セクサロイドは眠らない
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2001年10月17日(水) |
何でも見たものを信じるのは良くないわ。それは自分の妄想が生み出したものかもしれないのに。 |
「ねえ。あの人、だれ?すごくきれい。」 「さあ。転校生じゃない?」
私は、その美しい黒髪に、しなやかな手足に、見ただけで胸がときめく。
「あら、女に興味があったっけ?」 「そういうわけじゃないけど。きれいなものはきれい。見惚れちゃうわ。」 「それよかさ、今度の化学の教師、ちょっといい感じねえ。」 「そうかしら?」 「あたしの好み。」 「ふふ。相変わらずね。」 「じゃ、あたし、今日部活のミーティングがあるから、さき帰ってて。」
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下駄箱で、彼女に出会う。私を見て微笑む。
「あなた、隣のクラスでしょう?一緒に帰らない?」 「ええ。」 「まだ、お友達がいなくて。この前、リョウコさん?あなたの友達。彼女とあなたが同じ方向に帰ってるの見かけたわ。」 「じゃ、同じ方角?」 「そうみたいね。」
彼女の顔が動くたびにその髪の毛がサラサラと揺れる。カラスの濡れ羽色とはよく言ったもので。彼女の美しい顔を更にその黒髪が引き立てる。
「きれいな髪ね。」 「ふふ。ありがとう。この髪のおかげで、随分得したわ。」 「見惚れちゃう。」
そう。私はなぜか彼女から目が離せない。
別れ際、彼女は私の指先を握って言う。
「ねえ。お友達になってくれる?私のこと、アサミって呼んで。」 「ええ。」 「それにしても・・・。」 「え?」 「目は罪深いわね。人の心をもてあそぶわ。人は何でも目で見たものを信じてしまう。そうして、それが真実だと勝手に思いこむ。そうでしょう?」 「言っている意味が分からないわ。」 「ふふ。ごめんね。あなた、今日校舎からずっと私を見てたでしょう?」
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「ねえ。あのアサミって女、嫌い。」
あらら。またリョウコの「あの女、嫌い」が始まった。
「なんで?」 「だって、先生もアサミにばかりかまって。」 「しょうがないわよ。あれだけ人目を引くし。何より、勉強ができるんだから。」 「なんか気に入らない。今日だって職員室でずっとあの女が先生のことつかまえて話してるんだから。」 「じゃ、リョウコも化学、もうちょっと頑張ったら?」 「だって、苦手なんだもん。」
その日から、リョウコの妄想は激しくなる。アサミを憎み、化学教師に付きまとう。
「ねえ。よしなさいよ。先生、困ってるわよ。」 「いいじゃない。アサミばっかり可愛がるなんて許せないもの。」 「リョウコ、あなた最近おかしくなっちゃたね。」 「そうかしら?アサミと陰でコソコソ仲良くしてるあなたのほうがずっと嫌なやつだわ。」
私に言葉を投げつけると、リョウコは化学教師に会いに準備室のほうに行ってしまった。
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「遅かったわね。」 もう、外は薄暗い。準備室に行ったきりのリョウコが心配で、戻って来るのを待って声を掛けた。
「ねえ。今ひどいもの見てたの。」 「なに?」 「先生がね。あの女と。」 「あの女?」 「アサミと。」 「どうしたの?」 「抱き合ってた。あの白い体。黒い髪。悪魔だわ。」 「何言ってんのよ。早く帰ろう?」 「あの女が先生をおかしくしちゃったのよ。殺してやりたいくらい。」 「リョウコ、ねえ、落ち着いてよ。」
リョウコはフラフラと走り出す。
ねえ。待って。あなた、何を見たの?
リョウコの悲鳴が聞こえる。慌てて裏庭のほうへ行くと、そこに、カラス。リョウコの頭上を舞う。血の流れる顔をおさえるリョウコ。なおも襲いかかるカラス。リョウコの目を狙うくちばし。
背後でアサミの声がする。
「ねえ。何でも見たものを信じるのは良くないわ。それは自分の妄想が生み出したものかもしれないのに。ね?」
じゃあ、何を信じれば?
振り返ってもアサミはいない。
私はカラスの羽を拾い上げる。
人は容易く信じる。私だって、愚かにもあなたの美貌を信じている。目にうつるものが全てでないのなら、目にうつらない何を信じれば?
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