2007年11月06日(火)  整骨院のウキちゃん1 伝説の女編

近所にオープンした整骨院に8月から通っている。気持ちがよくて、体調がよくなるほかに、楽しみなのが、おしゃべり。院長(三十代男)と天然ボケの助手のウキちゃん(二十代女)のかけあいは漫才のようで、つい噴き出してしまう。そこにわたしや他の患者さん(カーテンに隔てられて顔は見えない)も加わって、長屋の立ち話のようになる。

日頃から「頭のテープレコーダー」を回し、ネタの仕入れに余念がないわたしにとって、助手のウキちゃんの際立ったキャラは、ネタの宝庫。その面白さを一言で言い表わすと、「意表を突かれる」ところにある。実生活で出会ったことがなく、ドラマや映画でもお目にかかったことがなく、頭を捻っても産まれそうになく、飛び出すネタは予測不可能。そんな天然記念物級キャラを徒歩五分で拝めるとは、ありがたい。

拝むといえば、ウキちゃんには「鎌倉で拝まれた伝説」がある。待ち合わせで立っていたら、大仏を見に来たおばあさんが手を合わせたのだという。事実ではなく誰かが始めた作り話らしいが、「聞いた人が皆、真に受けてしまう」うちに伝説となってしまった。整骨院の二軒隣にあるインドカレー屋のインド人も、ウキちゃんを見ると「ナマステ」と手を合わせる。これは院長が目撃した、とまことしやかに語られている。

大仏に間違われるほどスケールが大きなウキちゃん、体は縦にも横にも大きく、迫力では院長を優にしのぎ、ときどき「院長です」と勝手に名乗る。院長が「何かあったら連絡してよ」と言い置いて留守にしても、「何かあっても絶対連絡しねーし」と言い返し、「あたしも人生考えちゃいますよー。院長についてきちゃっていいのかなーとか」と患者に愚痴ったり、言いたい放題。でも、上には上がいて、院長とウキちゃんが働いていた前の整骨院でウキちゃんに「最低!」呼ばわりされたニキちゃん(男)は、「やったね。最低ってことはこれ以上悪くならないってことだね。あとは上がる一方だよ」と喜んだとか。整骨院の笑いのレベルはけっこう高いのかもしれない。

顔のパーツも大きく、「ロシア出身」の噂もあるウキちゃん。院長は「オホーツク海を渡って水揚げされたんですよ」と真顔で言う。「水揚げされたときからは、だいぶ日本語もうまくなったんですけど」。とはいえ、ウキちゃんの言葉づかいは独特。とくに接続詞の使い方が怪しい。「部屋探してんですよねー。ドームのそばは高いし。ないしは、院長と住むか」。「ないしはって何だよ!」と家庭を持っている院長が突っ込む。巨人ファンで東京ドームが好きなウキちゃん。ドームを見ると、「わたしってまだまだ小さいなあ」と思うのだそうだ。ドームを見下ろせる部屋に住むのが夢らしい。

やることなすことでっかいウキちゃん。整骨院のすぐ近くにあるお肉屋さんの牛タタキがおいしいですよ、と教えてあげたときのこと。
「軽く表面を凍らせて、薄〜く切って食べるのがおすすめです」とおすすめしたら、
「ここ、包丁置いてないんで、まるかぶりですね」と豪快。
また、パソコンがうまくつなげなくて、コールセンターに電話したときのこと。「マックですか、ウィンドウズですか」と聞かれて「ノート型です」と答え、相手を絶句させた。勘違いや思いこみのスケールも、半端じゃない。
整骨院の自動ドアを「オートドア」と誰かが言ったとき、「ウォーター=水」と知った瞬間のヘレン・ケラーのように「オートって自動って意味っすかー!」と感動に打ちふるえ、「じゃあオートバイって何だと思ってたの?」と院長に突っ込まれると、「商品名」と答えた。居合わせた女子高生に「常識」と言われ、「お前、何でも知ってんな」とウキちゃんはいたく感心したとか。その会話、ライブで聞きたかった。

日々、伝説を生産中のウキちゃん。自分たちだけで笑っているのはもったいないので、「ブログ書いたら」とすすめている。「今日の猫村さん」ならぬ「今日のウキちゃん」の四コマ漫画も人気が出そう。それを一話一分ぐらいの超ショートムービーにして……。プロデューサー様方、いかがでしょう。

