つれづれ日記。
つれづれ日記。

2012年01月31日(火) 白花(シラハナ)への手紙(仮)・17

「すみません。こんなところまでつきあってもらっちゃって」
 叔母さん夫婦の家にお邪魔するにも手土産がない。さすがに手ぶらで訪問するわけにもいかず迷っているといいところがあるとおじいちゃんが手招きしてくれた。
「そう言えば、名前も聞いてませんでしたね。わたしは宮本伊織。こっちの発音だとイオリ・ミヤモトです」
「わしゃジャガジャット。近所のもんには『ジャジャ爺』と呼ばれておるの」
 銀色の髪に瞳は灰色がかった青緑。165センチのわたしよりも小柄で杖をついて歩く様はなんだか可愛らしくさえ思えてくる。
「わしも手ぶらではなんだからの、ちょうど立ち寄るところだったんじゃ。一人で買っても二人で買いに行っても同じ事じゃて」
 おじいちゃんと――ジャジャ爺ちゃんと二人、たわいもない話をしながら歩いて行く。ほどなくしてたどり着いたのは一軒のお店だった。
「アフェール?」
 お店の看板にはそう書かれてあった。まだ店の中に入ってないにもかかわらず、心なしか甘酸っぱいにおいが鼻腔をくすぐる。
「わしの行きつけの店の一つじゃよ」
 そういって扉をあける。カララン、とベルの音とともに視界にあらわれたのは硝子のカウンターごしに見えるお菓子の数々。パイ、タルト、クッキーと食指をそそられるものばかり。さっきお店で食べてきたばかりなのに、思わずくうぅとお腹の音がなった。
「でも、どうしてリンゴのお菓子ばかりなんですか?」
 確かにみんな美味しそうではあるんだけど。ほとんどがリンゴを使ったものばかり。それともそういう主旨のお店なのかしらと考えていると。
「ここの名産といえばリンゴだからね。ここは林檎菓子専門店ってわけ」
 威勢のいい声と共に店の中から店員が姿をあらわした。






過去日記
2004年01月31日(土) 名前の由来

2012年01月30日(月) 白花(シラハナ)への手紙(仮)・16

「お待たせしました。アニータ特性アップルパイです」
 ティル・ナ・ノーグの言語はなんとか読み書きができる程度には覚えた。初めてのお店だったから心配だったけど注文したものがテーブルにとどいたからどうやらうまくいったみたいだ。
「おじいちゃんも食べてください」
 椅子をひいて座ってもらった後、自分自身も口にする。さくさくとした記事に焼きリンゴとクリームが重なって口の中で広がる。
「おいしい!」
 アップルパイはもちろん白花(シラハナ)にもある。だけど少しぱさついていたような気がする。土地柄の違いからだろうか。
「お嬢ちゃんはここへ来るのははじめてかい?」
「そうです」
 食事をとりながらこれまでのいきさつを話す。父親がティル・ナ・ノーグの出身だということ、医術を学ぶために単身ここまでやってきたこと。
「シラハナから一人ではるばるここまでやってきたんかい。親御さんにはとめられなかったかね」
「止められました」
 特にお父さんに。
「へーっ。白花(シラハナ)から来たんだ。私、アニータ・ライムント。たぶん同じ年ごろだと思うけど、どうかしら」
「17歳です」
「やっぱり同じね。一人で外国に来るなんてすごいなあ」
「そんな。お店で働いてるアニータさんのほうがよっぽどすごいです」
 少しだけ見てたけど、注文を聞いてできた料理を運んで。お昼なのに人はたくさんいるのに間違うことなく料理をテーブルに運んでいく。感心していると、彼女を呼ぶ声が聞こえた。
「私、ここで働いてるから。また来ることがあったらいつでもよってね」
 鮮やかな緑の瞳を細めた後、アニータはそう言って仕事にもどっていった。 






過去日記
2010年01月30日(土) 形になったかな
2006年01月30日(月) 中間報告十四回目
2005年01月30日(日) なんだかんだ言ってまた見てます。
2004年01月30日(金) 「EVER GREEN」5−0UP

2012年01月29日(日) 白花(シラハナ)への手紙(仮)・15

そんなこんなでなんとか無事に大陸へたどりつくことができた。お世話になった船の方々にお礼を言って、船から大地に足をつける。
「ここがティル・ナ・ノーグ」
 お父さんの生まれ故郷であり、これから医学を学ぶべき場所。色々あったけど、ここから新しい生活がはじまるんだ。
 と、感慨にふけっていても仕方ない。お父さんからもらった紹介状と地図をたよりに歩みをすすめる。お父さんはティル・ナ・ノーグの生まれ。白花(シラハナ)に単身乗り込んできたもんだから、実家はお父さんの妹夫婦に任せてあるらしい。だからおばさん夫婦の家を拠点として学ぶべき場所を探せということ。せっかく根回りしてくれたんだし何よりも親戚に挨拶をするまたとない機会だ。地図を片手に港を歩く。お土産を買っていったほうがいいのかな。故郷から持ってきたものは海水につかって駄目になってしまった。でも現地で現地の物を買ってもしょうがないし、そもそもお店なんてどこにあるかなんて知らないし。
「あいたたたた……」
 声を聞いたのはそんな時。男の人、しかも高齢のおじいちゃんの声。あたりを見回すと小柄なおじいちゃんがいた。
 銀色の髪に瞳は灰色がかった青緑。わたしより頭一つ分背は低い。右手には杖を携えているものの、もう片方の手で腰をとんとんたたいている。
「大丈夫ですか?」
 ティル・ナ・ノーグの言葉はシラハナにいることに覚えた。実際に使うのは初めてだったから通用するか心配したけどなんとか通じたみたいだった。
「腰が痛いんですが? だったらどこかで休みましょう」
 辺りを見回して座れそうな場所を探して、一件のお店にたどりつく。そこには「海竜亭」とかかれてあった。






過去日記
2006年01月29日(日) 続・少女漫画談義
2004年01月29日(木) 書きたい病

2012年01月28日(土) 白花(シラハナ)への手紙(仮)・14

 そう言えば名前もまだ聞いてなかった。その事実に今更ながらに気づく。
 船に乗っていろんな話をしたのに。もっと話を聞きたかった――
「どんな人だったっけ?」
 記憶の糸をたどろうとして、はたと気づく。何かを話した記憶はある。でも何を? そもそもどんな容姿をしていた?
 船に乗ったのは四日前。だから出会って話をしたのはそれ以降ってことになる。四日間くらいなら正確な把握はできなくてもおおよそのことは覚えられるはず。なのに、全てがあやふやで思い出せない。記憶力は人並みにはあるつもりだけど、出会った人のことに関することのみが思い出せない。

 まるで、見えない何かが彼という人物を切り離そうとしているみたい。

『たぶん、この手紙を読んでるころにはオレのことを忘れてるだろう。でも気に病まないで。それが普通の人間の反応だから。
 それでも呼び名がほしいなら。そうだな――どこかの海のおにーさん、なんてどうかな。カッコいいだろ? 
 冗談はさておき。腕輪はオレと君のお父さんからの贈り物だから、お守りとして肌身離さず身につけていてほしい』

 忘れてしまったわりにはすごく脳天気そうな内容の手紙だった。要約すると、この腕輪はわたしの持ち物にしていいってことらしい。
「お守りなら仕方ないよね」
 誰にともなくつぶやくと腕輪を左腕につける。
 光にかざすと銀の鎖がしゃららと音をたてる。フィアナ大陸はすぐそこまできていた。

