し(大学の中にこんな絶景が!)、前から気になっていた本郷通りにあるレストラン「山猫軒」(カレーが思いのほか美味!)でひと息ついて帰った。

チアに限らず、応援団って、ありあまる若さと時間がなければできないことだと思う。中にいるときは、そんなことには気づかず、無我夢中だったけど、あの4年間が今の自分の大きな栄養源になっているのは間違いない。理不尽でも全力を出し切れば何か得るものがあるとか、気合があれば何とかなるものだとか。後輩たちのエールに力をもらいつつ、昔の自分にも元気づけられた気がした。

折しも明日からの朝ドラ「つばさ」第19週は、誰かを力づけるということが大きなテーマ。長瀞で傷心を癒して、ぽてとに復帰したつばさは、この週の出来事をきっかけに人と人をつなげるチカラを取り戻し、ラジオの仕事を自分の夢にしたいと決意する。物語はここから大きくうねるので、引き続き、ますますご注目を。

劇中も世間もお騒がせのあのサンバと斎藤(西城秀樹)との結びつきが明らかに。ただのにぎやかしではなく、サンバには深い意味と愛があったのだ。ところで、サンバのお膝元、ブラジルでは「つばさ」をどう見ているのだろう。高校時代、体操部で一緒だったカンちゃんはブラジルにて「つばさ」をチェック中。「サンバが出て来てうれしかった」とメールをくれたけど、カンちゃん自身が高校時代からサンバな人だった。ちなみに「ブラジルでは朝ドラは、夜8時15分か夜中なんですよ」とのこと。夜だけど「8時15分」スタートというところに、おなじみ朝ドラへのリスペクトを感じます。

話がちょっとそれたけど、第19週を観ると、サンバが愛しくなること、うけあい。すでに多くの方が指摘されているように、人物や事象への光の当て方を変え、物語の印象をプリズムのように変えていくのが「つばさ」のユニークなところ。第11週の千代(吉行和子)と浪岡(ROLLY)のデート、第14週の千代と葛城(山本學)の再会の伏線もこの週で生かされる展開。最終週の第26週にかけて、どんどん伏線を回収していくので、どうぞお楽しみに。つばさと翔太の劇的な再会も、もちろんインパクト狙いではなく、意図があってのこと。

タイトルの「太陽がいっぱいだ」の通り、まぶしいパワーときらめきにあふれた一週間。演出は1〜3週、6週、10週、14週、16週の西谷真一チーフ・ディレクター。続く第20週「かなしい秘密」は「脚本協力 今井雅子」のクレジットが毎日出る増量週間。第19週から続けてお楽しみください。 写真は、うちにある太陽たちを集めて、台本を囲むの図。左上からロス土産の刺繍ワンピース、絵本『おひさまあかちゃん』(高林麻里)『はらぺこあおむし』(エリック・カール)『わたしのワンピース』(にしまきかやこ)。絵本はいずれも娘のたまのお気に入り。

自分が関わった作品や人を応援せずにはいられないのは、応援団気質ゆえ? ミーハー型応援団と自認していたけど、わたしがコピーライターになったのも、脚本家になったのも、自分の書くもので誰かを力づけたり元気づけたりしたいという気持ちからだから、根っからの応援団といえるのかもしれない。

2008年08月02日(土)  葉山の別荘1日目 海水浴と海の幸づくし
2007年08月02日(木)  ブロードウェイ・ミュージカル『ヘアスプレー』
2002年08月02日(金)  「山の上ホテル」サプライズと「実録・福田和子」


2009年08月01日(土)  朝ドラ「つばさ」ファンミーティングin川越

脚本協力で関わった朝ドラ「つばさ」のファンミーティングを目当てに3度目の川越へ。昨日のうちに日記を書くつもりが、川越でおいしいお酒を飲んで、電車に揺られて家路につくうちに酔いが回り、帰宅したときにはヘロヘロに。これを書いているのは翌朝2日の9時。夢の中にも川越が出てきて、一日中川越で遊ばせてもらった。

川越詣でのお楽しみは、「つばさ」探し。まずは東武線の車内に2連の中吊りを発見。電車の中でパシャリがはばかられ、写真は撮れず。川越駅から商店街「クレアモール」を歩く。ユニクロとGAPがすぐ近くにあり、便利〜。豚料理専門の飲み屋の名前は「とことん」。川越は歩いて楽しい街。「夢のつばさ」という名前のお菓子を売り出している和菓子屋さんの店頭は、つばさ尽くし。第18週の長瀞で傷心を癒し、心あらたに川越に帰って来たヒロインつばさは、今後「自分の夢」を追いかけていく展開。

今回のお目当てのひとつ、鏡山酒造跡地にある昭和館で開催中の「つばさ」展へ。昭和館、大正館、明治館と名づけられた(建てられた年代にちなむ?)3つの蔵が、それぞれ多目的スペースとして活用されている。入口で、ファンミーティング参加者限定のスタンプラリー用紙をいただき、ひとつめのスタンプ(酒瓶の形。お銚子にも見える)を押す。

入口を入るとすぐ、衣装の展示。わたしがいただいたもののもったいなくて袖を通していないTシャツには「非売品」と書いてある。デザインがいいので、売り出したら人気出そうだけど。「つばさ」は美術や小物のセンスが良くて、わたしの古巣の広告業界のアートディレクターたちも注目。

キネマの外観のセット(ちょっと小さめ)の写真を撮る人、多し。これ、中に入ってブースの中にいる姿を記念撮影できるようにしたら、もっと人気が出たと思う。そのためには中も作らないといけないので、構造的に難しかったのかも。今後川越の名所として残していくなら、フォトロケーションにするのも一案。コピーライター時代、東京ディズニーランドや東京ディズニーシーの広告を作っていたときも、フォトロケーションは集客の強力アイテムだった。

甘玉堂の店舗セットにも同意見。ショーケースの中に入って、なりきり女将写真を撮りたい、というニーズはかなりあると思う。三角巾も貸し出されると、なお気分が盛り上がるかも。

小学生ぐらいの女の子が「お母さーん、すごいよ。本物みたい」と興奮していて、その気持ち、すごくわかると思った。子どもの頃、おひな様の雛壇に乗った精巧な食べものや楽器に見入ったものだけど、甘玉堂のショーケースを見ていると、その興奮が蘇る。

明治館に移動すると、木桶のいい香りが満ちて、「酒蔵〜」とうれしくなる。一角にある川越市観光案内所は「つばさ」尽くし。他に鏡山酒造のお酒を扱うコーナー(「時の鐘」というお酒が素敵)、埼玉県の名産を扱うコーナー、地元の野菜を扱うコーナー(新鮮で力強くて、味が濃そうな野菜や果物たち。すぐに帰るのであれば買って帰りたかった)も。ところで、川越はブルーベリーが名産なのだろうか。あちこちに大粒のブルーベリーを見かける。果物といえば、明治館の前に出ているテントで買った果汁を搾っただけのまぜものなしのグレープフルーツジュースがおいしく、よく出ていた。

