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セクサロイドは眠らない
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| 2002年06月30日(日) |
私は、長いドレスの裾をたくしあげる。膝から下に、醜いやけどの痕。「ねえ。あなた、これを見て笑う?」 |
少年が浜辺に一人。
まだ、夏真っ盛りというには少し早い季節。
少年と私の他には誰もいない浜辺で、少年は一心に砂の城を作っている。
「そんなに海に近いところでは、お城は波にさらわれてしまうよ。」 と言いかけて。
少年があんまり一生懸命なので、私はその言葉を飲み込んで。代わりに、 「素敵なお城ね。」 と、話し掛ける。
少年は知らん顔で、なおも手を動かし続ける。私はそのそばに腰をおろして、少年の手つきに見惚れる。
随分と時間が経ったところで、少年が急に口を開く。 「みんな、色んな事を僕に言うんだ。」 「そう?」 「そんなところでお城を作っていると波にさらわれるよ、とか。そんなもの作って面白いかい?とか。毎日そんな事してるぐらいなら家に帰って勉強したら、とか。」 「・・・。」 「母さんがここで待っててって言ったから。だから僕はここで砂のお城を作ってる。母さんが海の向こうから舟に乗って帰って来ても、僕のことをすぐ見つけられるように。」 「・・・。」 「毎日、毎日、作る。でも、それはいつも波にさらわれてしまうんだ。誰かが言うんだ。砂のお城じゃなくて、もっと動かないものを目印にして立てておいたら?って。だけど、それは僕、嫌なんだ。だって、僕がいないうちに母さんが来たらどうする?母さんは、とても失望するだろう。だから僕は夜もゆっくり寝てられない。朝、日が昇るとすぐに浜辺に来るんだ。」
波が打ち寄せて来て、私のつま先を洗う。足元までの長いドレスの裾が海水に濡れる。
「待つの、つらい?」 「分からないや。」
相変わらず、人は誰も通らない。
私は、ふと手を伸ばし、陽に焼け、潮風にさらされてゴワゴワになった少年の髪を撫でる。
少年はその時、初めて目を上げて、私を見る。 「消えてしまうんだよ。いつもいつも。」 「そう・・・。」 「それを見て、みんな笑うんだよ。」 「みんなじゃないわ。」 「嘘だ。馬鹿にして、笑ってる。きっと。あんなことしたって、全部波にさらわれて何も残らないのに、って。あんなことしたって、行ってしまった人は帰らないのに、って。」 「嘘じゃないわ。心打たれる人もいる。誰かを待ってることを思い出して、急いで家に帰る人もいる。」 「そうかな・・・。聞こえてくるのは、あざ笑う声ばかりだよ。」 「それはね。あなたの心の声よ。待ってて何になるんだ、って。あなたの心があなたを笑っているのね。」 「そんなの・・・。」 「ねえ。見て。」
私は、長いドレスの裾をたくしあげる。膝から下に、醜いやけどの痕。 「ねえ。あなた、これを見て笑う?」
少年は驚いたように、それを随分と長いこと見つめて。それから首を振る。 「ううん。笑わないよ。」
「本当に?」 私は、少し意地悪く問う。
「だって・・・。浜辺を歩いてくるあなたの足取りは自信に満ちてすごく素敵だった。あなたのやけどが見えていたって、それは変わらない。むしろ・・・。」 「むしろ?」 「感動・・・。うん。感動していたと思うよ。」
私はにっこり笑う。 「やさしいのね。」 「そんな。本当にそう思ったから。」 「分かってるわ。でもね。私は時々、自分の足のやけどが恥かしくてどうしようもなくなるの。見てる人がみんな笑ってるんじゃないかってね。哀れんでるんじゃないかってね。」 「そんな時はどうするの?」 「誰よりも背筋を伸ばして、きれいに歩こうと思うの。」 「すごい。」 「そう思えるようになったのは、つい最近よ。」 「僕もあなたみたいに格好良くなれるかな。」 「なれるわよ。」
少年は溜め息をついて、首を振る。
そんな少年に微笑んで見せて。 「私はラッキーだったかもね。やけどを見るたびに、背筋を伸ばしてきれいに歩こうって、気付くから。」
少年は、今また、波にさらわれていく砂の城をみている。
「そろそろ行くわね。」 私は、すっかり濡れてしまったドレスを、両手でつまんで。歩き始める。波の音と、少年を残して。
そう。誰よりも美しく砂の城を作る少年を残して。
それは、あっという間にさらわれていくほどに儚くて、見るものを感動させる。
「僕達、友達だよ。」 少年の声が背後から響く。
私は、返事代わりに手を上げて。
それから、誰よりも美しく歩くことに集中する。
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