2003年10月11日(土)  わたしを刺激してください

■「わたしを刺激してください」。三年前、わたしが初対面の年上の男性に言った台詞である。言った本人は覚えていなかったが、言われたほうは衝撃的な一言としてしっかり胸に刻んでいた。「いきなり面白いことを言う人だなあとびっくりしましたよ」と先日その方に言われ、こちらこそびっくりするやら恥ずかしいやら。彼、Y先生とは放送文化基金主催のアットホームなパーティーで知りあった。小児精神科医であり、テレビドラマにアドバイスをされることもあると紹介された。ウェルニッケ脳症という記憶障害を扱ったラジオドラマで放送文化基金賞を取ったばかりのわたしは「医学のことをもっと知りたい!」という好奇心と「まだまだ書くぞ!」という意気込みのあまり、思わずそんな刺激的な言葉を口走ってしまったのだろう。■普通は鼻息の荒い駆け出し脚本家の言葉など受け流してしまうのではないだろうか。Y先生がすごいのは、「これは期待に応えて刺激しなくては」と行動に移したところ。パーティーの数日後には本のぎっしり詰まった紙袋を両手に提げて現れた。ハンセン病や福祉関連のものが中心で、夭逝画家の話と詩集が数冊。どれも手に取ったことのない本ばかりだった。読み終えると、ドサッと新聞の切り抜きファイルが届いた。「自分が持っているより、あなたが持っているほうが役に立つでしょう」と。昭和4年生まれの先生の同世代の方々も次々と紹介していただき、一挙に70才代の知人が増えた。浅草サンバカーニバルの生写真を薬袋に入れて「元気のもとです」と配る先生は、同級生の間でもユニークな存在らしい。■好奇心旺盛な先生は演劇やコンサートも精力的に見に行く。先日はベニサンピットでのtpt第44回公演「スズメバチ」をご一緒した。舞台も興味深かったが、その後に立ち寄った寿司屋がまた面白かった。誰にでもバリアフリーな先生といると、色がにじむように話の輪が広がる。お店の大将や常連さん(後でベニサンピットの専務さんとわかる)と会話が弾んだ。別れ際に「使用済み切手を集めている」と話したところ、翌々日にどっさり送られてきた。切手を納めた封筒には、タイプで印字されたLENNOXなる人の住所。「Lennoxは私が1965年に留学したときの師匠Lombeozoのまた師匠で、てんかん病の大学者、大先輩です。現在もこの住所でLombeozo(そろそろ90才)が開業しています」と説明が添えられていた。そして今日は、「人類の規格を75センチにするという計画があるって聞いたことあります?」と電話があった。人間を小型にすれば家も車も省エネサイズで事足り、資源節約につながるという発想。冷蔵庫も今の半分の大きさで済み、その分電気も食わない。先生のまわりではまことしやかな噂になっているらしい。「そんな話、初耳ですが」と言うと、「でも、SFの題材にはなりそうですねぇ」。先生の刺激は衰える気配がない。

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