 ところでこの腕輪。手紙に書いてあった通り、文字通り『二人からのお守り』として大活躍してくれることになるのだけど、それはまた別の話。






過去日記
2011年01月28日(金) 「ほのぼのお題」その10
2005年01月28日(金) 「SkyHigh,FlyHigh!」Part,41UP
2004年01月28日(水) ロボットもの

2012年01月27日(金) 白花(シラハナ)への手紙(仮)・13

 オレのことは忘れていいよ。たぶんそれが正解だから。
 巻き込んでごめん。お詫びといってはなんだけど、今の君に役立ちそうなものをプレゼントするよ。

 君に、海の恩恵のあらんことを――

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 一日目はきつかったけど、二日もたつとさすがに体調も元にもどってきた。
 ベッドから起き上がって腕を大きくのばし軽いストレッチをする。屈伸もして深呼吸。うん、もう大丈夫そうだ。
 医務室を使わせてもらったから掃除をして荷物を整えて。海水に濡れてるんじゃないかと心配したけど中身は最低限の損害ですんだ。衣類とばあちゃんがつくってくれたお守りとその他もろもろ。あと、水を含んだ布の包みがでてきた。嵐で波にさらわれたんだろうか。あれだけ揺れたんだ、仕方ないよね。
 今度手紙であやまろう、そう思って包みを広げてみると中には壊れたハリセンではなく全くの別物が姿をあらわした。
「腕輪?」
 銀色の鎖が編み込まれていて、間に白と水色の宝石がちりばめている。光にかざすときらきらしてとてもきれい。でもわたしの持ち物じゃない。身元がわかるようなものはないかとくまなく探してみると、一枚の便せんがひらりと落ちた。

『昨日はありがとう。君のおかげで助かったよ』

 綺麗な文字。間違いない、あの時のお兄さんだ。

『お父さんからの贈り物を壊してしまってごめん。お詫びと言っては何だけど、これはオレからの贈り物です。お守り代わりとして身につけてくれると嬉しいな。詳しいことはおいおいわかると思うから、あとはこの手紙を読んでください。

 君に、海の恩恵のあらんことを』






過去日記
2011年01月27日(木) メモ書き(桜高等学校用)
2006年01月27日(金) 「SkyHigh,FlyHigh!」Part,91UP
2004年01月27日(火) 「SkyHigh,FlyHigh!」Part,7UP

2012年01月26日(木) 白花(シラハナ)への手紙(仮)・12

「お嬢ちゃん、大丈夫かい?」
 気づいた時は船の中の病室にいた。船医らしき人が手当をしてくれたらしい。
 わたし、何をしていたんだっけ。ぼうっとした頭を動かしてこれまでの出来事をふりかえってみる。船がゆれて、外に出たら怪物に襲われそうになって、嵐の中でたたずむ男の人を見つけて。それから。
「お兄さんは?」
 疑問の声に船医さんは首をかしげる。
「外にいたのは君一人だったけど。君にお兄さんがいたの?」
「そうじゃなくて」
 さらに首をかしげる船医さんにこれまでのことをかいつまんで話をした。嵐になって船が襲われて。荷物をとりに外へ出たら藍色の髪のお兄さんが魔物と対峙していたこと。お兄さんが何かを唱えると大ナマズが凍りづけになってしまったこと。
 全部を話し終えると船医さんは腕をくんでうなった後、こう告げた。
「男の人はおろか、魔物なんて一匹もいなかったよ」
 耳を疑ってしまった。
「でもこれで合点がいったよ。大ナマズか。そんな魔物が側を通れば嵐にもなる。いや、嵐程度ですんでよかった」
「だから船が襲われたんです――」
 抗議の声をあげようとして、くらりと体がかたむく。
「嵐の中倒れていたんだ、熱を出して当然だ。今日はゆっくり休みなさい」
 まだ話したりないのに体がいうことをきいてくれない。
「荷物は部屋の中に置いてあるから。無理はするんじゃないよ。いいね」
 強引に体をおしつけられてその日は深い深い眠りについた。






過去日記
2011年01月26日(水) 「ほのぼのお題」その9
2006年01月26日(木) 森羅万象
2005年01月26日(水) またまた下書き

2012年01月25日(水) 白花(シラハナ)への手紙(仮)・11

 何が起きたのかわからなかった。
 お兄さんの声と、獣の咆哮と。氷のつぶてと。
「もう大丈夫だよ」
 対峙した時に目にしたのは優しげな紫の瞳。本当に何が起こったのかわからない。わかったことといえば、船の揺れがおさまったのと魔物の攻撃がなくなったこと。 
「凍ってる……?」
 そうとしか言いようがなかった。巨大な氷の固まりの中にさっきまでわたし達に襲いかかってきた大ナマズが眠っている。もしかしたら、無理矢理眠らされた――動きを封じられたような、そんな感じ。
「何が起こったんですか?」
 現状についていけず尋ねると見たまんまだよと返ってきた。
「本当は自警団とか専門の機関に任せた方がよかったかもしれないけどね。けど身内(自分の組)のオトシマエは同族がやらないと」
 言っている意味はよくわからなかったけど目の前のお兄さんがただ者ではないってことはよくわかった。
「でも、このままだと船の邪魔になりませんか?」
 そこまでは考えてなかったらしい。凛々しげな表情を一変させ、そうか、これ邪魔だよな。どうしよう、どうしようと辺りを右往左往と歩き回る。さっき魔物と対峙していた人と同一人物とは思えない。
「どうしたらいいと思う?」
 わたしに聞かれても。
「砕いて小さくするとか?」
 でもどうやって、と戸惑いつつ答えるとやっぱりそれしかないかと息をついた。
「苦手だからあんまりやりたくなかったんだよなぁ」
 ぶつぶつつぶやくと、また新しい呪文を唱える。呪文の後に手元が淡く光る。光の後に彼の手元にあったのはお兄さんの髪と同じ青の槍。
「やっつけだから効果はほとんどないんだ。でも一回だけならもってくれるだろ」
「今度はどうするんですか?」
 ここまでくるとそんなに驚くこともない。疑問の声に最後の仕上げだよと片目をつぶって、お兄さんは魔物に向かって跳躍した。






過去日記
2011年01月25日(火) 「ほのぼのお題」その8
2006年01月25日(水) ひさびさに
2005年01月25日(火) ネタもないのでまた下書き
2004年01月25日(日) コタツ

2012年01月24日(火) 「羅刹国(らせつこく)」UP。

ひさびさの短編です。






ちなみに今回もこちらの企画参加です。なんとなく短編=企画ものになっているような。

皆様の作品の中のとある絵師様のイラストを参考にさせてもらいました。名前、絵をこちらで公表してよかったのかわからなかったのであしからず。気になる方はこちらのサイトにお邪魔してみては。
海をお題にしたお話です。短編ということで、あえて二人の名前は出していません。が、書き終えて思ったこと。

「これ、どうみても物語のプロローグだなー」


続きを書く気は今のところないんですけどね。主人公、相手の雰囲気がなんとなくSHFHっぽい感じがしないでもないような。少なくともこっちの女の子は相当な行動は+勝ち気ですけどね。

