セクサロイドは眠らない

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2001年10月08日(月) こんな希望のない世の中、耐えられないよ、と毒づいてばかりのあなた達に希望を。

「また、夕べ、帰ってらっしゃらなかったのね。」

家庭教師が、僕に言う。

「眠いんだ。放っておいてくれないかな。」
「いい加減になさらないと、おとうさまに報告しますよ。」
「どうぞ、勝手に。」

ドアが閉められ、僕は、久しぶりに安らかな眠りにつく。

--

ねえ。女の子達は、どうしてああも簡単に、「愛」だの「恋」だの「死んじゃう」だの「殺して」だの、口にするのかな。 僕は、夜な夜な、空っぽな女の子達を相手に、意味のない言葉の羅列にあくびを噛み殺す。

「ねえ。そんなに言うなら、きみの言うとおりにしてあげようか?」

あなたが付き合ってくれなきゃ死んじゃう、なんて言うから、僕はその通りにしてあげる。彼女の体を開いてみたところで、そこには「恋」なんてありゃしない。心なんてどこにあるんだろう。ただ、そこには血と肉が。死んじゃう、なんて言葉を簡単に言わせる「恋」って、一体なんだろう。僕は、むかむかする胃を抑えて、恋する体を切り刻む。

--

「もう、いい加減に起きてくださらないと。」

家庭教師が部屋の電気を点ける。

「もう、夜?」
「ええ。」
「今晩にも、おとうさまが出張から帰って来られますわ。」

美しい家庭教師。冷たい横顔。

「ニュース、見ました。」
「ふうん。」
「あれ、あなたでしょう?」
「さあ。」
「知ってるんですよ。」
「知ってたら、どうなの?」
「私が警察に駆け込むことも可能だってことです。」
「だから、勝手にすれば?それとも、僕が怖い?」

僕はニヤニヤしながら、家庭教師の華奢な手首を掴む。彼女は、一瞬、顔に怒りを走らせて僕の手をふりほどく。

--

空っぽの心。生きている理由なんか、微塵も感じられない、僕という存在。そんな自分に耐えられなくなるから、僕は、夜出かけて行く。何かがあるふりをして、笑い続けて、簡単に「恋」だの「愛」だのにしがみつく女の子達。みんなそんな生活を終わらせたがっているから、僕は、彼女達の言うとおりにする。

えーっと。僕に、性欲なんかないです。悪いけれど。僕はこんなにも空っぽで。そんな僕から何かを欲しがらないでください。その代わり、あなた達の希望をかなえてあげる。こんな希望のない世の中、耐えられないよ、と毒づいてばかりのあなた達に希望を。

--

「ねえ。」
僕は、家庭教師に訊ねる。

「恋って、なんだと思う?」
「その人の存在がなければ生きてゆけないと思う想像力じゃないでしょうか。」
「ふうん。あなたも恋をしたことがあるの?」

家庭教師は、さっと頬を染め僕をにらむ。

ママが、どっかの誰かを好きになったとかで、僕とパパを置いて出て行っちゃってから、パパがどこからか連れて来た身寄りのない女。この女は、パパに恋をしたのだろうか?

いつも、冷たい顔をして、僕に厳しい言葉を言う、この人なら恋なんかしないと思っていた。所詮は、恋だの、というタワゴトを口にする女の一人だったのかと思えば、突然腹立たしい気持ちがこみ上げてくる。

「馬鹿なことをおっしゃらないでください。」
家庭教師は、もとの冷たい顔に戻って、テキストを開く。

僕も、ほっとして、勉強に集中する。ああ。良かった。先生のことも、殺しちゃうかと思った。

今日も早く勉強を終わらせちゃって、夜の街に繰り出そう。

先生、そんな怖い顔して僕ばかり見ないでください。そんなににらんでると、なんだか、とても悲しそうにも見えるから。


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