クレアモールからそのまま続いている石畳の大正浪漫夢通りは、川越のお気に入りの道。そこを通ってスタンプラリーの2つめのポイント、「時の鐘」へ。3つめの「まつり会館」を経て、最後は「菓子屋横町」。前回気に入った楽楽ベーカリーに立ち寄り、メロンパンとさつまいもあんのあんパンを買う。蔵造り通りに引き返し、前回試食で満足しまって買い物しそびれた「まめ屋」さんできなこ豆(一番人気だそう)、こがし豆、あまなっとうを買う。蔵造り通りを渡ったところの亀屋さんで「亀どらのつばさ」を買う。この白あんのファン。

ファンミーティングの会場に着いたのが、開演一時間前。ロビーで展示に見入る人々を見て、胸が熱くなる。こんなにたくさんの「つばさ」ファンが集まっている場面に遭遇したことがなかったし、一人一人が発する好意的な熱気が、なんともあったかくてワクワクする空気を作っていた。とくに「つばさ」に寄せられた応援メッセージが貼り出されたコーナーでは、いちだんとそれが感じられた。細かい文字を子どもや年配の方に読み上げる人の姿が目立ち、感想を共有する瞬間に立ち会えたような感激を味わった。小道具が並ぶショーケースの前では「2週目に出てたあずさ2号だ!」「ベッカム一郎のパンフ、中身まで作ってある!」「ヒロリンのブーメランだ!」などと楽しそうに語り合う姿が見られ、これまた幸せな光景だった。映画公開の劇場でも展示をやったりするし、公開中のイベントには熱心なファンの方が集まるが、それを濃縮したような高揚がロビーを満たしていた。半年も公開が続く映画はなかなかないが、半年も放送が続き、その間に幾度もお祭りを楽しめる朝ドラに関われたことを幸せに思う。

展示の衣装、いちばん右は翔太のいた宮崎ポロナティーヴォのユニフォーム。その左はラジオの男のスーツ。そして、左の二つは? こんな衣装あったっけ、と首を傾げて説明の札に目をやると、「のど自慢のときに竹雄と加乃子が着ていた衣装」とのこと。あまたまのような巨大アフロに目を奪われ、その下の衣装の印象が負けていた。マネキンにもアフロをかぶせていて欲しかったけど、あのアフロはいずこへ?

甘玉堂の看板(これは立派!)の向こうから顔を出して写真を撮る人多し。こういう美術や小道具は撮影が終わると、どこへ行くのだろう。

6時半少し前からNHK埼玉局長、川越市長が挨拶。今回は定員の6倍の応募があったそう。川越市民会館の客席数は1261だそうで、その6倍となるとすごい数。続いて、幕の向こうで準備が整うまでの間を後藤高久チーフプロデューサーがトークでつなぐ。石を投げないで」「席を立つ時はトイレですとわかるように」などとお得意の関西ノリ。「今日の皆さんのテーマは、つまらなくても笑うこと」「笑いは人間だけに与えられた救済」などと説く。客席がほどよくほぐれ、主題歌のインストが歌版に変わり、盛り上がったところで幕が開くと、真瀬社長(宅間孝行さん)、ロナウ二郎(脇知弘さん)、玉木つばさ(多部未華子)が舞台に板つきで現れ、場内にどよめきのような歓声と拍手が沸き起こった。

渋谷のファンミーティング同様、幕が開くと同時にラジオぽてとを舞台にした寸劇が始まる。「アイラブ川越」というスペシャル番組を放送中という設定で、ブースのつばさと二郎が川越のいいところを紹介。「川越にはおいしいお菓子がたくさんある」と言うつばさに、「僕も食べ過ぎて太っちゃいました」と二郎が言い、突っ込みの視線を受けて「元々でした」。ブースの外では甘玉堂の加乃子から「川越名物あまたま」のちゃっかり売り込み電話を受ける真瀬。一方、「ラジオぽてとがあるから川越が好き」というお便りを紹介するブース。身内が書いたんじゃないかと疑う真瀬は、優花が書いたお便りだと知ってメロメロに。すると客席から「つばさちゃーん」と声がして、リポーターの伸子が登場。アドリブで客席の3名に「川越のいいところ」を聞いたが、一人目の外人さんとは片言英語でのやりとりがあったり、「郊外の雑木林もすばらしい」「ラジオぽてとの名前にもなっているが、これだけさつまいもの食べものがあるのは世界でも川越だけ」などと味のあるコメントが飛び出し、微笑ましい笑いを誘っていた。寸劇の脚本にも関わっているので、客席の反応を確かめられた(なかなか受けた!)のはうれしかった。

伸子もステージに上がって寸劇が終わると、埼玉放送局の結城さとみアナウンサーと後藤高久チーフプロデューサーが加わり、トーク開始。川越でロケした場面をダイジェストで振り返った後、それぞれの好きな場面紹介のトップバッター脇さんは、第17週のキネマ屋上でビール片手につばさと語る場面(実はアルコールがまったくダメでノンアルコールビールの微量なアルコールで酔ってろれつが怪しくなったそう)を選んだ。ベッカム一郎(麒麟の川島明さん)との漫才が良かった、と他の出演者から褒められると、「ベッカムと比べて、ロナウ二郎が売れなかった理由がわかった」と脇さん。

松本さんは第12週ののど自慢で「あなた」を歌う場面を選んだ。第12週でのど自慢をやりたい、しかも「あなた」を松本さんに歌って欲しいという演出の大杉太郎さんの具体的な所信表明から本作りは始まったが、事前のインタビューで松本さんからも「ぜひ歌を」と言われていたそう。つばさ班は折りに触れて役者さんの意見を聞き、物語に取り入れており、伸子がいつも算盤を弾いているのも「算盤が得意」というヒアリングがあったから。でも、松本さんがファンクラブに入っていた田川陽介さんを夫の良男役に決めたのは偶然だったそう。田川さんがクランクアップの花束受け取りを「まだ出たい」と拒否したため、その後にも出番を用意することになったエピソードも披露された。この後、田川さん演じる良男がラストに向けてボディブローのように登場するところも、いかにも「つばさ」らしい遊び心があるのでご注目を。

続いて真瀬さんが選んだ場面ものど自慢だが、歌っているのは千代と浪岡。流すVTRを間違えたのかと思いきや、客席にエキストラで出演している宅間さんの姿が。真瀬とは別人の観客に扮しているので、帽子を目深にかぶり、シャツはワイシャツの下の肌着の腕をまくっているという怪しい姿。真瀬として登場している場面では、同じく第12週で優花を叱り、優花に「お父さんなんか大嫌い」と言われ、「お父さんて呼ばれた」と感激するところを選んだ。

