初日 最新 目次 MAIL HOME


I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
kai
MAIL
HOME

2019年05月30日(木)
カーネーション × 高橋徹也

カーネーション × 高橋徹也@CLUB Que


活きのいい花形歌舞伎と千両役者の大歌舞伎みたいな対バンでした、何そのたとえ。いやー、いいもの観た。『THE 四半世紀 Que25th【QueRTER PARTY】』企画のイヴェントでした。CLUB Que25周年おめでとうございます!

直枝政広×高橋徹也弾き語り共演から三年、遂にバンドでツーマンです。まずは高橋さんから。
---
Vo, G:高橋徹也:、B:鹿島達也、Key:佐藤友亮(sugarbeans)、Drs:脇山広介、Pedal Steel:宮下広輔
---
かなり練られたセットリストだったように思います。カーネーションとの対バン、60分の持ち時間、それならこうだ、という。プレゼンというと語弊がありそうだけど、一見さんに優しいと同時になめんなよと挑む意気が込められていたように感じました。カーネーションを聴きにきた方、ウチのバンドのポテンシャルお見せします。どうぞ宜しくね。笑顔で握り拳。みたいな。

「5分前のダンス」のイントロ、澄んだ高音のヴォーカルが水面へ滑り出すように静かに、しかし力強く響く。あっという間に場の空気を変える。そして中盤の「シーラカンス」、これがすごかった。ドラマティックな曲の構成、ストーリーテラーぶりを発揮する歌詞と歌声、映像喚起力抜群の演奏。地下のライヴハウスごと深海に沈んでいくよう。アウトロが圧巻、演奏が冴えれば冴える程プレイヤーたちはリラックスしているように見える状態で、ずっとポーカーフェイスで演奏していた宮下さんがニコッと笑う瞬間も。ああ、手応えあるのだなあと思いました。続いての「新しい世界」「大統領夫人と棺」で更にボルテージをあげる。ここのリズム隊がまーいつものことだがすさまじく、「新しい〜」の“ダチーチーチー”、「大統領〜」2コーラス目の展開と、ふたりのコンビネーションは鳥肌もの。最新曲「友よ、また会おう」でフィニッシュ、緊迫感に満ちた演奏からのびのびとした開放感。構成も素晴らしかった。

この日は高橋さんの声のコンディションがとてもいいうえに、発声の仕方もちょっと変えていたように感じました。「新しい世界」で次々と転調する後半も、高音を地声で強引に出そうとせず力を抜いた発声。なんというか、高橋さんの声ってとても繊細なつくりなので(それが魅力でもある)、そのときの喉の状態によって歌が声につられてしまう印象があったのですが、この日はそれを乗りこなしていたように思えたなー。鬼に金棒ですやん。

そんな絶好調(に見えた)高橋さんでしたが、「あー……いやー………(何かいおうと考えてるっぽい長い間)やりましょっか」、「パンダが好きなんですよー……毎日寝る前、おふとんに入ってから『毎日パンダ』を見るんです。ああ、シャンシャン大きくなったなあ、あの頃はまだピンクだったなあ、なんて思い出したりしてさびしくなったりして」とMCは通常営業。カーネーションファンの方がどう受け取ったか興味がある。でも「直枝さんとは2013年に所沢で弾き語りをご一緒した(・BEDTOWN vol.9@所沢MOJO┃Togetter)のが出会いで、いつかバンドで、と思っていたので本当に嬉しいです」とのことでした。

さてカーネーション。
---
Vo, G:直枝政広、B, Vo:大田譲、Drs:張替智広、Key:佐藤友亮(sugarbeans)
---
高野寛さんのサポートをしていた矢部浩志さん経由でカーネーションを知って、もはや三十年くらいか。直枝さんがまだ政太郎で、ミュートマジャパンでヘヴィロテだった「EDO RIVER」が大好きで、『LIVING / LOVING』もすっかり愛聴盤、周りにもコアなファンがいるのになかなか縁がなく、バンドセットで観るのは初めてでした。腰が抜けました。骨が! 太い! 音が! 強い! 包容力が! デカい! 知らない曲もあったけど「アダムスキー」が聴けたし、何より「EDO RIVER」を聴けたのがうれしかった。しかも佐藤さんがKey弾いてるんですよ。キエー。

