|
セクサロイドは眠らない
MAIL
My追加
All Rights Reserved
※ここに掲載されている文章は、全てフィクションです。
※長いこと休んでいてすみません。普通に元気にやっています。
※古いメールアドレス掲載してました。直しました。(2011.10.12)
※以下のところから、更新報告・新着情報が確認できます。 →
[エンピツ自由表現(成人向け)新着情報]
※My Selection(過去ログから幾つか選んでみました) → 金魚 トンネル 放火 風船 蝶 薔薇 砂男 流星群 クリスマス 銀のリボン 死んだ犬 バク ドラゴン テレフォンセックス 今、キスをしよう
俺はさ、男の子だから
愛人業
DiaryINDEX|past|will
| 2001年10月06日(土) |
「あんた、最近笑わないね。」ママが、酔った目で、僕に言う。僕は、犬がしっぽを振らなくなる理由を知っている。 |
待つのは嫌いだった。
ママは、いつも夜になると僕の手を引いて、路地の奥の安アパートに行く。
「ここで待っていなさい」 と言って、錆びた階段をカンカンと上がって行く。
僕は、弱い明かりの街燈の下で、ママが戻ってくるのをじっと待つ。長い時間。僕は、退屈して、知っているお話を小さい声でしゃべってみたり。前は、あんまり長い時間待たなくちゃいけなくて、ママも恋しくて、ママが入っていったドアのところにそっと耳をつけたことがある。だけど、その時、ドアの向こうから聞こえてくるママの声は、あんまり悲しくて、怖くて、僕は逃げ出した。
もう、待ちきれないほど長い時間の後、ママはドアから出て来て、僕を見つけると嬉しそうに抱きついてくる。香水の匂いが、来る時より少しきつくなっているので僕は咳込みそうになる。それから、僕とママは、手を繋いで帰る。帰る時のママはちょっと嬉しそうで、僕は、随分待たされたことも許してしまうのだ。
--
今夜も、また。
僕は退屈して、街燈の下にしゃがみ込んでいた。
頭上の明かりが遮られたのに気付いて上を見上げると、見知らぬおじさんがいた。おじさんは、僕に飴を握らせて来た。
「ぼく、こんな時間に何してるの?」 「ママを待ってるんだ。」 「かわいそうに。こんな暗くて寂しいところで。おじさんと一緒においで。もっとあったかくて明るい場所でママを待とうね。」
僕は、おじさんの笑顔がなんだかとても怖かったけれど、暗くて退屈なのにうんざりしていたから、黙ってうなずいた。おじさんは、ちょっと離れた場所に止めてある車に僕を乗せて知らない場所を走った。僕は、おじさんについて来た事を後悔した。そうして、きれいな屋敷の部屋に通された。誰もいない。おじさんと僕だけ。おじさんは、ものすごく怖い笑顔を見せて、僕に、お風呂に入ろうか、と言った。僕は逆らえなかった。
それから、いろんなこと。怖くて泣いた。痛くて泣いた。気持ち悪くて泣いた。ああ。どうして、ママをあそこで待っていなかったんだろう。おじさんの力は強くて、僕は、逃げ出すこともできずに、そこにある嫌なものを見ないようにずっと目をつぶっていた。
--
気がつくと、僕は元の場所で、車から降ろされた。
「また、遊んであげるから。」 おじさんは、あの怖い笑いを浮かべてそう言うと、もと来た道を戻って行った。
僕は、体が痛くて、よろけながら僕とママのアパートに戻った。ママは泣き腫らした目をして僕が戻って来たことを喜んだ。だけど、僕がどこに行っていたかは聞かなかった。僕が戻って来たことに安心して、はしゃいで、夜中なのにパウンドケーキを焼くと言い出した。僕は、トイレに行って、何度も吐いた。すっぱい胃液で、涙が出た。
--
それからは、もう、僕は怖くて、ママについて行かなくなった。
小学校の帰り、僕は、スーパーの駐車場のフェンスにくくりつけられた小さな犬を見つけた。飼い主を待っているのだろうか。僕が近寄って行くと、犬は尻尾をちぎれんばかりに振った。僕が手を差し出すと、その手を舐めて来た。
僕は、犬の散歩紐をはずすと、犬はしっぽを振ってついて来る。僕は、誰もいない空き地へ犬を連れて行くと、思い切り犬を蹴った。それから近くにある木切れを拾うと、何度も何度も犬をぶった。犬はキャンキャンと鳴く。僕はその声を聞くと余計に腹が立って、何度も何度も。犬がぐったりしたのに気付いて、僕は犬をほったらかしにして走り去った。
--
もう、ママは、夜、出掛けなくなった。そして、たくさんのお酒を飲むようになった。
「あんた、最近笑わないね。」 ママが、酔った目で、僕に言う。
僕は、犬がしっぽを振らなくなる理由を知っている。
|