セクサロイドは眠らない

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2001年10月01日(月) 「みんな騙されてしまうんだよ。あの瞳に。邪悪な、瞳。あの眼は淫らで。そう。男を誘惑するのだ。」

私の好きなのはお人形遊び。おかあさまは死んじゃったし、お友達もいないから、毎日、一人でお人形で遊ぶ。お人形には、どれも眼がない。眼は駄目なんですって。おとうさまが言うの。人形の眼は人を殺すんだって。だから、私はお人形の眼をくりぬく。時々訪ねてくるおとうさまと会う時は、私はサングラスをかける。そうしなさいって、おとうさまが。

--

「ねえ。おかあさまはどんな人だったの?」
私は、寂しくて使用人に訊ねる。

「とてもおきれいな方でしたよ。」
「そうなの?」
「ええ。異国の血が混じった、何とも言えない美しい色の眼をしていらっしゃいました。」
「その目で魔法をかけたの?」
「魔法を?いいえ。とても、おやさしい、穏やかな方でしたよ。」
「ふうん。」

--

おとうさまがいないある日、おじさまが訪ねてくる。

「いらっしゃい。」
「久しぶりだね。なんだい?そのサングラスは?」
「これ?おとうさまが人と会う時はかけなさいって。」
「そんなものはずしてしまいなさい。」
「でも。眼が。」
「眼?」

私は、そっとサングラスをはずす。

「思ったとおりだ。きみは、きみの母上にそっくりだ。その瞳の色。」

私は、おじさまに見られて目を伏せる。

「こっちを見ておくれ。」
「はい。」
「ああ・・・。あの人の、あの瞳を思い出す。うつくしい、はしばみ色の。」
「ねえ。おじさま。おかあさまはどんな人だったの?」
「どんなって、そうだな。とても美しい人だった。それから、やさしくて。歌が上手で。」

また、同じ。おかあさまはやさしくて美しい。みな、口を揃えてそう言う。

帰り際、おじさまは、私を抱き締める。
「きみを手元に置くことができたら。」

--

「ねえ。おとうさま。」
「なんだ?」
「おかあさまは、本当はどんな方だったの?」
「もう教えただろう。あれは邪悪な女だった。」
「みんな、やさしくて、美しい方だったって。」
「みんな騙されてしまうんだよ。あの瞳に。邪悪な、瞳。あの眼は淫らで。そう。男を誘惑するのだ。」
「この眼と同じ?」

私は、そっとサングラスをはずす。おとうさまは驚いて私の眼を見る。

「この眼。おかあさまと一緒なんですって?」
「サングラスをかけなさい。」
「ねえ。おとうさま、答えて。」
「その眼でこっちを見るな。」

おとうさまが叫ぶ。

「あの日も、あの男を誘惑して、俺のいない家で交わっただろう。」

そうだわ。思い出した。あの日。おかあさまの悲鳴が聞こえて、覗くと、目のないお人形が。真っ赤に染まった絨毯。あれは。あれはお人形でなくて、おかあさま。そばで血まみれのナイフを持って立っていたのは、おとうさま。

私は、部屋を走り出る。

--

「ねえ。おじさま。」
「なんだ?」
「私、あのおうちで怖かったの。」
「お前の父親は狂ってる。」
「ええ。分かったわ。おとうさまは、おかあさまを殺したの。」
「ここにずっといたらいい。」
「ええ。」

私は、おじさまの目を見る。

おじさまの顔が、私の顔にかぶさってくる。

私、おじさまと同じところにホクロがあるわ。

ねえ。本当に、おかあさまの眼は、邪悪な魔法をかける事が出来たの?

眼を閉じようとする私に、眼を開けていなさいとおじさまがささやく。


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