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セクサロイドは眠らない
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| 2001年10月15日(月) |
私、本当に、手紙に恋していたのに。この手紙を書く人を、本当に愛していたのに。 |
「ねえ。僕の代わりに、僕の新しい妹に手紙を書いてくれないか。」 と、その美貌の息子は私に言う。
足を引きずってあるく、醜い私は、お仕えしていた奥様が後妻として嫁いだ先で、その美貌の青年と遭ったのだ。奥様のたった一人のお嬢様は体を悪くして療養施設に入っている。そのお嬢様に、手紙を書けと。
「何でも、妹が大きくなったら、僕の花嫁になるらしいからね。愛情たっぷりの手紙を頼むよ。僕に恋をするような。」 「分かりました。」
この屋敷は広過ぎる。この、悪い足では、どこに行くのもひどく時間がかかる。夜になると、旦那様の目を盗んで奥様と、美貌の息子の笑い声が響く。私は部屋に戻り、手紙を書く。愛を込めて。そう。愛を。お嬢様の愛らしい笑顔を思い出しながら。それだけが私の喜び。
すぐに返事は来る。
「おにいさま、お手紙ありがとう。新しくおにいさまができたと、ママに聞いて嬉しくて眠れませんでした。ここは寂しいです。お友達もいない。早く体が良くなって、ここを出られるといいです。」
私は、兄として、手紙を書く。美貌の写真を添えた手紙を。ああ。これだけ美しければ、私だって愛の言葉が書ける。こんなに美しければ、口をついて出てくる言葉を誰も笑ったりはしないのに。
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「おにいさま、早く逢いたいです。私、昨日で15の誕生日を迎えました。おにいさまが送ってくれたドレスを着て撮った写真を送ります。16になったら、おにいさまのお嫁さんになっても恥ずかしくないような素敵なレディになりたいです。愛するおにいさま。おにいさまの手紙を読んで、元気になろうと思ったんです。手紙でしか知らないのに、おにいさまのことが大好き。あと1年。あと1年したら逢えるのね。」
私は、その手紙を、息子のところに持って行く。
添えられた、バラ色の頬の美しい娘が、あの小さかったお嬢様?私は、胸が高鳴る。息子は、その写真を見て、満足そうに微笑む。
「僕の可愛い花嫁は、もう、僕にぞっこんのようだね。本当にきみはよくやってくれるよ。」
私は床に投げ出された手紙を拾う。
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美しいきみ。僕の心の全て。もうすぐ、きみはここに来る。そうして、僕を見て嫌うだろう。醜い私を見て。それまで、もうしばらく、僕は恋される男のふりをして手紙を書く。
本当のところ手紙を読んで何が分かるというのだ?きみが恋したのは、本当は手紙じゃなくて、写真なのに。幾通もの手紙から、きみは何を読みとっているのだろう?
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そうして、もうすぐお嬢様の16の誕生日が来る。
婚礼の準備が整えられる。
手紙の束を手に、私は、自分の役目が終わったらどうやって生きていけばいいのだろうと考える。長い日々、手紙を書くことで、ようやくこのつまらない人生にしがみついていたというのに。
彼女が乗った車が、屋敷に到着した。花のように美しく、目をきらきらと輝かせて。その潤んだ瞳が、美貌の息子をとらえると、微笑み、走って行って飛びつく。私は目を反らす。
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明日が婚礼という日、私は、屋敷の塔に上がる。生きる望みを失った今、私の命は続ける価値を失った。
だが、先にそこにいたのは、婚礼衣装を着た、明日の花嫁。
「おじょうさま・・・。」 「私、分かっていたわ。あなたでしょう?」 「ええ。すみません。」 「なんて愚かだったのでしょう。私も。そうして、あの人も。あなたも。」 「騙すつもりはなかったのです。」 「私、本当に、手紙に恋していたのに。この手紙を書く人を、本当に愛していたのに。でも、手紙だけでは何も伝わらなかったし、何も変えられなかったのですね。」
抱えていたリボンを巻いた手紙の束を、私に向かって投げ出すと、その花嫁はゆっくりと窓から身を投げる。月の光が凍るようにあたりを照らし、闇に純白の衣装がひらひらとゆらめいて、消える。
私は、手紙を拾い上げ窓の外をじっと見下ろして、そこから動けない。
失ったものは長い歳月。伝えられなかった心。
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