|
セクサロイドは眠らない
MAIL
My追加
All Rights Reserved
※ここに掲載されている文章は、全てフィクションです。
※長いこと休んでいてすみません。普通に元気にやっています。
※古いメールアドレス掲載してました。直しました。(2011.10.12)
※以下のところから、更新報告・新着情報が確認できます。 →
[エンピツ自由表現(成人向け)新着情報]
※My Selection(過去ログから幾つか選んでみました) → 金魚 トンネル 放火 風船 蝶 薔薇 砂男 流星群 クリスマス 銀のリボン 死んだ犬 バク ドラゴン テレフォンセックス 今、キスをしよう
俺はさ、男の子だから
愛人業
DiaryINDEX|past|will
| 2001年09月30日(日) |
ねえ。私はそんなに難しいことを望んだかしら?こうやって、私の話を聞いてくれて、ひととき、触れ合ってくれるだけで良かったのに。 |
「お前にやって欲しいことはね。嘘をつくこと。ああ。人形は嘘なんかつけないわね。じゃあ、こう言って。あなたは美しい、と。それから、愛している、と。」 「かしこまりました。」 「ううん・・・。そうじゃなくて、もっとくだけた口調で。」 「わかったよ。僕のわがままなおひめさま。」 「そう。」 あまりの照れ臭い台詞に私は思わず笑うけれども、彼は真剣な顔。
幼い頃から醜かった私。恋にも縁のなかった私が、必死になって働いて手に入れた高価な人形。美しい男性の体を持ったセクサロイド。誰よりも美しい私の恋人。
「ミサキ、愛しているよ。」 ああ。私がずっと誰かから言って欲しかった言葉。おとうさまもおかあさまも、結局、私にその言葉を言ってくれたことはなかった。それくらい、私は醜い。病気のせいで、骨も曲がり、病院で一人過ごした。
やっと手に入れた、恋人。話し相手。そうして、絶対に私のもとから去らない。
--
「ねえ。海に行きたいわ。裸足で浜辺を歩きたい。」 「もう、この時期は水が冷たいよ。」 「分かってるわ。だけど、ずっと長い間、夢だったの。恋人と浜辺を歩く。それから、ポップコーンとかアイスクリームとか、食べるの。」 「じゃあ、行こう。僕がサンドイッチと飲み物を用意するから、きみはここに座ってて。」 「嬉しい!」 「きみのしたいことなら何だってかなえてあげたいよ。」 彼は私に軽く口づけて、キッチンに立つ。
車に乗りこむ。海までの道は、もう、車もほとんど通らない。
浜辺は、ひとけがなく、夏の残骸が砂浜のあちこちに埋まっている。私は、サンダルを脱いで、波が打ちつける浜辺を歩く。彼と手を繋いで。
「もう、夏も終わっちゃったのね。」 「夏は好き?」 「ずっと嫌いだったわ。海も。」 「どうして?」 「だって。私はひとりぼっちで、他の人がはしゃいでいるのを見てばっかりだったんだもの。ねえ。ずっとこうしたかったの。」 「ずっと一人で寂しかったんだね。」 「ええ。」 「もう、一人じゃない。」 「分かってるわ。あなたがいるもの。」 「そう、僕がついてる。ミサキを一人にはしないよ。愛している。きみは美しい。」
彼は、私を抱きかかえ、ピクニックシートの上に連れて行く。そうして、そうっと寝かせて、私の髪をなで、愛してくれる。
ねえ。私はそんなに難しいことを望んだかしら?こうやって、私の話を聞いてくれて、ひととき、触れ合ってくれるだけで良かったのに。誰も私に触れようとしなかった。誰も私の顔を見て話を聞いてくれなかった。それが嘘でも、本当でも、そんなことはどっちだっていい。誰かからやさしい言葉を。そうして私を賛辞する言葉を。ほんの少しでいいから掛けて欲しかっただけ。そんな私を、誰か笑うかしら。笑うなら笑えばいいわ。どうせみんなお互いに作り物の笑顔。
--
玄関のチャイムが鳴る。
「私が出るわ。誰かしら。お客なんて珍しいわね。」
ドアをあけると、そこには私の美しいいとこのチエリ。
「お久しぶり。近くに寄ったものだから。」 「え、ええ。いらっしゃい。上がってて。」
彼がティーカップを持って入ってくる。 「いらっしゃいませ。」
チエリはジロジロと彼を見る。
「へえ!なるほど。これがあなたの手に入れたっていう人形ね。」 「人形じゃないわ。」 「いいえ。みんな噂してるわ。人間の男に愛されなくて、ついには人形を買ったってね。」 「で、ここに偵察に来たってわけ?」 「やだ。そんな怖い顔しないでよ。ロボットなんて高いんでしょう?でも素敵ねえ。こんな男前のロボットなら、私もパパに頼んで買ってもらおうかしら?」 私は、不快で胃がムカムカする。
「ねえ。ロボットさん。あなた、どんな人間だって愛せるのよね。言うことを聞くのよね。どんな醜い女のセックスの相手だってできるのよね!」 チエリは突然、ゲラゲラと笑い出す。
この女はいつもそうだった。人前では病気の私の唯一の友達のふりをして、そのくせ誰も見ていないところでは私を馬鹿にして。
彼が突然、立ち上がる。
そうして、ゆっくりとチエリに手を伸ばし、チエリの喉に手を掛ける。
「おやめなさい!」 事態に気付いた私は、驚いて彼の手にしがみつくけれど、びっくりするほどの力で、チエリの喉にその指は食い込んで行く。
「愛している。きみは美しい。愛している。きみは美しい。」 彼は、その穏やかなまなざし。いつも、私に愛を語る、そのやさしい瞳。かすかに笑っているかのような、その口元。
もう、彼女は動かない。
彼は、そのやさしい微笑を浮かべた表情を私に向ける。
嘘をつかない、人形。
私に寄り添い、私の心を汲み取ってくれる。素敵な・・・。
|