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セクサロイドは眠らない
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| 2002年08月02日(金) |
時々、私が彼を恋しく思ったのは、なぜだったのだろうと思う。喧嘩だったのか。セックスだったのか。 |
恋人がいなくなった。
ある日、仕事から帰って来たら、いなくなっていた。
彼は、仕事をしていなかったから、家事をするのが条件で転がり込んで来た。
恋人は、どうやら本当にいなくなったようだ。お気に入りのTシャツやら、ギターやら、そんなものが全部なくなってしまっていたから。
それも当然かもしれない。ここ最近、毎日のように喧嘩してたし。喧嘩の内容はいつも同じ。私が、「稼ぎもないくせに。」って言ってたから。さんざん喧嘩した後は、いつも、あいつがあやまって来て、私の服を脱がせるから、それが喧嘩の終了だった。あいつは、「お前みたいな女で勃つ物好きは俺ぐらいだからな。」と笑っていた。
郵便受けには、この部屋の鍵が入っていた。
本当に帰って来る気がないなら、たいしたもんだ。
あいつ、根気も根性もないから。
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次の日、犬がドアの前に座りこんでいた。
耳が垂れて、尻尾がちぎれた、情けない犬だった。
私は、犬を部屋に入れてやった。
ものすごくお腹を空かせていたみたいで、冷蔵庫にあるものを適当に皿に入れてやったら、ガツガツ食べた。あいつにそっくりだった。情けないところ。
バスルームで体を洗ってやった。それから、一緒に眠った。
犬は、まったく役立たずだった。私が仕事に行っている間に粗相をしていることも多かった。散歩に連れていけとうるさかったが、疲れている時は二日に一回ぐらいしか連れて行ってやらなかった。犬は、そういう日はいつまでも鳴いていた。
ぎくしゃくした関係は、私とあいつとの関係にそっくりだった。
多分、この犬はあいつだ。
素直に謝って戻って来れないもんだから、犬になって戻って来たのだ。
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私は、悲しくてしょうがなかった。本当は帰って来ると思ってたのに、いつまでも帰って来ないから。夜中に酒を飲んで、犬を見ているとむしょうに腹が立った。
その真っ黒な目は、「何も知らない」と言っている。
「僕はあいつじゃない。」って言っている。
だから、私は、犬を殺した。
馬鹿にするんじゃないよ、って思った。
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その日は休日だったので、殺した犬を、捨てに行った。山道を、車で入れるところまで入って、そこに捨てた。
それから、犬の生臭い匂いを消すために、掃除して、消臭スプレーを部屋中にかけた。
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その日の夕方、彼がひょっこりやって来た。
彼は、ちょっと痩せていた。
あいからわず、お気に入りのTシャツを着て、無職だった。
「やっぱり、あんたが犬だったのね。」 「何、訳わからんこと言ってんだよ。」 って、彼は、笑った。
喧嘩しなかったのは、その日だけだった。
彼と私は、シーツをはがした剥き出しのベッドで抱き合った。犬の匂いがして来る気がした。
次の日から、私は仕事に行き、彼は食事を作った。
それから、喧嘩をして、セックスをした。
時々、私が彼を恋しく思ったのは、なぜだったのだろうと思う。喧嘩だったのか。セックスだったのか。
それから、犬を恋しく思う。ちょっとした物音にもビクビクしていた情けない犬を。そうだ。情けないものを飼うのが、私は好きなのかもしれない。
男が、最近、携帯を持つようになった。
「お前と連絡取れたほうが便利だろう?」 って言っていたが、本当は、そんなじゃないことは分かっている。 女がいるのは分かっていた。
私は、彼の昼間の行動まで詮索する気はなかったから、黙っていた。
だが、その夜は、もう駄目だった。
夜、電話が掛かって来て、彼は、部屋を出て、何やら誰かとしゃべって。 「ちょっと出て来るわ。」 と言った。
私は、カッとなった。
犬のほうがよっぽどマシだった。
ここからどこにも行かず、情けない顔で飼われている犬のほうが。
だから、私は、持っていた包丁を思いきり振り上げた。
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明日、仕事から帰ったら、犬がドアの外で待っていてくれるだろう。
私は、夜中、いつまでもぬるぬるする手を洗いながら、そんなことを思った。
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