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セクサロイドは眠らない
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| 2001年10月11日(木) |
彼の腕が、私の体を引き寄せる。年下の恋人の激しい口づけに、私は、戸惑いを感じる。 |
幼稚園の保母をしていると、いろんな子に出会うのだけれど、シュウはどこか他の子と違う。どこが?と言われても、うまく言えない。シュウは、私にべったりとなついているのだけど、他の子の甘え方と、彼の甘え方はどことなく違うのだ。
「シュウくん、ママ、お迎え遅いね。」 私は、園児達が描いた絵を壁に貼る作業をしていた。そうして、一人だけ、迎えの来ないシュウがじっと私のほうを見ているのにイライラしていた。
「でも、僕、先生といられるから、嬉しいよ。」 その切れ長の目が、私に微笑みかける。
「先生、これ終わらせちゃうまで、ちょっと待っててね。」 「ねえ。僕、手伝うよ。先生に、絵を渡してあげる。」 「そう?ありがとう。」
早くおうちの人は迎えに来ないかしら。
「ねえ。先生?」 「ん?」 「僕、先生のこと、好きだよ。」 「わあ。ありがとう。先生もよ。」 「僕、先生と結婚したい。」 「ありがとねえ。シュウくんが大きくなっても、先生が一人ぼっちだったらお嫁にもらってちょうだいね。」
子供らしい台詞。子供にとって、最初に結婚を意識するのはやっぱり幼稚園の先生なのかしら?子供達から繰り返し聞かされる、他愛のない求婚。
「ねえ。先生。絶対だよ。」 「うん。」 「ねえ。先生。」 「なあに?」 「僕が死んだら、先生は悲しい?」 「そりゃ悲しいわよお。でも、シュウくんは死なないよ。こんなに元気でおりこうなんだもん。」 「ねえ。ちゃんと答えて。僕が死んだら、先生は泣いてくれる?」 「うん。だって、シュウくんが死んじゃったら、先生、お嫁のもらい手がなくなっちゃうもんね。」
そんな会話をしていると、間もなく母親が迎えにに来た。
私は、シュウを見送ると、ほっとして部屋を片付けた。
そのまま、週末は、シュウとの会話も忘れて、恋人とのんびりと過ごした。
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電話がかかってきたのは、月曜の早朝だった。園長からだ。
「先生のクラスのタキザワシュウくんが、池で溺れて亡くなっているのが発見されました。すぐ来てください。」
幼稚園に駆け付けると、たくさんの人。警察関係者。
「あなたが担任ですか?」 「はい。」 「念の為、あなたが週末どうやって過ごしていたか教えてください。」 「私ですか?友達が遊びに来て・・・。ねえ、シュウは殺されたの?」 「いえ。まだ分かりません。ただね。シュウくんの手には長い髪の毛が握られていたのですよ。ちょうどあなたの髪のような、長い、ね。」 「私、知りません。」 「ええ。分かってます。」
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あれから、私は幼稚園を辞めた。シュウの死は事故だということになった。誰も私を責めなかった。当たり前だ。私は、あの週末、シュウとは会っていないもの。だけど、私の髪の毛。どうして?
私は、あの時、泣かなかった。葬儀の席でも。
先生、僕が死んだら、泣いてくれる?
確か、シュウは、あの日そう言った。あれは偶然だったのだろうか?
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「どうしたの?」
私が暗闇でぼんやりしていると、彼が私の背中を愛撫してくる。
「なんでもない。」 「気になるなあ。」 「なんでもないわ。」 「じゃあ、こっち向いて。きみのきれいな顔を見せて。」
彼の腕が、私の体を引き寄せる。年下の恋人の激しい口づけに、私は、戸惑いを感じる。ずっと若い頃に、何かをどこかに置き忘れて来て、そのまま年取ってしまった女を、あなたはどうしてそんなに情熱的に愛することができるの?
「ねえ。僕を見て。目を反らさないで。」 「待って。ねえ。待ってちょうだい。一ヶ月前に知り合ったばかりのあなたに私の何が分かってると言うの?」 「全部。ずっと長いこときみを愛して来たから。」 「どういうこと?」 「僕、きみのこと何でも知ってるんだよ。ずっと一人でいたことも。ずっと悲しんでいたことも。」
彼は、私の体をすっぽりと包むように抱き締め、私は溺れそうな感覚にとらわれる。ねえ。あなた、誰?なんで私のこと知っているの?
「ねえ。僕が死んだら、きみ、泣いてくれる?」
彼の体が重さを増す。
私は悲鳴を上げる。
彼の体がぶよぶよと青白く光り、濡れた髪の毛が絡みつく。彼の冷たい手が、私の手首をつかむ。
ねえ。僕が死んだら、きみ、泣いてくれる?
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