このあたりにサプライズゲストで優花ちゃん役の畠山彩奈(はたけやまりな)ちゃんが登場。緊張しつつも一生懸命おしゃべりする姿が、なんともけなげで愛らしい。のど自慢で歌った「やきいもグーチーパー」を宅間さんと振りつきで披露してくれ、客席は「かわい〜」ととろける寸前。優花ちゃんはうちの2歳児娘のたまが最も心を寄せる登場人物なので、たまを連れて来れば喜んだだろうなと思った。

今日は参加できなかった浪岡(ROLLYさん)が選んだのは、渋谷ファンミーティングで爆笑を買った第15週の「眼鏡吹っ飛び」場面。今回も大いに受け、何度も再生されることになった。他のドラマならNGとなるハプニングカットを歓迎していただいてしまうのは、「つばさ」らしいところ。多部ちゃんが選んだ場面は、第10週の優花ちゃんがキネマにやってくるにあたっての引っ越し騒動。優花ちゃんが退場し、続いて登場したサプライズゲストは、なんと竹雄(中村梅雀さん)と加乃子(高畑淳子さん)。わたしも人一倍興奮してしまう。

高畑さんが選んだお気に入りは、第3週の工事現場近くでつばさと語り合う場面、そして橋の上で知秋を抱きしめる場面。梅雀さんが選んだ場面は、第一週の川越祭りの曳っかわせと重ねての千代と加乃子の母娘喧嘩。このシーンの最後に「行かないで〜」と涙まみれの竹雄が加乃子にすがる。つばさが選んだ玉木家を象徴するシーンは、第17週で翔太がいなくなって落ち込むつばさの前に家族が入れ替わり立ち代わり現れ、優しさを差し出すところ。多部ちゃんはリプレイを観るたびに涙ぐみ、スタッフがハンカチを差し入れたり引っ込めたり。撮影中の中締めに偶然立ち会ったときも感極まって涙していたし、とても感激屋さんのよう。「あと少しで家族じゃなくなっちゃうじゃないですか」と言う多部ちゃんに、「何言ってるの。ずっと家族よ。結婚式行くわよ」と高畑さん。「そのときは夫婦として行きましょ。どうせあたし一人だし、いいじゃない」と梅雀さんに言う口調は、まさに加乃子。高畑さんは「子どもを捨てる母」という突拍子もないキャラクターを作るのにずいぶん苦労されたそうだけど、繊細さの裏返しの大胆さは素顔の高畑さんにも通じるものを感じる。

高畑さんと梅雀さんが桐朋学園の先輩後輩(一年違い)だったとか初めて聞く話も多く、楽屋のおしゃべりをのぞかせてもらっているような楽しさがあった。19週から23週までの5週分の予告を上映したり、あらかじめ受け付けておいた出演者への質問に答えたり(「川越で食べておいしかったものは?」「川越の好きな場所はどこですか」など)があった後、最後に一人一言で締めくくり、あっという間に2時間弱が過ぎた。個人的には、梅雀さんのコメントがどれもあったかく、本当にいい人だなあとますますファンになった。

入場の際に配られた「つばさ袋」(帰り道は、しっかり歩く広告塔に)の中には「つばさ」やNHK関連のチラシやリーフレットと埼玉放送局のノベルティのボールペン。さらにアンケート用紙に記入した人には、特製のぽてとステッカーが配られた。スタンプラリーの景品は一筆箋、携帯ストラップ、もう一点(これもストラップだったような)から選択。

このまま東京に戻ってしまうのももったいなくて、川越で晩ご飯を食べて帰ることに。夕方の散策で気分はすっかりうなぎ(川越にはなぜか鰻屋が多く、どこもとてもそそられる店構え)だったのだけど、帰り道にうなぎ屋はなく、看板に惹かれて「ごくらく屋 鶴と亀」というクレアモール途中のお店に入ったら、大正解。突き出しの温泉卵に始まり、「ゴーヤの梅サラダ」「ごぼうの唐揚げ」「牛すじシチュー」と食べるものがどれもおいしく、ボリュームもあって大満足。締めの「たまごかけご飯」に至っては、メニューに「炊きたてご飯」と書かれていたものの、ほんとに釜で炊くとは驚いた。これに卵をぶっかけ、塩昆布を混ぜて食べる。「十四代」を置いていることも入店の動機のひとつだったけど、酔っぱらって東京に帰り着けないと困るので、サングリアと焼酎のグレープフルーツ割をいただく。このお店、また行きたいほど気に入った。入口脇に「つばさ」のポスターを貼ってあったのも好感。

ファンミーティング目当ての川越訪問で、ますますアイラブ川越に。わが家からはちょうど一時間で行けて、近場の旅に打ってつけ。また行きます。

2008年08月01日(金)  地震の噂のたびに部屋が片づく
2007年08月01日(水)  バランスがいいこと バランスを取ること
2002年08月01日(木)  日傘


2009年07月31日(金)  赤ずきんのアクセサリーとノックごっこ

ひとたび足を踏み入れると、心奪われるアクセサリーの迷宮から抜け出せなくなる雑貨セレクトショップ「マリッツァ(Marizza)」で、赤ずきんのネックレスとピアスに恋をし、連れて帰ることに。パリのN2というブランドのもので、バスケットに入ったフランスパンとワインがとてもキュート。カラットを競うダイヤモンドより、わたしは食べものアクセサリーによろめいてしまう。

同じブランドの赤ずきんシリーズには「おおかみと赤ずきん」のアクセサリーもあり、おばあさんに扮したおおかみがお茶目。最近、娘のたまがノックごっこをやるようになり、「トントン」とノックの音を受けて、「誰ですか?」とこちらが問いかけると、「おおかみ〜!」とうれしそうに飛びかかってくる。「おばけ〜」「たまちゃ〜ん」などのバリエーションもあり、正体がわかったときのこちらの大げさな反応が楽しい様子。「トントン、だれですかー」と台詞を続けて一人二役をやってしまうこともあり、おかしい。

2008年07月31日(木)  ファミレスで働く
2007年07月31日(火)  マタニティオレンジ153 クッキーハウス解体イベント
2000年07月31日(月)  10年後に掘り出したスケジュール帳より(2010/11/29)


2009年07月30日(木)  美しすぎる運命の映画『スラムドッグ$ミリオネア』

なかなか観るタイミングがなかったが、先日会った友人が「洗面器いっぱい分泣いた」と言うのを聞いて、ついに『スラムドッグ$ミリオネア』を観た。「クイズミリオネア」で勝ち進んだ青年がイカサマを疑われ、最終問題を前にして警察で取り調べを受ける。そこで彼の人生が語られ、彼が答えを知っていた理由が明らかになる。クイズ番組、取り調べ、回想の切り替わるタイミングといいその構成といいお見事で、編集のリズムすら音楽を刻んでいるよう。ともすれば3時間を超えそうな物語を2時間に納め、観客をハラハラさせ続けるダニー・ボイル監督は、さすがあの『トレインスポッティング』を撮った人。