2003年11月06日(木)  よかったよ、ガキンチョ★ROCK


2007年11月05日(月)  捨て台詞

ここ数か月、9キロ前後で横ばいを続けていた娘のたまの体重が、先月保育園で測定した9.1キロからひと月で9.6キロにふえた。ひさしぶりに体重貯金をしようと郵便局へ行ったら、ATMは故障中。窓口に並ぶと、わたしの前で「この近くにATMはないんですか」と70歳代ぐらいのご婦人が訴えていた。窓口で送金するよりATMからのほうが手数料が安いのだが、最寄りのATMまでは歩くとちょっと距離がある。かといって、本来払わなくていい割高な手数料を払うのは納得がいかない。そんな状況だと察した。「困ったわねえ。どうしましょう」「申し訳ありません」と押し問答がしばらくあったが、結局、ご婦人は窓口での送金をあきらめたようで、窓口を離れた。

後ろに並んでいたわたしとすれ違う時、耳に飛び込んできた一言が強烈だった。「この役立たず」。それまでの困り果てたやりとりからは品のようなものも感じられたのだが、あれは同情を買うための演技だったのか。捨て台詞に本性見たり、と怖くなった。窓口のお姉さんにも聞こえていたはずで、ご婦人が出て行った後、お姉さんの反撃の台詞が聞けるかと耳を済ませたが、この手の罵倒には慣れているのか、仕事モードだからか、何もなかったかのように「いらっしゃいませ」と次の客であるわたしを出迎えた。

2005年11月05日(土)  開東閣にて「踊る披露宴」
2004年11月05日(金)  『催眠リスニング』1か月


2007年10月29日(月)  ガムテープの2番目の機能をデザインする

「紙コップの使い方」の話を書いた矢先、今朝の朝日新聞に「ものは潜在する用途の束だ」という言葉を見つけた。丸いグラスを「文鎮」として。あるいは円を描く「定規」として、ときには「武器」として使う例が挙げられていて、「グラスで100案」を考えるのも面白そうだと誘惑にかられた。

武蔵野美術大学の原研哉教授のキャンパスブログというコラムで、今日のテーマは「ガムテープ」。ものと同じくイメージもまた「潜在する用途の束」であるとし、大学の講義で出した「ガムテープの2番目の機能をデザインしなさい」という課題に答えた学生のアイデアが紹介されていた。

海苔のビジュアルをプリントしたガムテープを白いエアパッキンにくるんだ食器を巻きつけると、「おにぎり」のできあがり。「お、お、お……。」「う、う、う……。」といった言葉が印刷されたガムテープは、荷物のうめき声を聞こえさせる。感心したのは、ブルー地のテープに豆粒大のサーファーのイラストを点在させたデザイン。「テープを手でちぎると、ちぎった部分に紙の白地が露出して波のように見える」というくだりを読んで、いいとこに目をつけたなあ、と膝を打った。

わたしだったら、と真っ白なガムテープを思い浮かべてみた。まっ先に考えたのは、目盛りを入れるデザイン。ガムテープに巻尺がついているというか、巻尺に接着機能がついているというか、荷物のサイズが計れて便利。実際にあるかもしれない。次にイメージしたのは、ランダムに音符を並べた五線譜。どこを切り取るかで違うフレーズが生まれる。他には、いろんな国の言葉で「大切に扱ってください」とメッセージする、延々と続く漫画、いっそ映画のリールを焼きつける。でも、トイレットペーパーでもいいわけで、ガムテープの特性を活かせていない。サーファー案ほど面白くないけど、ちぎり目の白をかじり目に見せて、ウエハースやビスケットを印刷するのはどうだろう。いっそガムテープにちなんでガムもいいけど、包み紙がついていないと、粉をふいた板にしか見えない気もする。

2006年10月29日(日)  おいしい国、日本。
2005年10月29日(土)  お茶→シュウマイ→お茶 6時間プレ同窓会
2003年10月29日(水)  日米合作映画『Jenifa』完成試写
2002年10月29日(火)  『風の絨毯』ワールドプレミア


2007年10月27日(土)  シナトレ7 紙コップの使い方100案

昨日の愛知工業大学での出前講義で、発想力を筋トレする一人ブレストの例題として取り上げた「紙コップの使い方」は、わたしが就職した広告会社の入社試験に出た一問。試験前夜、対策のために読んだ発想法の本にアイデアをひねり出すコツが書いてあった。アイデアは組み合わせである。たとえば、あるモノの使い方を考えるとき、そのモノとは別なモノをどんどん思い浮かべて、こじつけでも組み合わせればよろしい、と。読みは当たり、わたしは答案用紙を「紙コップの使い方」で埋め尽くすことができた。紙コップから発想するとすぐに行き詰まってしまっただろうけれど、紙コップから離れたところにヒントを探る方法だと、答えは引き出しやすくなる。

