2008年07月26日(土)  SKIPシティ国際Dシネマ映画祭8日目 いよいよ審査

2年半ぶりのシングルルームで夜中に乳飲み子に起こされることもなく、ぐっすり眠って爽快な目覚め。浦和ロイヤルパインズホテルはパティスリーが自慢で、朝食のバイキングには焼きたてのクロワッサンやデニッシュが並ぶという。部屋に備え付けの案内ブックの写真を見ているだけでおなかが鳴る。グラタンもやたらとおいしそう。

食後のコーヒーを飲んでいる審査委員長のダニーさんと審査員のリカルドさんの隣のテーブルに着き、映画祭事務局の木村美砂さんと合流。同い年で甘いもの好き同士の木村さんとパンをどっさり食べながら、女性が働き続けることについて話す。

審査は11時から。ダニーさんには英語、リカルドさんにはスペイン語、ホン・サンス監督には韓国語の通訳がつき、公用語の日本語に訳されたものをそれぞれの言語に訳し直すという四か国語会議。これまでにも一流の通訳の方の仕事ぶりを拝見する機会はあったけれど、今日の3名の通訳さんの技量には舌を巻いた。スペイン語や韓国語がわかっているわけではないけれど、発せられた言葉と訳された言葉の間に時差はもちろん温度差も感じさせず、口ぶりや微妙なニュアンスまでそのまま伝えているような印象。外国人審査員3名は男性で通訳3名は女性なのに、通訳の言葉が本人の言葉に聞こえる。文楽の人形遣いの黒子が見えず、人形だけが動いているように見える、そんな見事な一体化のワザを見せてくれた。

その通訳さんたちが、14時半過ぎまで3時間以上にわたって続いた会議の後に「こんな面白い会議は久しぶり」と興奮で疲れを吹き飛ばしたほど、審査は白熱し、ドラマティックに展開した。受賞作を選び出すプロセスは審査委員長に委ねられる。ノミネート作品12本をある程度絞り込んだ中から5つある賞を振り分けていくのではなく、賞ごとに一から絞り込みの作業をやり直す手のかかる審査方法は、それぞれの賞にいちばんふさわしい作品を丁寧に選びたいという今年の審査委員長の心意気と真摯さの表れ。12作品のラインナップの多様さもさることながら、各審査員が推す作品は各自の価値観や好みを反映して、こうも多様な反応があるものかと驚くほどばらけた。ある審査員が満点をつけた作品に別な審査員は0点をつける。その落差が互いの主張を聞くうちに歩み寄りを見せたり、それまで誰も言及していなかった作品に突然光が当たったり、議論はジェットコースターさながら乱高下する。その波に乗ったりのまれたりを繰り返しながら、言葉の応酬だけでこんなスリルを味わえるなんて、とわたしの血は騒ぎっぱなし。やがてジェットコースターは滑るような走りとなり、静かにUnanimous(満場一致)に着地する。陪審員たちの裁判での議論を描いた『12人の怒れる男たち』を彷彿とさせるような劇的な審査が5回にわたって繰り広げられたのだった。

同じ作品を観ても、こうも受け止め方が違うものかと驚きつつ、自分が見落としていた点の数々を発見。賞は今回出品された作品に対して授けるものであるけれど、賞が今後も作品を撮り続ける監督へのエールになると考えれば、まだ観ぬ未来の作品を視野に入れることにも意味がある。監督はどんな人だろうという想像力はわたしにも働いたけれど、他の審査員たちは「監督はどの国でどういう教育を受けた人か」「どういう思想を持った人物であるか」まで思いを馳せた上で作品を吟味し、デジタル映画祭であることを踏まえて「デジタル技術をいかに駆使しているか」という視点で作品を評価することにも気を配っていた、物語の読解力はもちろんのこと、技術的な部分を観る目もまだまだ養わなくては。


未熟な自分がこんな席に着かせてもらっていいのだろうか、とありがたいやら恐縮するやら興奮するやらで大忙しのうちに、はじめての映画審査は終わった。集中力を緩めて味わったお昼のお弁当を一気に平らげ、浦和パインズホテル自慢のケーキもするりと胃に納め、5つのunanimousの余韻に浸った。

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