2007年10月26日(金)  愛知工業大学で「つなげる」出前講義

益田祐美子さんの紹介で、愛知工業大学での1コマ90分の時間をいただいた。昨夜、たまを寝かしつけたついでに一緒に寝てしまい、「しまった! パワーポイントが未完成」と二時過ぎに飛び起き、ファイルを仕上げたのが四時前。頭で組み立てたスライドの順番と、実際に話そうとする感覚の順番のずれを試行錯誤で調整していると、びゅんびゅん時間が過ぎる。プレゼン前っていつもこうだったな、と広告会社時代を思い出したりした。

新幹線の前でもう一度おさらい。名古屋駅で担当の森豪教授に迎えていただき、タクシーで大学へ。愛・地球博の跡地を通り過ぎ、高速代も含めると九千円を超える距離。移動しながら「学生は六千人ほどで、女子は約一割」「来年創立五十周年。それに合わせて学生の手で映画を作る計画がある」「今回の講義は、学生に広い視野を養ってもらうためのもの」といったお話をうかがう。益田人脈の十五人の映像関係者が週替わりで持論を語る90分。わたしの学生時代に受けてみたかった。

事務室で講義開始時間を待つ間、和紙職人であり大学職員である佐藤友泰さんより奥の深い和紙の世界を語っていただく。もとは、書道用の紙を極めたのがきっかけで、この道三十年。利益を追い求めると妥協が生まれるからと、収入は定職から得て紙では稼がない、と決めているところが職人。

広い大学構内の移動に時間がかかり、五分遅れて講義をスタート。百人に絞り込まれたという学生さん、男子が圧倒的多数。開始早々居眠りを決め込む者、若干名。この人たちを起こすつもりで話しはじめる。

脚本家の仕事は動詞ひとつでくくると「つなげる」ではないか、というbukuの連載エッセイ第一弾での発見をふくらませ、「発注の9割はコネ 作業の9割はブレスト」であることを今井雅子作品の実例で紹介。今日の講義もコネ×ブレスト。自分と学生さんたちとの接点=「わたしもかつて学生であり、彼らはやがて社会人になる」をとっかかりに連想ゲーム感覚で構成を組み立てた。


後半は実践編。人をつなげる「人脈」とアイデアをつなげる「発想力」のかけあわせで「つなげる力」は最大化されること、それぞれの強化方法などを話す。

そして、わたしが就職した広告会社の入社試験に出題された「紙コップの使い方を思いつく限り考えよ」を例題に、学生さんたちに一人ブレストに挑戦してもらう。壇から降りてマイクを向けると、しどろもどろになりながらも「糸電話」が出た。さらに助け船を出して「水を飲む」「採尿」を引き出す。

もう一人は、考え込んでしまったので、「コップをベランダに移動させてみましょう。このとき、ビジュアルを思い浮かべるのがポイント。さて、あなたのベランダには何がありますか」と問い方を変えると、「洗濯物があります」の答え。わたしはとっさに「紙コップに洗濯物を入れるのは難しいですが、洗濯バサミを挟むのには使えますね」と返したけれど、「長袖の内側に入れて、ピンっと張らせるのに使えますね」という答えがあったと後で気づいた。


スライドをあと十枚ほど残したところで突然「ありがとうございます」と森教授に言われて面食らう。4時20分から5時50分までのコマだったので、てっきり最終だと思っていたのだが、まだこの後に講義があり、おしりがつかえていた。駆け足で十枚を消化し、わたしの書いた本にサインを求められたときに添えるメッセージを贈る言葉としたところで時間になり、学生さんたちは一斉に大移動を開始した。

次の教室に移動する頃には、聞いた話はほとんど消えてしまって、週末を超えれば、何も残っていないかもしれない。それでも、一言二言、あるいは言葉という形でなくても、何かこれからの人生につながるものを受け取ったと言ってくれる学生さんが一人でもいてくれたら、「つなげる仕事」を果たせたことになる。

2004年10月26日(火)  ジュアールティー1年分


2007年10月22日(月)  マタニティオレンジ197 たま14/12か月

今日10月22日で娘のたまは14か月になった。13か月まで続いた月例(齢)の誕生日ケーキはやめ、誕生日らしいことは何もしなかったけれど、「22日」という日付には、「また一か月経ったな」という感慨を覚えた。

