セクサロイドは眠らない
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2001年10月16日(火) |
男が、私に子供を産んでくれ、と言った時、それはかなわぬことだと分かって、静かに首を振った。 |
その時も、私は大きな光を作り出していた。その瞬間の孤独で胸ときめく気持ちを、どう伝えようか。
そうして、宇宙に新たな星がまた一つ生まれる。
遠く離れた場所で、会話が聞こえる。
男の子が泣いている。母親が抱き締めて、低い声で話している。 「ほら。今、新しいお星さまが空に生まれたよ。あれはきっとパパの星よ。ああやって空から見ていてくれるのよ。」
私は、一仕事終えて、その会話に耳を傾ける。
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私は、生まれた時から、長い長い時間、こうやって星を作り出す民として、宇宙をさまよっていた。凍てつく空を、たった一人で。それはとても寂しくて、昔は耐えられないほどの孤独に胸が潰れてしまいそうだったけれど。いつからか、もう、自分がこうやって光を生み出している理由も、何も考えなくなった。
それでも、あまりに寂しくて、一度だけ人間の男と暮らしたことがある。自分が生まれ育った冷たい空を捨てて、乾いた大地に降り立ち、一人の男と出会った。男は、私がどこから来たか聞かなかった。私も、どこから来たとも言わなかった。ただ、一目見た時から一緒に暮らすことを決めて。私は男と畑を耕し、作物を育てた。誰かと一緒にいることの幸福を知り、私は空に戻れないと思い始めていた。
だが、男が、私に子供を産んでくれ、と言った時、それはかなわぬことだと分かって、静かに首を振った。
「どうして?」 男は、悲しい目をして訊ねる。
「それは無理な話。」 私は、空を見上げる。果てしのない空を。
人間の生涯はあまりに短く、すぐに尽きてしまう。それに比べて、星作る民の命は長い。星よりも長い。私は、愛する男と愛する我が子の消えゆくさまを見る勇気がなかったのだ。
男を置いて、私は去る。
また、孤独に戻る。
男のために、新しい星を作る。あたたかくて小さな星の光に、ほんの一瞬手に入れた愛を封じこめて、空に送り出す。
人が楽器を奏でるように、歌を歌うように、私は光を生み出さずにはいられない。
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だが、私の命とて、いつかは尽きる。
私は、自分の力が衰えたのを感じ、その準備を始める。最後に、自分の命を封じこめて、光となろう。無数の輝く星の一つとなろう。
残っている全ての力を注ぐ。
私の体内で、その永遠とも思えるような長い歳月を封じこめた魂が炸裂する。
そうして、私も星となる。これからは、ここが私の住み場所。
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「ねえ。パパ。新しいお星さまだよ。だいだい色の。」 「ほんとうだね。やさしいあったかい光をした星だね。」 「ねえ。パパ、人は死ぬとお星さまになるって本当?」 「ああ。ほんとうだ。」 「じゃあ、もし、パパやママや僕のうち誰かが死んでも、空からずーっとみんなを見ていられるんだね。」 「そうだよ。」
私は空にいて、届いてくる声に耳を傾ける。
永遠だとか、生きてきた意味だとか、幸福だとかについて、考える。
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