セクサロイドは眠らない

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2001年10月12日(金) これはどうしたことだろう。人形は愛らしく微笑む筈ではなかったのか?

生命維持装置につながれた娘の小さな体が痛々しい。顔は包帯で巻かれ、あの美しいきらきらと光る瞳を見ることはできないのだと思い知らされる。

「このままですと、」
医者がようやく口を開く。

「なんですか?」
「持って今月いっぱいでしょう。」
「そんな・・・。」

私は、ハンカチを握りしめる。

6歳の娘は、知人の家族に同伴されて一泊で遊びに行っていたのだ。事故が起こったのは、その帰り道。対向車が突っ込んできて、娘達が乗っていた車は横転した。私が病院に駆け付けた時には、もう、娘は昏睡状態だった。ああ。なんということが起こったのだろう。

「ねえ。ママ。」と、愛らしくよく動く口。

みんなから愛される、大きくて黒目がちの、瞳。

来年は、小学校に上がるから、と用意したランドセルが、部屋であなたを待っているのに。

「何とか方法はないんですか?」
「無理ですね。」

私は泣き伏す。

--

ロボットへの記憶の移植を提案された時、私は、それがいくら大金のかかることでもいいから、と、その話に同意した。

「時間が掛かることですよ。自分がもとの肉体を失ったことに関して、精神が対応するのはとても大変なことです。」
「分かってます。」
「まず、あなたが、お子さんを、ロボットなどではなく我が子として受け入れることが一番重要なことですが、これが一番難しいのです。」
「ええ。ええ。」

それでもいい。全力を尽くして、娘の心を回復させたい。

--

私は、動かぬ娘の体に語りかける。

もうすぐ、また、ママとお話できるわね。

アイコが大好きだった絵本、ママ持って来たわ。一緒に読みましょう。アイコはママの命。どこにも行かせないわ。

--

「よろしいですか?記憶の移植は完了しました。今から、この、新しいアイコちゃんとの対面ですよ。」

私はうなずく。

美しい、アイコとよく似た瞳を持った人形。今日からは、この子が私の娘。

技術者の手が、スイッチを入れる。

私は息を飲む。

途端に響き渡る悲鳴。アイコの声。

「ママ!ママ!目が見えないの。目が見えないの。真っ暗なのぉぉぉぉ。ママ、助けて。目が。何も見えないの。ここ、どこ?」

急いで抱き締めようとするが体が動かない。耳をふさぐ。これはどうしたことだろう。人形は愛らしく微笑む筈ではなかったのか?

終わるべき記憶は無理矢理目覚めさせられて、出口を求めて悲鳴を上げ続ける。


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