直枝さんのMCが面白い。「高橋くんと初めて対バンするってんで、sugarbeansにいろいろ訊いたんだけど。インド語で。……(佐藤さんと向かい合ってナマステのポーズ)でも何もわからなかった。なのでいつもどおりでいきます」「しかし皆さん、さっきと視線が違うね(と高橋さんのマイクの高さ辺りを目視)……ねえ。もう……シャツをベルトなしでタックインって……あんな着こなし俺もしてみたいわ。皆さんいいもの見ましたね」。「大統領夫人と棺」のリーディングにハマッたらしく、その後の大田さんのMCに載せてギターを弾いたりしてました。やめてよ、何でギター載せてくるのよという大田さんに「高橋くんみたいにかっこいい朗読をねえ、」「彼女はー、とかいって」。アンコールで一緒に出てきた高橋さんにも「腰が俺の胸の位置にある」といじっておられました。ウケる。応えて高橋さん、「そんな、こうやって笑ってますけど、僕傷付いてるんですよ」。いやはや容姿をほめられるって照れくさいし困っちゃいますよね。大田さんのMCも面白かった、おそばの話とか。そんなふたりが演奏に入るとまー骨が! 太い! 音が! 強い! 包容力が! デカい! そしてちょうスウィート! 直枝さんのギターカッティングと大田さんのドライヴするベース、厚みのあるハスキーな声で唄われるロマンティックな歌詞、ソウルフレイヴァーだけど他に似ているものが見つからない、カーネーションはカーネーションとしかいいようがないのねと平伏。

いやー今月はパール兄弟とムーンライダーズといい、長年やってきたひとたちの地力というか息をするように演奏するさまというか、常に音楽とともに生きてきたひとたちが鳴らす音をお裾分けしてもらうことの有難さにしみじみした。記録として残る音楽という芸術にも感謝ですよ。演奏は今しかなくて、曲は残っていつでも聴ける。音楽は時間とともにある。

アンコールはカーネーションの「いつかここで会いましょう」。高橋さんはヴォーカルと、タブペンがついたトランジスタラジオみたいな楽器? で参加(後述ブログで「スタイロフォン」という楽器だったと知る)。この曲は高橋さんからのリクエストだったそうで、「僕らの共通点って、郊外ってところかな」と直枝さん、「“支流に沿ってゆこう”って歌詞にすごく共感するんです」と高橋さん。この日はフロアの反応がとてもよく、どちらの演奏にも「これは!」というところがあると相応のレスポンスが必ずあったのですが、まずは直枝さん、続いて高橋さんのヴォーカルが入ったときの「わあっ」という歓声は忘れがたい。幸せな時間をすごせました。

演奏を終えた高橋さんはカーネーションのバンドメンバー全員に握手を求めてらっしゃいました。皆笑顔。客電がついても拍手がやまず再び出てきた三人、ダブルアンコール! 朗読コントみたいなノリで直枝さんのギターにのせて「今日は、きてくれて、ありがとう〜」と朗誦する高橋さん、ドッと笑いが起こる。「いやあ、曲準備してなくてね」と直枝さん、笑いと拍手とともにおひらき。ニコニコで帰路に就きました。

-----

・高圧鉄塔の向こうへ┃夕暮れ 坂道 島国 惑星地球

・『カーネーション × 高橋徹也』感想まとめ┃togetter
chinacafeさんがまとめてくださいました。はー読み返すー、甦るー

・そうそう、アンコールで高橋さんがFRED PERRYのポロシャツに着替えて出てきたらなんかフロアが「ほおお……」って空気になったことは書き残しておきたい(笑)。直枝さんに相当いじられたあとだったので「わあ、ほんとシュッとしてはるわ〜」的な感じじゃなかったですか

