セクサロイドは眠らない

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2001年09月28日(金) 不謹慎だが、僕は欲情していたのだ。死とは、なんと人の欲望を際立たせる出来事なのだろう。

僕らは、大学時代からずっと友人だった。サキと、タクミと、僕。いつも3人だったから、うまくやれたんだと思う。美しいサキと、誠実で生真面目なタクミと、陽気な僕。

最初は、僕とタクミが親しくなった。それから、サキがタクミと付き合うようになって、自然と3人で行動することが増えた。僕は、適当に恋人を作っては、別れ、結局は3人に戻る。僕は、正直に言って、サキに惚れていた。少々不安定なところもある子だが、それだからこそ、僕みたいな安定した外交的な男が似合う、と思っていたのだ。だから、サキがタクミを選んだ時は相当落ち込んだし、大学の講義も随分長く休んだ。それから、あきらめて、3人で行動することを受け入れることにした。
付き合いは、僕達が社会人になっても続いた。

タクミは、広告代理店。サキは、看護婦。そして、僕は商社へ。

僕は、ずっとこのままでいいと思っていた。サキ以外とは結婚する気はなかったから、こうやって彼らの友人としてサキと繋がっていられたら、と思っていた。だが、そのバランスは、ある出来事によって崩れた。

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深夜、電話が鳴った。

「もしもし。」
「ああ。サキか。どうした?」
「タクミがバイクの事故で、今病院に運ばれたの。」

僕は慌てて部屋を飛び出した。病院の廊下で、サキは泣いていた。昏睡状態だ、と言う。泣きじゃくるサキを抱き締めて、僕自身泣きたい気分だった。きみがチームから抜けたら、僕達はどうなる?

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きっちり1週間後、タクミは息を引き取った。僕らは、大学時代の友人達に連絡を取り、タクミの葬儀に参列した。黒い喪服姿のサキ。変な話だが、その時、初めて僕はサキが化粧した顔を見た気がする。

葬儀が終わって、僕はサキに声を掛けた。
「うち、寄ってく?」

サキは無言でうなずいた。

「疲れた?」
ソファでぐったりと座り込んだサキに、僕は訊ねた。
「なんだか、気が抜けちゃった。」
サキは微笑んだ。

僕は、サキの横に座って肩を抱いた。サキは少し体をこわばらせたけれど、すぐ体を僕に預けて来た。僕は、サキの喪服のワンピースを脱がせた。下着も黒だね、と僕は笑った。いやだわ、恥ずかしい、とサキも微笑んだ。友人の葬式の日に不謹慎だが、僕は葬儀の間中サキに欲情していたのだ。死とは、なんと人の欲望を際立たせる出来事なのだろう。僕は、サキの恥じらいを押しのけ、かなり乱暴にサキに押し入った。サキも、僕にしがみつき、その細い体からは想像もつかないほど動物的な呻き声をあげた。

僕らは、タクミに見られながら交わっているような気分だった。

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そうして、僕らは、晴れて恋人どうしになった。

・・・と思っていたのは僕だけだった。

サキは、次の日、「もう、あなたには逢わない」と言ったのだ。

「どうして?」
「だって。あなたといるとタクミを思い出すもの。」
「それはだんだんに慣れて行くさ。」
「何に慣れるって言うの?タクミがいないことに?そんなことに慣れたくなんかちっともないわ。」

駄目だった。何度電話しても、サキは、タクミとの思い出にしがみつき、そこから動こうとしない。

「思い出になんか恋するなよ。僕らは生きてここにいるだろう?」
ああ。
タクミ、どうしてサキの心まで連れていっちまったんだよ?

--

ある日、サキから電話。

「ねえ。私、タクミのところへ行くわ。」
「何?一体どういうことだよ?」
「タクミがメールをくれたの。私達、繋がっているのよ。」
「おい?どういうことだよ?おい?」
そこで電話は切れた。

僕は慌ててサキのマンションに行く。ドアに鍵は掛かっていないが、だが、部屋の中にも誰もいない。開け放した窓に、カーテンが揺らめくだけだ。

電源が入ったままのパソコン。メーラーには、TAKUMIという名前のメール。いずれも古い日付。1999年?2000年?いずれも、タクミが亡くなる前の日付。1999年には、サキはまだパソコンなんか持っていなかった。

TAKUMIからの最後のメール。
「ここへおいで。僕は、すぐ近くにいるんだよ。」

ねえ。サキ、一体どこに行っちまったんだ?TAKUMIって誰だよ。

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僕はその日から何度もサキの部屋に足を運んで、モニタを眺める。何も答えは出てこない。僕がTAKUMIなる人物に送ったメールは、いつも宛先不明で返って来る。

「思い出になんか恋するなよ。僕らは生きてここにいるだろう?」
そうやって、自分がサキに言った言葉が、今頃になって僕の胸に突き刺さる。僕は、膝を抱えて、ただ、モニタからサキが呼び掛けてくるんじゃないかと座り続ける。


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