2009年02月03日(火)  嫉妬しました『60歳のラブレター』

いいらしいよと前評判を聞いていた『60歳のラブレター』を観る。撮影は芦澤明子さん。お会いしたことはないのだけど、昨年公開された『しあわせのかおり』の中華料理を実においしそうに撮った人。その香り立つ湯気に感心して、今年審査を務めた毎日映画コンクールのスタッフ部門の撮影賞にこの人を推した。同じく昨年公開の『トウキョウソナタ』の撮影もこの人。なんでもない家の中や道が持っている張りつめた感じやさびしげな感じをうまくとらえていて、空気を切り取るのがうまいなと感じた。毎日映画コンクールでの貴重な体験以来、監督や脚本以外のスタッフにも注目するようになり、映画を観るときの楽しみが増えた。

プロデューサーは、わたしの映画デビュー作『パコダテ人』を送り出し、『しあわせのかおり』でも芦澤さんと組んでいるビデオプランニングの三木和史さん。『村の写真集』『しあわせのかおり』とハートウォーミングな作品が続いている。今回はタイトルからして、わたし好み。観る前から「これ、書きたかったなあ」と思っていたけれど、観てみると、『三丁目の夕日』や『キサラギ』の古沢良太さんの脚本が実によくできていて、「かなわないなあ」と出来映えに嫉妬した。3組のカップルを描き分けつつ絡めて、それぞれに感情移入させ、見せ場を作り、伏線を回収しながら盛り上げていく。これだけの短時間にこれだけのエピソードと感動をまとめたのはお見事。脚本の古沢さんは73年生まれだけど、監督の深川栄洋さんはさらに若くて76年生まれ。その世代が60歳の映画を作ったことも興味深い。

登場人物の平均年齢の高さや抱えているものの重さの割に軽やかさを感じさせるのは、作り手の若さのせいなのかもしれない。日本映画が中高年の恋を描くと野暮ったくなりがちなのだけど、この作品は洋画のような憧れを味わわせてくれる。原田美枝子さん演じる地味な専業主婦があか抜けていく様はハリウッド映画のシンデレラストーリー風でもあり、実際彼女は美しく輝いていて、観ていてワクワクした。年を取っても、ネズミ色なんか着ないで、カンヌのビーチを散歩してたフランスのおばあちゃんみたいに花柄のワンピースをフリフリさせた下から原色のタイツをのぞかせて颯爽と歩くんだ、とわたしは勝手に自分の未来を思い描いているけれど、この映画を観て、日本の中高年がAラインのワンピースをこぞって着るようになったら楽しいなと思う。

中村雅俊さん演じる定年サラリーマンも、イッセー尾形さんと綾戸智恵さん演じる魚屋夫婦も、戸田恵子さん演じる翻訳家も、井上順さん演じる不器用な医師も、こんな人いそうだなあと思わせて、それぞれの恋の描き方もとても自然だった。イッセーさんの味のある言い回しに、『つばさ』での語りと謎の「ラジオの男」役がますます楽しみになった。

観終わってから、三木さんに「よかったですよ」と電話し、「三木さんのキャラであんな素敵な作品を作るなんてねー」とからかうと、「何言うてんですか。僕はロマンティストですよ。ガハハハ」と笑っていた。ガハハハという感じではないけれど、アハハ、クスッと笑えるところもたくさんあって、老若男女に愛される作品になる予感。5月ロードショーとのこと。

今日は節分。わたしは祖母の誕生日の2月4日を節分だと記憶していたし、子どもの頃は4日に恵方巻を食べていた記憶があるのだけど、いつの間にか3日が節分になっている。近所にある大阪鮨の恵方巻とさぼ天の「えびカツ恵方巻」を家族3人でかぶりながら、60歳はまだまだ先だなあと思った。

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