・あとひとつ。「徹也ならてっちゃんって呼ばれてた? 大人になってもてっちゃんって呼ばれる?」と興味を示す大田さんに、「呼ばれなくなりましたねー。今でもそう呼ぶのは親戚か、昔のバンド仲間くらいですねえ」と高橋さん。「今でも呼ばれたい? 呼ばない方がいい?」「呼ばれたいっす」。そういえばBUCK-TICKのあっちゃんはずっとあっちゃんと呼ばれてるなあ(この翌日、櫻井さんが24年ぶりにミュージックステーションに出演とのことでなんとなく思い出した)。てところから長く続くってほんと有難いことだなとまたしみじみ。よよよ



2019年05月26日(日)
オフシアター歌舞伎『女殺油地獄』

オフシアター歌舞伎『女殺油地獄』@歌舞伎町・新宿FACE


FACE行ったのスズカツさんのヘドウィグ以来。あの魔の階段は使えなくなり、綺麗なトイレが増設されてるんですよ。今回は歌舞伎関連のおみやげ売店も設置されており、そのミスフィッツぶりも楽しかった。 上記宣美や開演前の音響、映像はモダンでエッジーなものでしたが、幕が上がってみれば装束も演出もしっかりとした歌舞伎の拵え、これがよかった。

各プレイガイドのアラートに赤堀雅秋の名を登録しているというのに、この公演を知ったのは五月に入ってから、新聞広告で。なんでだ! この新聞広告も、公式サイトもチケット取扱に松竹しか載っていない。ええー配送か銀座迄買いに行くしかないの? そんな、まさか。とe+をチェックしてみたら普通にありますがな。松竹ェ……。という訳で寺田倉庫は逃しFACEで観ました。夜には人気もなく、助けも呼べなさそうな倉庫街というイメージの天王洲で観るのも乙だったでしょうなあ。

思えば赤堀さんはエセ歌舞伎と称した作品を何本か書いている。『沼袋十人斬り』しかり、『大逆走』しかり。その後コクーン歌舞伎の『四谷怪談』に演出助手としてついていたので、いつかコクーンで歌舞伎の演出するのかなあと思っていた。そこへこのオフシアター、「場」としては申し分なし。既存の綺麗な劇場よりも、その泥臭さが合っている。幕開けの第一声からして「ケツの穴がかゆい」ときたもんだ。義太夫、歌舞伎役者の力を信じて書かれた赤堀さんの詞の強さ。下世話な言葉が強烈に響く、人間の化けの皮を剥ぐ。歌舞伎のなかでも人気の演目、『女殺油地獄』の醍醐味はどこにある? 役者の色香に酔う? 陰惨な殺人場面をエンタメとして観る? 実録物(今作は実話だったかどうか諸説ありますが)として、ワイドショーとしての伝統芸能……あれっ、当時の伝統芸能と呼ばれていない頃の歌舞伎ってこうだったんじゃないか。かくしてひとの営みの普遍が浮き彫りになる。

夜遅く集金に出かけるという夫を気遣い軽食を出そうとする妻、急ぐからいいよという夫。喜んでお茶を運ぶ娘。疲れているでしょう、肩を揉みましょうかという妻、じゃあお願いしようかなという夫。そこには互いを思っての行為だけが描かれる。見栄を張り、放蕩をやめられず、弱者に手をかけるどうしようもない人物の末路を淡々と描く。見てきたように描かれる殺人の描写、その記憶を持たない者でも胸を衝かれる「ちいさな幸せ」の描写。親の視線と子の視線。赤堀さん、そういうところを見逃さない。リングのようなセンターステージ、役者たちは客席のすぐ近くの闇から現れ闇に消える。江戸時代の夜の冥さがすぐ傍に迫る。すぐとなりに彼らがいるような感覚。油やふのりを使わずして描かれる殺人の場は、秘め事のような細い声が闇に響く。この官能と恐怖。

個人的にはこの作品、与兵衛のことがホント憎らしくて嫌いなので捕縛の場があって溜飲が下がりました(笑)。逮夜の場は『四谷怪談』同様ねずみがいい仕事をするのでねずみが好きになるわ〜。中村獅童の与兵衛は愛嬌があるだけに憎みきれずに困るな〜と思ってたけど、豊嶋屋の場で愛想も尽きたわい! ホントムカつくバーカバーカ!(ほめてる)中村壱太郎はお吉と小菊の二役、与兵衛の人生を狂わせるっていうか与兵衛が勝手に狂ったんであってこのふたりのせいにすんなよバーカバーカというのがよくわかる、媚びない女性たちでした。見事。