タイトルの羅刹国(らせつこく)は鬼について調べ物をしているときに出てきました。西遊記の羅刹女なら聞き覚えがあるのかも。
あとこれを書くにあたってゴダイゴの歌の歌詞を調べてみました。いえ。なんとなく。






過去日記
2011年01月24日(月) 「ほのぼのお題」その7
2005年01月24日(月) 「EVER GREEN」7−5UP。
2004年01月24日(土) 「EVER GREEN」4−14UP

2012年01月23日(月) 白花(シラハナ)への手紙(仮)・10

 触手が足下まで近づいてくる。
 異国の地で医学を学ぶために旅だったのに、志なかばで、しかも怪物に襲われることになるなんて。子どもの頃は『体さえ鍛えておけばなんとかなる』っていろいろたたきこまれたけどそれでも無理がありすぎる。
「最後通告だ。矛をおさめる気はあるか」
 こんな緊急事態と相反するかのように、お兄さんは大ナマズにむかって淡々と話しかけていた。
「おさめなければ――」
 言い終わるよりも早く、魔物の触手がおそいかかってくる。やっぱり彼は魔物と会話をしていたの!?
 でも結果をみれば一目瞭然。向こうには敵対する以外の意志はない。
「残念だ」
 ぽつりとつぶやくと。お兄さんは目を伏せた。
「吾(われ)は海に連なりし者。吾が名をもって命ず」
 唇から漏れるのは初めて耳にするフレーズ。
「氷雪をもって目前を蹴散らせ」
 空気が冷たくなった。季節は7月の下旬だから暑いことはあっても寒くなるなって事はありえない。
「てめェの一家のおとしまえはてめェでつけないとな」
 さっきまでは優しそうなお兄さんだったのに、紫の瞳がとても冷酷に感じられる。まるで、お伽噺に出てくるような氷の女王みたい。
 お兄さんは一体――

 氷のつぶてが怪物めがけて襲いかかる!

 耳をふさぎたくなるような咆哮の後、振動はぴたりとなりをひそめた。






過去日記
2011年01月23日(日) 「ほのぼのお題」その6
2010年01月23日(土) 「文章修行家さんに40の短文描写お題」その20
2006年01月23日(月) 風邪
2005年01月23日(日) 文を書くときその3

2012年01月22日(日) 白花(シラハナ)への手紙(仮)・9

 まさかこんな物を手にして魔物と戦う日がくるなんて思わなかった。そもそもこんなものが荷物の中に入ってるなんて思ってもみなかった。
 そして、手にしたはいいもののやっぱり怖い。当たり前だ。相手は子どもの頃けんかした男の子や近所の子ども達とは違う立派な魔物なのだから。
「逃げるしかないじゃない」
 誰にともなくつぶやくとハリセンを持ったまま必死に逃げる。ハリセンを持ったところで相手に通用するとは思えないしそもそも舞台用の道具なんだから。
 逃げて、逃げて。必死に逃げて。
「こっちに来るんだ!」
 今度はお兄さんの声が耳に届いた。迷ってる余裕なんかない。必死に柱からよじのぼって。
 高いところによじ登ればどうなるか。当然、出口はない。相手もわかっているから触手を柱に巻き付けてなんどもゆさぶりをかけている。でもお兄さんには何かしらの意図があるんだろう。希望と確信をもってたどりついたのは船に乗ってから半日後のことだった。
「大丈夫だった?」
 心配そうな声。
「なんとか。お兄さんは大丈夫だったんですか?」
「どうにかこうにかね。全く困った事態になったよ」
 でも口調とは裏腹に表情は息ひとつみだれることなく平然としている。こういってはなんだけど目の前の男の人は運動神経に優れているようには見えない。でも海の怪物相手にいききしている――堂々としている。そんな気がした。
「でも、君のおかげで時間稼ぎができた。あとはオレがやるから大船にのったつもりで休んでいていいよ」
 今まさに大船に乗っていて船ごと壊されそうなのに! そんな指摘をするべきか迷っていると、乗っていた船の柱がみしみしと音をたてた。

 






過去日記
2011年01月22日(土) 「ほのぼのお題」その5
2010年01月22日(金) 「文章修行家さんに40の短文描写お題」その19
2006年01月22日(日) 「EVER GREEN」8−9UP
2005年01月22日(土) これからのこと

2012年01月21日(土) 白花(シラハナ)への手紙(仮)・8

(「なんでテメェがここにいるんだ」)
 嵐の中、お兄さんは船の上にたたずんでいた。
(「この辺の海があれてるって聞いて来てみれば、こういう了見かよ」)
 高いところにいるから詳しい様子はわからない。だけど口を動かしているのは遠目でもわかった。
 もしかして、魔物と会話してる?
 ……まさかね。
(「大人しく引き下がるなら見なかったことにするよ。でもこれ以上、危害を加えようってんなら――」)
 船が再び大きくゆれてバランスを崩しそうになる。
「お兄さん危ない!」
 柱に捕まりながら大声をあげる。とたんに怪物の大きなヒゲがふりおろされた。
 あんなものに襲われたらひとたまりもない。思わず目をつぶってしまったけど耳に届いたのは帆が破られる音だけだった。
「ありがとう。君のおかげで助かったよ」
 遠くからだけど男の人の声が聞こえた。どうやら大事にはいたらなかったみたいだ。かといって事態が好転したというわけでもなく、むしろ矛先がお兄さんからわたしに移っただけみたいだった。
 言葉が通じなくてもわかる。怪物がわたしに向けているのは明らかな敵意。でもわたしだって大人しく引き下がるのは嫌だ。何か武器になるものはないかと辺りを見回して、一つの結論にたどりつく。できればやりたくないし馬鹿げてるのは十分承知だけど。
 走って走って。たどり着いたのは放り出された大きな旅行鞄。海水で濡れてはいたけれど中身はまだ無事みたい。
 背に腹は代えられない。幸い見ている人もいないし、やれることをやらなきゃ。

 鞄の中から取りだしたもの。それは布に包まれた特大ハリセンだった。






過去日記
2011年01月21日(金) 「ほのぼのお題」その4
2010年01月21日(木) 「文章修行家さんに40の短文描写お題」その18
2008年01月21日(月) 創作系ひたすら謝りまくるバトンです。
2005年01月21日(金) 今だけ叫ばせてください
2004年01月21日(水) ミーハーにつき

2012年01月20日(金) 白花(シラハナ)への手紙(仮)・7

「怪物だ!」
「モンスターが現れたぞ!!」
 周囲の声にあっけにとられる。船旅をしていて魔物に襲われた。どこかの物語ならよくありそうな話。窮地に陥ったヒロインをヒーローが助けてくれるのもよくある話。
 でも残念なことに今は現実で。右を見ても左を見ても逃げ惑う人ばかりだった。
「お嬢ちゃんも早く逃げるんだ!」
 知らないおじさんに押される形で船内にもどる。途中でたくさんの人にもみくちゃにされた。男の人、女の人、船員らしき人まで。緊急事態だからみんな周りのことは考えてられない。
 ようやく安全なところまでたどりついて胸をなで下ろそうとして。
「……ない」
 荷物を放り出してきたことに気づく。あの中には全財産が入っているのに。財産もだけど、あの中には大切な。
「お嬢ちゃん、どこへいくんだ!」
 そう考えたらいてもたってもいられなくて。周りの制止の声もきかず再び船室の外へ飛び出していた。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 外にはだれもいなかった。みんなずっと前に避難してしまったんだろう。
「お兄さん?」
 外は雨が降っていた。ううん。雨なんて生やさしいものじゃない。これはきっと――嵐。
 そんな中で、青ずくめのお兄さんはいた。






