セクサロイドは眠らない

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2001年10月23日(火) 美しい悪魔のレシピ

その美しい少女は、いつもまっすぐに前を見つめ、まさに存在そのものが、正義であり、強さであり、美しさであった。しがない個人塾を経営している私は、場違いなほど美しいその少女が部屋に入ってくるだけでどぎまぎとしてしまうのだ。他の生徒もそうだった。人は、あまりに人間離れした美しさの前には、ただ畏怖を感じるのみである。

多分、そのあまりに美しい少女は孤独であっただろう。だが、そのせいで、尚、その美しさは強いものとなるのだった。金持ちの父親と、すばらしい美貌は、だが、決して彼女の人間性を損なうものではなかった。彼女は自らの美しさに応えるように、必死で勉強し、心優しくあろうとしたのだ。私は、自分より遥かに年下の彼女を、人間として尊敬していた。ただ、目を奪われるのだ。奇跡を見ていたいのだ。その宝石は、何にも汚されないように守りたいのだった。

--

ある夜、授業が終わって、生徒達を送り出した後、一人の少年が立っているのに気付いた。

どこかで見た?

「きみ、何か用かい?」
「ねえさんのお気に入りの先生を見に来たんだよ。」
「もしかして、彼女の双子の弟かい?」
「そうだよ。一卵性。良く似てるだろう?中身は違うけどね。」

ああ。だから、どこかで見た顔だと思ったのだ。だが、少年と少女という違いだけではなかった。姉のほうが美しく真っ直ぐな黒髪を垂らしているのに引き換え、弟のほうは、フワフワと踊るような髪を金色に染めている。
「似てないな。」
「でも、顔は一緒だよ。」

ニヤリと笑う。その邪悪な微笑みに、僕はドキリとする。同じ顔の筈なのに、彼の微笑みは何とエロティックなのだろう。

「じゃ、ね。また、遊んでよ。」

--

その踊るような金髪は、それからというものことごとく目に付くようになった。地元の不良達と一緒に、煙草を吸い、酒を飲む。

姉のほうが僕に言う。

「弟に会ったのでしょう?」
「ああ。最初は誰か気付かなかった。」
「昔はいい子だったのに、いつの間にかあんな風になってしまったんです。」
「顔は一緒の筈なのに、全然違うね。」
「ええ。」

彼女は、ため息をつき、テキストをしまう。

--

夜、アパートに帰る道で、僕は、フワリと誰かに抱きつかれて、驚いて叫ぶ。

「僕だよ。大声出さないで。」

双子の弟クンだ。

「飲んでるのか?」
「うん。家にいられなくて。飲まずにいられない時ってのは、子供にだってあるんだよ。」

彼が吹きつける息が熱い。

「酒臭いぞ。」
「堅いこと言わないで。」

彼は、そのまま、絡めた腕に力を入れて、僕に口づけてくる。僕は驚いて彼を突き離そうとするけれど体が動かない。何と邪悪な。天使と悪魔の双子は、どこまで僕を振り回せば気が済むのか。僕は、その若い魅力に逆らえずに、彼の唇を受け入れる。

「先生、ねえさんじゃなく、僕を見てよ。」

何も言えないで立ち尽くしている僕に、彼は笑いかけてどこかに走り去ってしまう。

--

その、性悪な弟は、僕が逢いたくて身もだえしているのをあざ笑うように、時折フラリとやってくる。こんな子供一人に何を振りまわされているんだろう。双子の姉にはカケラも存在しない、匂い立つエロスを身にまとって。

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ある夜、僕のアパートをノックする音。

また、その小悪魔が僕をからかいにやって来た。

「どうしてここが分かった?」
「好きな人のことなら、何だって分かるんだよ。」

彼は笑う。僕に抱きつく。びっくりするくらい強い力でしがみついてくる。

「ねえ。抱いてよ。」
「抱いてって?」
「こうやって、強く。」
「僕のこと、馬鹿にしてるだろう?」
「何言ってるんだ?」
「ねえ。僕のこと、本気で考えてくれてないだろう?みんなそうだよ。ねえさんのことは誰も傷付けない。みんなして守るんだ。でもね。あの美しさはどこか人をおかしくする。ねえさんに近付き過ぎると、あの美しさを傷付けたくなるらしい。で、どうすると思う?」

彼は、シャツを脱ぐ。

赤いミミズ腫れが、幾筋も走っている。

「ねえ。僕は代用品じゃないよ。僕は、僕だよ。」
「分かってるよ。」

しがみつく細い腕。もう、決して振りほどくことはできない。彼の金髪が、泣いているように震える。瞬間、少年が天使に見える。

本当は、どっちが天使でどっちが悪魔なのだろう。

美しい悪魔はどうやって生まれて来た?純白無垢な白い羽、闇に溶けゆく赤い涙。

それはそれは悲しいレシピ。


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