そして七左衛門/白稲荷法印役、荒川良々がいい仕事してました。赤堀さんもいい役に充てたなー、笑いと情をしっかりと表現、前半の愛嬌、中盤の優しさ、終盤の悲嘆。帰り道「あのひと面白かったわねえ、どこかの劇団のひとよね」「ほら、松尾スズキの……」とかご年配の方がお話されてました。おお、しっかり知られている。うれしいな。お吉の娘・お光/禿の二役を演じた浅沼みうも素晴らしかった。グロテスクな大人の世界を目撃したこどもと、そんな大人たちをからかうこども。彼女たちの未来に幸せが待っている、それをほん少しでも信じられるように逮夜の場が上演された、と思いたい現在。

赤堀さんの歌舞伎演出、今後も続けてほしいな。はやくも次が観たい!



2019年05月25日(土)
『CITY』『神と共に 第一章:罪と罰』

『CITY』@彩の国さいたま芸術劇場 大ホール

街の「ヒーロー」の物語、という程度の情報しか入れずに観に行ったのですが、そういう「ヒーロー」だったんかい! と驚きました。なかなかに思い切った……ときどき我に返る箇所もありましたが、あ、そういう話ね! と了解すれば面白く観られた。以下ネタバレあります。

なんと、MARVELとかDCとかの、そういう「ヒーロー」だったんです。しかも結構な直球で。藤田貴大=マームとジプシー印の、各シーンのリフレインがタペストリーになっていく構成、日々のくらしの繰り返しから浮かびあがってくる登場人物の背景が、まさかそこへ結びつくとは。そのことが徐々に明らかになっていく途上では「んん?『AKIRA』?」と思ったのですが、いやいや全貌はアメコミヒーロー仕様でした。街を、ひとを救うのだもの。あるいは、彼らはそうありたいと夢想する若者たちなのか?

女性の右腕を集める「コレクター」、新しい街をつくりたい「あのひと」と、かつて同じ施設で生活していた「ぼく/おれ」「幼なじみ」の闘い。彼らは特殊能力を持っており、「ぼく/おれ」の「いもうと」は改造されて「兵器」になってしまう。施設の先輩だった「やどなし」や、「ぼく/おれ」の「(上司)作業員」、「ぼく/おれ」が飼っているねこのかかりつけ「獣医」といった大人たちも彼らに加勢して……。登場人物たちのバックグラウンドに対して事件のスケールがちいさく、アンバランスな印象ではあった。シリーズ化すれば「これはまだ序章だったのだ」といえるけど、一本の作品としては「ええ、あんだけ風呂敷ひろげておいてここで終わるの?!」と思ってしまう。女の子が「兵器」になるという流れもなあ……この辺り、前述の我に返る箇所。SFを舞台でやる難しさも感じました。

とはいえ、森永邦彦(ANREALAGE)によるスタイリッシュな衣裳(照明(南香織)に反応して色やパターンが浮かびあがる)、無機質なセット、音響や照明で表現した超能力の闘い、そして絵になる演者たち、というヴィジュアルはかなり見応えがありました。柳楽優弥、内田健司はものいう瞳と声の力で芝居をひっぱる。宮沢氷魚、井之脇海はロングコートが似合う長身モデル体型で、「異形の者」にふさわしい浮世離れした美しさ。青柳いづみの通る声と姿勢、菊池明明の長身痩躯も魅力的。續木淳平の佇まいには透明感があり、これは新しい発見。スケートボード、ミニセグウェイによる横断や、ポンコツ軽トラ、ねこを運ぶキャリーバッグの見立ては無機質なのに愛らしい。キャリーバッグよかったな、動物病院のシーンにならずとも「あー、あのなかねこが入ってる」と感じさせる形状とサイズ。

