セクサロイドは眠らない

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2001年11月19日(月) ねえ。すべての気持ちは、流れ星のように、燃え尽きて行くものかしら?

夫が、夜中に私の部屋のドアをノックする。ニヶ月前、私が夫に頼んで別々の部屋に寝るようにしてから初めてのことだ。

「なに?」
「星を見に行こう。」
「え?」
「流星群。」
「ああ。そうだったわね。」

夫は、既に玄関口に、毛布やら、コーヒーを入れたポットやらを用意している。私に、ダウンジャケットを着せ掛けてくれた。

「すっかり忘れてたわ。」
「なんせ、三十年に一度だからね。」

裏の山道を少し登っていくと、急に開けた場所に出る。そこからは、さえぎる物もなく、星が見える。

あっ。
空を見上げた途端、星がすうっと流れるのが見えた。
「今の、見た?」
私は、思わず声を上げた。
「ああ。見たよ。」
そう言っている間にも、また、すうっと。

「晴れて良かった。」
と、夫は、嬉しそうにつぶやく。

本当に。

そういえば、結婚した当初、夫が「子供の頃は、天文小僧だったんだ。」と言ったことがあるのを思い出した。

「どうして、星が好きなの?」
夫に訊ねた。

「どうしてって。そりゃ、うまく言えないけど、そういうのって、どうして漫画が好きなのかとか、どうして歌が好きなのかとかって聞かれても困るのと一緒で、とにかく最初から好きなんだよ。」
「分かんないわ。」
「コレクションみたいなものかな。自分で、見て、一つ一つの星が存在することを確認するのが嬉しいんだ。」
「へえ。」

本当は、もっと別のことが聞きたかった。冬になって、少し冷えてしまった家で、あなたはどういう気持ちで過ごしていますか?

私が悪いのだ。夏の間、恋にのめり込んだ。流れ星のように一瞬で燃え尽きてしまったけれど。それでも、それは、とても大きなものを私達夫婦の間に残してしまった。私達夫婦は、それまで考えていなかったいろいろなことを考えるようになり、それまでは気付かなかった孤独の気配を肌に感じるようになった。私は、自分を責め、いろいろな事に耐えられなくて、夫に寝室を別にするように頼んだのだ。

「流れ星はね。出鱈目に流れてるんじゃなくて、一箇所から放射状に出てくるんだよ。昔は、レーダーとかなかったからねえ。人の手による記録だけが頼りだったんだよ。」
夫は、私に流星のことを説明しながら、コーヒーを注いだカップを渡してくれる。

「あ。また。」

「ほら、あそこにも。」

私が、そうやって声を上げるのを、夫は黙って聞いている。

そうやって、二時間も流れ星を見ていただろうか。指先がすっかり凍えて、冷え性の私は、このまま部屋に帰っても眠れそうにない。

「あなたのベッドで一緒に寝て、いい?」
「いいよ。」

私達は、一つのベッドに入る。

「私のこと、まだ好き?」
さっき聞くことができなかったことを聞いてみる。

「好きだよ。」
「どうして?」
「どうしてって。そりゃ、星がどうして好きなの?って聞かれても答えられないのと同じくらい、最初から決まってることなんだよ。僕にとってはね。」
「ねえ。すべての気持ちは、流れ星のように、燃え尽きて行くものかしら?」
「さあ。どうだろうな。流れ星って、はかなさの象徴みたいに言われるけどもね。数年に一度、彗星からのカケラが一瞬、地球から見える。それは素敵な巡り合いの話だと、僕は思うよ。」

そうね。

私は、夫の暖かい体に寄り添って、眠りに就く。もう一度。何度でも。夫婦だって、巡り合う。


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