セクサロイドは眠らない

MAIL  My追加 

All Rights Reserved

※ここに掲載されている文章は、全てフィクションです。
※長いこと休んでいてすみません。普通に元気にやっています。
※古いメールアドレス掲載してました。直しました。(2011.10.12)
※以下のところから、更新報告・新着情報が確認できます。 →   [エンピツ自由表現(成人向け)新着情報]
※My Selection(過去ログから幾つか選んでみました) → 金魚 トンネル 放火 風船 蝶 薔薇 砂男 流星群 クリスマス 銀のリボン 死んだ犬 バク ドラゴン テレフォンセックス 今、キスをしよう  俺はさ、男の子だから  愛人業 

DiaryINDEXpastwill


2002年08月02日(金) 時々、私が彼を恋しく思ったのは、なぜだったのだろうと思う。喧嘩だったのか。セックスだったのか。

恋人がいなくなった。

ある日、仕事から帰って来たら、いなくなっていた。

彼は、仕事をしていなかったから、家事をするのが条件で転がり込んで来た。

恋人は、どうやら本当にいなくなったようだ。お気に入りのTシャツやら、ギターやら、そんなものが全部なくなってしまっていたから。

それも当然かもしれない。ここ最近、毎日のように喧嘩してたし。喧嘩の内容はいつも同じ。私が、「稼ぎもないくせに。」って言ってたから。さんざん喧嘩した後は、いつも、あいつがあやまって来て、私の服を脱がせるから、それが喧嘩の終了だった。あいつは、「お前みたいな女で勃つ物好きは俺ぐらいだからな。」と笑っていた。

郵便受けには、この部屋の鍵が入っていた。

本当に帰って来る気がないなら、たいしたもんだ。

あいつ、根気も根性もないから。

--

次の日、犬がドアの前に座りこんでいた。

耳が垂れて、尻尾がちぎれた、情けない犬だった。

私は、犬を部屋に入れてやった。

ものすごくお腹を空かせていたみたいで、冷蔵庫にあるものを適当に皿に入れてやったら、ガツガツ食べた。あいつにそっくりだった。情けないところ。

バスルームで体を洗ってやった。それから、一緒に眠った。

犬は、まったく役立たずだった。私が仕事に行っている間に粗相をしていることも多かった。散歩に連れていけとうるさかったが、疲れている時は二日に一回ぐらいしか連れて行ってやらなかった。犬は、そういう日はいつまでも鳴いていた。

ぎくしゃくした関係は、私とあいつとの関係にそっくりだった。

多分、この犬はあいつだ。

素直に謝って戻って来れないもんだから、犬になって戻って来たのだ。

--

私は、悲しくてしょうがなかった。本当は帰って来ると思ってたのに、いつまでも帰って来ないから。夜中に酒を飲んで、犬を見ているとむしょうに腹が立った。

その真っ黒な目は、「何も知らない」と言っている。

「僕はあいつじゃない。」って言っている。

だから、私は、犬を殺した。

馬鹿にするんじゃないよ、って思った。

--

その日は休日だったので、殺した犬を、捨てに行った。山道を、車で入れるところまで入って、そこに捨てた。

それから、犬の生臭い匂いを消すために、掃除して、消臭スプレーを部屋中にかけた。

--

その日の夕方、彼がひょっこりやって来た。

彼は、ちょっと痩せていた。

あいからわず、お気に入りのTシャツを着て、無職だった。

「やっぱり、あんたが犬だったのね。」
「何、訳わからんこと言ってんだよ。」
って、彼は、笑った。

喧嘩しなかったのは、その日だけだった。

彼と私は、シーツをはがした剥き出しのベッドで抱き合った。犬の匂いがして来る気がした。

次の日から、私は仕事に行き、彼は食事を作った。

それから、喧嘩をして、セックスをした。

時々、私が彼を恋しく思ったのは、なぜだったのだろうと思う。喧嘩だったのか。セックスだったのか。

それから、犬を恋しく思う。ちょっとした物音にもビクビクしていた情けない犬を。そうだ。情けないものを飼うのが、私は好きなのかもしれない。

男が、最近、携帯を持つようになった。

「お前と連絡取れたほうが便利だろう?」
って言っていたが、本当は、そんなじゃないことは分かっている。
女がいるのは分かっていた。

私は、彼の昼間の行動まで詮索する気はなかったから、黙っていた。

だが、その夜は、もう駄目だった。

夜、電話が掛かって来て、彼は、部屋を出て、何やら誰かとしゃべって。
「ちょっと出て来るわ。」
と言った。

私は、カッとなった。

犬のほうがよっぽどマシだった。

ここからどこにも行かず、情けない顔で飼われている犬のほうが。

だから、私は、持っていた包丁を思いきり振り上げた。

--

明日、仕事から帰ったら、犬がドアの外で待っていてくれるだろう。

私は、夜中、いつまでもぬるぬるする手を洗いながら、そんなことを思った。


DiaryINDEXpastwill
ドール3号  表紙  memo  MAIL  My追加
エンピツ