先月の末に大阪に帰って、わたしの実家の広い床をのびのび歩いた成果か、歩き方はずいぶんしっかりしてきた。食欲は旺盛で、好き嫌いなくもりもり食べる。気持ちいい食べっぷりであり、まだ食べるか、と呆れるほどでもある。いつの間にか歯は奥のほうまで生えてきていて、蓮根も人参も噛んでつぶして食べている。歯磨きをいやがるのが悩みのタネ。歯ブラシをおもちゃがわりに振り回したり噛んだりはするけれど、仕上げ歯磨きをやろうとすると逃げ回る。子ども用歯ブラシのビニールの歯の先っぽが消えていて、どうやら遊んでいるうちに噛み切ったらしい。ビニールの先っぽは胃の中に消えたのか、だとしたら、その後体外に出てきたのか気になる。しっかり固まったいいウンチを毎日欠かさず、便秘に悩むこともない。

言葉も歌も教え込もうとはしていないけれど、少しずつ吸収している様子。歌やダンスが好きで、わたしが歌ったり踊ったりすると、よく反応する。表情が豊かで、声を上げてよく笑ってくれるので、育てがいはある。あいかわらずおっぱいから卒業する気配はないけれど、二足歩行をするようになり、上下セパレートの服を着るようになると、赤ちゃんというより子どもと呼びたくなる。赤ちゃんの時代ってずいぶん短い。

2006年10月22日(日)  マタニティオレンジ23 たま2/12才
2005年10月22日(土)  おばあちゃん99歳
2004年10月22日(金)  クリオネプロデュース『バット男』
2002年10月22日(火)  大阪では5人に1人が自転車に『さすべえ』!


2007年10月19日(金)  インテリアデザイン『DAYS』のマツエ

友人マツエが遊びに来た。最後に会ったときのことも日記に書いたけれど(2004年4月27日 二級建築士マツエ)、そのとき以来ということは、三年半ぶり。広告会社時代に組んで仕事をしていたアートディレクターのミキの美大での同級生で、ミキもまじえてスキーに行ったりミキの実家に泊まりに行ったりしたかと思うと、次に会うのは一年後というような関係だったのだけど、ときどき思い出したように会っても、空いた時間を感じさせない。マイペース同士、波長が合うようだ。

キッチンまわりのインテリアデザイナーとして独立したマツエの事務所にわたしが名前をつけたので、お礼がてらごはん食べようということになり、ひさしぶりの再会が叶った。「子どもいるし、うちでごはん食べられると助かるんだけど、なんか食べるもの適当に持ってきて」。三年半ぶりでもそんなことをお願いできてしまう。タッパーに詰めたおかずと自由が丘のロールケーキを持って現れたマツエに、わたしはカレーをふるまった。「カレーとアボカドが合う」ということを最近知ってはまっているのだけれど、マツエも「うちでもやってみよう」とよろこんでくれた。

ネーミングのお礼にと贈られたのは、輸入雑貨ショップpetitcoquin(プチコキャン)(ここのものはとてもわたし好みでハズレがない)のオレンジ×ハートのちりとり。かなり強烈な存在感だけど、はじめからわが家にあったかのようにしっくりなじむ。マツエはわたしの一人暮らしのアパートには来たことがあったけれど、今の家もたぶんこういう感じだろうと読んだらしい。さすが。

ちなみに、マツエには13案の名前を提案。わたしの一押しは、「マツエトモコ」の名前から連想した「トマト」。

 TOMOKO
 MATSUE 
 TOMOKO
 

という名刺のデザインまで勝手に考えて、真っ白いキッチンに映える真っ赤なトマトのビジュアルも浮かんだのだけど、「色がつきすぎるかなあ」と敬遠された。たしかにインテリアデザインに大切なのは「想像の余地」であり、名前がイメージを語りすぎるのはよくないかもと気づかされる。他に、これも「マツエトモコ」の名前の響きになんとなく似ている「ZIMMER」(ツィンマー 独語で「部屋」)。キッチン周りの単語で「ESSEN」(エッセン 独語で「食べる」)「CUCINA」(クチーナ 伊語で「台所」「料理」)「SPOON」「SOUP」「SPICE」「CUP」。響きのいい名前ってことで「COCOON」(コクーン まゆ)「COTTON」(コットン 綿)「COZY」(コージー ここちよい)「PETAL」(ぺタル 花びら)。毎日使う場所だから「DAYS」「EVERYDAY」。四角い箱を自由にデザインするということで「CUBE」。和風な名前もマツエっぽいかなと思って「それから」(ここから会話とか何かがはじまりそうな感じ)。この中から「最初は通り過ぎてたんだけど、何度か見ているうちにいいなあと思えてきた」とマツエが選んだ名前が「DAYS」。主張しすぎず、さりげなく日常に寄り添う、そんな立ち位置は、マツエがめざすデザインの方向性とも一致するよう。

