セクサロイドは眠らない

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2002年02月25日(月) 彼女の手が、白い指が、僕の体をやさしく這うと、僕は心の奥まで見せてしまいたくなる。

僕は、気付くと裸だった。

僕は、裸で震えていて、彼女は、それに気付いて、ブルーのローブを渡してくれた。
「あなたの瞳の色に合ってるわ。」

僕は、それを羽織って、少し落ち着く。

「どう?」
「うん。なんだか、頼りないや。」
「でしょう?人間ってね。裸でいると、本当に弱いものなのよ。爪も歯も、相手の体に傷を付けるには大して役に立たないの。」

僕があんまり震えるので、彼女は僕を膝に載せて抱き締めてくれる。僕の震えは次第におさまる。

「そうそう。慣れて来たでしょう?」
「うん。」
「そのうち、もっと慣れるわよ。体が剥き出しな分、心が感じ易いの。」

僕は、目を閉じて、彼女の膝に頭を載せる。

彼女は、この上なくやさしく僕の背中を撫でる。

「何か、思い出しそう。」
と、僕はつぶやいた。

「どんな?教えて。」
「分からない。とても小さい頃のこと。まだ、兄さんや姉さんと一緒に、いつも遊んでいて。」
「それで?」
「ママがいた。僕は、時々ママから怒られてたけど、体をきれいにしてもらって、一緒に眠ったりしてた。」
「素敵よ。もっと教えて。」
「でも、僕は一番小さかったから。」
「ええ。」
「ある日、木に登った。兄さんみたいに、高いところまで登りたかった。」
「分かるわ。」
「それで、降りることができなくなって。泣き出した。泣いても泣いても、僕の声は小さくて、なかなかみんなのところにまで聞こえなかった。だから、僕は、自分で飛び降りようとしたのだけど。こわくて。こわくて。」

僕は、今、何を言おうとしてるんだろう。子供の頃の勇敢でなかった話なんかするつもりじゃなかったのに、彼女の手が、白い指が、僕の体をやさしく這うと、僕は心の奥まで見せてしまいたくなる。

「そうそう。それでいいの。思い出したことを、教えて。」

彼女が僕の顎から喉をやさしく撫でると、僕は思わず体をそらして吐息をつく。

「それから、川に落ちたことがあった。」
「あらら。」
「僕は、ずっと遠くに冒険しようと思って、気が付いたら川の向こうまで行っていた。」
「えらいわ。」
「僕は、最初は、そんなに遠くまで来たと思ってなかったんだ。前しか見てなかった。後ろを振り返るまでは、何も不安じゃなかった。戻る時のことなんか考えなかった。」
「でも、不安になったのね。」
「うん。ママが、岸の反対側から僕を心配そうに呼んだんだ。途端に、僕は怖くなった。川は、とても大きくて。僕には戻る道が分からなかった。僕は、ママのところに戻りたくて慌てたから川に落っこちてしまったんだ。」

彼女は、小さく、悲鳴すら上げた。

「それで?大丈夫だったの?」
「うん。溺れそうで苦しかったけれど、ちゃんとママのところまで泳いで行けたんだ。」
「そう。頑張ったのね。」

彼女は微笑んで、あの時、岸の反対側で待っていてくれたママのように、僕を抱き寄せて僕の鼻に唇をつける。

僕は、大満足だった。

僕は、完全に、彼女に身を任せ切っていた。

だが、どうしたのだろう。僕を抱き締める彼女の喉の奥から、「ひく、ひく」と音がしていたかと思うと。途端に、彼女は、笑い出す。大声で。お腹を抱えて。

「あは。あはは。」

僕は、いきなりで、むっとする。
「何?どうしたのさ?」
「あはは。ごめん・・・。」

彼女の笑いはおさまらなくて、息をするのさえ苦しそうだ。

僕を馬鹿にしているの?

僕は、むしょうに腹が立って、彼女に飛びかかって行く。

--

私は、彼を子猫の姿に戻す。

退屈だったから、子猫にちょっとした魔法を掛けていたのだ。

真っ白いフワフワの毛に、ブルーの瞳。

なんて愛らしい。

そうして、私は、今、彼の告白におおいに笑っている。まだおさまらない。

彼が、怒って、私の指に齧りついている。その爪は、私が綺麗に切っているので、私の肌に薄い跡をつけることしかできない。

指が。熱くていとおしい。

私は、まだ笑っている。目の前にいるものが、あまりに愚かで、純真で、精一杯で、手の平に納まるほど小さく、愛らしい容姿をしている時。人間というのは、ひどく残酷にそれを笑い飛ばして愛することもあるのだ。

私は、まだ、笑っている。私の笑いは止まらない。

あの頃の私は、いつもこんなだった。あの人はいつだって大笑いしていた。私は、そんなあの人の指に齧りついて、泣いてばかりいた。


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