過去日記
2011年01月20日(木) 「ほのぼのお題」その3
2010年01月20日(水) 「文章修行家さんに40の短文描写お題」その17
2006年01月20日(金) 「SkyHigh,FlyHigh!」Part,90UP
2005年01月20日(木) 文をかくときその2

2012年01月19日(木) 白花(シラハナ)への手紙(仮)・6

 それは大きな包み。そもそもは舞台やお芝居の時に使われる道具だったらしい。太鼓のようにリズムをとったり、間(ま)をとる際にも使用される。極端に言えば大きな扇子。大きければ大きいほどふれば大きな音がして、そのぶん周囲の注意を引きつけることができる。
 ものをたたいて音を立てるためにつくられた専用の扇子。人はそれを『張扇(ハリセン)』と呼ぶ。
「すごいね。こんなに大きなもの初めて見た。君の国ではみんなこれを持ってるのかい?」
「違います」
 即座に否定した。こんなもの持ち歩いていたら変な目で見られることは間違いない。ただでさえ荷物が重いのに、このままだと精神的にも重くなってしまう。
 送り返そう。
 三秒で決断してハリセンを包まれてあった布で丁寧にまき直す。お父さんの気持ちは嬉しいけどハリセンを持たされる年頃の娘の身にもなってほしい。
「よくわからなけど」
 そう前置きして藍色の髪のお兄さんが口を開いた。
「君のお父さんがくれたものなんだろ? だったらなるべく近くに置いておくべきじゃないかな」
 きっと心配してくれてるんだと思うよ。そう言ったお兄さんに苦笑する。心配してくれるというのはいたいくらいよくわかった。だけど実際問題、この大きくて重い包みを抱えたまま異国まで移動するのはむずかしいだろう。そのことを伝えると、彼はうーんとうなった。
「じゃあさ。大きくて重くなければいいのかな」
 お兄さんの紫の瞳が妖しく光る。どういう意味なんだろう。問いかけようとすると、ふいに船が大きくゆれた。






過去日記
2011年01月19日(水) 「ほのぼのお題」その2
2010年01月19日(火) 「文章修行家さんに40の短文描写お題」その16
2006年01月19日(木) 卵焼き
2005年01月19日(水) 文を書くとき
2004年01月19日(月) またまた文明人への道

2012年01月18日(水) たまにはお花見を(仮)10

「君はさ。ずっとここにいるつもりなのかい?」
「当然でしょう。主君を守るのが私の役目ですから」
 正確には主君であり友人であるのだが。彼の手助けとなるために自らすすんでリアンと契約したのだ。
「故郷にもどれとは言えないけど、色々と見聞は広めておくといいよ。
 胸に常に新しい風を運べ。ここで一生を終わらせるつもりはないだろ」
 そのようなことは考えたこともなかった。視力を失ったとはいえ自分が望んだことであるし側には尊敬する主君や友人たちがいるのだ。だが、彼の発言に興味を惹かれたのも事実だった。
「どちらにしてもさ、視野は広めておくべきだと思うよ。ひいては主君のためになる」
 たとえばオレみたいなさ。片目をつぶられて再度言葉につまる。

「あなた方を臨時の    と見なします」
 これでいいでしょう? とばかりにフォルトゥナートが声をあげると残された面々は笑みを浮かべた。
「これで正式に住処が決まりましたのね」
「(うむ。我も安心してここを拠点として動き回ることができる)」
「ただし。一度でも問題を起こせば強制的に排除します」
「わかってるよ。心配性だなぁ」
 わかっていないからこうして牽制しているのではないか。そう言っても無駄なことはわかっていたので周囲にならってグラスをかたむける。まったく奇妙なものたちと関わりあいになってしまった。だが彼らの言葉を借りるなら、これも何かの縁ということになるらしい。審議のほどはわからないが、ここは彼らの案にのるとしよう。
『乾杯』
 真夜中の厨房の一角で。複数の声とグラスを合わせる音が響いた。

 後日。夜中に物音がする厨房の怪談は陰を潜め、代わりに別の怪談話が持ち上がったのはまた別の話。






過去日記
2011年01月18日(火) 「ほのぼのお題」その1
2010年01月18日(月) 「文章修行家さんに40の短文描写お題」その15
2006年01月18日(水) 初詣
2005年01月18日(火) 庶民その2
2004年01月18日(日) 「EVER GREEN」4−13UP

2012年01月17日(火) たまにはお花見を(仮)9

 それはフォルトゥナートが出会った時からずっと身につけていたものだった。否、背負っていたというべきか。
 水色の大きな袋から取り出されたもの。それは袋と同じ色をした一本の瓶だった。気泡が浮かび、そこには薄桃色の花が浮かんでいる。
「これでよかったかな。あとこれを使って」
 ごそごそと取り出したのは透明なグラス。ご丁寧に四人分そろえてある。
「もしかして、このためにやってきたんですか」
「そうだよ?」
 夜中に人を厨房まで案内させて、やりたかったことは酒飲みなのか。あきれてものも言えないとはこのことだ。そんな彼の胸中を見透かしたかのようにリザが声をあげる。
「そう肩肘はることもないんじゃない? ものは考えようって言うだろ。結果的に賊はいなかったんだから城の警備は万端ってことじゃないか」
 そういう問題ではない。相手が目の前の三人だったからよかったものの、本当に賊であれば主君の命が危ないのだ。
「じゃあさ。主君を守るための親睦会にするのは? こう見えてシリヤもオレもそれなりの能力(チカラ)を持ってる。城の護衛役にはうってつけだと思うよ。もしかしたらそちらの彼女もだけど」
「(その点については我も保証する。我らのことを内密にしてくれるなら、城の安全は保証しよう)」
「だってさ。ああ、もちろんオレもその中に入るよ? 実家の家訓でさ『受けた恩は二倍にして返せ』って教えがあるから」
 もっとも売られた喧嘩は千倍にして返せって言われてたけど。と理解不能な言葉を続けられ、フォルトゥナートは言葉に詰まる。
「本当にさ。嬉しかったんだよ」
 さっきまで陽気に笑っていた男が寂しげな顔をして見せたから。






過去日記
2011年01月17日(月) 「ほのぼのお題」でやってみよう。
2010年01月17日(日) 「文章修行家さんに40の短文描写お題」その14
2009年01月17日(土) 書いてなかったので
2006年01月17日(火) 兄弟の法則?
2005年01月17日(月) 「甘いものと苦いもの」UP
2004年01月17日(土) センター試験