2006年10月19日(木)  マタニティオレンジ22 めぐる命と有機野菜
2005年10月19日(水)  新宿TOPS 2階→8階→4階
2003年10月19日(日)  100年前の日本語を聴く〜江戸東京日和
2002年10月19日(土)  カラダで観る映画『WILD NIGHTS』


2007年10月18日(木)  マタニティオレンジ195 ママ友に取材 

脚本の仕事は「接点を見つけて膨らませる」ことが大部分を占める。だから、取材先やネタ元を持っていることは強みになる。以前、音楽業界の話を依頼されたとき、ちょうど主人公の設定で考えていたミュージシャンと経歴が重なるような人が友人にいた。それだけでプロデューサーは安心して仕事を任せてくれた。脚本はボツになったけれど、仕事が来たのは人脈という接点があったからだった。

今日取材したDさんは、マタニティビクス教室で知り合ったママ友。今回書くことになった題材が職業もので、そういえばDさんがその仕事をしていたと思い出したのだった。娘のナナちゃんが一緒でもくつろいで話せるよう、豆腐料理の「梅の花」の個室で会うことになった。三人でちょうどいい広さのこじんまりした和室。一歳四か月のナナちゃんにも食べられる料理が多く、担当になった男性の店員さんが「うちにも同じぐらいの娘がいて、よく似ています」と歓迎してくれ、とても居心地のいい時間を過ごせた。ゆっくり食事しながら約二時間、取材半分、子育て話半分。たまより二か月年長のナナちゃんはぐずることもなく、大人の話におとなしくつきあってくれた。肝心の取材は、さすが現場を知っている人の話はリアルで、本人にとっては日常のことでも、わたしにとっては知らないことばかりで新鮮。手ぶらではなくお土産(収穫)を持って明日の打ち合わせに臨むことができる。

取材でお世話になったのは初めてだけれど、ママ友からはたくさんの刺激と情報をもらっている。同じ時期に妊娠してなければ出会うこともなかった縁と、同じ時期に妊娠したからこその連帯感。とくにマタニティビクスで知り合った人たちは、妊娠中に踊ろうという発想と行動力の持ち主だけあって、今日取材したDさんをはじめ話していて面白い人の宝庫。妊娠、出産、育児で仕事のペースは落ちたけれど、芸のこやしになるような体験をたっぷり仕入れたし、ママ友人脈を得て「人持ち」にもなれたし、おつりは十分来ている。

2005年10月18日(火)  体にやさしくておいしい中華『礼華(らいか)』
2002年10月18日(金)  「冷凍食品 アイデア料理のテーマパーク」で満腹!


2007年10月17日(水)  マタニティオレンジ194 長生トマトの歌にノリノリ

モランボンの鍋ソングに続いて作詞を手がけたJA長生グリーンウェーブの『家族みんなで長生トマト』のCDが完成。「長生(ながいき)トマトのPRソング」の依頼を受けたとき、名前の「ながいき」から「じいちゃんもばあちゃんもひいじいちゃんもひいばあちゃんも みんな食べてる長生トマト」というサビが浮かんだ。「きょねんうまれた赤ちゃんも みんな食べてる長生トマト」と続けたのは、去年産まれたわが娘のたまが離乳食でもりもり食べているから。