猟奇事件の犯人が獲物を集める冷蔵庫、Sigur Rós「Untitled 1」の使用、ボードのスライドによって表現される時間と空間の移動、といった演出は、この劇場、ということも含め蜷川幸雄作品、特に『海辺のカフカ』への返歌にも感じた。「あんたらは遅すぎる、待ってらんない」。そうして藤田さんはどんどん先に行くのだろう。「CITY」を救った彼らの活躍を誰も知らないなんて、ちょっと悔しいじゃないか。蜷川さん観たら喜んだろうし悔しがったろうな。

それにしてももはや専売特許、演者とスタッフにめちゃめちゃ負荷をかける(体力的に)藤田貴大作品。皆さんヘトヘトだと思います。この日はマチソワ。食べて飲んで休んで! 無事千秋楽を迎えられますように。

-----

・モチーフにしたと思われるMCUキャラクター
内田さんはまんまコレクターですね。宮沢さんはクイックシルバー、青柳さんはネヴュラかな。妹だし。じ、じゃあ井ノ脇さんはサノスか……ひぃー

・使用曲、といえば
Massive Attackの「Teardrop」がオープニングで流れてきて面喰らう。しかも聴いたことのないカヴァーver.で、ちょ、誰?! と心が千々に乱れ、序盤の台詞が頭に入らなくれ困った。帰宅後調べようとYouTubeで聴きまくったら逆に誰かわからなくなった…こんなに沢山カヴァーされてんのね……。José GonzálezかNewton Faulknerかなー。カーテンコールではオリジナルver.が流れ、Elizabeth Fraserの声に涙しました。人生のサウンドトラックの一曲です

・舞台でSF、といえば
ZAZOUS THEATERの『シープス』って傑作がありましたね(にっこり)

****************

『神と共に 第一章:罪と罰』@新宿ピカデリー シアター2


うう、新ピカでいちばん大きいシアター1にかかってるのにどうにもこうにも合う時間がなかった。という訳でシアター2で観ましたよ……しかし新ピカってのにもビックリしたしシアター1を押さえてるのにもビックリした。宣伝展開も予想より派手にやってて、配給の気合いの程が窺えます。いいぞいいぞ、2もスクリーン1でかかりますように〜、イ・ジョンジェの美貌をデッカいスクリーンで観たい。以下ネタバレしてます。

2017年、キム・ヨンファ監督作品。原題は『신과함께: 죄와 벌』、英題は『Along with the Gods: The Two Worlds』。あなた死ぬの初めてですか? ひとは死ぬと、冥界で7つの裁判を受けるんですよ。殺人・怠惰・嘘・不正・背徳・暴力・天倫の地獄裁判で無罪を勝ちとり生まれ変わりましょう! 私たちが弁護を務めます! あとふたり無罪にすれば僕たちも生まれ変われるんです! なあに、あなたは生前の立派な行いを認められた「貴人」だから、裁判も滞りなく進行しますよ……。殉職した消防士のもとへやってきた冥界の使者3人。消防士が亡くなって使者が迎えにくる迄10分もなかったんじゃなかろうか。とにかく展開が早く、怒濤の展開つるべうち。うはうは観てたら終わってしまった。140分超とは思えない体感でした。

まずは貴人のお札で冥界への入口をラクラク通過。この入口がまた自動改札みたいなの。こっからの各地獄がまー、レジャーランドのようで楽しい楽しい。ウォータースライダーみたいな川下りもあれば、氷のなかに閉じ込められたり砂のなかにうまったり。めっちゃ面白そうやん……。地獄観光最高だわ〜。荒唐無稽な物語を強力なヴィジュアルでエンタテイメントに仕上げる手腕が素晴らしい。ハリウッド映画へのオマージュもてんこもりで、インディ・ジョーンズ? ハムナプトラ? と元ネタに思いを巡らせるのも一興です。冥界の使者たちのファッションも素敵。マトリックスのようなロングコートを翻し、スター・ウォーズのような武器で闘う長身のふたり、ハ・ジョンウとチュ・ジフンの絵になること! 彼らとえらい身長差、キム・ヒャンギもとってもキュート。そうそう、ジョンウさんは初っぱなからモッパンシーンだったのであれはサービスショットですね(後述)。笑った。そして目玉、閻魔大王がイ・ジョンジェですの。ひぃ、黒くて悪いジョンジェさんといえば『観相師』で折り紙付き! 美・サイレント! そして実際観てみれば閻魔さまなのに悪くなかったというか、考えてみれば閻魔さまってひとの罪を罪だと判断するひと(ひとじゃない)なのよね。今回も謎を残しつつ、冥界の使者たちを未来へ導いていきそうな雰囲気ですよ。それにしても美しかった、どっからCGか境目がわからない状態であった。キャスティングしたひと有難う有難う。