その発想本には「まずは100案ひねり出せ」とあった。100案足し上げようとしたら、離れ業や飛び道具が必要になってくる。そこに突拍子もない発想が生まれるチャンスがある。頭をやわらかくする体操をしながら、跳躍の機会をうかがえ、というわけだ。

大学四年生だったわたしは100案をひねり出したと思われるが、今もそれができるだろうか、と名古屋へ向かう新幹線の中でふと不安になった。入社試験は「紙コップの使い方」「十色そろった地下足袋のネーミングとキャッチコピー」「『馬の耳に念仏』の解釈を1000字以内で」の合わせて三問を制限時間三時間で答えるというものだった。三時間。新幹線で東京から大阪に移動できるだけの時間。今だったら集中力が持たないが、将来を懸けた勝負に若さと意地で食らいついていたのだろう。今のわたしは、若さと体力は衰えたけれど、発想力は鍛えられている自負はある。過去の自分に挑戦するつもりで、名古屋到着の45分前あたりから頭をひねってみることにした。

まずは基本から。キッチンのテーブル周りに紙コップを置く。このとき、ビジュアルをできるだけ具体的に思い浮かべるのがコツ。
ドリンクを飲む スナックを入れる 唐揚げを入れる 野菜スティックを立てる かき氷を入れる 計量カップにする 調味料をまぜる ごはんの型を抜く
型を抜くといえば、
クッキーの型を抜く 粘土の型を抜く
残りものに虫がつかないように、
蓋をする
虫をよけるのと逆の発想で、
虫をつかまえる 虫かご
キッチン周りでもうすこし膨らませて、紙コップを食器棚や冷蔵庫やオーブンに移動させてみる。
醤油さしを受ける 辛子チューブを立てる ゼリーを固める カップケーキの型にする 
そうだ、前にこんなことがあったと思い出した。
しゃもじにする
それがありなら、これもありだろう、といもづる式に
スプーンにする おたまにする 穴をあけて穴杓子にする マッシャーにする めん棒にする
穴を開けたら、こんな使い方も。
プラネタリウム シャワー じょうろ 水切り網 粉ふるい 
展開したら、
鍋つかみ 鍋しき 皿 うちわ
この辺でキッチンから洗面所に移動。
薬を飲む 歯みがき うがい 入れ歯入れ コンタクトレンズ消毒
洗面所から書斎に移動。
ペン立て メガネ立て 携帯立て クリップ入れ 絵の具バケツ 画鋲ホルダー(差して保管) 
書斎にはコンパスがあるけれど、紙コップも丸い。
円を描く  
ちょっと変化球で、
面積を求める 体積を求める 
苦しいけれど、やれないこともない、
しおり ブックエンド 
こじつけついでに、
ドアストッパー 家具の転倒防止ストッパー
ふさぐつながりで、
シューキーパー 穴をふさぐ 
そうだ、紙コップは紙ではないか。
メモ帳 便せん キャンバス スクリーン 名刺(パーティで名刺ないときに名前書いて渡す人、いるいる) 
加工するなら、
ステンドグラス工作
表面に印刷して、
広告媒体
そういえば、この形は何かに似ている。
ランプシェード
その場合、底の丸は抜いたほうがいいかもしれない。その形は、
人形のスカート メガホン
屋内から屋外に移動して、ベランダへ。
バケツ スコップ 植木鉢 植物の名札 ふるい 落ち葉を集める
植木鉢の鉢つながりで、
金魚鉢 金魚をすくう(昔、死んだ金魚をすくったことを思い出した)
落ち葉を集める、から基本を思い出す。
ゴミ箱 ちりとり 灰皿 検尿
ベランダの花を活けなくちゃ。
花瓶
他にベランダで使うものといえば、
キャンドルホルダー 洗濯バサミ受け
キャンドルといえば、
キャンドルを固める
固めるといえば、
雪を固める 
雪といえば、
雪かきシャベル 雪だるまの帽子
かぶりものつながりで、
鼻にする 耳にする さるぐつわにする 目隠しにする 大切なところを隠す 
身に着けるものつながりで、
腕輪 首輪 足かせ ギブス
おもちゃにするのを忘れていた。
手品 糸電話 丁か半か 輪投げの的 転がす 蹴る 投げる 犬のおもちゃ(歯がため) 赤ちゃんのおもちゃ ドラム 音が鳴るものを入れてつなげてマラカス
ここで100案超えたけれど、重複してるっぽいものも多いので、余分にもう少し。中の詰め物をぎっしりにしたら、
ダンベル まくら 重石
ひっくり返して、
アリ相撲の土俵 ネズミの傘 小人のテーブル
そうか、使う人がうんと小さかったら、まだまだ出てくる。
小人の船 小人の風呂 小人のプール
そろそろ百案。
割れものを守る ラッピング材 音響をよくする 部屋を飾る
110案超え。苦しくなると、こんなのが出てくる。
並べてベッド サンドバッグ(ストレス発散) 肘置き 紙吹雪 リサイクルする 燃やして暖を取る 灰を肥料にする
これで121案。大学を出てからコピーライター時代も脚本を書くようにかってからもブレスト道場で百戦錬磨したおかげで、頭はさびついてない様子。視点をどんどん変えていくこと、連想でどんどんつなげていくには持ちネタの引き出しの数がものを言う。その引き出しが、年の功で充実してきたようだ。まだ引き出しが少ない場合は、雑誌や新聞やネットを脳みその出張所に使えばいい。雑誌のページをアトランダムに開いて、紙コップを置いてみる。花のページなら花瓶、魚のページなら金魚鉢、車のページなら灰皿、という風に、そのページにあるものと紙コップの接点を見つけていく。