2012年01月16日(月) たまにはお花見を(仮)8

「あらヤーヤ。眠っていたのではなくて?」
 腰まで届く長い白髪に薔薇色の瞳。髪と同じく白い肌と同じ色の装い、華奢な外見からは一件すると深窓の令嬢のようにも見える。
(「あまりにうるさくて目が覚めてしまった」)
 だが口から出たものは外見とは百八十度違ったものだった。
「(新顔か。それに珍しい組み合わせだな)」
「そっか初対面になるのかな。彼はフォルトゥナート・バルタザール。この城の領主の側近でオレの友達さ」
「勝手に人を友達よばわりしないでください」
 異論を唱えるフォルトゥナートをよそに、精霊はふむとうなずいて言葉を発した。
(「我はシリヤ。帰結の精霊だ。隣にいるのはヤーヤ。人間――とは異なるだろうな。屋根裏に住み着いた人語を解する猫だと思ってくれ。もっともそなたが我の言葉を解せなければ意味はないが」)
「……わかりますよ。それくらいは」
 ため息とともにフォルトゥナートは応える。魔眼のおかげで魔力を擁する者の姿や声を認識できるようになったのだが、まさかこうも簡単に、三人の者に不法侵入されるとは思ってもみなかった。今後はよりいっそうの警護につとめよう。
「(これでも日頃から手入れはしている。大目にみてくれ)」
「だってさ。オレからも頼むよ」
 もっとも不法侵入者――しかも人間ではない者――が三体に増えただけだが。
(「呪いをかけられた者と自らすすんで呪いを受けた者、か。これも何かの縁なのかもしれないな」)
「呪いとは一体……?」
 リザが人とは異なる膨大な魔力を身に秘めているということはわかる。だが、呪いの話は一度も聞いたことがなかった。しかも会話の内容から察するに、自称友人と隣にいる猫娘は同じ類の呪いを受けたということになる。
(「それで。頼んでいたものは手に入ったのか?」)
「入ったからこうして来たんだよ」
 やっと当初の目的を果たさんとリザが手にしたのは水色の大きな袋だった。






過去日記
2011年01月16日(日) 「描写力がつくかもしれない30のお題」その14
2010年01月16日(土) 「文章修行家さんに40の短文描写お題」その13
2005年01月16日(日) 家族曰く
2004年01月16日(金) ごめんなさい

2012年01月15日(日) 「委員長のゆううつ。」」STAGE2−6UP

久しぶりの本編です。


先週は番外編だったんですが、照らし合わせてみるとギャップがすごい。委員長は委員長なんですが、先輩がなんとも。まるで猫みたいだなー、この人。
先輩の指摘は事実です。本当に生身でサバイバルしているようなもんですしね。

対してカリンくんの紳士ぶりはすばらしい。料理もできて家事もできて。しかも○○できるし。一家に一人(?)ぜひ欲しいです。

ちなみに委員長は人見知りというわけではないです。むしろ意見は自分からばんばん言う方。口論もなんのその。だから逆のことには免疫なさげ。番外編もですが、口が悪いのを自覚しているので恋愛沙汰にはならないだろうと半分あきらめてる節もあります。この世界で、委員長はどうなっていくんでしょうか。



そして、次の更新は一体いつになるんでしょうか(遠い目)。
何はともあれこれからもよろしくお願いします。






過去日記
2011年01月15日(土) 「描写力がつくかもしれない30のお題」その13
2010年01月15日(金) 「文章修行家さんに40の短文描写お題」その12
2005年01月15日(土) 文明人の道(五回目くらいってことで)

2012年01月14日(土) たまにはお花見を(仮)7

「知ってるかい、フォルト。あいつ(猫)は魚を食うんだ」
「猫が魚を食べるのは当然の行動では? そしてさらりと人を愛称づけで呼ばないでください」
「いいじゃないか。減るもんじゃないし。それよりも見てよ。あの恐ろしそうな爪。何を考えているかわからない闇色の瞳。まさに怪物意外の何者でもない」
 正確には彼女は本物の猫ではない。猫の姿になる一歩もしくは二歩手前といったところか。足は獣のそれではあるが両腕、とりわけ手指は人間のものであるし耳に届く声は明らかに人間だ。
「さっきからずいぶん言いたい放題ですのね。それとも本当に体をかじってさしあげようかしら」
「ほら。あんなひどいこと言ってる――」
「てい」
 いい加減事態に辟易していたフォルトゥナートが杖を軽く振り下ろすと藍色の髪の男は床に倒れた。
「うわ。今わざとぶつけなかった?」
「気のせいです。それよりも早く捜し人を見つけてください」
「だから捜してるけど見つからないんだ」 
 全く事態の収集がつかない。いっそのこと、もう一度振りかざして倒れた隙に自室へ帰ろうかと思案していると。
(「それくらいにしてやれ。ヤーヤ」)
 声とともに現れたのは、ようやくリザが探し求めていた人物――精霊だった。






過去日記
2011年01月14日(金) 「描写力がつくかもしれない30のお題」その12
2010年01月14日(木) 「文章修行家さんに40の短文描写お題」その11
2005年01月14日(金) 「SkyHigh,FlyHigh!」Part,39UP
2004年01月14日(水) SHFH9−8

2012年01月13日(金) たまにはお花見を(仮)6

「シリヤはどうしたの?」
「まだ眠ってますわ。こんな夜更けに出歩く方がおかしいでしょう?」
 夜更けにレディを起こそうとするなんて礼儀がなってないんじゃなくて? 続けて言われ、その彼女に呼び出されてきたんだけどと応じるリザ。二人の会話を聞きながら、なぜ自分がここにいるのかをフォルトゥナートはぼんやりと考えた。時刻は真夜中。賊らしきもの(別のものはいるが)がいないとわかった以上早急に自室にもどり休息をとるべきだ。
 だが意志とは裏腹に身体がいうことを聞いてくれない。正確にはこの場にいるもう一人の者に体の動きを遮られていた。さらに精確に言えば背後からしがみつかれていて身動きがとれないのだが。
「君こそこんなところで何してるのさ」
「ここは私の家ですもの。いて都合の悪いことでもおあり?」
 会話は続いているが、会話の長さに比例して肩と腕に込められた力が強くなっている。
 これはもしかしなくても。
「怯えてる?」
「そんなわけないじゃないか」
 もっとも問いかけに覆い被さるような早さで、かつうわずった声で言われれば信憑性に欠けることこのうえないが。
「全然怖くなんかないよ? こう見えてオレって長生きしてるんだから」
「……じゃあなんで僕の後ろに隠れるの」
 これではどこからどう見ても怖がっている以外のなにものでもない。






過去日記
2011年01月13日(木) 「描写力がつくかもしれない30のお題」その11
2010年01月13日(水) 「文章修行家さんに40の短文描写お題」その10
2006年01月13日(金) 「SkyHigh,FlyHigh!」Part,89UP
2005年01月13日(木) 書くかも書かないかもわからないネタ
2004年01月13日(火) 「SkyHigh,FlyHigh!」Part,6UP

2012年01月12日(木) たまにはお花見を(仮)5

 厨房に人はいない。当然だ。時刻は真夜中なのだから。
「ここに何の用があるんです」
 周囲に視線を巡らせても人はおろか鼠一匹もいない。当然だ。ここは由緒正しきブランネージュ城の厨房なのだから。
「招待を受けてるんだ」
 だが目前にいる男はそんなことは関係ないとばかりに声をはりあげる。
「シリヤ。いるかい?」
 それが彼を呼び出した人物の名前らしい。もっともリザの成り立ちが人間の
それとは異なるためそうとは言い難いのだが。
「シリヤー」
 加えてリザがどれだけ呼びかけても返事はまったくないのだが。
「ここにそのシリヤという方がいるんですか?」
「いるはずなんだけど」
 見かねたフォルトゥナートが声をかけるも返ってきたのは頼りなさげな声がひとつ。
「シ――」
「何度も呼ばなくても聞こえていますわ」
 声とともに現れたのは柔らかくしなやかな身体を持つ女性だった。
 否。女性と呼ぶのには少々語弊があるのかもしれない。ピーコックブルーの瞳に腰まで届く長い黒髪。それだけを見れば人間であるも、異なっていたのは身体を覆う灰色の毛並みだった。褐色の肌の人間はいるのかもしれない。だがところどころに縞模様の入ったそれは人と呼ぶよりも獣――猫にふさわしいものだ。もっとも女性や目前のリザですらも膨大な魔力と引き替えに視力を失ったフォルトゥナートにとっては外見など意味をなさないのだが。