あの作品も走る(逃げる)場面が印象的だったが、今回の作品も主人公はひたすら走る。そのときに流れる景色の中で、彼の目に焼き付いたものが一瞬カメラのシャッターを切るように切り取られたりするのだが、いつの間にか観客は主人公の目になり、彼と同じ景色を共有する。台詞ではなくカメラワークで感情移入させるのだな、と勉強になった。

スラム育ちで教育を受けていない青年が知り得た答えは、彼がたどってきた過酷な人生で出会った出来事の中にあった。それは運命としかいいようがない……という筋書き。わたしは不幸や不運もネタにして元を取れる脚本家という職業柄、「人生に無駄なことなんてない」とよく言うけれど、それはネタにして笑えるぐらいの不幸や不運しか背負ってない人間だから言えるお気楽な人生観なのかもしれない。自分で人生を選べない者が、くぐり抜けて来た辛い過去を「運命」として受け止める重みはケタ違いで、だからこそやっとたどり着いたハッピーエンドに喝采と涙を飛ばしてしまうのだ。インド映画のお約束の踊る大団円を観ながら、幸せになって良かった、と心から祝福したい気持ちになった。観終わった後の充足感は、これまでに観た映画のベスト5に入ると思う。

幼い頃の2年間、隣人がインド人一家だったこともあり、インドにはことのほか親しみを覚えている。幼なじみだったポピーちゃんの結婚式でデリーを訪ねたのが最初で最後のインド旅行だが、そのとき、至る所で目にする物乞いの子どもたちに驚き、戸惑い、怖れすら感じた。生きることに必死な彼らの姿が劇中のスラムの子どもたちと重なった。「クイズミリオネア」はアメリカにもイギリスにも日本にもあるけれど、この番組を題材にした物語の舞台がインドでなければ、運命を引き寄せた青年の強さをここまで感動的に描けなかっただろう。

原作『ぼくと1ルピーの神様』を書いたヴィカス・スワラップのインタビューを新聞で読んだが、彼は外交官でもあり、ひらめきを得て仕事の合間に一気に書き上げたのだという。原作から映画化にあたっては大幅に変更がされているそうで、こちらも読み比べてみたい。

2008年07月30日(水)  マッシュルームにすると美味
2007年07月30日(月)  劇団ダンダンブエノ公演『砂利』
2004年07月30日(金)  虹色のピースバンド
2003年07月30日(水)  脚本家ってもうかりますか?
2002年07月30日(火)  ペットの死〜その悲しみを超えて
2001年07月30日(月)  2001年7月のおきらくレシピ


2009年07月29日(水)  24億の瞳、きらり。「瀬戸内国際子ども映画祭」

2011年開催を目指して準備を始めた「瀬戸内国際子ども映画祭」の実行委員会が東京であり、出席する(写真は差し入れで出された麹町のパティシエ・シマのチーズケーキ。MOBA アカデミアの的場朱美さん、ごちそうさまでした)。6月に小豆島で顔合わせの会があったのだけど、馳せ参じることができず、今日が初めての参加。とはいえ声をかけてくださった小豆島オリーブランドの柳生会長をはじめ、集まった方の多くが小豆島がロケ地の『ぼくとママの黄色い自転車』関係者で、はじめましての方は4名。

今日の打ち合わせは、どういう映画祭にしたいか、何をしたいか、何が参考になるか、どこが協力してくれそうか、などそれぞれのアイデアを持ち寄る会。三人寄れば文殊の知恵とはこのことで、「それなら、この人を紹介できます」「こんな活動があるんですけど」と人や情報がどんどんつながる。ゼロから作り上げる映画祭の輪郭が早くも描けそうな手応えを感じ、ワクワクする時間となった。

忙しい人たちが三々五々散った後、柳生さんと雑談。「打ち合わせの後のこの時間が、いいんだよ」と同席した娘の照美さんに話されていたが、たしかにこういうおまけの会話には、鍋の後の雑炊のような、うまみがある。柳生さんとお会いするのは二度目だが、共鳴するところが多い。

「僕はね、やりたいと思ったことは必ず実現できるんです。願っていると、そのために必要な人と出会えるんですよ」と柳生さん。「小豆島で映画祭をやりたい!」と思っていたら、ある方のお通夜で『風の絨毯』プロデューサーの魔女田さんこと益田祐美子さんと出会ったのだそう。「人と人をつなげることが得意な方だったんですが、亡くなってからもつなげてくれました」と言う。柳生さんが『ぼくママ』に関わっていることを聞いた益田さんが「それってもしかして今井さんが脚本を書いた映画?」と反応し、わたしと柳生さんがつながって、わたしも映画祭の準備に巻き込まれることになった。「傘と心は開いているときがいちばん役に立つ」という名言を教えてくれたのは益田さんだけど、心の傘=アンテナを開いている者同士が出会うべくして出会った気がする。6月の会合で柳生さんは映画祭のエクゼクティブ・プロデューサーに、魔女田さんは総合プロデューサーに任命されている。

金持ちよりも人持ちになりたいという思いを年齢を重ねるとともに強くしているが、魔女田さんを見ていると、「人脈は金脈」でもあるようで、会議の間も次々とあちこちからお金を引き出すアイデアが飛び出した。政府や各国大使館のお墨付きや協力を取りつける段取りも心得たもの。土台作りは魔女田さんマジックにおまかせできそうで、わたしは今までに関わった映画祭での経験を話したり、パブリシティを取る(記事にしてもらう)ためにこんなニュースを発信してはというアイデアをいくつか出した。

各自が得意分野で力を出し合いましょうということで、わたしは映画祭のコンセプト作りを宿題に持ち帰る。映画祭を立ち上げるというのは物語を構築するようなものだから、しっかりした共感できるテーマがあると、人物は動きやすくなる。6月の会で新聞の取材を受けた魔女田さんが小豆島を舞台にした名画『二十四の瞳』にひっかけて「24億の瞳(つまり、世界中の子どもたち)の注目を集めたい」と話したところ、記者が食いつき、「24億の瞳」という見出しが地元紙を大きく飾ったが、

24億の瞳、きらり。

というキャッチコピーが浮かんだ。オリジナルにならって、

二十四億の瞳、きらり。

とすべきか? でも、「億」がつくと「にじゅうし」ではなく「にじゅうよん」と読みが変わるので、差別化と世界を意識するという意味でも、算数字がいいのか。皆さまのご意見は? 錬金術師の魔女田さんには「24億円、きらり」を目指していただき、2年後の第1回開催を成功させたい。

【お知らせ】『ぼくママ』サイトに試写会トーク報告

『ぼくとママの黄色い自転車』公開メイン館である新宿バルト9で7月22日に行われたキャリア・マム会員限定試写会(>>>日記)。上映前のキャリア・マムの堤香苗社長と今井雅子のトークの模様がぼくママ公式サイトのニュースページに登場。やりとりのダイジェストも掲載されています。