子どもが踊りだすようなメロディで、ボーカルも子どもだったら最高、と作曲の宇津本直紀さんに伝えたところ、「そうそうこんな感じ!」と膝を打つようなノリノリの曲をつけてくれた。メールで送られてきたデモを再生していると、傍らで聞いていたたまが、腰をふりふり踊りだしたではないか。教えていないのに、これはツイスト! 見事に曲調に合った動きで、「わたしに似てダンスが好きなのね」と感激したり、マタニティビクスが胎教になっていたのかもと想像したり。去年産まれた赤ちゃんまで踊りだすノリの良さに、「これはいける!」と確信。ワタルくんという男の子が元気いっぱい歌ってくれて、はじけるトマトのような歌に仕上がった。

iTuneに取り込んで、リピートで流し続けていると、隣でたまがふりふりと踊り続ける。「イエーイ」のかけ声に合わせて両手を上げて見せると真似するようになった。「赤ちゃんが泣きやむ歌」が以前流行ったけれど、「赤ちゃんが踊りだす歌」はどうだろう。

2006年10月17日(火)  マタニティオレンジ21 赤ちゃんと話したい
2002年10月17日(木)  Globe Trotter×ELEY KISIMOTOのスーツケース


2007年10月16日(火)  マタニティオレンジ193 シュレッダーごっこ

布おむつを始めて、ゴミは減ったけれど、洗濯物は増えた。お風呂に入るついでにした洗いするようにしたら、たまが面白がって一緒におむつを踏みにくる。布おむつは適度な引っかかりがあって滑りにくいよう。二人で遊びにしてしまうと、おむつ洗いも楽しい。

脚本を書くときには、途中で何度かプリントアウトして読み返す。一枚に二枚のレイアウトにし、裏紙を使っても、あっという間に古紙の山となる。世に出る前の作品なのでそのまま古新聞に出すわけにいかず、シュレッダーは置いていない。いずれ必要になると思いつつ、指はさみ事故が怖いので、たまが大きくなるまでは置けない。そこで、手でちぎるという原始的な方法を取ることになる。これも、たまにとっては「紙破り放題」という遊びになる。破るよりもわたしが破った紙切れとじゃれるのに夢中になっていたが、シュレッダーごっこの間はごきげんだった。

2006年10月16日(月)  マタニティオレンジ20 ビバ!ウンチョス!
2004年10月16日(土)  SolberryのハートTシャツ
2002年10月16日(水)  カンヌ国際広告祭


2007年10月12日(金)  マタニティオレンジ191  「働きマン」と「子育てマン」

昨日、連ドラ『働きマン』初回を見て、広告会社時代を思い出した。週刊誌の編集と広告のコピーライターという職種の違いはあっても、締め切りに追われ、社内外に競合相手がいて、徹夜や休日出社が日常というところは似通っている。

働きマンと呼べるほどの働きぶりを発揮していたかは別にして、女を捨ててたことは確か。輪ゴムで髪を束ね、ピアスの穴がふさがるからとクリップを刺し、エアコンが止まる夜10時以降はパソコン熱で室温が上昇するので、熱さまシートをおでこに貼り付けてコピーを打ちまくった。競合プレゼンで億単位の仕事を勝ち取るのは快感だったし、自分の仕事やCMやポスターになって世の中に出ていくのも楽しかった。「働きハイ」になっていたところもあったと思う。

会社を辞めたのは2005年の7月なので、あれから2年ほどしか経ってないのだけど、「わたしもこんな生活してたなあ」と懐かしむと同時に、「もうできないなあ」と思った。マラソンのレース途中で一度歩いてしまうと再び走れない感じ。あのペースには、今さらついていけない。

しかし、そこで、はたと気づいた。「仕事に没頭すると恋もおしゃれも寝食も忘れる」のが働きマンだというが、子育てもまさにそうではないか。子どもの服はかわいいのをそろえても自分のおしゃれは後回し。子どもの離乳食は頑張って作っても、自分はその食べ残しでおなかを満たす。家計を切り詰めるためによれよれのセーターを着て、産後のシェイプアップどころじゃない。母は女であるのに、母をやればやるほど女を捨てることになる矛盾。母親こそ「子育てマン」である。

そこで思い出したのは、化粧品ブランドを担当して月に百時間以上残業を共にしていたアートディレクターのミキのこと。彼女が妊娠、出産し、育児と仕事の両立が難しくなって会社を辞めたとき、「仕事のほうが楽だった」と言った。まさか、と思ったけれど、プレッシャーも拘束時間も育児のそれは仕事を上回る。それでも「やってらんねえ!」と辞表をたたきつけることも、「昨日徹夜だったんで」と代休を取ることもできない。そこに来てダンナに「俺の飯まだ?」とせっつかれ、「一日中家にいたんだろ?」とトドメを刺されたりする。

