セクサロイドは眠らない
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2001年10月18日(木) |
彼女の唇は燃えるように熱い。パジャマ越しに乳首を噛むと彼女が小さくうめく。 |
「もう、こんな時間か。そろそろしまおうじゃないか。」 ふと気付くと、彼女と私だけが残っていた。
「週末なんだし、たまにはきみも早く帰りなさい。」 「はい。」
固い表情。気の強い女。
気まぐれに誘ってみる。 「どうだね?帰りに一杯やらないか?」
「いえ・・・。」 言いかけて彼女は 「やっぱりお付き合いさせていただきます。」 と言い直す。
「付き合ってくれるなんてめずらしいね。」 「ちょうど私も飲みたいと思っていたところですから。」
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駅近くの店に入ると、取り敢えず頼んだビールを飲み干して彼女はほっとため息をつく。
「酒、強そうだね。」 「そんなことないです。年々弱くなります。」 「きみが酔ったところを見てみたいなあ。考えてもみれば、きみとこうやって飲むなんて初めてだ。」 「あら。そうですか?私が酔ったところなんて、いつでも見られますわ。」 彼女は、くすりと笑う。
「やっと笑ったね。」 「え?」 「きみはいつも難しい顔をして仕事をしている。」 「そうかもしれませんね。」
途中からワインに切り替えた彼女は、グラスを重ねるごとに表情をほぐして行く。
「仕事中のきみとは別人のようだな。そのほうがずっといい。」 「あら。口説いてるんですか?」 「かもな。」 「部長は、あまり変わりませんね。」 「美人を前にして飲んでいると、酒じゃないものに酔っちまう。」
彼女は、もうすっかり出来あがってるのか、笑い転げている。
「ひとつ聞いてもいいかな?」 「なんでしょう?」 「なんで離婚したのか、教えてもらってもいいかい?」 「離婚、ですか?そうですね・・・。部長は?結婚生活って楽しいですか?」 「そうだなあ。いいこともあれば、うんざりすることもある。ごく普通だよ。」 「私も。私も、ごく普通の結婚だったんですよ。なんていうかな。握力が足らなかったんでしょうね。ちょっと面倒なことがあるとぐっと握っていられずに、手放しちゃった。それだけのことなんですよ。」 「そうか。」
そろそろ終電の時間だから、と、店を出る。
「今日はごちそうさまでした。」 くるりと背を向けて去っていく彼女の背を、今日はこれ以上誘うまい、と、見送る。
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翌日、彼女は、また、固い表情の女に戻って、てきぱきと仕事を片付けて行く。また飲まないか、と誘うきっかけもなく、日々は過ぎて行く。
そんな彼女がめずらしく仕事を休んだので、気になって電話を掛ける。
「どうしたんだね?」 「あ。部長。申し訳ございません。」 「欠勤なんかしたことないから、心配じゃないか。」 「ちょっとこのところ、微熱があって。」 「そうか。で?病院は行ったの?」 「行ってないんです。」 「行かなくちゃ駄目じゃないか。」 「ええ。そうなんですけど。」 「今日は?何か食べたの?」 「いいえ。」 「そりゃ良くないな。今から何か買ってそっちに行くから。」 「そんな・・・。」 「駄目かな?」 「いえ。いらしてくださったら嬉しいです。」
私は早めに仕事を切り上げて、彼女のアパートに向かった。
パジャマを着たまま玄関口に出た彼女は、少し赤い頬をしている。
「どうなの?」 「大したことないと思うんですけど。ずっと熱が続いてるから。」 「そりゃ、まずい。とにかく、座りなさい。」 「ええ。」
ソファに座った彼女は、そっと私の肩に頭を持たせかけてくる。
「明日は、病院に行くんだよ。」
ふと見ると、彼女は泣いている。 「怖いもの。ずっと一人でやって来たのに。本当は病院に行くの、怖いんです。部長は、私が強い女だって思ってるでしょう?ぜんぜん、そんなことないんです。」 「分かっているよ。だから、今日だって心配して来たんだ。」
私の手が彼女の華奢な手を包む。
少し熱っぽい彼女が、身を寄せてくる。 「体にさわるよ。」 「いいんです。」
彼女の唇は燃えるように熱い。パジャマ越しに乳首を噛むと彼女が小さくうめく。細い体がしなり、白い足が私に絡みついてくる。
「ねえ。」 「ん?」 「私を壊して。」 「ああ。」 「元に戻れないくらい、めちゃくちゃにして。」 「分かってるよ。一緒に、どこか行こう。もう、戻って来られなくていい。」
細い腕がしがみついてくる。泣き声のような声が長く響く。か細い悲鳴と同時に、彼女がきつく私の腕を掴む。
「手を離さないで。ぎゅっと握ってて。ここにあるものがどこかに行ってしまわないように。」 彼女の手が、子供のように私の手を求めてくる。
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翌日、彼女のアパートを訪ねるが、誰も出ない。
後ろをすれ違った住人が 「引越して行かれましたよ。」 と、教えてくれる。
私は、体の力が抜けたようになり、そこに立っていられなくなってしまう。
「離さないで」と言ったのはきみじゃないのか?
だが、しかし、心のどこかで私の嘘を、きみは知っていたのかもしれない、と思いながら、アパートの階段を降りる。今の結婚生活を握った私のこぶしは、あまりにも固く結ばれていて、ほんとうはどこにだって行けないのだろうから。
それでも、一瞬掴んですり抜けていったそれがあまりに大きな穴を残して行ってしまったことに、少し泣く。
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