過去日記
2011年01月12日(水) 「描写力がつくかもしれない30のお題」その10
2010年01月12日(火) 「文章修行家さんに40の短文描写お題」その9
2007年01月12日(金) 「EVER GREEN」11−3UP
2006年01月12日(木) 私事ですが。
2005年01月12日(水) 明日です
2004年01月12日(月) 成人式

2012年01月11日(水) たまにはお花見を(仮)4

「城の中はどうなんだい?」
 厨房へ向かう道の途中。歩きながら二人は会話を交わしていた。
「どう? とは」
「君のボス――もとい、主君が危ない目に遭っていないかってこと。カチコミ――もとい、抗争に巻き込まれてないかとか」
 言葉の端々に聞き慣れない不可思議な言葉をみとめながら、フォルトゥナートは曖昧に返事を返す。
「家臣っていうのも大変な仕事だよね。敬愛する主君を身を挺して守るんだろ? 家には帰っているのかい」
「帰れてはいませんが手紙のやりとりならしています」
「あなたはどうなんです。もしかして、家の場所もわからなくなってしまったのですか」
 あるいは自分の生家ですら迷ってもどることができないのか。
「わかるよ。自分の家を見間違うわけないじゃないか」
「それはそうなのですが……」
 意外な返答にフォルトゥナートは首をかしげる。方向音痴でもさすがに自分の生家はわかるらしい。ならばなぜ帰ろうとしないのか。
「こっそり帰ることにしてるんだ。気づかれたら大変だし何より迎えが大袈裟だから」
「あなたはこちら(ティル・ナ・ノーグ)には友人はいないのですか」
「友人ならいるよ。こうして誘いもうけた。だからこうして会いにきたのさ」
 そうこうしているうちに、厨房の入り口についた。






過去日記
2011年01月11日(火) 「描写力がつくかもしれない30のお題」その9
2010年01月11日(月) 「文章修行家さんに40の短文描写お題」その8
2007年01月11日(木) 人気投票最終結果(仮) その8
2004年01月11日(日) SHFH9−7

2012年01月10日(火) たまにはお花見を(仮)3

 それにしても。
「どうして私が道案内をしなければならないんです」
「だって君、ここの中は詳しいんだろ? オレ一人で行ってもいいんだけど今度はどこにでるかわかんないし」 
 城までの道のりはなんとか一ヶ月かけて把握できたんだけどなあとそら恐ろしいことをつぶやかれ、フォルトゥナートは身震いした。彼を拾って――もとい、助けて城まで運ぶよう指示を出したのは他ならぬ主君であるノイシュだ。幸いすぐに生気をとりもどしたため早急にお帰り願ったはずなのだが、結果的に客人が城を出たのは滞在して一週間たってのことだった。彼が城内にとどまることを望んだわけではない。リザという人間――の、姿を形どった者が単純に、極度に、ずばぬけて方向感覚に長けていなかったからだ。換言すれば極度の方向音痴ともとれる。見るに見かねたフォルトゥナートが門番よろしくついていくことになったのだがしまいには彼自身も危うく道に迷うところだった。
「仕方ない。オレ一人で行くしかないか」 
 一月前の悪夢が脳裏をよぎる。これ以上城内をうろつかれてはたまったものではない。
「呼び止めてごめん。じゃあオレはこっちを――」
 しかも、目の前で厨房とは明らかに反対方向へ行こうとされたら見過ごせるものも見過ごせないではないか。
「着いてきてください」
 用事を済ませてとっととお帰り願おう。そう心に決めたフォルトゥナートだった。






過去日記
2011年01月10日(月) 「描写力がつくかもしれない30のお題」その8
2010年01月10日(日) 「文章修行家さんに40の短文描写お題」その7
2007年01月10日(水) 人気投票最終結果(仮) その7
2006年01月10日(火) 「SkyHigh,FlyHigh!」Part,88UP
2005年01月10日(月) 「EVER GREEN」7−4UP
2004年01月10日(土) SHFH9−6

2012年01月09日(月) たまにはお花見を(仮)2

 その日の夜。フォルトゥナートは厨房のそばにいた。もちろん空腹になったから――というわけではない。数時間前の領主の言葉が気になったのだ。
 もう一つは単純な好奇心もあった。夜な夜な厨房に響く物音。城の中なのだ、何度も続けば誰かが犯人捜しにやってくるということは考えてみればすぐわかるはず。にもかかわらず物音をたてるとはいったいどんな者なのだろう。
 ふと背後に人の気配を感じた。
 否。これは人と呼んでいいものなのだろうか。
「やっと見つけた」
 否。声だけを聞けば人のそれよりも非常に弱々しい。まるで、十数年来の友人に巡り会えたかのような、遭難すれすれで人に遭遇したかのような。
「ここってさー。警備きついからこまっちゃうよ。騎士団だっけ? 君って城の人たちと仲いいんだよね。だったらさあ、もう少し警備をゆるくしろって言っておいてよ」
 持っていた杖で相手を威嚇する。
「いい加減にしてください。リザ・ルシオーラ」
 相手はこともなげにひょいと避けるが想定内。一度、本気で振り下ろしたらどうなるだろうかと考えたこともあるが頭をふってうちけした。貴重なマジックアイテムを賊でもない、場合によっては賊以下の相手に使うことはないだろう。
「折り入って頼みがあるんだ」
「不法侵入で強制排除しますよ」
 彼とは不本意ながら縁がある。仮にも領主が助けた命を無下にすることもないだろう。踵を返し再び警備に戻るはずだった。
「ここの厨房に一緒についてきてほしい」
 この言葉を聞くまでは。






過去日記
2011年01月09日(日) 「描写力がつくかもしれない30のお題」その7
2010年01月09日(土) 「文章修行家さんに40の短文描写お題」その6
2007年01月09日(火) 人気投票最終結果(仮)その6
2006年01月09日(月) 年を感じてしまう時 その2
2005年01月09日(日) 余白うめ ・ 拍手レス 
2004年01月09日(金) 「EVER GREEN」4−12UP

2012年01月08日(日) 「人魚姫とおうじさま」UP。

久しぶりの短編です。


海をモチーフにということだったのでこんな感じに。海のお話=人魚姫と思い浮かべてしまうあたりがなんとも。
あと、人魚姫=昼ドラって発想がなんとも。


……汚れたのかなぁ、自分(遠い目)。


でもこのお話、突っ込みどころ満載かと。
詩帆ちゃんの言うようにお姫様はちゃんと伝えろ、王子様はいい加減気づけこのヤローでしょうか。
海つながりということで、今回はこの二人を書かせてもらいました。短編(番外編もどき?)を書いたものの、これってなんとなく本編にも通ずるような、そうでもないような。