2008年07月29日(火)  マタニティオレンジ316 はじめての雷、まだ怖くない。
2007年07月29日(日)  マタニティオレンジ152 子守すごろく
2004年07月29日(木)  クリエイティブ進化論 by MTV JAPAN
2002年07月29日(月)  中央線が舞台の不思議な映画『レイズライン』


2009年07月27日(月)  パイプ椅子でのけぞって『カムイ外伝』

松竹試写室にて9月19日公開の『カムイ外伝』を観る。ぎりぎりに滑り込むと案の定満席で、補助椅子の最前列を残すのみ。それから2時間、パイプ椅子からスクリーンを斜めに観ながら、手に汗握る展開に何度ものけぞることになった。

出産を経て少しは図太くなったものの血しぶきには弱いわたし。幸い、斬り合いがかなり多い割にはグロテスクな流血はおさえられ、飛び散る血さえも美しく見せようという心意気さえ感じられたので、目をそむける場面はなかった。とはいえ、馬の生々しい姿にギョッとなったり、後半は『ジョーズ』か!のような鮫襲撃に腰を浮かしたり、頭よりも体が先に反応する場面の連続で、パイプ椅子に座り続ける苦行も相まって、やたらと体力を消耗する。並々ならぬエネルギーを注ぎ込まれた作品なので、観る側にも気合が必要だ。

崔洋一監督×榎望プロデューサーの顔合わせは、『血と骨』の前に『クイール』がある。娘のたまがこのところ「クイールわんわん」にはまっているのだが、これをたまと観たら、ケガ人続出で「どうしたの? いたいの?」と聞き続けるだろうなと想像した。アクションと殺陣の迫力はなかなかのもので、相当時間をかけて動きを仕込んだのではと思われる。大木の枝で大車輪したり、木のてっぺんから急降下したり、大自然版シルク・ドゥ・ソレイユのような華麗な技に目を見張った。

カムイは抜け忍(ぬけにん=忍者を抜け出した逃亡者)ゆえ戦いながら逃げ続ける宿命なのだが、カムイ役の松山ケンイチの動きには人間離れしたバネと鋭さがあり、地を蹴って走る姿にも野生のたくましさがある。カムイを生きているという感じで実にいい。ヤンキー先生こと義家弘介さんの半生を描いた花堂純次監督の『不良少年の夢』、前田哲監督の『ドルフィン・ブルー』、宮崎あおいちゃんと共演した『NANA』を劇場で観たが、そのどの役にも既視感がなく、それぞれの役を自分のものにしている。今回のカムイは、持ち前の目ヂカラがとくに活きていて、その目だけで語れていた場面がいくつもあった。試写室を出るとき、あちこちから「松山君、頑張ってたね」という声が聞かれたのが印象的だった。この作品でまたファンとオファーが増えそう。

もうひとり、後半でカムイと死闘を繰り広げる不動役の伊藤英明さんがとてもよかった。刀を持ってカムイに挑みかかるときの笑ったような絶妙な表情に殺気が宿る。しかし、わたしはなぜかずっと「江口洋介」だと思い込んで観てしまっていて、エンドロールを見て、違うじゃないかと気づいた。『クイール』で主役の渡辺満を演じている小林薫さんが漁師の半兵衛役でいい味を出している。半兵衛の妻お鹿となる抜け忍スバルを演じる小雪さんは、今井雅子のエッセイが載っている友人ミヤケマイの作品集第2弾『ココでないドコか-forget me not-』の帯に推薦文を寄せている。わたしのいた広告会社が手がけていた「爽健美茶」のCMに出演していた縁で会社の新年式典にも来たことがあり、勝手に親近感。函館での珍道中もご一緒した『パコダテ人』の木下ほうかさん(ブログ開いていたのを発見)も出演。『パコダテ人』といえば、衣装デザインは小川久美子さん。京都撮影のカメラは『パコダテ人』『子ぎつねヘレン』『ドクターヨシカの犯罪カルテ』の浜田毅さん(ご一緒してないけど、『血と骨』『おくりびと』も)。

映像の美しさ、大きさが際立ち、息をのむような引き絵が何度も拝める。アクションシーンのハイスピードも効果的。とくに水辺での殺陣の水しぶきは印象的だった。島のロケは沖縄にセットを組んだそうで、海の青も山の緑も「日本にこんな色があったのか」と驚くほど深い。物語の重苦しさに比べて背景が楽園的すぎるともいえるが、めったに観られないものをスクリーンで観た、という気持ちになった。

脚本は崔監督と宮藤官九郎さん。原作(決定版カムイデン全集 カムイ伝 外伝 11巻セット13860円也)を読んでいないので、どこにクドカンらしさが発揮されているのかはよくわからなかったが、膨大な原作(『カムイ外伝』のうち15回にわたって「ビッグコミック」に連載された「スガルの島」のエピソードを原作にしているそう)を2時間に凝縮する作業は大変だっただろうなあと想像した。

ラストに流れる倖田來未の主題歌「Alive」はハイドンの「私を泣かせてください」を編曲したもので、これがツボに来た。娘を産み落とす瞬間に助産院の産室を満たしていた曲で、このメロディに触れると賛美歌に包まれるような厳かな気持ちになる。カムイら虐げられた者への慈愛とともに劇中で流れた血への鎮魂も感じさせてくれた。

事前に「娘がクイールにはまっています」のメールを送っておいた榎さんと、松竹のビルを出るときにばったり会った。「今観て来ました」と伝えると、「クイールと全然違うでしょ」と榎さん。「たしかに」と答えて駅へ向かいながら、ふと思った。崔監督の作品に出てくる人間は、逆境を乗り越えるたくましさ、図太さが共通しているのでは、と。クイールの視覚障害者しかり。ご本人も迫力のある方で、函館港イルミナシオン映画祭でご一緒したことがあるが、そのとき引っさげて来た(監修として参加)映画『田んぼdeミュージカル』の高齢素人集団にも、老いを跳ね返すパワーがあった。

2008年07月27日(日)  SKIPシティ国際Dシネマ映画祭9日目 クロージング
2007年07月27日(金)  あの傑作本が傑作映画に『自虐の詩』
2005年07月27日(水)  シナトレ2 頭の中にテープレコーダーを
2004年07月27日(火)  コメディエンヌ前原星良
2002年07月27日(土)  上野アトレ
2000年07月27日(木)  10年後に掘り出したスケジュール帳より(2010/11/29)


2009年07月26日(日)  朝ドラ「つばさ」第18週は「二十歳の夏の終わりに」

神保町シアターにて成瀬巳喜男の『妻』を観る。黒地に白抜きで漢字一文字のタイトルがどーんと出て、「妻という字の中には女がある」とあらためて見た。妻の半分は女が占めるが、結婚して女が半減するともいえる。結婚10年目の夫婦のすれ違いを描き、妻の寄る辺なさが身にしみる作品。今よりも結婚した女に帰る場所がなかった時代のことだから、なおのこと夫の心がない家を守るのはやりきれない。だが、文句を言うばかりで努力しない妻にも落ち度はある。

