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セクサロイドは眠らない
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| 2002年02月28日(木) |
そんな彼女の言葉を聞きながら、僕は、誰かにこんな風に世話を焼かれたかったんだな、と、納得する。 |
小雨が降り始めた中を足早に駅に向かおうとする彼女に追いつくと、僕は傘を差し掛けた。
「あら。おつかれさま。」 職場の同僚に過ぎない僕に、彼女は微笑んだ。
「急いでるの?」 「ううん。雨がひどくならないうちに帰ろうと思って。」 「少し時間ある?」 「いいけど?」 「じゃ、どこかでちょっと飲まない?」 「少しだけよ。最近、お酒弱くなっちゃって。明日の会議に差し支えない程度にね。」
まだ、明るい時間だったので、座る場所はすぐ見つかった。
ビールが運ばれると、彼女は僕の顔を覗きこむように、 「で?」 と聞いて来た。素直に好奇心を現すところが、彼女らしくていい。
「妻が出て行ったんだ。」 「あらら。また、どうして?」 「それが、分からない。」 「まるで?」 「ああ。」 「連絡は?」 「彼女から一方的に離婚届が送られて来た。」 「それは大変ね。で、離婚経験者の私にいろいろ聞きたいってわけね。」 「誰かに話すと、少しは気が楽になるかと思って。」 「結婚なんて人それぞれ違うから、私なんかがアドバイスできることってあるかなあ。」
彼女は笑って、料理に箸を伸ばす。
「奥さんの持ち物、なんにも残ってないの?」 「ああ。手紙もない。パソコンなんか触れるやつじゃなかったから、誰かとメールのやり取りがあったとは思えないし。」 「そう。」 「他に男ができたとかじゃないと思うんだ。」
そう信じたい。
目の前の彼女は、そんな僕のを黙って聞いている。
「あ。ごめん。なんだか僕ばっかりしゃべっちゃって。」 「いいのよ。」 「ねえ。離婚って傷付く?」 「そりゃ。そうね。」
彼女は、ふいに瞳を翳らせる。
「私のことなんかどうでもいいじゃない?問題は、あなたのほうでしょう。」 「そうだね。ごめん。」 「謝ってばっかり。」 彼女は、微笑む。
別に、何を相談したかったわけでもない。ただ、話の分かる彼女に向かって、だらだらと愚痴をこぼしていたかっただけなのだろう。そうやって、随分と酔ってしまって。
僕は、 「送って行くよ。」 と、急に席を立った。
「ちょっと待ってよ。」 慌てて、彼女がコートを羽織る。
雨が上がった夜道は、湿気のせいで、生暖かい。
「ねえ。大丈夫?ひどい顔。私の部屋、来る?」 彼女は返事を待たずに、僕をタクシーに押し込んだ。
「まったく、奥さんがいなくなると、全然駄目になっちゃうのねえ。」 そんな彼女の言葉を聞きながら、僕は、誰かにこんな風に世話を焼かれたかったんだな、と、納得する。
ぼんやりとタクシーに揺られながら、雨で光った路面を見ているのは気持ちいいと思った。
「着いたわよ。」 「いいの?」 「何よ。今更。ここまで来ちゃったくせに。」 彼女は、笑って、僕の背中をポンポンと叩く。
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シャワーを浴びて、彼女の煎れてくれた熱い紅茶を飲みながら、僕は、彼女を腕に抱いている。
「こんなつもりじゃなかったのに。」 僕は、謝るように、彼女に言う。
「じゃあ、どんなつもりだったの?」 「妻のことだった。もう、僕を愛してなかったんだろうか?もう、話す機会を失ってしまったから、いくら考えても分からないんだ。」
僕は、背後から彼女のほっそりした体を抱く。
「あまり見ないで。恥ずかしいわ。」 「こんなに、きれいなのに。」 「私、もう少し胸が大きかったら良かったのに。」 「女の子って、みんなそんな風に言うよね。なんでかな。こんなにきれいなのに。僕の妻も、よくそう言ってた。足がもっと細かったら。胸が大きかったら。お腹がぺたんこだったら。僕は、そのまんまの妻を愛してたのに。」
恥ずかしがる彼女をこちらに向かせると、僕は、そのいとおしい胸に口づける。
彼女は、耳たぶを染めて、吐息を吐く。
職場では元気なお姉さんといった感じの彼女は、意外にも、瞳を揺らして恥じらうのだった。
彼女の白い脚が僕に遠慮がちに絡みついてくるのを抱きかかて、「僕はなんてずるいんだろう。」と、考えてながら、彼女の細い声が響くのを聞いていた。
汗ばんだ僕にタオルを差し出しながら、 「ねえ、奥さん、ね。あなたのことすごく愛してたんだと思うよ。」 と、言う。
「どうして?」 「女の子が、もっと胸が大きかったら、足が細かったら、って、好きな人に言う時ってどんな時か分かる?もっと、胸が大きかったら、足が細かったら、もっともっとあなたに愛してもらえるのに、って切ないくらいに想ってる時なのよ。」 「そうなの?」 「少なくとも、私は。」
彼女は微笑む。
「一緒に暮らしてても、知らないことが多過ぎた。」 「今からでも、遅くはないんじゃない?」 「そうかな。」
今だって。ほら。ようやく気付いた。本当は、妻のことなんか口実で。
彼女の、僕の手の平にすっぽりとおさまる乳房が、今の僕にはなんだか丁度いい大きさの気がして、その柔らかな重みをいつまでも量っていたいのだった。
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