大事なのは、出てきた答えよりも、それを引き出す過程にある。脳みそに嵐を起こして、在庫確認と整理をしつつ使える情報を選び取るブレーン・ストーミングの作業は、頭の引き出しを使いやすくする。脳のウォーミングアップにかかる時間が短くなり、エンジンがかかるのが早くなる。こじつけでもひとつのモノの可能性をつきつめて考える練習をしておくと、「新製品の売り出し方法」などに応用したときにもひらめき確率がアップする。脚本を書く場面では「主人公の職業」「男女の出会い」などを何通りものパターンから選びとる作業が発生するが、そんなとき、短い打ち合わせ時間の中で光る組み合わせを思いつく瞬発力がモノを言う。学生だったら、入社試験の制限時間内に最大限の発想力を発揮しなくてはならない、という状況の時に、筋トレの成果が出る。「消しゴム」「手ぬぐい」「縄跳び」など、身近にあるものを例題にやってみると、めきめき力がつくこと間違いなし。

2004年10月27日(水)  TakashimaKazuakiの服


2007年10月26日(金)  愛知工業大学で「つなげる」出前講義

益田祐美子さんの紹介で、愛知工業大学での1コマ90分の時間をいただいた。昨夜、たまを寝かしつけたついでに一緒に寝てしまい、「しまった! パワーポイントが未完成」と二時過ぎに飛び起き、ファイルを仕上げたのが四時前。頭で組み立てたスライドの順番と、実際に話そうとする感覚の順番のずれを試行錯誤で調整していると、びゅんびゅん時間が過ぎる。プレゼン前っていつもこうだったな、と広告会社時代を思い出したりした。

新幹線の前でもう一度おさらい。名古屋駅で担当の森豪教授に迎えていただき、タクシーで大学へ。愛・地球博の跡地を通り過ぎ、高速代も含めると九千円を超える距離。移動しながら「学生は六千人ほどで、女子は約一割」「来年創立五十周年。それに合わせて学生の手で映画を作る計画がある」「今回の講義は、学生に広い視野を養ってもらうためのもの」といったお話をうかがう。益田人脈の十五人の映像関係者が週替わりで持論を語る90分。わたしの学生時代に受けてみたかった。

事務室で講義開始時間を待つ間、和紙職人であり大学職員である佐藤友泰さんより奥の深い和紙の世界を語っていただく。もとは、書道用の紙を極めたのがきっかけで、この道三十年。利益を追い求めると妥協が生まれるからと、収入は定職から得て紙では稼がない、と決めているところが職人。

広い大学構内の移動に時間がかかり、五分遅れて講義をスタート。百人に絞り込まれたという学生さん、男子が圧倒的多数。開始早々居眠りを決め込む者、若干名。この人たちを起こすつもりで話しはじめる。

