セクサロイドは眠らない

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2002年07月01日(月) おじいちゃんは、村でたった一人になった時、寂しくてロビンを作った。そして、息子のように可愛がった。

僕は、その村の最後の住人だった。

僕のおじいちゃんが亡くなってからは、僕一人がその村に住んでいた。みなしごだった僕は、五年前にその村に迷い込んで、おじいちゃんに養子にしてもらった。おじいちゃんは、その時、その村のたった一人の住人だったのだ。

おじいちゃんがいなくなってしまって、おじいちゃんの娘という人が訪ねて来たことがあった。その人は、おじいちゃんの持ち物をてきぱきとした手つきで整理した後で、僕に、「町で暮らすなら、学校に通わせてあげるわ。」と言った。悪い人ではなさそうだったけれど、僕はその村を出たくなかったから断った。

「そう?何かあったらいつでも言っていらっしゃいね。」
と、その人は僕に言って、幾らかのお金を置いて帰って行った。

この村では、お金は要らない。なんでも、時給自足だもの。

だけど、唯一。この村に一本だけ立っている電信柱から引いている電気代を払いに、僕は毎月町に出なくてはならない。この村に電気を引いたのも、おじいちゃんの仕事だったらしい。

この村の電気は、町の人みたいに、電話やテレビやトースターに使われるのではなかった。

電気を使う必要があるのは、唯一「ロビン」だけだった。

ロビンは、おじいちゃんが発明したロボットで、不恰好な、金属の寄せ集めだったけれど、僕の唯一の友達だった。ロビンは、「話し相手ロボット」だった。

おじいちゃんは、村でたった一人になった時、寂しくてロビンを作った。そして、息子のように可愛がった。そこへ僕が来た。だから、正確には、ロビンは友達ではなくて僕のお兄さんだった。

僕は、朝、ロビンに起こされる。

「おはよう。今日は、湿度が高いから、午後、ひと雨来そうだよ。」
ロビンの声で僕は飛び起きて、それから、今日は洗濯はできないなあ、なんて思う。

ロビンは物知りだった。

僕が知らない町のこととか。

世界的旅行家というガリバーという人の話を聞かせてもらうのが一番楽しかった。僕も、大きくなったら、ロビンと一緒に旅をする。その前に、僕は、ロビンがコードで電気と繋がっていなくても動くことができるように、ロビンを改造しなくては。そのために僕は、おじいちゃんが残していったたくさんの本で勉強している。

「ねえ。ロビン。そろそろ電気代を払いに行かなくちゃいけないんだ。だから、また、留守を守っててね。」
「分かった。気をつけて行っておいで。町は危険だからね。」

町は危険だからね。

おじいちゃんの口癖だった。

僕は、
「分かってるよ。」
と、ロビンを安心させて。

村で取れる葦を編んで作った籠を売って、そのお金で電気代を払う。

--

その週は、町に着いて用事を済ませたところで、大雨に見舞われた。僕は、いつも泊めてもらう、おじいちゃんの娘の知り合いという人のところで足止めをくらった。川が浸水して危ないから、というのだ。僕は、ロビンが心配してやしないかと気掛かりだが、どうしようもない。

そうして、丸一週間、そこで寝泊りする。いつもなら三日で帰るものだから。

僕は、礼もそこそこに、急いで家路につく。

町の人には、ロビンのことは内緒だ。おじいちゃんにも言われているから。ロボットを、まるで人間のように扱うなんて、きっと町の人間は馬鹿にするからね。だけど、おじいちゃんは言っていた。対話すれば、そこに命は必ず生まれるのさ。

--

「ロビン、ただいま!」
僕は、元気よくドアを開ける。

返事がない。

僕は不安になる。

怒ってる・・・、のかな。前もこんなことがあった。夜、日が暮れるまで、野苺を取りに行って帰らなかったから。案外と心配症なんだよね。

僕は、ロビンを探して。

それから、奥の部屋でめちゃくちゃに壊されたロビンを見つける。

誰かが、この家に入ったんだ。僕は、この村に来てから、鍵を掛ける習慣というものがなかったから。よく見れば、食べ物を置いておいた場所も幾らか荒らされている。

僕は、しゃがみ込んで。

それから、ロビンの残骸を一つ一つ拾う。

なんてことだ・・・。

きっと、ロビンは、侵入者にも、いつものようにひとなつっこく話し掛けただろう。もしかしたら、僕と間違えていたかもしれない。

僕は、泣く。

これじゃ、直せない。

僕は、声を出して。
「ロビン、お帰りって言ってよ・・・。」

--

本当に独りぼっちになった僕は、それでも、村を出て行かない。

出て行こうと思った日もあったのだ。屋根裏の、おじいちゃんの残した本を持って出ようと整理していて。そこで、僕は、電球を見つける。

明かりが点くか試してみた。

それは、ほわっと、暗闇で光って。

僕はそれを見て、また、泣いてしまった。

ロビンがいると思ったのだ。

ロビンは、村で一本だけの電信柱から命をもらっていたんだった。

僕は、寂しくなると、電球をともして、話し掛ける。ロビンと話していたみたいに。それから、本を読む。いつか、新しいロビンを作るために。


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