セクサロイドは眠らない

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2001年10月02日(火) 彼が、絨毯の上に膝をついて、私のスカートに頭を突っ込むのを、眺める。彼が、下着をずらし音を立てて舐める。

少しずつ、肌に当たる風が冷たくなって来る季節。だんだん人の歩調も早くなり、帰る場所がある人とない人では、その表情が違ってみえる気がする。

もう、最後にしよう。

そうやって何度思ったことだろう。それでも、そこが帰る場所だと思いたくて、「おいで」と言われたら嬉しくて。本当はそこは帰る場所なんかじゃないのに、小走りで彼の部屋に行っていた。

彼は、いつもずるい事実を私に突き付ける。

「僕が恋しいんじゃなくて、人恋しいだけなんだろう?」

ええ。ええ。分かってるわ。分かっていても、人恋しいからと言ってあなたを求めたくなるのは、まるっきりの間違いじゃないと思うよ。いくら、本当の愛じゃないといくら自分に言い聞かせたところで、私は何もない空っぽの部屋に戻るより、あなたに抱かれていたかった。

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幼い頃、両親を亡くして、おじとおばのところに引き取られた。そこで、私はさして不幸でもない代わりに幸福でもない少女時代を過ごした。一つ違いのイトコと上手にやっていく方法は、分かっていたから。彼女よりちょっとばかり鈍くて、彼女よりちょっとばかり頭が悪くい子を演じれば、私はその家にいられる。

「まったく、ハルちゃんはドジなんだから。」
と、嘲笑のこもった言葉は、それでも愛情代わりになった。

大学に入った時は、ホッとした。一生懸命貯めたお金と、両親が残してくれたお金で、一人暮らしを始めたから。ようやく私の居場所が出来た。私はそれが嬉しくてしょうがなかった。

近くの設計事務所で始めたバイトも楽しかった。そこの社長や従業員に可愛がられ、ようやく無邪気に振舞うことを覚えた。

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事務所の社長は、やさしい男だった。やさしすぎて、経営なんかに向いていなかった。だから、社長の奥さんは、看護婦を続けて家計を支えていた。

「今日、うちの奥さん夜勤だから。」

20歳になったばかりの私に、ある日社長はそっと声を掛けて来た。私はうなずいた。

社長の自宅にはブランデーと小さなケーキが用意されていた。

「ハルちゃん、おめでとう。」
「ありがとうございます。こんな、わざわざ用意してくださったんですね。」
「ハルちゃん、長いこと頑張ってくれてるから。」
「いえ。私こそ、よくしてもらって。」

それから、慣れない酒を飲み、私は、ふらふらと社長の腕に倒れこむ。
「もう、ハルちゃんは20歳だろう?大人だよ。」
そう言われて、ぼんやりとうなずく。彼の手がスカートの中に入って来るのを、私は少し脚を開いて受け入れる。彼が、絨毯の上に膝をついて、私のスカートに頭を突っ込むのを、眺める。彼が、下着をずらし、ペチャペチャと音を立てて舐める。私は、何か感じたふりをしなくちゃいけないのかしら、と思いながらも、酔って頭ぐるぐるして、自分でもどうしていいのか分からない。そうやって、大して長くない時間、私はベッドの上で、彼の重みを感じている。

夜中に起こされる。

「もう、帰りなさい。うちの奥さんが帰ってくるとうるさいから。」
私は痛む頭を抱えて、夜道を自転車で帰る。

それから、明け方まで冴えてしまった頭にビールを注ぎ込む。

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それから、夜、人恋しくなると彼に電話をするようになった。

さしてセックスのうまくない男。
「もう大人だから、大人の付き合いをしようよ。」としつこいくらい繰り返す男。

ねえ。どう思う?私は、恋愛経験に長けた女友達に相談してみる。彼女は、煙草のけむりを口から吐き出しながら答える。

「そうやって人にごちゃごちゃ相談してる段階で大概の恋愛の結論は出てるようなもんでしょう。別れなさい。」

彼女の言葉に納得する私は、きっと誰かに背中を押して欲しかっただけ。

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設計事務所でバイトした1年3ヶ月。
最後の半年は、社長と寝た。

恋愛にしては短いのだけれど、私は帰る場所がないのに慣れている。

「本当にもう、バイト止めるのか?」
「うん。いろいろありがと。」
「で、俺とのことも?」
「うん。」
「最後もう1回だけ抱かせて欲しい。」
「駄目よ。これ以上好きになる可能性のない男とは、寝る気にならないわ。」
「なるほど。」

よれたネズミ色の上着を着て少し背中を丸めて歩いて行く男の後ろを行きながら、こんなくたびれた男は要らない、とつぶやいてみる。


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