「働きマン」時代は、子育てしている友人が「毎日大変」「わたしはえらい、よくやってる」と主張するのが不思議だった。でも、自分がその立場になってようやくわかったのは、子育てマンは自分で自分をほめるしかないということ。「このCMいいね」と褒められるとき「コピーは今井が書いたの?」「ボディコピー書くの大変だったでしょう」「五社競合で勝ったんだって」と自分のことも褒められた。給料も出た。けれど、子育ては、できて当たり前というところがある。子どもの成長は何よりのやりがいになるけれど、子どもを褒められるとき、子どもを育てているお母さんの仕事に思いを馳せてくれる人がどれだけいるだろうか。わたしは、自分がやってみるまで想像したこともなかった。通りがかった女性に「おいくつですか」と聞かれ、「一歳になります」と答えたとき、「そう。ここまで大きくするの大変でしたでしょう。お母様もおめでとうございます」などと声をかけられて涙が出そうになったが、それほど子育てマンが人からねぎらわれる機会は少ない。

もちろん、何よりのねぎらいは、手をかけた分だけ応えてくれるわが子の成長。それを確かめる喜びは、脚本が作品になって世に出て行く醍醐味にも勝る。子どもは「手を差し伸べたくなるように神様が不完全な形で送り出した」という言葉を最近どこかで目にしたが、子育ては親と子でひとつの「人間」(人格)を作りあげるコラボレーションという見方もできる。

2006年10月12日(木)  マタニティオレンジ18 デニーズにデビュー
2005年10月12日(水)  シナトレ3 盾となり剣となる言葉の力
2003年10月12日(日)  脚本家・勝目貴久氏を悼む
2002年10月12日(土)  『銀のくじゃく』『隣のベッド』『心は孤独なアトム』


2007年10月11日(木)  Sky fish公演 Vol.6『二神(ふたかみ)』

大阪出身でコピーライターを経て脚本家になった、という経歴が似ている川上徹也さんから、「また芝居書きました」と案内が届いた。川上さんの書くものはとても好きだし期待を裏切られることはないのだけれど、今回はメールの行間に「いい作品なので、ぜひ観に来て!」という自信と意気込みがいつも以上にうかがえ、ひさしぶりの川上作品と川上さん本人に会えるのを楽しみに劇場へ向かった。初めて降り立つ有楽町線の「地下鉄赤塚」という駅のすぐ近くのビルの三階にこの秋オープンしたばかりの『Pure Stage』という空間。そこを活動のホームグラウンドに移したSky fishという劇団の第6回公演であり、Pure Stageのこけら落とし公演でもある。

開演前にチラシに目を通すと、主演の千野裕子さんに川上さんが初めて会った帰り道、彼女が巫女姿で裁きを受けている場面が啓示のように閃いたのだという。巫女について調べるうちに、天皇に代わって神に仕える身である伊勢の斎王(いつきのみこ)に行き当たり、斎王であった大伯皇女(おおくめのひめみこ)が千野さんのイメージとひとつになるや物語が迸った。さらに出来上がった脚本を読んだ千野さんは「いつか大伯皇女を演じてみたかった」と言ってのけ、天智・天武時代のオタクであることが発覚したというから神懸かっている。運命に導かれるようにして誕生した作品と知り、いつにも増して期待が高まった。

現代を生き悩む女子高生に、飛鳥時代の大伯皇女の魂が乗り移り(二重人格のような状態)、人物配置が絶妙に二重写しになっている二つの時代を行き来しながら物語は進行する。大伯皇女と一体化した女子高生は、大伯皇女の弟である大津皇子(おおつのみこ)へのあふれる思いを切々と語る。女子厚生には幼くして事故で死んだ弟がおり、その死に彼女は少なからず責任があるらしいことが浮かび上がってくる。