脚本家の仕事は動詞ひとつでくくると「つなげる」ではないか、というbukuの連載エッセイ第一弾での発見をふくらませ、「発注の9割はコネ 作業の9割はブレスト」であることを今井雅子作品の実例で紹介。今日の講義もコネ×ブレスト。自分と学生さんたちとの接点=「わたしもかつて学生であり、彼らはやがて社会人になる」をとっかかりに連想ゲーム感覚で構成を組み立てた。


後半は実践編。人をつなげる「人脈」とアイデアをつなげる「発想力」のかけあわせで「つなげる力」は最大化されること、それぞれの強化方法などを話す。

そして、わたしが就職した広告会社の入社試験に出題された「紙コップの使い方を思いつく限り考えよ」を例題に、学生さんたちに一人ブレストに挑戦してもらう。壇から降りてマイクを向けると、しどろもどろになりながらも「糸電話」が出た。さらに助け船を出して「水を飲む」「採尿」を引き出す。

もう一人は、考え込んでしまったので、「コップをベランダに移動させてみましょう。このとき、ビジュアルを思い浮かべるのがポイント。さて、あなたのベランダには何がありますか」と問い方を変えると、「洗濯物があります」の答え。わたしはとっさに「紙コップに洗濯物を入れるのは難しいですが、洗濯バサミを挟むのには使えますね」と返したけれど、「長袖の内側に入れて、ピンっと張らせるのに使えますね」という答えがあったと後で気づいた。


スライドをあと十枚ほど残したところで突然「ありがとうございます」と森教授に言われて面食らう。4時20分から5時50分までのコマだったので、てっきり最終だと思っていたのだが、まだこの後に講義があり、おしりがつかえていた。駆け足で十枚を消化し、わたしの書いた本にサインを求められたときに添えるメッセージを贈る言葉としたところで時間になり、学生さんたちは一斉に大移動を開始した。

次の教室に移動する頃には、聞いた話はほとんど消えてしまって、週末を超えれば、何も残っていないかもしれない。それでも、一言二言、あるいは言葉という形でなくても、何かこれからの人生につながるものを受け取ったと言ってくれる学生さんが一人でもいてくれたら、「つなげる仕事」を果たせたことになる。

2004年10月26日(火)  ジュアールティー1年分


2007年10月22日(月)  マタニティオレンジ197 たま14/12か月

今日10月22日で娘のたまは14か月になった。13か月まで続いた月例(齢)の誕生日ケーキはやめ、誕生日らしいことは何もしなかったけれど、「22日」という日付には、「また一か月経ったな」という感慨を覚えた。

先月の末に大阪に帰って、わたしの実家の広い床をのびのび歩いた成果か、歩き方はずいぶんしっかりしてきた。食欲は旺盛で、好き嫌いなくもりもり食べる。気持ちいい食べっぷりであり、まだ食べるか、と呆れるほどでもある。いつの間にか歯は奥のほうまで生えてきていて、蓮根も人参も噛んでつぶして食べている。歯磨きをいやがるのが悩みのタネ。歯ブラシをおもちゃがわりに振り回したり噛んだりはするけれど、仕上げ歯磨きをやろうとすると逃げ回る。子ども用歯ブラシのビニールの歯の先っぽが消えていて、どうやら遊んでいるうちに噛み切ったらしい。ビニールの先っぽは胃の中に消えたのか、だとしたら、その後体外に出てきたのか気になる。しっかり固まったいいウンチを毎日欠かさず、便秘に悩むこともない。

言葉も歌も教え込もうとはしていないけれど、少しずつ吸収している様子。歌やダンスが好きで、わたしが歌ったり踊ったりすると、よく反応する。表情が豊かで、声を上げてよく笑ってくれるので、育てがいはある。あいかわらずおっぱいから卒業する気配はないけれど、二足歩行をするようになり、上下セパレートの服を着るようになると、赤ちゃんというより子どもと呼びたくなる。赤ちゃんの時代ってずいぶん短い。

2006年10月22日(日)  マタニティオレンジ23 たま2/12才
2005年10月22日(土)  おばあちゃん99歳
2004年10月22日(金)  クリオネプロデュース『バット男』
2002年10月22日(火)  大阪では5人に1人が自転車に『さすべえ』!


