セクサロイドは眠らない

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2002年03月10日(日) 女の子の体をどう取り扱っていいか分からないように動くから、私は余計に溢れ出す声が抑えられないのだった。

騒がしいからゆっくり話ができるところに行こうよ。と、私から言った。彼は、うなずいて、私の背に軽く手を回して店を出た。

「私の部屋に来る?」
と、訊ねた。

「いいの?」
と、その美しい青年は言った。

「うん。」
私は、彼なら構わないと思った。

彼は、私の話を聞きたいと思ってくれているようだったし、彼ほど美しい顔立ちの人は、普通、人の話を聞きたいなんて思わない筈だから、私は彼に興味を持った。

「散らかってるけどさ。」
部屋に入ると、私は少し照れて言った。

「いい部屋だね。落ちつくよ。」
「あ。お茶いれるね。コーヒー?紅茶?」
「僕、いいや。水、ある?」
「あるよ。」

私は、グラスを二つとペットボトルを抱えて、彼の横に座った。

それから取り留めのない話をして。

彼は、そっと私の肩に手を回して来た。

私は、彼の顔を見つめるのだが、その顔には欲望が浮かんでいるのかどうか、よく分からない。ただ、彼の目は妙に悲しそうで、その美貌と似合わない。

ゆっくりと彼の体重がかかるのを感じながら、私は訊ねる。

「ねえ。どうしてそんなに悲しそうなの?」
「まだ、馴染んでないからだよ。僕が、僕に。」

それから、彼は私の唇をふさいで、その指は、私の服の下にそっと潜り込んでくるのだが、困ったことに、私は全然彼の欲望に応えられない。彼も、すぐにそれに気付き、困惑したように手を引っ込める。

「ごめんね。今日、私、疲れてんのかな。駄目みたい。」
「気にしないで。」
「ねえ。何かが違うのよ。どっか変なの。あなたのどこかが。それが気になって、抱かれることに没頭できないの。」

彼は、私を見て不安げに訊ねた。
「分かるの?」
「え?何が?」
「僕のこと。おかしい。そんなの、初めてだよ。きみが初めて。」
「だから、何が?」
「僕のこと、嫌いにならないでよ。」
「分かってるって。」

彼は、背中に手を回すと、ジッパーを下す仕草をした。

「むこう向いててよ。」
「うん。」

もそもそと音がして、「いいよ。」という声が聞こえたから振り向くと、そこには醜い生き物がいた。毛むくじゃらで、ただれた皮膚。体のあちこちにあるかさぶた。

そばには、脱ぎ捨てられた、美しい「皮」。

「まったく、きみには分かっちゃったんだね。ひどい姿だろう。」
と、彼は悲しげに言った。

私は、首を振って、彼の体に触れた。彼は確かに醜かったが、彼の姿と彼の瞳はよく似合っていて、それは、隠しようもなく彼そのものだったから、私はなぜか感動したのだった。

彼は、私の反応を気にしながら、私の体に手を回した。

私の下半身から欲望がジワッと滲み出て来て、私は深いため息をついた。

彼は、私の表情に安心したように、私の体を多少乱暴に抱きかかえると、ベッドの上で、私の体を点検し始めたから、私は余計に我慢できなくなる。

「ほくろが、いい。」
彼は、私の背中に口づけながら、つぶやいた。

「ほくろだけ?」
と、私はくすくす笑った。

背後から口づけられても、彼の体を覆う毛が私をくすぐって、それが妙に興奮を掻き立てる。彼の指はごつごつして太く、女の子の体をどう取り扱っていいか分からないように動くから、私は余計に溢れ出す声が抑えられないのだった。

そうやって私達は、ごく自然に抱き合って、お互いの高まりを伝え合った。

明け方になって、うとうとする私から体を離すと、彼は、ゴソゴソと、また、彼の皮を身につけ始めた。

「どうして?」
寝ぼけた声で私は訊ねた。
「そのままでずっと素敵なのに。」

「そんなことないって知ってる癖に。人は、もっと分かり易くて美しいものを求めるんだ。僕は、ずっと美しくなかったから、よく泣いていた。でも、泣いていては大人になれない。」

彼は、それから、私の頬に口づける。私は眠たくて目を開けていられなかったのだが、その美しい皮膚の向こうに本当の彼がいて、その彼が口づけてくれたのだと思うと、安心できるのだった。

ぱたん。

ドアが閉まった。

私は、深い眠りに落ちた。

--

もう、彼とは二度と会えない。あの店にも。雑踏の中にも。あの美しい皮膚からのぞく悲しい瞳を見れば、私にはすぐ分かると思って、探すのだけれど。

もう、彼とは会えない。

それから。

私は、時折、そっと自分の皮膚に手を触れる。

どんなに隠しても、その揺れるものが他人から見透かされて馬鹿にされてやしないかと、皮膚を撫でる。

私も、こんなもの脱いで抱き合えば良かった。


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