主人公は女子高生(=大伯皇女)なのだけれど、わたしはその母親(大津皇子と皇位継承争いをした草壁皇子の母であり、大伯皇女と大津皇子の養母となった大后と二重写し)に乗っかって観た。かわいがっていた息子には死なれ、権力者である夫は家に寄りつかず、かわいいとは一度も思えない娘との二人暮らしに母親は追い詰められていく。しかも娘は不登校でひきこもり、意味不明の古語を操り「大津」だの「大后」だの口走っている。娘を何とかしたい、と精神科医にすがる母親の精神のほうが危なっかしくなってくる。夫に見放され、子どもとも心を通わせることができない母親の孤独と絶望。妻というもの、母というものの切なさ、悲しみ。あれほどすべてを捧げて尽くしてきたのに、仕返しのように空回りする現実に立ちつくす姿……どうしてこんなに妻心、母心がわかり、それを痛々しいまでに切実に描けるのか、川上さんに聞こうと思って聞きそびれてしまった。男として愛してしまった弟の結婚を知って身悶える大伯皇女の嫉妬も、「男の作家がこんなにうまく書いちゃうなんて、ずるい!」とこちらが嫉妬するほど、心を揺さぶられる場面に仕上がっていた。

大伯皇女が大津皇子を思って詠んだ歌をはじめ万葉集の歌がいくつか紹介され、先日審査を終えた「万葉ラブストーリー募集」で万葉集づいているわたしにはタイムリーだった。古語まじりの台詞も耳に心地よく、上杉祥三さんの演劇ユニット・トレランスの芝居を観たときも感じたけれど、「心臓」を「心の臓」と呼ぶだけで臓器にハートが宿るような気がするし、「せんない」と聞くと「仕方がない」とは諦めきれない「なるようにならないもどかしさ、切なさ」が伝わってくる。川上さんに聞いて知ったのだが、現代語から古語を引く辞書があるらしい。調べてみると、『現代語から古語を引く辞典』(芹生公男)というそのまんまな題名の本が出ている。

川上さんの作品にはコメディという印象を持っていたので、「万葉ものも手がけられるとは」と守備範囲の広さに脱帽。コピーライターはどんな注文にも応えて書くのが仕事なので、ジャンルを特定せず器用に書き分ける人が多い。わたしもそれなりに引き出しは持っているつもりだけれど、川上さんとは箪笥と倉庫ほどの差がある。

役者さんたちは初めて観る方ばかりだったけれど、それぞれが役にのめりこみ、自分のものにしていて、見ごたえがあった。生演奏の音楽も趣があって贅沢。笙の響きが何とも妖艶。公演は日曜まで。興味がある方は、間に合えば、ぜひ。

Sky fish公演 Vol.6『二神(ふたかみ)』

作:川上徹也
演出 :竹内晶子
出演:千野 裕子 入交 恵 安藤 弘子 綾 貴士 佐原 哲郎 増田 英敏 三上 高央
演奏:太田豊(横笛ほか) 豊明日美(笙) 佐藤えりか(Bass)
照明:平松 篤
音楽・舞指導:太田 豊
舞台監督:村岡 晋 坂野 早織
宣伝美術:入交 恵
舞台美術・企画制作:Skyfish

2006年10月11日(水)  マタニティオレンジ17 再開&再会
2005年10月11日(火)  ユーロスペースで映画ハシゴ
2003年10月11日(土)  わたしを刺激してください


2007年10月10日(水)  マタニティオレンジ190 3人娘1歳合同誕生会

マタニティビクス仲間のトモミさんと、トモミさんがマタニティクッキング教室で知り合い、わたしにママズシアターで紹介してくれたユキさんと、「娘たちの1歳を一緒に祝おう」と話していた。うちのたまとトモミさんちのミューちゃんが1日違いの8月生まれ、ユキさんちのホホっぺが9月生まれということで、3人娘の誕生日の真ん中あたりが候補日に挙がっていたのだけれど、働くわたし以上にあとの二人はアクティブな毎日を過ごされていて、開催が10月にずれこんだ。

今日の開催が決まったのは直前。マタニティビクス時代から教えていただいた菊池妙子先生の親子ビクス教室が再開されると知り、レッスンを受けてみようと思い立った。だったらトモミさんも通っているし、レッスンの後に誕生会をくっつけてはどう、とユキさんに声をかけたら、うまく予定が合ったのだった。

