セクサロイドは眠らない

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2001年11月21日(水) 会いたい、と思うには、僕達は会い過ぎだった。好きだと、思うには、僕達は抱き合い過ぎだった。

庭にいたカタツムリを拾って、ガラスコップに入れた。

ゆっくり這い上がるのを見ていた。

そうやって、何時間も、じっとカタツムリと遊んで、日曜の午後は終わってしまった。

夜、彼女からの電話。

「ねえ。今日、何してたの?」
「別に、何も。」
「え?うそ。ずっと家にいたの?」
「うん。」
「ひどーい。会えないって言うから、てっきり忙しいのかと思ってたよ。」

そう。忙しかった。カタツムリを眺めるのに忙しかった。

--

彼女は、怒っている。

「あなたが、このところ私と会いたがらないから、私もあなたの迷惑になっちゃいけないと思って、我慢してたのに。」
と。

会いたい、と思うには、僕達は会い過ぎだった。
好きだと、思うには、僕達は抱き合い過ぎだった。

でも、そういうことって、多分、僕は彼女にうまく言えない。

ひっきりなしにお笑い番組で笑って、ひっきりなしに年末に向けてのクリスマス・ソングで切なくなって、ひっきりなしに子供や動物が出てくるドキュメンタリーで泣いて、ひっきりなしに「好きよ」と抱きついてくる。そんな彼女は可愛いと思っていたけれど。

--

「ねえ。カタツムリは、本当は雨が嫌いなんだって。」
僕は、言う。

「え?そうなの?」
「うん。雨が降ってね、体が水に濡れちゃうと息をするところがつまっちゃうから、雨が降ると、高いところに登って息ができるようにするんだって。」
「へえ。全然知らなかった。雨が好きなのかと思ってたわ。」

そう。カタツムリは、雨が好きじゃない。僕だって独りは好きじゃない。だけど、息ができなくなるから。

「僕達、しばらく会わないでおこう。」

彼女の涙は、雨のように僕を息苦しくさせた。

--

それから、平穏な日々。

ひっきりなしの電話から解放され、日曜日は誰に言い訳する必要もなく家でのんびりと過ごせる。

だけど。

あれ?

今日は、何月だっけ?

そう。この間までは、彼女が僕に季節を運んでくれた。

急に、僕は自分の居場所が分からなくなる。

--

電話のベルが鳴る。

「やっぱり、電話しちゃった。」
彼女の声。

「おいでよ。」
と、僕。ワインを用意して待っておくから。

久しぶりに訪れた彼女を、僕は出迎える。

「ねえ。どうしてた?」
彼女が、聞く。
「何も。時は、あんまりにもゆっくり進んでいて、実際、僕は止まったままみたいだった。」
「早くしよう。」
「ん?」
彼女は、恥ずかしそうに、僕の手を引いて、ベッドまで誘う。相変わらず、せっかちだ。

「お腹空いてないの?」
「ペコペコよ。」
彼女は、笑って、僕の唇を、耳たぶを、齧る。
「ずっとお腹空かせてたのよ。」
僕は、みるみるうちに、食べられる。僕も、彼女に入り込む。暖かい体の中で、僕は、ようやく、深く大きな呼吸ができるようになった。

僕は、生まれ変わったら、カタツムリになりたい。
カタツムリ速度で歩いてくれる誰かと一緒にゆっくり歩きたい。

ずっとそう思っていた。

でも、本当は、多分、僕は大空を飛ぶ鳥に憧れる。そうして、ぼーっと空を見上げていると、あっという間に鳥に食べられちゃうんだろう。

って、分かった。


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