セクサロイドは眠らない

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2001年11月18日(日) そうして、今日は、私の誕生日。私は、とうとう。あまりにもあなたを待ち過ぎて、人形になった。

明日は、私の誕生日。

あなたと最後に過ごした誕生日から数えて、何年目かしら。

あの日。あなたは、私と一緒に過ごせる日の事を喜んでくれて、それなのに、翌朝突然いなくなった。

今でも思い出す。

「歌、歌ってくれよ。」
あなたは言う。

歌だけが私の取り柄だから、私は、あなたのために歌った。

「うまいもんだ。俺だけが聞くにはもったいないくらい。」
「いいえ。あなただけに聞いて欲しいの。」

彼は、微笑んでいた。安物のワインだったけど、気持ち良さそうに酔って。

それなのに、どうして次の日いなくなったのか。今でも分からない。そのうち帰ってくるんじゃないかしら。最初の頃はずっとそう思っていた。あなたの気に入りの服が持ち出されている事にも、気付かないようにしてそっとクローゼットを閉めた。でも、あなたは帰って来ない。どこで何をしているのか。

ただ、あの日、普段なら私が歌うと「良かったよ。」って抱き締めてくれるのに。あの日だけは、「もう一回歌ってくれよ。」と言って、目を閉じて、じっと聞き入って、それから、私のことを抱き締めることはしなかった。

--

あんまり長いこと、私は待ち続けた。もちろん苦しかった。だけど、彼が戻って来た時、私を見つけられないと困るから、私はじっとその家で待った。気が変になりそうだったけれど、待った。あなたばかりが男じゃないと、何度思おうとしたか。それでも、無理だったので、待った、そうして祈った。私があまり変わり果ててしまわないうちに、おばあさんになってしまわないうちに、あなたが私を見分けられるうちに、早く帰って来てと祈った。

--

そうして、今日は、私の誕生日。

私は、とうとう。

あまりにもあなたを待ち過ぎて、人形になった。

人間らしく笑うことも、怒ることもない。

ただ、じっと。そのままの姿であなたのことを待つ人形。

歌を歌う。あなたが、あの日歌ってくれよ、と言った歌。これからは、一年に一度、私の誕生日に、歌を歌うことでしょう。

--

その家は、ツタに覆われて、もう、ドアの場所さえ分からないくらい。

時折、歌声が響くという噂が立ち、近所の子供達から「お化け屋敷」と怖がられていた。

たまたま、迷い込んだ少年達の耳に、低く美しい歌声が届く。

「うわっ!」
一人の少年がしりもちをついた。

別の少年が、
「本当にお化けがいるんだ!」
と叫んだ。

「早く帰ろうよ。」
と、少年達は口々に叫んだ。

一人の少年は、
「僕は、もう少しここにいる。」
と言って、そこに残った。

ああ。なんてきれいな歌声だろう。やさしくて、物悲しい。もう少しだけ、この歌を聴いていたい。パパはとっくにいなくなって、ママは仕事で帰宅が遅い。あの家はとても寒いから。

みんなは、この歌声が怖いって言うけれど。僕は、もう少しこの歌を聴いてから帰るよ。


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