そんな素敵三人組に案内される消防士くん、終始困り顔。演じるはチャ・テヒョン、『猟奇的な彼女』の彼ですよ。今度は異人たちに振り回されてます。なんだか生まれ変わりたくもなさそうです。ただ、現世に残してきた家族のことが気になる様子。そして裁判が進むうち、数々の罪状が明らかになってくる。ええ〜あなた貴人じゃなかったの? 困惑しつつも無罪を勝ちとるため、使者たちは調査を始めます。やがて彼を巡る家族の物語が浮上してくる。ハリウッド的ファンタジーを横糸に、人情物語を縦糸に。この設定にこのエピソードを絡めるかと驚くし、そもそもこの企画よく通ったなとも驚くし、でも大ヒットしたのには納得。ハラハラドキドキ、最後にはほろり。

ちょっと気にかかったのは、家族の話に父親が全く不在だったこと。これは次回『因と縁』に関わってくるのかな、公開が待ち遠しいよ〜。エンドロール後に続いてポストクレジットがあったんですが(この辺りもMCU=ハリウッドの手法を踏襲している)、なんとマ・ドンソクが登場です。なんか家に居着いてる神様らしい。うわ〜どんな展開を見せるの〜期待せずにはいられないよ!

-----

・神とともに:罪と罰┃輝国山人の韓国映画
役者とスタッフのクレジットが細かいところ迄載ってるのホント有難い。お母さん(イェ・スジョン)もお肌ピカピカでしたね…皆さんお肌綺麗……

・「먹방」(モッパン)の意味は?┃イキイキ韓国語・韓国生活
ほんといい食べっぷりなのよね。今回のごはんはまずいって設定なんですが、それでもばっくばく食べてる(笑)

・하정우 먹방 레전설

もうね…最高ですね……


ロン毛だったジョンジェさんが撮影現場で「閻魔オンニ(姉さん)」って呼ばれてたんですって。ナイスネーミングよ〜

・韓国語でも「うやむや」は「うやむや」っていうんだと知った。「瞬間」も同じ発音でした



2019年05月20日(月)
AIMING FOR ENRIKE JAPAN TOUR 2019

AIMING FOR ENRIKE JAPAN TOUR 2019 -TONE FLAKES Vol. 134- @LIVE HOUSE FEVER


イヤモニしてたけど、あの演奏の展開でクリック聴いてるってことはないと思うんだよなー。16ビートをず〜〜〜〜〜っと刻みつつスパスパフィルも入れてきて、でも軽くないの、めちゃ安定してるの、なのに不思議と余裕を感じるの。すっごいフロア見るし(真顔で。セッティングしてるときから)、かと思えばサイモンがループ組んでる間立ち上がって手を振ったりお辞儀したりするの(ハニカミ顔で)。あんだけ叩いといてその余裕はなんだよこわいよすごいよ。

-----
G:Simen Følstad Nilsen
Drs:Tobias Ørnes
(未だに読み方がわからないノルウェー語表記、便宜上サイモン、トビアスと書きますよ)
-----

ダワさん曰く「120分自由にやれよと伝えた」。というわけでAFTER HOURSではちょっとしか聴けなかったので、ツアー最終日に滑り込みました。昨年四月以来、ガッツリ聴けた! いやー行けてよかった、ロングセットすっごいいいじゃん! 曲間をそう空けず、ひとつのリフを、ひとつづきのビートを、ウォーキングするかのような速度で着実に積みあげていく。本編18曲でひとつの作品、この日しか聴けない! ラストの「HARD DANCE BRAINIA」はなんかもー、ラヴェルの「ボレロ」を彷彿する高揚感でした。アンコールはアフターアワーズの趣、サイモン曰く「Very very, very old song」とのことでした。音源探せるかなー。

