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セクサロイドは眠らない
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| 2002年03月03日(日) |
手を無理矢理振りほどき、僕は侵入する。僕の怒りを帯びた欲望が、彼女の体を更に傷付けた。 |
その彼女を、妹と呼ぶにはあまりにも切なく欲していた。
近所に住む、一つ下の女の子。大学に上がる頃には、その感情はもう「恋」と呼んでいいものだった。
ショートカットに、そばかす。化粧気のない、白い素肌。
僕が社会人になった時、妹を失う覚悟で、僕は彼女に恋心を告白した。
「いいよ。」 随分と長い沈黙の後、彼女は微笑んだ。
「いいの?僕で?」 「うん。嬉しい。」 その笑顔は、本物だった。
僕は手を伸ばすと、指でそっと彼女の頬に触れた。その瞬間、彼女はわずかに顔をそらす。
「ごめん。」 僕は、慌てた。
「違うの。私のせい。」
生まれたての恋人同士はお互いに戸惑っていた。
それが始まりだった。苦しみの。
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彼女は、どうしても肉体の触れ合いを受け入れることができなかった。泣いている彼女を抱き締めることはできる。夕暮れの街を手を繋いで歩くことはできる。だけど、僕の指が、彼女の奥を探ろうとすると、途端に彼女は身をこわばらせて苦悩に顔を歪めるのだった。
その事について、僕らは何時間も話し合い解決方法を探った。幼い頃、彼女の心に傷を残すような出来事があったのか?もしかしたら、本当は僕を好きではないのではないか?だが、どれも答えはNO。
いつも一緒だった。
周囲も認める恋だった。
お似合いの一対だった。
だが、こんなにも苦しんでいる僕らがいた。
体が欲望に燃える時、彼女を恨み、嫉妬に苦しんだ。彼女を遠ざけることもあった。そんな僕に、彼女は何度も泣いてしがみついてきた。僕らは夜の数を数えて過ごした。
「ねえ。他に好きな人、作っていいんだよ。」 いつもの話し合いに疲れて、彼女がそんなことを言う日もあった。
でも、そんなことは無理。きみとの歳月だけが、今や僕にとって意味のあるものだったから。
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その出来事が起こるまでは、それでも、まだ、僕らは優しい恋人同士だった。
夜、携帯の電話が突然鳴った。
「ねえ。お願い。助けて。今すぐ。」 彼女の泣きじゃくる声に、僕は慌てて部屋を飛び出した。
彼女の部屋に着いた時、なぜか鍵は閉まっていて、僕は合鍵で部屋を開けた。
「いるの?」 返事は、ない。ただ、彼女がすすり泣く声が響く。
「どうしたの?」 不安にかられた僕の前に現われた彼女は、乱れた髪。剥き出しの腕と脚。頼りなげに巻いた毛布。
「ごめんね。」 「誰にされたの?」 「会社の男の子。送って来てくれたの。すぐ帰ってもらおうと思ったけど。無理矢理入って来て。それからはよく覚えてないの。」 「馬鹿な・・・。」
彼女の、略奪者に奪われた体は、そこに血を流して震えていた。
その血の赤を見た時、何かが噴き出してしまった。それは怒り。
僕は、泣いた彼女の傷口に手を伸ばし、そこに更に指を差し込む。彼女が自分を隠して覆った手を無理矢理振りほどき、僕は侵入する。僕の怒りを帯びた欲望が、彼女の体を更に傷付けた。
抵抗することもできない彼女の青ざめた顔は途方もなく美しい。そうだ。僕はずっと腹を立てていたのだ。彼女にではなく、運命に。
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彼女は、短かった髪を伸ばし始めた。化粧をするようになった。もう、彼女の何かが壊れてしまった。僕が壊してしまったのだ。
彼女は、酒を飲んで、客の相手をする。
僕は、少し離れたテーブルで、毎夜、酒を煽る。
「ねえ。いい加減にしときなさいよ。」 ママが、僕に口先だけの忠告する。
「あと一杯だけ。」 「しょうがないわねえ。」
高価なスーツに身を包んだ日焼けした男が立ち上がるのを見送った後、彼女は、そっとママのほうに目配せをして、店の奥に入って行く。
今夜はあの男が相手か。
「あたしも一杯いただくわ。」 ママが、見るに見かねて、僕の傍に腰を下ろす。ママだけが僕らの事情を知っていて、こんなストーカーまがいの男にも優しくしてくれる。
今日も随分酔ってしまった。 「ねえ。ママ。こんなこと言うと、彼女嫌がるだろうけど。もしさ。僕に何かあって、こうやって彼女を見ててやれなくなった、ママ、彼女のこと頼むよ。」
「何言ってんのよ。」 あきれたように、ママは笑う。
「あの子も、そう言うのよ。ママ、私に何かあったらあの人のこと見ててあげてって。嫌ねえ。あんた達のほうがずっと若いのに。何かあるなら、私が一番でしょうに。」 ママは、わざとふてくされた顔で、グラスを煽る。
つまらない家族ゲームを演じているような気分で、僕はそこに座っている。
僕と彼女が本当に兄妹だったらどんなに良かったか。
いや。僕らは本当に呪われた兄妹なのかもしれない。愛し合ってはいけない一対を、神様は、なぜこうやって巡り合わせてしまったのだろうと、今夜も出ない答を求めて、問い続ける。
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