ちなみにこちらの企画に参加させてもらいました。



余力があれば、他の作者様のイラストをモチーフにしたお話も書いてみたいかも。
……その前にちゃんと自分の作品を書けですね。はい。






過去日記
2011年01月08日(土) 「描写力がつくかもしれない30のお題」その6
2010年01月08日(金) 「文章修行家さんに40の短文描写お題」その5
2007年01月08日(月) 人気投票最終結果(仮) その5
2004年01月08日(木) 工事完了

2012年01月07日(土) たまにはお花見を(仮)1

 城の一室で夜な夜な不気味な物音が聞こえるらしい。

「どこですか? そこは」
 もしかすると新手の泥棒なのか。性懲りもなく領主の命を脅かしにやってきた族か。表情を厳しいものにして問いかけるとノイシュはこともなげに応えた。
「厨房だよ」
 予想外の返答にフォルトゥナートは眉をひそめる。
「厨房、ですか?」
「厨房、だよ」
 厨房に潜む賊。一般家庭ならまだしも警備のあつい城内に忍び込む不届きなものはいるのだろうか。そんな家臣の胸中をよそに年若い領主は嬉々として言葉を連ねる。
「女中たちのうわさ話なんだけど。真夜中に変な物音がするそうだよ。はじめはネズミかと思ったけどそれが続けて起こるのさ。気になって厨房の屋根裏をのぞいてみても人はおろかネズミ一匹いない。それどころか掃除をしたてのようにとてもきれいなんだそうだよ」
「ノイシュ様。またお忍びをされたのですか」
「家(ブランネージュ城)の中なんだからそんな大袈裟なものじゃないよ」
 賊も用心する必要があるが、目の前の領主にも十分注意をはらわなければならない。
 今後、城内の警備にはより細心の注意をはらおう。そう心に決めるフォルトゥナートだった。






過去日記
2011年01月07日(金) 「描写力がつくかもしれない30のお題」その5
2010年01月07日(木) 「文章修行家さんに40の短文描写お題」その4
2007年01月07日(日) 人気投票最終結果(仮) その4
2005年01月07日(金) 「SkyHigh,FlyHigh!」Part,38UP
2004年01月07日(水) まだまだ改装中

2012年01月06日(金) 白花(シラハナ)への手紙。5

 白花(シラハナ)はティル・ナ・ノーグのあるフィアナ大陸の遥か東に浮かぶ、小さな国。小さいけれど、農作物や手先の器用さは誰にも負けない。そのいい例がシラハナの菓子や祭りの時に打ち上げられる花火。
 わたしのお父さん、イザム・ミヤモトはシラハナの花火に魅せられて故郷のティル・ナ・ノーグから単身ここまでやってきた。その距離は船で一週間。 だからわたしがティル・ナ・ノーグへ行くためには船にゆられて一週間かかる。
 海は大きくてすごくて。
 もっと遠くを見ようと身を乗り出そうとすると、乗客の一人とぶつかってしまった。
 ばらばらと落ちる荷物を慌てて拾い集める。
「すみません」
「オレこそよそ見してたから」
 そういって体を低くする。どうやら一緒に拾ってくれるらしい。
 荷物はそんなに多くはない。最低限の衣類に地図。用心のために簡単な保存食はしのばせておいた。 
「君ひとりかい?」
 声をかけてきたのは藍色の髪に紫の瞳。背中に大きな袋を携えた男の人だった。
「そうです。お兄さんも一人なんですか?」
 右を見ても左をみても人はいなくて。訪ねると男の人は嬉々ととして答えた。
「オレは気ままな一人旅さ」
 旅はいいよね。人を開放的にさせる。続けて言われて、つられて笑みを返す。それは、わたしにもなんとなくわかる。
「これ、何?」
 そんなのわたしが知りたい。
「親からの餞別(せんべつ)らしいです」
 お兄さんが拾ったもの。それは扇子状に開いた道具だった。






過去日記
2011年01月06日(木) 描写力がつくかもしれない30のお題」その4
2010年01月06日(水) 「文章修行家さんに40の短文描写お題」その3
2009年01月06日(火) 
2007年01月06日(土) 人気投票最終結果(仮) その3
2006年01月06日(金) 「SkyHigh,FlyHigh!」Part,87UP
2005年01月06日(木) 暗いというほどではないのですが
2004年01月06日(火) SHFH9−5

2012年01月05日(木) 白花(シラハナ)への手紙。4

「勉強にいくだけだから。お父さんも大げさなんだから」
 結婚なんて文字は一言も出てないし。そもそもお父さんだって人のこと言えないはずなのに。そんな押し問答を繰り返して三時間。結果的に父親には内緒で出て行くことになった。
 親離れできない子どももだけど、子離れできない親も考え物よね。もしかしたらこれを機にお父さんも自立してくれるかも――なんてことを考えていると、目の前に真っ白な封筒をさらされた。
「手紙。お父さんの妹さん夫婦がそこに住んでるんですって」
 声の主はお母さん。黒髪に黒い瞳の典型的なシラハナの容姿。わたしの髪はお母さんゆずり、瞳の色はお父さん譲り、容姿は母曰くおばあちゃん譲り――らしい。青い瞳は東の国では珍しい。小さい頃はよくからかわれていたけどお父さんと習っていた体術のおかげでなんとかきりぬけることができた。
 あれだけ反対していたのにどうしてと考えていると。
「それぐらいお見通しよ。親なんだから」
 苦笑しながら二本の指を突きつける。
「条件は二つ。手紙を書くこと」
「でも、ティル・ナ・ノーグからシラハナまでずいぶん時間がかかるよ?」
 下手したらなくなっちゃうかも。そう反論すると。
「それでも。ちゃんと書いて送ること。それともう一つ。変な意地をはらないこと。辛くなったらすぐにもどってらっしゃい」
 これには一も二もなくうなずいた。






過去日記
2011年01月05日(水) 「描写力がつくかもしれない30のお題」その3
2010年01月05日(火) あけましておめでとうございます
2009年01月05日(月) 
2008年01月05日(土) 【EG番外編】セイル編 その3
2007年01月05日(金) 人気投票最終結果(仮) その2 
2004年01月05日(月) SHFH9−4

2012年01月04日(水) 白花(シラハナ)への手紙。3

 よりよい環境で医療を学ぶ。それは昔からの夢だった。別に故郷が嫌いになった訳じゃない。だけど、どうせ学ぶならちゃんとしたところで勉強をしたい。
 10歳のころ、わたしは病気で寝込んでいた。病名はわからない。高熱が二週間も続き動くこともままならなかった。病名がわからない以上手当のしようがない。異国なら高度な魔術師を呼べたのかもしれない。でも田舎の町にきてくれるなんて都合のいいことはなく、両親は途方に暮れていたらしい。
 そんなときに救いの手をさしのべてくれたのは通りがかりの旅行者。その人は瀕死のわたしをたった数日で元気にしてくれた。その人はもしかしなくても通りすがりの外国人――医者だった。
 わたしといえば、虚弱体質を克服すべく体調が完全にもどってからはご近所の道場で対術を学ぶようになった。おかげでここ数年病気らしい病気も、怪我らしい怪我も一度もしたことがない。
 医療を学び見聞を広める。この行いのどこかいけないのか説明してほしい。でも結局のところ、この一件があったからなかなかわたしを手放せないんだろう。
 お父さんだって異国からはるばるここまでやってきたんじゃないと反論すると、俺は男だからいいんだと語気を強められた。そんなのむちゃくちゃだし男女差別だ。 
「お父さんは心配なのよ」
 荷物を詰めているとお母さんが声をかけた。
「イオリが元気になったのはわかってるけど、手放したくないのよ」
 そんなこと言われても。
「お父さん泣いてたわよ。『イオリが嫁にいっちゃう。もう帰ってこなくなる』って」
「勉強にいくだけだから」
 お嫁にいくなんて一言もいってないし、そもそも相手がいない。 






