セクサロイドは眠らない

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2001年09月24日(月) 「お前は俺を愛するために作られた。」と男は言う。愛してくれ、と、何度も言う。どこにも行くな、と、首に鎖をつける。

「お前は俺を愛するために作られた。」
と男は言う。

科学者としては優秀だが、顔に醜い痣があって、誰からも愛されない男。彼は、心をなぐさめるため、美しい人形である私を作った。外に一歩出れば、冷淡で感情を見せない男が、私の前では、子供のように甘えたり、泣いたり、怒って私をぶったりする。愛してくれ、と、何度も言う。どこにも行くな、と、首に鎖をつける。

--

ある日、唯一の友人が金の無心をしに訪ねてくる。貧しい小説家で、美貌の。科学者の男は馬鹿にした笑いを浮かべて、小説家を見る。

「どうだい?俺の人形。俺の言うことは何でも聞くんだよ。」
科学者は、ゲラゲラ笑いながら、小説家の前に私を連れて来る。

「すごい・・・。すごくきれいだね。」
「ああ。そこいらの女よりずっと美しい。従順だ。それに、感情に近いものが持てるんだよ。」
「感情?」
「ああ。毎日、俺に奉仕していれば、少しずつ俺を愛するようになる。」
「ふうん・・・。よく分からないな。どうすれば、人形が愛情を持てるの?」
「人間と同じさ。時間を掛けて接した対象を大切に思うようになる。優先度とか、そういった問題だよ。」
「へえ。そんなものなのかな。」
「ああ。」
「ほら、見てみろよ。」

科学者は、ニヤニヤして私の服を脱がせ、乳房を掴む。
「きれいだろう?」
「あ・・・、ああ。早く服を着せてやれよ。」
「はは。変なヤツだな。人形だよ。」
「でも、感情を持つんだろう?」
「そうだよ。何より、俺を愛する。俺が神様だ。」
「なんだか間違ってるよ。」

小説家は、首を振って眼鏡を拭く。

--

「なあ、俺は間違っているか?」
科学者は、小説家が帰って行ったあと、私の膝に頭を預けて何度も聞く。

「いいえ。間違っていませんわ。私は誰よりもあなたさまを愛します。」
科学者は、子供のように泣き出す。

--

ある日、小説家が訪ねて来る。

「もうしわけございません。ご主人様は、外出中ですわ。」
「そうか。だったら、待たせてもらうよ。金を返しに来たんだ。」

コーヒーカップを彼の前に置いて、私は彼の向かいに腰を掛ける。

「感情があるって、本当?」
「私には分かりませんわ。感情なんて、人間が名付けたものですもの。私はご主人様に従うだけです。」
「そうか。」
「どんな小説をお書きになるのですか?」
「そうだな・・・。食べるための小説。きれいで、何の変哲もない文章。」
「幸福ですか?」
「さあ。そんなことはあまり考えないようにしているよ。」
「悲しそうですわ。」
「そうかな。そうかもしれないな。僕は、まだ本当のことが書けない。」
「本当のことって?」
「恥ずかしくて、剥き出しの、僕そのもの。」
「いつか書けますわ。」
「だといいな。」

小説家は、今日は帰るよ、と私に言って部屋を出て行く。

--

ある日、科学者の部屋からちょっとしたボヤが出る。火はすぐ消し止められたが、私は顔を焦がして醜い姿になる。科学者は怒り、失望し、俺の前から姿を消せ、とどなる。

私は、言われるままに部屋を出て・・・。

どこに行けば?

小説家の部屋を訪ねる。

「やあ。おはいり。」

私は、なぜここに来たのだろう?

「今、小説を書いてたんだ。」
「どんな?」
「人形の愛について。」
「愛?」
「そう。」
「それから、ありのままの僕の物語。」

私には分かる。

私が感情を持つ人形だとすれば、その感情に名前をつけてもらうためにここに来たのだと。


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