セクサロイドは眠らない

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2001年09月30日(日) ねえ。私はそんなに難しいことを望んだかしら?こうやって、私の話を聞いてくれて、ひととき、触れ合ってくれるだけで良かったのに。

「お前にやって欲しいことはね。嘘をつくこと。ああ。人形は嘘なんかつけないわね。じゃあ、こう言って。あなたは美しい、と。それから、愛している、と。」
「かしこまりました。」
「ううん・・・。そうじゃなくて、もっとくだけた口調で。」
「わかったよ。僕のわがままなおひめさま。」
「そう。」
あまりの照れ臭い台詞に私は思わず笑うけれども、彼は真剣な顔。

幼い頃から醜かった私。恋にも縁のなかった私が、必死になって働いて手に入れた高価な人形。美しい男性の体を持ったセクサロイド。誰よりも美しい私の恋人。

「ミサキ、愛しているよ。」
ああ。私がずっと誰かから言って欲しかった言葉。おとうさまもおかあさまも、結局、私にその言葉を言ってくれたことはなかった。それくらい、私は醜い。病気のせいで、骨も曲がり、病院で一人過ごした。

やっと手に入れた、恋人。話し相手。そうして、絶対に私のもとから去らない。

--

「ねえ。海に行きたいわ。裸足で浜辺を歩きたい。」
「もう、この時期は水が冷たいよ。」
「分かってるわ。だけど、ずっと長い間、夢だったの。恋人と浜辺を歩く。それから、ポップコーンとかアイスクリームとか、食べるの。」
「じゃあ、行こう。僕がサンドイッチと飲み物を用意するから、きみはここに座ってて。」
「嬉しい!」
「きみのしたいことなら何だってかなえてあげたいよ。」
彼は私に軽く口づけて、キッチンに立つ。

車に乗りこむ。海までの道は、もう、車もほとんど通らない。

浜辺は、ひとけがなく、夏の残骸が砂浜のあちこちに埋まっている。私は、サンダルを脱いで、波が打ちつける浜辺を歩く。彼と手を繋いで。

「もう、夏も終わっちゃったのね。」
「夏は好き?」
「ずっと嫌いだったわ。海も。」
「どうして?」
「だって。私はひとりぼっちで、他の人がはしゃいでいるのを見てばっかりだったんだもの。ねえ。ずっとこうしたかったの。」
「ずっと一人で寂しかったんだね。」
「ええ。」
「もう、一人じゃない。」
「分かってるわ。あなたがいるもの。」
「そう、僕がついてる。ミサキを一人にはしないよ。愛している。きみは美しい。」

彼は、私を抱きかかえ、ピクニックシートの上に連れて行く。そうして、そうっと寝かせて、私の髪をなで、愛してくれる。

ねえ。私はそんなに難しいことを望んだかしら?こうやって、私の話を聞いてくれて、ひととき、触れ合ってくれるだけで良かったのに。誰も私に触れようとしなかった。誰も私の顔を見て話を聞いてくれなかった。それが嘘でも、本当でも、そんなことはどっちだっていい。誰かからやさしい言葉を。そうして私を賛辞する言葉を。ほんの少しでいいから掛けて欲しかっただけ。そんな私を、誰か笑うかしら。笑うなら笑えばいいわ。どうせみんなお互いに作り物の笑顔。

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玄関のチャイムが鳴る。

「私が出るわ。誰かしら。お客なんて珍しいわね。」

ドアをあけると、そこには私の美しいいとこのチエリ。

「お久しぶり。近くに寄ったものだから。」
「え、ええ。いらっしゃい。上がってて。」

彼がティーカップを持って入ってくる。
「いらっしゃいませ。」

チエリはジロジロと彼を見る。

「へえ!なるほど。これがあなたの手に入れたっていう人形ね。」
「人形じゃないわ。」
「いいえ。みんな噂してるわ。人間の男に愛されなくて、ついには人形を買ったってね。」
「で、ここに偵察に来たってわけ?」
「やだ。そんな怖い顔しないでよ。ロボットなんて高いんでしょう?でも素敵ねえ。こんな男前のロボットなら、私もパパに頼んで買ってもらおうかしら?」
私は、不快で胃がムカムカする。

「ねえ。ロボットさん。あなた、どんな人間だって愛せるのよね。言うことを聞くのよね。どんな醜い女のセックスの相手だってできるのよね!」
チエリは突然、ゲラゲラと笑い出す。

この女はいつもそうだった。人前では病気の私の唯一の友達のふりをして、そのくせ誰も見ていないところでは私を馬鹿にして。

彼が突然、立ち上がる。

そうして、ゆっくりとチエリに手を伸ばし、チエリの喉に手を掛ける。

「おやめなさい!」
事態に気付いた私は、驚いて彼の手にしがみつくけれど、びっくりするほどの力で、チエリの喉にその指は食い込んで行く。

「愛している。きみは美しい。愛している。きみは美しい。」
彼は、その穏やかなまなざし。いつも、私に愛を語る、そのやさしい瞳。かすかに笑っているかのような、その口元。

もう、彼女は動かない。

彼は、そのやさしい微笑を浮かべた表情を私に向ける。

嘘をつかない、人形。

私に寄り添い、私の心を汲み取ってくれる。素敵な・・・。


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