一見シンプルだけど複雑なセッティング。サイモンのアンプとエフェクターの接続、本人以外出来るのかなと思ってしまう。エフェクターをみっしり並べたボードをお盆のように持ってきて、慎重に準備しています。世武裕子仕様カープTシャツ(後述。広島で共演したんですよね)着用のトビアスも、セッティングには結構神経質になっていた様子。マイキングはかなり念入りにやってました。モニター出来なかったのか本編序盤はマイクをすごく気にしていたなあ。その反面カウベルやハイハットは養生テープバリバリ貼って固定するのね(笑)。ハイハットはかなりギザギザになってた。テープを貼ると音がいい塩梅でマイルドになってたけど、それを狙ってなのか単に危ないから用心したのかはわからん。しかし一度始まると殆ど休む間もなく叩き続けるので、キットがちょっとでもズレたら命とりですよね。淡々と刻んでいるようでも、次第に汗がビッシリ。

ふたりとも基本真顔で、挨拶するときちょっと微笑むくらいのとっても穏やかな印象。これって北欧由来なのかしら。そしてステージ上でリアルタイムにループを組み、そこから緻密に楽曲を構築していくためか冷静な印象もあります。フロアの反応を俯瞰で見ているような感じも。でも脳内は寿司(後述リンク参照)やポン酢のことを考えているのかも知れない。それはそれですごい。MCではカンペならぬスマホの翻訳アプリを使って日本語を話してくれる律儀さです。来てくれて有難うございます、ダワさんにも有難うって。にっこり。

FAのRiLもすごくよかった。男性Gと女性DrsのWhite Stripesと同じ編成で、Nirvanaの影響もありそうな(「Smells Like Teen Spirit」のリフ使った曲あったよね?)ディストーションかましまくりの轟音で、Drsの子はめっちゃ細身なのにデイヴ・グロールのような重いビートを叩き出す。しかもめっちゃ暴れる。ジョンスペのFAやったときのキンブラ伝説を思い出させる、前座ってなめんなオラオラオラー!!! な気迫なのにMCでは感謝と礼儀を尽くし、「ささっとやって帰るんでもうちょっと待ってください、あと二曲です」とかいっといてまた大暴れするという、AFEのおふたりとはまた違うシャイっぷりでした。いやー気になるわ。

-----

翌日。


初来日ツアーで共演したLOSTAGEへの置き土産(笑)。FEVER、AFEの翌日からLOSTAGEと8ottoの2DAYSだったんだよね。五味兄ィほんとにポン酢ステージに置いてたってよ……実際飲んだかは不明。てか喉渇くっしょ、塩分補給にはなるけど(笑)。

-----

SNSにあがっているあれこれ。どんどん流れていっちゃって勿体ないのでまとめさせてください……。


これこれ。似合ってたかわいかった。



セトリ! 有難い! 「NEWSPEAK」もやったような気もするがどうだったかなー。サイモンがリフを組んだらトビアスがすぐ乗っかれる絶妙のコンビネーションなので、その場のノリで複数の曲が混ざっていたような気もする。ちなみに「SPICE(GIRLS)」、「MARION(JONES)」です。実在の人物(団体)名をタイトルにするのは何故なのだろう。そしてさっき気づいた、「NAKATA(JOHNNY WALKER)」って村上春樹の『海辺のカフカ』からでしょうね。そしてそう、すっかりおなじみ「PONZU(SAIKO)」! 日本文化に親しんでくれてうれしいわー。ポン酢の前にやった「HASSEL」って曲もめちゃめちゃよかったので探したい。音源出てない曲結構あるんですよね。


「ボレロ」を彷彿したってのはこの曲。うう、たかまるー。





ほんとほんと、またきてくださいね。サイモン「See you next year」っていってたと思うけど実現しますように。今回の来日ではシメサバの味を覚えたようなので「Shimesaba」という曲が生まれるかも〜楽しみに待ってる〜いやシメサバじゃなくてもいいんですよ勿論。