重い話の割にところどころ笑わせてくれるが(三國連太郎演じる美大生が、とぼけたいい味!)、救いのない結末に、「夫婦って……」とため息。結婚9年目のダンナと観終わった後、感想を交わしたが、小ネタの話に終始した。「成瀬を観なさい」とすすめてくれたご近所仲間のT氏に「身につまされる内容でした」とメールしたことを伝えたら、「君もお茶でブクブクしたりするよね」とダンナ。高峰三枝子演じる妻が食事の後に箸で奥歯に詰まったものをかきだしたりお茶で口の中をゆすいだりする姿に、「これでは夫はげんなりだなあ」と上原謙演じる夫に同情したが、わたしはそんなことはしません! でも、身につまされるポイントはそこなのか、と拍子抜けし、笑った。

「愛があるのか?」と確認しあって夫婦になってしまってからは、愛はあるものとして扱われる。波風が立たない限り、在庫確認をするチャンスはない。その質や量が時間とともに変化することを大らかに受け止め、ほどよく流されているうちに10年、20年と時を重ねていくのだろう。息永く夫婦を続けるためには、向き合うことと同じぐらい、やりすごすことも大事なことなのかもしれないと思った。

折しも「つばさ」第18週は夫婦の話。恋にも仕事にも行き詰まり、家を出ると決意したつばさが放った矢は地図をそれ、向かった先は、長瀞。加乃子の異母妹である紀菜子(斉藤由貴)と、その夫で船頭の富司(山下真司)に歓迎され、傷心を癒されるつばさ。しかし、仲睦まじく見える紀菜子夫妻は互いの心が見えず、苦しんでいた。一方、つばさを心配した知秋も付き添って出かけ、束の間「子どものいない夫婦」になった竹雄と加乃子は、自分たちの将来を考えてしまう……という二組の夫婦話と並行してつばさの再生が描かれる一週間。山あり川ありの長瀞の美しい自然をお楽しみください。このところ頼もしい弟として成長著しい知秋は、富司の男っぷりに惚れ込んで肉体改造を試み(キーアイテムは薪割り!?)、腕力をつける。

演出は、4、5、7、11週の大橋守さん。タイトルは「二十歳の夏の終わりに」で、二十歳のつばさが描かれる最後の週。第18週でつばさは生まれ変わり、あらたな気持ちで第19週「太陽がいっぱいだ」へと踏み出し、物語も大きくうねっていく。第20週「かなしい秘密」は、「脚本協力 今井雅子」のクレジットが毎日出る増量週間。

2008年07月26日(土)  SKIPシティ国際Dシネマ映画祭8日目 いよいよ審査
2007年07月26日(木)  エアコンの電源が入らない
2005年07月26日(火)  トレランス番外公演『BROKENハムレット』
2004年07月26日(月)  ヱスビー食品「カレー五人衆、名人達のカレー」
2002年07月26日(金)  映画『月のひつじ』とアポロ11号やらせ事件
2000年07月26日(水)  10年後に掘り出したスケジュール帳より(2010/11/29)


2009年07月24日(金)  映画『引き出しの中のラブレター』とラヴレター募集

松竹試写室にて『引き出しの中のラブレター』を観る。5月に公開された『60歳のラブレター』(>>>試写の感想)と同じく、ラブレター募集から生まれた映画。その昔、月刊公募ガイドをめくってはこの手の募集にせっせと応募していたわたしは、それだけでも親しみを覚えてしまう。それに加えて、ラジオで人と人をつなぐストーリーは、脚本に関わっている朝ドラ「つばさ」にも通じるものがあり、さらに函館が物語の鍵を握る舞台として登場ということで、観る前から感情移入は準備万端。『60歳のラブレター』と函館が舞台で病院内ラジオを描いた『Little DJ〜小さな恋の物語』(>>>試写の感想)を重ね合わせ、さらに函館の景色に今井雅子映画デビュー作の『パコダテ人』を思い出しながら、観た。

主役のパーソナリティは常磐貴子さん。本上まなみさん演じる同郷の親友との大阪弁のかけあいが楽しい。本場のイントネーションとリズムで喋れるこのお二人にあて書きして、大阪弁の映画を作りたい、と作品を観ながら妄想を膨らませてしまった。恋人が萩原聖人さん、ラジオ局の社長が伊東四郎さん、上司が吹越満さん。番組に手紙を送ってくる函館の少年は林遣都さん。その少年の父が豊原功補さん、祖父が仲代達矢さん……とキャストが豪華。中島知子さんの妊婦は、これまでに観た映画の妊婦でいちばん説得力があった。冴えない出稼ぎタクシー運転手を演じた岩尾望さんが、すばらしい存在感。この人がエールを贈る場面に、いちばん泣かされた。情けない男の一生懸命な姿は、飾らない分だけ真っすぐ胸を打つ。

お節介でお調子者の漁師を演じた片岡鶴太郎さんも、とてもよかった。こういうおっちゃん、いるよなあ。八千草薫さんのおしとやかなようで自分をしっかり持った母親をはじめ、登場人物は短い時間で輪郭をくっきりと見せられるように作られている。とはいうものの登場人物がけっこう多く、複数の物語が同時進行し、まいた伏線をどう回収していくのか、期待とハラハラ感が募った。だが、函館の少年一家の物語を中心にばらばらだったピースが美しく納まり、人だけでなくエピソードもつながって、安心するとともに感心した。群像劇が見事に成功している『ラブ・アクチュアリー』と同じく、「この人とこの人がつながっていたとは!」という驚きが感動になった。

手紙でつながる、ラジオでつながる。そこには、伝えたい気持ちがある。シンプルだけど、とても大切なことを問いかけようとしている作品。欲を言えば、東京の仕事に忙しい主人公が何度も函館に足を運ぶよりは遠隔操作で少年に働きどころを作ったほうが、遠く離れた相手をラジオでつなげる意味は際立った気がする。最近、映画を観ると、「自分だったらこうした」と考えてしまうのが困った癖。脚本は藤井清美さんと鈴木友海さん。藤井さんは『The Last 10 Months 〜10ケ月〜』で日テレのシナリオ登竜門優秀賞を受賞された人。月刊ドラマに載った脚本が印象に残っている。

監督は『花より男子』の三城真一さん(プロデューサーで参加している映画『花より男子ファイナル プレミアム』の脚本は、サタケミキオの名前で「つばさ」真瀬昌彦役の宅間孝行さんが書いている)。音楽は「篤姫」の吉俣良さん。主題歌はSkoop On Somebodyとこちらも豪華。

