セクサロイドは眠らない
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2002年03月12日(火) |
きみ、子供だろう?そんな鼻にかかった声出しちゃ、まるでそこいらの素敵なお姉さんみたいに思えちゃうよ。 |
付き合って間がない彼はどこかおかしなところがあって、それは嫌な風におかしいというよりは、私はそんなところが大好きなのだった。まだ、どんな風に甘えればいいか、どんな風に素直になればいいか、分かってない時期の、そんなお話。
私は、寂しくて、彼に会いたくて、電話をした。
電話の向こうで、彼は「どうしたの?」と訊ねた。
私は、寂しいと言うと、彼に手の内を見せるように思えて、ちゃんと言えなかった。 「今、何してたの?」 「僕?飯食って、くつろいでた。きみは?」 「退屈してたの。だからね、何かお話を聞かせてよ。」 「お話?」 「うん。どんなのでもいいわ。」
彼は、少し電話口の向こうで考えていた。 「分かった。じゃ、テレフォンセックスをしよう。どう?」 「え?ヤだよ。」
私は、以前、付き合っていた相手のテレフォンセックスに一回だけ立ち合ったことがある。その時は、最初から最後まで、相手が一人で何かつぶやき続け、私はこっちで困惑して受話器を握っていただけだった。
「いいからさ。やったこと、ない?」 「あるけど・・・。」 「じゃ、目をつぶって。」
私は目をつぶった。
「僕の言うことを想像して。ここは森だよ。」 「森?」 「うん。少々薄暗い森。」 「怖いわね。」 「きみは、赤い頭巾をかぶっている。手には、ワインとビスケットの入ったカゴ。小さいけれど、勇敢な女の子だ。」 「それって、赤頭巾ちゃん?」 「きみはお婆さんのところにそれを持って行くのに、森を通り抜けていかなくちゃならない。」 「ねえってば。」
私は、もしかしてこれはテレフォンセックスじゃなくて、私が最初にねだったお話のほうなのかなと思った。
彼は私にかまわず、続けた。 「薄暗い森の中は、大きな一本道を間違えずに歩いて行けばいいだけだ。赤頭巾は、不安だったけど、勇気を出して歩いて行った。だがふと気付くと、後ろからはぁはぁと何やら息が聞こえる。」 「おおかみ?」 「ううん。クマだった。後ろを振り向くと、クマがいた。大きな体のクマ。どう?」 「怖いわ。」 「クマは、慌てて言った。僕は何もしやしないよ、大丈夫さ。ただ、一緒に歩きたいだけだよ、って。どうする?」 「一緒に行くわ。」 「じゃ、一緒に行こう。」 「クマは言った。そのカゴ、何が入ってるの?」 「お婆さんのところに持って行く品よ。」 「ちょっと、そこいらに座って休憩しない?」 「駄目よ。先を急ぐもの。」 「だけど、その時、薄暗い森がほとんど真っ暗になって、雷が鳴ったかと思うと、雨が降り始めた。」 「やだっ。」 「クマは、こっちだよ、こっちに雨宿りする場所があるよと、きみの手を引っ張った。」 「怖いわ。」 「大丈夫、僕がついてるからね。と、その洞穴に入った時は、もう、最初に歩いていた一本道からは随分逸れてしまった。」 「服がビショビショね。」 「きみ、濡れた服脱いで乾かすといいよ。と、クマはタオルを差し出した。」 「ねえ。何でクマがタオルなんか持ってるのよ。」 「そのほうが気持ちいいだろう?そこはクマの家だったんだよ。さ、服、脱いじゃいなよ。」 「ねえ。何か変なことする?」 「まさか。きみ、子供だろう?」 「分かったわ。」
私は服を脱いだ。ああ。もちろん、想像の中で。
脱ぎ終わると、クマは、ファサッと、大きな、よく乾いたタオルを肩から掛けて包み込んでくれた。
「ねえ。ここで一人で住んでいるの?」 「うん。お嫁さんが欲しいのだけれど、まだ出会えないんだ。」 「素敵なおうちね。」 「そうさ。大概のものは揃ってる。あとは、お嫁さんだけ。」 「ふふ。よっぽどお嫁さんが欲しいのね。」
私は笑った。クマは、暖かいミルクの入ったカップを持って来てそばに置くと、タオルの上から私をそっと抱いて、肩を撫でた。
「ねえ、私が大人になるまで待っててくれる?」 「それで?」 「私がお嫁さんになってあげるわ。」 「まさか。きみが?僕は、クマだぜ。分かってんの?」 「うん。でも、なんかいいなって。こういうの。」 「そんな風に期待させないでよね。僕は、寂しがり屋のクマだから本気にしちゃうよ。」
クマは、濡れた鼻を私の耳に押し付けた。
「ねえ・・・。」 「駄目だって。きみ、子供だろう?そんな鼻にかかった声出しちゃ、まるでそこいらの素敵なお姉さんみたいに思えちゃうよ。」
私は、黙ってクマの膝で揺れていた。ゆらゆら。
耳元で、クマが素敵な話を聞かせてくれる。春になって、小さな花の蜜を味わうこととか。魚だって、生臭いのが嫌いだったら火を使って料理するから、また遊びにおいでよとか。
そんな話をゆらゆら。
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「どうだった?」 「え?」 「テレフォンセックス。そんなに悪くなかっただろう?」 「・・・・。」 「怒っちゃった?」 「ううん・・・。あの、ね。」 「なに?」 「今からあなたのところ、行ってもいい?」 「いいけど。」 「あったかいミルクをいれてくれる?」 「いいよ。それから、きみは子供じゃないから、いっぱいいろんなこと、しよう。」
私達は、クスクス笑い合う。
彼は、まったく不思議な恋人だ。私は、見事にその気にさせられて。
「待ってて。すぐ行く。」 素直に言えた。
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