保育園を休んだたまは、半年ぶりの母校トリニティーに「なつかしいわ」とばかりに歓声を上げ、壁一面の鏡に突進。鏡に映るわが身に近づいたり遠ざかったり。月齢さまざまなお友達に興奮したり。保育園とは違う刺激を楽しんでいる様子。だいぶ動けるようになった子どもと一緒に踊るイメージだったのだけど、ベビービクスの違いはさほどなかった。円形のビニールシートのようなものをみんなで持って子どもたちの頭上で上げ下げ(シートが近づいたり遠ざかったりするのを楽しむ)したり、シートの上に子どもたちを乗っけて引っ張ったりする遊びはベビービクスにはなかったもので新鮮。シートの船をこぐうちに子どもたちがハイハイやよちよち歩きで次々と出て行ってしまい、シートがほぼ無人になったのには笑った。

レッスンの後、浅草にあるお店に「合同誕生会ケーキ」を取りに行く。蔦の絡まる雰囲気のあるカフェ。結婚する前にダンナとお茶したことがある店で懐かしかった。蔵前のトモミさんちでユキさん親子と合流し、近くのイタリアンレストランCROCE(クローチェ)でランチ。店に入るなり、大きいテーブルにいた二人連れが、さっと席を譲ってくれ、感激。お店の人もベビーウェルカムで、よちよち歩きで店内を探検するたまを微笑ましく見守ってくださる。子どもたちはそれぞれ勝手に動きつつも気持ちはくつろいで楽しめた1000円のランチは、ことのほかおいしく感じられた。

トモミさんちでティータイム。誕生日ケーキといっても食べるのは大人たち。母乳でおすそわけねと言いながらクリームたっぷりのチーズケーキを4分の1ホールずつ大胆に頬張る。ちょうど今日がトモミさんの誕生日であることもわかり、「トモミさんのプレートも用意したらよかったね」と言うと、「ううん、いいのいいの、子どもたちの分だけで」。子どもの幸せが自分の幸せ。母だなあ。プレートには書いてないけれど、わたしたちも、母親1歳おめでとう。

2004年10月10日(日)  爆笑!『イラン・ジョーク集〜笑いは世界をつなぐ』


2007年10月06日(土)  マタニティオレンジ188 フミキリン

このごろ絵本の読み聞かせが面白くなってきた。以前は落ち着かず、ページにかじりついてばかりだったけれど、少しずつ反応を見せてくれるようになると、はりあいが出てきた。夜寝る前に、「読んでほしい絵本もっておいで」と言うと、自分が好きな本を選んで棚から抜き出し、わたしのところに持ってくる。あぐらをかいて体を左右に揺らし、「がたんごとんしながら読んで」とねだる。『がたんごとん がたんごとん』を読むときに膝を電車代わりにするのが気に入って、他の本を読むときも膝電車に乗るようになった。

うさこちゃんとどうぶつえん』に登場する動物たちに合わせて身振りをつけて読んでいると、「きりんさん、くび、なが〜いよ」と背丈を測るように手を挙げる仕草を真似するようになった。自分からキリンのページを広げて、何度でも「なが〜いよ」をやって見せる。キリンを表現できることがうれしくて仕方ない様子。

よっぽど気に入ったのか、他の絵本を広げても「キリン」の仕草をやっている。「これにはキリンさん出てないでしょう」とその絵本、『じゃあじゃあびりびり』を覗きこむと、踏み切りのページだった。黄色と黒の長細い姿。確かに似ている。キリンとフミキリ、字面も似てなくはないと発見。「フミキリン」なんてキャラクターがいてもいいなあ。キリンの顔した踏切。そう思って検索をかけたら、秋田にフミキリンの看板が立っているらしい。

たまにとっては踏切もキリンに見えるのかあと感心して、つい最近読んだ新聞記事を思い出した。「赤ちゃんは何でもおもちゃにしてしまう天才」なのではなく、「おもちゃとそうでないものの区別がつかない」のだと書いてあった。踏切とキリンの違いを知った上で踏切を見てキリンにたとえたら詩になるけれど、今のたまは、二つの違いが見えていない。だから、踏切に向かって「キリンさんだ〜」と無邪気に突進したりしないように、注意を払わなくては。

2006年10月06日(金)  マタニティオレンジ15 がんばれ母乳部
2005年10月06日(木)  行動する芸術家・林世宝さん
2004年10月06日(水)  ローマの一番よい三流のホテル
2002年10月06日(日)  餃子スタジアム

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