セクサロイドは眠らない

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2001年11月20日(火) 捨て去られた思い出があんまり悲しそうなので、涙が出そうになることもある。

僕は、飼い犬。

僕の飼い主は、冷たい人形。

なんで、人形に飼われているか、僕にはいきさつが分からない。物心ついた頃には、彼女に飼われていた。他の犬みたいに、自分の主人に鼻をくんくん鳴らして甘えてみたいけれど、それはかなわない夢だ。

僕は、ガラクタを拾ってくるのが趣味だ。僕の鼻は、ガラクタを見つける。と言っても他の犬と少し違うのは、僕が、思い出を嗅ぎ分ける鼻を持っているということ。思い出の中から、素敵なものだけを選り分けて、その思い出の主のところに届けることもある。捨て去られた思い出があんまり悲しそうなので、涙が出そうになることもある。もっとも、犬は泣いたりしないけれど。

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今日は、黄色い幼稚園カバンを見つけて、その思い出に出てくる人が、隣んちのおばさんだと気付いた。僕は、そのカバンを咥えて、隣の家に行く。

「あら。あらあら。どうしたの?あなたお隣の犬ね。」

それから、僕の咥えたカバンを見つけて、はっとしたような顔になり、しゃがみこむ。

「そうね。そうだったわね。」
彼女は、急に涙ぐむ。

思い出は、幼い日々。小さい子供の手が母親の手にしがみついている。彼は、その、ふっくらとした柔らかい手に向かって、一生懸命、今日一日の出来事をしゃべっている。

「あの子。もう、東京の会社に就職してから一回も電話して来なくて。もう、親のことなんかどうでもよくなっちゃったのね。なんて主人と話してたのよ。」

彼女の暖かい手が、僕の背中をそっと撫でている。

「このカバンをかけていた頃が良かったなんて言わないわ。きっと、あの子があんなに大きくなってしまった事を喜ばないといけないのよね。」

彼女は、カバンを大事に抱えて立ち上がる。

「でも、今日、電話してみるわ。」

--

今日は、千代紙がたくさん詰まった煎餅の缶を見つけて、それを、近所の中学生の女の子のところに持って行く。

「やだーっ。」
彼女は、僕を見て、急に叫ぶ。

「これ、捨てたのよ。何で拾ってくるのよ?」

僕は、彼女の顔をじっと見上げる。

思い出は、友達の女の子と遊んでいる光景。女の子は、友達が持っている美しい千代紙が欲しい。友達が見ていない隙に、そっと手を伸ばし、クッションの下に隠す。帰り際、友達が騒ぎ出す。彼女は、一緒に探すふりをするが、それはとうとう見つからない。

「どうしても欲しかったんだから、しょうがないじゃない。」
僕に向かって、彼女は泣きそうな顔で言う。

あれから、友達とは、以前の通り仲良く遊んでいるけれど、彼女の心には小さな重石が乗っかったまま。結局、彼女は、千代紙を入れ物ごと捨ててしまった。

「でも。でも。あたし、ちゃんと言わなくちゃ。」
そう言って、彼女は駆け出す。

--

雨が降っている。

雨の日は、思い出が一段と匂い立つ。

僕は、雨の中出掛ける。

僕の主人は何も言わない。

河原に埋まった包み紙が破れて、オルゴールが顔を覗かせているのを見つける。

思い出は、些細な喧嘩。悲しいことを伝えられない日々。かたくなな心。彼女を思う気持ちは募るけれど、彼女は受け入れない。電話から流れるのは、いつも、留守番電話のメッセージ。彼女の部屋に行って、彼女を抱き締めればいいのかもしれないが、できない。

僕は、そのオルゴールを、主人のところに持って行く。

彼女は、黙って破れた包みを取り去り、ネジを巻く。蓋を開けると、鳴り始めるやさしい曲。カードには、彼女の名前。彼女の指にぴったりな指輪が、一つ。

人形に、血が巡り始める。鼓動が響き始める。頬に涙が伝わる。

人形は、いや、僕の主人は、濡れた僕を抱き締める。そんなことすると、汚れちゃうよ。僕は、彼女に鼻をこすりつける。

僕は、バスルームで洗ってもらって、乾いたタオルで拭いてもらう。

僕は、ソファの足元に寝そべる。

彼女は、受話器を取り上げる。

僕がやっていることは、ただのお節介。時々、嫌な犬ね。と言われるが、今日はそうでもなさそうだ。


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