ところで、映画の仕事を何年かやっているおかげで、たいていの映画になんらかのご縁はあったりするのだが、この作品は、とくに関わりが深い。

【配給】『子ぎつねヘレン』『天使の卵』の松竹
【ロケ地】『パコダテ人』の函館
【出演者】『パコダテ人』の萩原聖人さん、ラジオドラマ「ランゲルハンス島の謎」「過去に架ける虹」の吹越満さん、朝ドラ「つばさ」の佐戸井けん太さん(タクシー運転手の上司役)、『ジェニファ』の六平直政さん(主人公の父役)。常磐貴子さんとは作品でのご縁はないが、放送文化基金賞の授賞式で同じ列に着席(ドラマ部門の本賞を「ビューティフルライフ」が受賞、ラジオ部門の本賞を「雪だるまの詩」が受賞)したので、一方的に親近感。本上さんとも作品では未対面だけど、短歌の「猫又」の会で引っかかるようにご一緒させていただいている。
【プレミア上映】去年長編部門の審査員を務めたSKIPシティDシネマ国際映画祭にて招待上映。

【ノベライズ】『ぼくとママの黄色い自転車』の原作『僕の行く道』を書いた新堂冬樹さんが映画と同タイトルで9月刊行。ちなみにこの本が「白新堂の6冊目」とのこと。『黒い太陽』などのノワール系が「黒新堂」で純愛路線が「白新堂」とジャンル分けされている。ブログのタイトルも「白と黒 blanc et noir」。

【原案】『ブレーン・ストーミング・ティーン』と『子ぎつねヘレンの10のおくりもの』でお世話になった文芸社から出版された『届かなかったラヴレター』(こちらは「ウ」に点々)。中身のラヴレター募集を行っているのが、先日の『ぼくママ』試写会でご縁ができたキャリア・マム。トークをご一緒した社長の堤香苗さんと控え室でお話ししているときに、このコンクールの次回募集「届かなかったラヴレター2010」の審査をお願いされた。

というわけで、なにかとご縁がある『引き出しの中のラブレター』は10月全国公開。ぜひ、映画を観て、「届かなかったラヴレター」にご応募を。しまいっぱなしの想いを引き出して、綴ってみてください。

2008年07月24日(木)  潜在意識?『7月24日通りのクリスマス』
2007年07月24日(火)  マタニティオレンジ150 自分一人の体じゃない
2000年07月24日(月)  10年後に掘り出したスケジュール帳より(2010/11/29)


2009年07月23日(木)  ちいさいパーンツに憧れる、たま2才11か月。

こないだ産んだばかりのような気もするが、2006年8月22日生まれの娘のたまは、あと一か月で3才になる。2才最後のキャッチフレーズを考えるにあたり、この一か月を振り返りつつキーワードを挙げてみた。「夏の扉を開けた」。生まれて初めて髪を切ったのが6月の終わり。これは結構な事件。「どすこいバレリーナ」。足を高く上げる一発芸の「バレリーナ」が進化し、四股を踏んで「どすこい」と着地するオチがついた。

笑いを取ることにいちだんとサービス精神を働かせるようになり、お風呂上がりには両肩から下ろしたタオルを胸の前でクロスさせ、「ちゅばさのおばあちゃん」(千代がいつも着ている着物のつもり)とおどける。四角いお皿を直角に組み合わせて、「パソコン」という一発ギャグも編み出した。器用に皿を動かして開閉させ、ノート型パソコンのつもり。「お笑いに目覚めた」一か月でもあった。

以前、2歳児のネーミングセンスについて日記に書いたが、皿からパソコンを連想するやわらか頭には驚かされる。近所の東洋大学の入口にある噴水を見て、「みんなシャンプーしてるね」。「こないだばったり会ったお友だちが99(=ショップ99)に今日もいたらびっくりだね」と言うと、「99にモーモいたらびっくりだね」と切り返す。そりゃあ牛がいたらびっくりだ。この後、「99にじーじいたらびっくりだね」と続き、言葉遊び好きはわたし譲りのよう。「コピーライター入門」、いや、むしろ、わたしのほうが刺激をもらっている。

ダンボールに詰めていた絵本を棚に並べるようになったおかげで、絵本を手に取ってくれることもふえたけど、やっぱり映像が大好き。ビデオで観るか、パソコンでYouTubeを観るか。「なんかみるー」はすっかり口癖になった。とりわけ、「クイールわんわんに夢中」。『子ぎつねヘレン』『天使の卵』のプロデューサーの榎望さんと『子ぎつねヘレン』『ぼくとママの黄色い自転車』のドッグトレーナーの宮忠臣さんが参加し、『天使の卵』の戸田恵子さんが出演されている映画『クイール』にはまり、毎日のように「クイールわんわんみる!」とせがんでいる。

あんまり何度も観るものだから場面の順序や台詞を相当覚えてしまい、怖い蛇と小林薫さんが出る場面が近づくと隠れ、自転車を指差して「これ、障害物」とクイールに教える場面では、「これは しょうがいぶつじゃないよ。じてんしゃだよ」と画面に突っ込み、「あなたは うんめいの こよ(あなたは運命の子よ)」と劇中の台詞を突然口走る。「映画のビデオで英語を学ぶ」の日本語版といった感じで、言葉が豊かになるのはうれしいけれど、ビデオ漬けは心配。朝ドラ「つばさ」にも反応するようになり、今朝は「ゆうかちゃん、こなかったね」と言っていた。出ていない登場人物のことを気にしたのは初めて。

自転車のスピードを知った」、これは最近のビッグニュース。半年ほど言い続けていた二人乗りの夢がかない、もっと乗りたいと泣きじゃくるほど夢中になった。お友だちの家から借りた電動ママチャリを返すのが怖かったが、3日間乗って気が済んだのか、返した後はあっさりした反応だった。スピード狂なのか、「飛び出し注意」は頭の痛い問題。車道に向かってドンキホーテのように駆け出すことが度々あり、そのたびに寿命の縮む思いをしている。川越のカフェの店内から飛び出したときには、わたしの悲鳴も飛び出した。通行人に体当たりしていなかったら車にぶつかっていた。「つばさ」の人出に命拾いした格好だが、どうやったら車の怖さをわかってくれるのだろう。

いろいろと候補を挙げたが、選んだのは、「ちいさいパーンツに憧れる」。わたしが忙しかったせいもあり、トイレトレーニングが後退したたまは、プールのシーズン到来でやる気を向上。さらに、かわいいパンツを買って「おむつが外れたら、はこうね」と言い聞かせると、「ちいさいパーンツ」と自分に喝を入れるようになった。便座に座りながら、「でんしゃに のってくるよ。いま おりてきた」などと実況するので、出る感覚はつかんでいる様子。日によって、朝から夜までおむつがカラカラの日もあれば、一度もトイレでしない日もあり、成果にはムラがあるけれど、意欲はかつてなく高まっている。3才までに外れるかしらん。

あと一か月といえば、今井雅子の6本目の脚本長編映画『ぼくとママの黄色い自転車』の公開も8月22日。公式サイトもリニューアルし、宣伝の露出もふえていく模様。わたしも、いまいまさこカフェのトップページにもバナーを貼りつけたり、試写会の感想を書いてくださっているブログにお邪魔したり。自分が関わった作品は、手をかけた分だけ愛しいわが子のようなもの。たまも『ぼくママ』も、愛されて、伸びる夏になりますように。