2007年10月19日(金)  インテリアデザイン『DAYS』のマツエ

友人マツエが遊びに来た。最後に会ったときのことも日記に書いたけれど(2004年4月27日 二級建築士マツエ)、そのとき以来ということは、三年半ぶり。広告会社時代に組んで仕事をしていたアートディレクターのミキの美大での同級生で、ミキもまじえてスキーに行ったりミキの実家に泊まりに行ったりしたかと思うと、次に会うのは一年後というような関係だったのだけど、ときどき思い出したように会っても、空いた時間を感じさせない。マイペース同士、波長が合うようだ。

キッチンまわりのインテリアデザイナーとして独立したマツエの事務所にわたしが名前をつけたので、お礼がてらごはん食べようということになり、ひさしぶりの再会が叶った。「子どもいるし、うちでごはん食べられると助かるんだけど、なんか食べるもの適当に持ってきて」。三年半ぶりでもそんなことをお願いできてしまう。タッパーに詰めたおかずと自由が丘のロールケーキを持って現れたマツエに、わたしはカレーをふるまった。「カレーとアボカドが合う」ということを最近知ってはまっているのだけれど、マツエも「うちでもやってみよう」とよろこんでくれた。

ネーミングのお礼にと贈られたのは、輸入雑貨ショップpetitcoquin(プチコキャン)(ここのものはとてもわたし好みでハズレがない)のオレンジ×ハートのちりとり。かなり強烈な存在感だけど、はじめからわが家にあったかのようにしっくりなじむ。マツエはわたしの一人暮らしのアパートには来たことがあったけれど、今の家もたぶんこういう感じだろうと読んだらしい。さすが。

ちなみに、マツエには13案の名前を提案。わたしの一押しは、「マツエトモコ」の名前から連想した「トマト」。

 TOMOKO
 MATSUE 
 TOMOKO
 

という名刺のデザインまで勝手に考えて、真っ白いキッチンに映える真っ赤なトマトのビジュアルも浮かんだのだけど、「色がつきすぎるかなあ」と敬遠された。たしかにインテリアデザインに大切なのは「想像の余地」であり、名前がイメージを語りすぎるのはよくないかもと気づかされる。他に、これも「マツエトモコ」の名前の響きになんとなく似ている「ZIMMER」(ツィンマー 独語で「部屋」)。キッチン周りの単語で「ESSEN」(エッセン 独語で「食べる」)「CUCINA」(クチーナ 伊語で「台所」「料理」)「SPOON」「SOUP」「SPICE」「CUP」。響きのいい名前ってことで「COCOON」(コクーン まゆ)「COTTON」(コットン 綿)「COZY」(コージー ここちよい)「PETAL」(ぺタル 花びら)。毎日使う場所だから「DAYS」「EVERYDAY」。四角い箱を自由にデザインするということで「CUBE」。和風な名前もマツエっぽいかなと思って「それから」(ここから会話とか何かがはじまりそうな感じ)。この中から「最初は通り過ぎてたんだけど、何度か見ているうちにいいなあと思えてきた」とマツエが選んだ名前が「DAYS」。主張しすぎず、さりげなく日常に寄り添う、そんな立ち位置は、マツエがめざすデザインの方向性とも一致するよう。

2006年10月19日(木)  マタニティオレンジ22 めぐる命と有機野菜
2005年10月19日(水)  新宿TOPS 2階→8階→4階
2003年10月19日(日)  100年前の日本語を聴く〜江戸東京日和
2002年10月19日(土)  カラダで観る映画『WILD NIGHTS』


2007年10月18日(木)  マタニティオレンジ195 ママ友に取材 

脚本の仕事は「接点を見つけて膨らませる」ことが大部分を占める。だから、取材先やネタ元を持っていることは強みになる。以前、音楽業界の話を依頼されたとき、ちょうど主人公の設定で考えていたミュージシャンと経歴が重なるような人が友人にいた。それだけでプロデューサーは安心して仕事を任せてくれた。脚本はボツになったけれど、仕事が来たのは人脈という接点があったからだった。

