2002年10月21日(月)  アウシュビッツの爪痕

古い写真を探していたら、パノラマの写真の束を見つけた。古びたレンガの細長い平屋が見渡す限り続く光景。その手前に有刺鉄線がなければ、どこかの国の田舎の集合住宅に見えなくもない。でも、そこには公園もお店もなく、住む人もいない。今では観光客と言う名の目撃者たちが訪れ、ああ、とため息をつくか、言葉を失ってしまう場所。わたしはただシャッターを押し、パノラマに広がる悲劇の爪痕を何とか切り取ろうとしていた。わたしが立っていた見晴らし台は、かつては脱走者の見張り台だったのかもしれない。

96年9月、ポーランドのアウシュビッツ収容所を訪ねたときの記録。そのとき受けた衝撃はワルシャワで数日過ごすうちに少しずつやわらぎ、日本に戻る頃には悪夢にうなされることもなくなり、今では思い出すこともほとんどなくなった。ひさしぶりに見た写真は、やっぱりのどかで、芝生は青々ときれいで、通りがかった同僚は「どこのリゾート?」と聞いてきた。テニスコートがあってもおかしくない光景。でも、長い長い線路は手前にある収容所へまっすぐ延び、そこへ向かった人々のほとんどは片道で旅を終えてしまったのだった。その場所を訪れる自由とそこから戻る自由を使ってきたわたしは、何か伝えるべきなのかもしれないと思い、日記に書くことにする。

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