TOP 最新の記事 戻る≪ I NDEX ≫進む


漫画関連ファイル


2001年05月30日(水)
萩尾望都『残神』をまとめ読みした簡単な印象

『残酷な神が支配する』の単行本を昨日まとめて読んでみました。
私は、この作品を雑誌掲載時に1回、コミックスを買ったときに1回しか
読んでなかったのでした。というのは、今回もそうだったけれど、
5巻目までの話は身体的な拒絶感が先に立ってしまうのです。
ジェルミが殺人をおかしてからこそが本編の趣がありますが、
そこに入ってからも、何回も読んで楽しむという質のお話ではないので、
1回読んだだけだったのですね。
これまで書いてきたことは、だから、それだけの記憶で書いていたので、
一読しただけで十分という印象の強さがあったということと、
細部を見落としていたなという両方を今回強く思いました。

私がこれまで書いてきたような「ジェルミに心から人を愛して欲しい」とか
「ジェルミに自分で解決してほしい」とか「サンドラを等身大にひきずりおろしてほしい」とか
「イアンには何もできない」とかいったことは全部、作品中に出てきていました。
それはセリフの形で、主にイアンが口にしていました。
作者は、そういう議論がでてくることは百も承知だったんですね。
でも、セリフにはあるけれどそうしなければならないとは思っていらっしゃらないようです。
あえて、そこを避けるために、わざわざセリフで書いているのかなあと思いました。
では、そこを避けて何を書こうとされているのだろう。

あえて中心を避けるというか、出てくる人物がみんなうそをつく。
つかなくてもよさそうな、うそをつく。そして、事態はもつれていく。
そもそも話の発端さえ、ジェルミが罠に陥ってしまう必然性はまるでなく、何もないところに
糸のひっかりをつくったような感じでした。それがさらにどんどんだんごになっていく。
読んでいて、まるでスラップスティックコメディを見るかのようでした。
だからこの作品は、この人物はこうするべきだと議論するような話ではないかもしれません。

中心はどこにあるのか、それはもしかしたら無いのか、
これが今後この作品を読んでいく上での私の課題です。

作中、これまでの萩尾作品のありとあらゆる断片が散らばっているのおもしろかった。
時間があったら対照表を作りたいくらいです。それは『トーマの心臓』に始まって『ポーの一族』、
様々な短編にまでおよびます。これは萩尾さんの冗談ととるべきか、それとも萩尾作品に
鋭くせまるためのネタになるのかというのも、誰かやってくれればうれしいんだけど・・・

今までのパターンからいうと、空前絶後のクライマックスがラストにくることが多かったので
最終回にものすごく期待してしまったのですが、全体を見渡してみると
何回かに分けて、そういう場面はもうすでに描かれていたのでした。
遭難するシーン。イアンがグレッグを撃つ夢の場面、マージョリーがオフィーリアのように
浮かんでいるシーン。もう一箇所くらいあったかな。
私は、これらのシーンが無条件に好きです。これはもう、萩尾さんの独壇場ですから
「お前は人殺しだ」といいながらイアンがジェルミにキスするシーンなんて、大好きだったりします。
ただし、そこに至るまでの過程がどうにもこうにも苦痛だったりするのですね・・・・





関連ファイル


2000年01月24日(月) 「残神」と「トーマ」
2000年02月03日(月) 初めて読んだ萩尾望都
2000年02月04日(月) ポーの一族 by 萩尾望都
2000年02月05日(土) 「小鳥の巣」
2000年02月06日(日) 「トーマの心臓」by萩尾望都
2000年02月08日(火) 萩尾望都 「救えない」ということ
2000年02月09日(水) 1972年〜1974年
2000年02月10日(木) 萩尾望都 初期作品
2000年02月11日(金) 萩尾望都 絵柄の変化
2000年02月12日(土) 第2期 ポーシリーズ
2000年02月13日(日) 萩尾望都 ちょっとお休み
2000年02月17日(木) 「銀の三角」 by 萩尾望都
2000年03月22日(水) 少女まんがの世界展
2000年06月27日(火) 『まぼろしの白馬』 by エリザベス・グージ
2000年11月22日(水) 『残酷な神が支配する』スクリーンセーバー
2001年03月28日(水) 『残酷な神が支配する』
2001年04月16日(月) 『塔に降る雪』文庫版解説by萩尾さん
2001年05月26日(月) 『残酷な神が支配する』が終わった。
2001年05月27日(日) 萩尾望都『残神』感想用掲示板
2001年05月28日(月) 『ジェラールとジャック』と『残酷な神が支配する』