今日取材したDさんは、マタニティビクス教室で知り合ったママ友。今回書くことになった題材が職業もので、そういえばDさんがその仕事をしていたと思い出したのだった。娘のナナちゃんが一緒でもくつろいで話せるよう、豆腐料理の「梅の花」の個室で会うことになった。三人でちょうどいい広さのこじんまりした和室。一歳四か月のナナちゃんにも食べられる料理が多く、担当になった男性の店員さんが「うちにも同じぐらいの娘がいて、よく似ています」と歓迎してくれ、とても居心地のいい時間を過ごせた。ゆっくり食事しながら約二時間、取材半分、子育て話半分。たまより二か月年長のナナちゃんはぐずることもなく、大人の話におとなしくつきあってくれた。肝心の取材は、さすが現場を知っている人の話はリアルで、本人にとっては日常のことでも、わたしにとっては知らないことばかりで新鮮。手ぶらではなくお土産(収穫)を持って明日の打ち合わせに臨むことができる。

取材でお世話になったのは初めてだけれど、ママ友からはたくさんの刺激と情報をもらっている。同じ時期に妊娠してなければ出会うこともなかった縁と、同じ時期に妊娠したからこその連帯感。とくにマタニティビクスで知り合った人たちは、妊娠中に踊ろうという発想と行動力の持ち主だけあって、今日取材したDさんをはじめ話していて面白い人の宝庫。妊娠、出産、育児で仕事のペースは落ちたけれど、芸のこやしになるような体験をたっぷり仕入れたし、ママ友人脈を得て「人持ち」にもなれたし、おつりは十分来ている。

2005年10月18日(火)  体にやさしくておいしい中華『礼華(らいか)』
2002年10月18日(金)  「冷凍食品 アイデア料理のテーマパーク」で満腹!


2007年10月17日(水)  マタニティオレンジ194 長生トマトの歌にノリノリ

モランボンの鍋ソングに続いて作詞を手がけたJA長生グリーンウェーブの『家族みんなで長生トマト』のCDが完成。「長生(ながいき)トマトのPRソング」の依頼を受けたとき、名前の「ながいき」から「じいちゃんもばあちゃんもひいじいちゃんもひいばあちゃんも みんな食べてる長生トマト」というサビが浮かんだ。「きょねんうまれた赤ちゃんも みんな食べてる長生トマト」と続けたのは、去年産まれたわが娘のたまが離乳食でもりもり食べているから。

子どもが踊りだすようなメロディで、ボーカルも子どもだったら最高、と作曲の宇津本直紀さんに伝えたところ、「そうそうこんな感じ!」と膝を打つようなノリノリの曲をつけてくれた。メールで送られてきたデモを再生していると、傍らで聞いていたたまが、腰をふりふり踊りだしたではないか。教えていないのに、これはツイスト! 見事に曲調に合った動きで、「わたしに似てダンスが好きなのね」と感激したり、マタニティビクスが胎教になっていたのかもと想像したり。去年産まれた赤ちゃんまで踊りだすノリの良さに、「これはいける!」と確信。ワタルくんという男の子が元気いっぱい歌ってくれて、はじけるトマトのような歌に仕上がった。

iTuneに取り込んで、リピートで流し続けていると、隣でたまがふりふりと踊り続ける。「イエーイ」のかけ声に合わせて両手を上げて見せると真似するようになった。「赤ちゃんが泣きやむ歌」が以前流行ったけれど、「赤ちゃんが踊りだす歌」はどうだろう。

2006年10月17日(火)  マタニティオレンジ21 赤ちゃんと話したい
2002年10月17日(木)  Globe Trotter×ELEY KISIMOTOのスーツケース


2007年10月16日(火)  マタニティオレンジ193 シュレッダーごっこ

布おむつを始めて、ゴミは減ったけれど、洗濯物は増えた。お風呂に入るついでにした洗いするようにしたら、たまが面白がって一緒におむつを踏みにくる。布おむつは適度な引っかかりがあって滑りにくいよう。二人で遊びにしてしまうと、おむつ洗いも楽しい。

脚本を書くときには、途中で何度かプリントアウトして読み返す。一枚に二枚のレイアウトにし、裏紙を使っても、あっという間に古紙の山となる。世に出る前の作品なのでそのまま古新聞に出すわけにいかず、シュレッダーは置いていない。いずれ必要になると思いつつ、指はさみ事故が怖いので、たまが大きくなるまでは置けない。そこで、手でちぎるという原始的な方法を取ることになる。これも、たまにとっては「紙破り放題」という遊びになる。破るよりもわたしが破った紙切れとじゃれるのに夢中になっていたが、シュレッダーごっこの間はごきげんだった。

2006年10月16日(月)  マタニティオレンジ20 ビバ!ウンチョス!
2004年10月16日(土)  SolberryのハートTシャツ
2002年10月16日(水)  カンヌ国際広告祭

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