2008年07月23日(水)  神楽坂の隠れ家で、英語で映画を語る。
2007年07月23日(月)  マタニティオレンジ149 ダンボールハウス
2005年07月23日(土)  映画『LIVE and BECOME』・バレエ『ライモンダ』
2004年07月23日(金)  ザ・ハリウッド大作『スパイダーマン2』
2003年07月23日(水)  チョコッと幸せ


2009年07月22日(水)  『ぼくママ』キャリア・マム試写会&『愛を読むひと』

新宿バルト9にて、働きたい女性のためのコミュニティサイト「キャリア・マム」の会員限定『ぼくとママの黄色い自転車』(公式サイト、リニューアルしました)試写会。キャリア・マム代表取締役の堤香苗さんと上映前にトークということで、45分前に会場入りし、顔合わせと打ち合わせ。神戸出身の二児の母でフリーアナウンサーの堤さんは、さすが空気を作るのがお上手で、あっという間に和やかに打ち解けられた。キャリア・マム取締役の井筒祥子さんとコーディネイターの宮入美由紀さん、宣伝のトルネードフィルムの田中久美子さん、共同テレビの井口喜一プロデューサーと本番までのおしゃべりが弾んだ。

トークの時間は15分。開始が少し遅れたので、正味は10分強ぐらい。堤さんのリードに乗せられて気持ちよく、「原作を脚本化するにあたって」「キャストのイメージは?」などについて話す。原作『僕の行く道』の著者である新堂冬樹さんのことを「『黒い太陽』などを書かれている……」と紹介したが、奇しくも「黒い太陽=日食」の日であり、ちょうど公開一か月前。公開日が娘の3才の誕生日に重なること、生んだ直後に原作を読んで、「子どもと引き裂かれるなんて想像できない。でも、もしそうなるとしたら……と考えて脚本を練った」話をする。原作から大きく変わったのは、同行するのがネコではなく犬になり、移動が新幹線ではなく自転車になった点だと話し、ドッグトレーナーは『子ぎつねヘレン』でキツネに演技させた人だと紹介。「『子ぎつねヘレン』を観られた方?」と客席に尋ねると、かなりの数の手が挙がって驚いた。阿部サダヲさんのファンの方々でしょうか。

最後に見どころを聞かれて、小豆島の美しさを挙げた。ロケにずいぶんご協力いただいているが、絵になる風景の数々をお借りしている。この作品を観て、小豆島を訪れたくなってくれたらうれしい。そして、朝ドラ「つばさ」の宣伝もさせていただく。「つばさ」と『ぼくママ』は、人を信じるあたたかさが似ていると思う。

いよいよ上映。スクリーンで観るのはこれで3度目で、答え合わせは一段落し、だいぶ冷静に観られるようになった。毎回客席の反応が少しずつ違うのが興味深い。観終わった後、堤さんは「泣きました〜」と涙で鼻声になったまま次の打ち合わせへ。出口で観客の皆さんをお見送りしていると、何人かの方が声をかけてくださった。大志が旅先で出会う人たちが「ありがとう」と大志に声をかけるところを「あなたの印象に合っていた」とうれしい言葉もいただく。

トークの模様はキャリア・マムのサイトに掲載されるそう。堤さんはブログ「堤香苗のほんねのはなし」でも早速取り上げてくださっている。

せっかくバルト9に来たことなので、『愛を読むひと』を観て行くことに。レディースデーということもあって、満席。原作のドイツ語題は『Der Vorleser』で英題は『The Reade』。日本語版も『朗読者』と直訳だが、映画では『愛を読むひと』と名づけたのがうまい。読むことが愛情表現そのものであり、読むという行為で愛の強さと深さを物語る作品。女は誰でもピロートークが大好きだけど、「順番を変えましょう」とケイト・ウィンスレット演じるハンナが提案したことから、朗読は愛撫の意味合いを強める。15才のマイケルが最初に本を読み聞かせたきっかけは、彼女が「読んでよ」とせがんだからだが、英語では「I'd rather listen to you」、あなたが読むのを聞きたいというのが可愛い。

前半はいちばん多い衣装はヌードというほど入浴やベッドの場面が多い。中年にさしかかったハンナの裸は艶かしいというよりは生々しく、一人で生きる女の孤独や悲しみや疲れを宿し、マイケルの若さとたくましさが際立つ。親子ほどに年が離れた二人は互いを埋め合うように恋に落ち、逢瀬を重ねる。言葉での説明を排し、なるようになったと描かれ、観客もまたそう受け止める。

これでもかと肌を重ねる前半があるから、指一本触れるどころか互いの顔を見ることもできない後半が活きてくる。そのとき、読むという愛情表現が真価を発揮する。マイケルの朗読のたたみかけは、物語の伝承者となった人々が各自の物語を口ずさみながら行き交う『華氏451』のラストを彷彿とさせ、美しく力強く愛を謳う名場面となっていた。彼の朗読が彼女の人生の終盤にもたらした奇跡と呼んでいいような変化にも心を動かされた。定冠詞の「the」で涙を誘われたのは初めてのことだ。生きることは世界を知ること、その喜びが彼女が「the」を口にする場面に凝縮されていた。

生きること、愛することの重みと苦しみ、その中に光る希望を求めようとする人の悲しみ。ひたひたと問いかけることの多い作品だった。観終わって立ち上がるとき、隣に座っていた初老の夫婦の夫が「原作では書き置きの意味がわからない場面があった気がする」と話しているのが耳に入り、勝手にその場面を頭の中で思い浮かべて、また涙を誘われた。原作をずいぶん前(ヤシガニ脱走騒動があった日だから2003年9月)に友人から強く勧められながらまだ読めていないのだが、ぜひ手に取ってみたくなった。

また、劇中でマイケルがユダヤ人強制収容所を歩く場面があり、アウシュビッツを訪ねたときのことを思い出した。以前日記に書いたこともあるが(2002年10月21日(月) アウシュビッツの爪痕)、旅行記代わりの絵日記がどこかにあるはずで、掘り出したいと思っている。東ドイツにあった収容所を訪ねたのが中学一年のときで、その頃に『アンネの日記』にはまり、日記を熱心に書くようになったのだが、ホロコーストを取り上げた作品にアンテナを向けてしまうのもそのせいかもしれない。

予告編では『ぼくママ』が流れた。テイストは違うけれど、愛する人の嘘を尊重して守ろうとする『ぼくママ』の一志(阿部サダヲ)と『愛を読むひと』のマイケルの一途で不器用な姿が重なった。

2008年07月22日(火)  マタニティオレンジ314 おっぱい「まだ でる!」たま1才11か月
2007年07月22日(日)  マタニティオレンジ148 ダブルケーキに仰天!たま11/12才
2005年07月22日(金)  万寿美さん再会と神楽坂阿波踊り
2002年07月22日(月)  10年前のアトランタの地下鉄の涙の温度

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