過去日記
2011年01月04日(火) 「描写力がつくかもしれない30のお題」その2
2010年01月04日(月) 「文章修行家さんに40の短文描写お題」その2
2009年01月04日(日) すっかりお正月も
2008年01月04日(金) 【EG番外編】セイル編 その2
2007年01月04日(木) 人気投票最終結果(仮) その1
2004年01月04日(日) SHFH9−3

2012年01月03日(火) 白花(シラハナ)への手紙。2

 わたしの故郷は白花(シラハナ)の南方にある。農業がさかんで特に花の栽培が有名。
「まーだ、そがんこついいよっとか(訳:まーだ、そんなこといってるのか)!」
 そのどこにでもあるような村のかたすみで、物語はちょっとした口げんかから始まった。
「言って何がわるかとよ(訳:言って何が悪いのよ)」
「悪い」
 即答された。
「年頃の娘が遠い異国の地にたった一人で向かう。これが無謀以外のなにもんか!」
「……お父さん、こっちの言葉にだいぶ慣れたね」
 ため息混じりにつぶやくと、おまえより長生きしているから当然だと胸をはられた。
 シラハナの住人の特徴といえば黒髪に黒の瞳。一部では金色の瞳を持つ人もいるけどほとんどがこれ。ちなみにわたしの瞳の色は青。これは目の前の父親の要素を見事に受け継いだものだ。
「かわいい娘を思わない親がどこにいる!」
 この国にしては長身の体躯。茶色の髪に瞳の色は青。お父さんはここから遠く離れた異国の地の生まれだ。
「おまえがこの家からいなくなると思うと、お父さんは、お父さんは――」
 ここまで想われていると子ども冥利につきるのかもしれない。でもこれは、たぶん行き過ぎだと思う。






過去日記
2011年01月03日(月) 「佐藤さん家の日常」日常編その8UP
2010年01月03日(日) 「文章修行家さんに40の短文描写お題」その1
2009年01月03日(土) 
2008年01月03日(木) 【EG番外編】セイル編 その1
2007年01月03日(水) 「佐藤さん家の日常」日常編その6UP
2006年01月03日(火) 里見八犬伝
2005年01月03日(月) 我が家のお年玉事情
2004年01月03日(土) 業務連絡

2012年01月02日(月) 白花(シラハナ)への手紙。1

拝啓 お父さん、お母さん、ばあちゃんへ

 こんにちは。伊織(イオリ)です。
 白花(シラハナ)を旅だって二年の月日が流れました。みなさんお変わりないでしょうか。庭のお花もそろそろ満開なんでしょうね。
 わたしのほうは相変わらずです。普段はイレーネ先生の元で医学を学んで、時々友達の工房のお手伝いをしています。最近のことといえば――

「何をしてるんだ?」
 背後からの声にどきりとする。
「手紙を書いていました」
「ああ。例の家族あての」
 うなずくと、ひょいと手元をのぞき込んだ。
「なになに。『シラハナを旅立って――』」
「読まないでください!」
 取り上げられそうになった書きかけの手紙を慌てて取り戻す。ただでさえ恥ずかしいのに。見られて困るものでもないだろうと反論されても困りますと反論しかえして。
「早いな。もうそんなにたつのか」
「そんなにたっちゃいました」
 本当に早い。時の流れはあっという間だ。
「こっちの生活にはなれたかい?」
「おかげさまで」
 そしてわたしは、二年前のことを思いおこしていた。






過去日記
2011年01月02日(日) 「描写力がつくかもしれない30のお題」その1
2010年01月02日(土) 「文章修行家さんに40の短文描写お題」お題の使い方
2009年01月02日(金) 
2008年01月02日(水) あけましておめでとうございます
2006年01月02日(月) 今日は誕生日
2005年01月02日(日) あけましておめでとうございます。
2004年01月02日(金) 「EVER GREEN」4−11UP

2012年01月01日(日) あけましておめでとうございます。

 小銭をなくしたらしい。
「なつくーん。お金かして」
「断る」
 横でぶつくさ言ってる兄(まったくもって不本意だが)を横に、賽銭箱に百円玉を投げ入れる。
 一月一日。元旦の午前一時過ぎ。ほんの少し前までは紅白も終わり、行く年来る年までしっかり見ていた。普段なら家族同士で簡単な挨拶をすませて眠るところだが、『せっかくだからこのままお参り行っちゃおうよ』という佐藤家長男の提案により、家族四人で新年早々の初詣をすることになった。
 初詣をするのはかまわないが、神社にたどりつくまでの出店の数々。『発育途中の高校生の胃袋が刺激されないわけがないでしょ』とは本人の談。たこ焼き、イカ焼きにはじまりポテトやリンゴ飴、最後にはもう一度たこ焼きを買っていた。境内について財布から取り出そうとして――現在にいたる。隣でけちとつぶやいているが無視だ。計画性のないお前が悪い。
 鈴をならして、二礼して柏手をうつ。手を合わせたまま目をつぶって、願い事をしようとして。
「なつくん、なつくん。どんな願い事したの?」
 横からの声にあっけなくくずされた。
「気が散るから黙ってろ」
「えー。いいじゃない。減るもんじゃないしさぁ」
「お前に話したら減らないもんも減る」
「そんなっ。邪険にされたらお兄ちゃんないちゃうっ」
 黙れとばかりに視線をやるとそいつはよよよと泣き崩れた。おまえはいつの時代の乙女だ。
「ねーねー」
 ああ、うるさい。
「試合でちゃんと当たりますようにって願ったんだ。あとは健康でありますように」
 うっわ、地味という声を足蹴にすると、最後はもう一度礼をする。
「お前はどうなんだ」
 逆に問いかけると、
「ないしょ」
 笑顔での台詞にもう一度蹴りをいれると、とっとと帰ることにした。
「おみくじひかないのー?」
「お前が食ってる間にすませてきた」
 おみくじのお金もやらないと言うと、やはりけちーという抗議の声があがった。
「僕の願い事知りたい?」
 別にどうでもいい。無視を決め込むと知りたいでしょー、知りたいでしょーというまたどうでもいい声があがってきた。
 しばらくすると先に歩いていた両親と合流。相変わらず仲がいいんだねという父親の大変不本意な言葉と共に家路につくことになる。
 そういえば、これだけは言っとかないといけないんだろう。
 ねーねーねー、となおも続く声にふりむいて。
「明けましておめでとう。今年もよろしく」


 そんな感じで我が家の一日は過ぎていく。
 新年明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


即行で書いた佐藤家ネタ。ちゃんと加筆修正できればいいんですけど。

そんなわけで、皆様今年もよろしくお願いいたします。






過去日記
2011年01月01日(土) 描写力がつくかもしれない30のお題
2010年01月01日(金) 「文章修行家さんに40の短文描写お題」
2009年01月01日(木) 
2008年01月01日(火) つかれてるひと。あらすじ?
2007年01月01日(月) 明けましておめでとうございます。
2006年01月01日(日) 寒中お見舞い申し上げます
2004年01月01日(木) あけましておめでとうございます
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