・Aiming for Enrikeのライブみてきたよ!-Aiming for Enrikeのギターの多分どこよりも詳細な解説-│ギター女のいろいろブログ
昨年のエントリーだけど、そして昨年とはセッティングも変わっているかもしれないけど、あまりにも素晴らしい解説なので再びリンクを張る。寿司の詳細もこちらです(笑)。

-----

ちなみにこの日の客入れBGMはハラカミくんの『Unrest』がずーっと流れていた。いるいる、ハラカミくんのことを憶えているひと、音楽を聴き続けているひと。そりゃ沢山いるだろうけど、普段そのひとたちと会うことってまずないので、こういう場に遭遇するとうれしいものです。そして三日後。





ハラカミくんはAIMING FOR ENRIKEのことも知らないのだった。今週は二度も外でハラカミくんの音楽を聴けてうれしいことでした。



2019年05月18日(土)
イキウメ『獣の柱』

イキウメ『獣の柱』@シアタートラム

『獣の柱 まとめ*図書館的人生隋から6年……ろくねん?! 2年くらい前の気分だったよ! 遠い昔のことのような、ついこないだのような。社会情勢含め、演じる側も観る側もどんどん変容していくなか、作品が変わっていくのはごく自然なことのように思う。以下ネタバレあります。

というわけで事前にアナウンスがあったように、むっちゃ改定されていました。しかし今観るととてもしっくりくる。狩猟民族だった人類は、農耕民族になることで定住を手に入れた。この物語は農耕民族、ひいては人類のその先を描いているようにも思える。彼らは定住することをやめ、再び移動することを選ぶ。こうして人類は絶滅への道を少し遠ざけ、やがて新しい世代が生まれてくる。彼らは「進化」ともいえるものを手にしている。「適応」といってもいい。人類はゆっくりと進化する。少しずつ前進する。そう考えるとちょっと楽観的になる、途方に暮れるけど。人間に寿命があってよかったなあ。

6年前と大きく違うのは、池田成志演じる「町長」の不在。指示を仰がれ、決断を迫られるという立場の人間がいない。より個人主義になっている。個人はコミュニティを離れ、移動して生きる。そしてまたコミュニティが出来る。聖書の引用があるが、安井順平演じる農家と村川絵梨演じる作家は、福音を伝え歩くevangelistになったともいえる。6年前から深刻さは増したが、やはり「農業最強!」だ。養殖も、畜産もそうだろう。生きる術を伝道していくふたりの存在は(孫から語られたその最期を知っても)ある意味救いにも思えた。希望といってもいい。

信仰を持つ人々が集まり宗教となる過程、理不尽な出来事にひとはどうやって対処していくかの仕組み。ああだこうだと話して結論が出ない、しかしどの言葉にも肯定がある。イキウメはこういう台詞のやりとりが練りに練られており、いつ迄でも聴いていられそうなくらい楽しい。これは鍛え抜かれた(といっていいんじゃないだろうか)演者が揃うからでもあって、イキウメの芝居に出ているひとで「このひと合ってないなあ、トーンにしてもリズムにしても」と思うひとっていませんわ。出演者の半数以上が複数の役を演じ、時間と空間の転換はシームレス。にも関わらず観ていて混乱しない。演劇の醍醐味だ。

浜田信也は市井のカリスマとでもいうような、近寄りがたい親しみやすさという矛盾を軽々と演じる。ごく平凡な市役所職員がある種の啓示を受けたときどうなるのか、その圧に心身がどう反応するのか。それを演技とは思えないレベルで見せてくれた。怖い、と思わせてくれる役者さんってそうはいない。薬丸翔は浜田さんとも共通する透明感のある役者さんですね。初めて観たのが昨年末のカタルシツ演芸会『CO.JP』だったもんだから今回の役との振り幅に驚かされましたよ……イキウメンの資質ありありですわ。またコントでも観たいです。

ところで終演後当日パンフレットを見たら、薬丸さんの役名「しまただし」の表記は「島忠」だった。音声だけだと気づかなかったけど、ホームセンターの島忠じゃないか。人々の暮らしに役に立つ島忠。意図的かどうか、ダジャレか(笑)どっちだ。

一年前に上演された、『グッド・デス・バイブレーション考』の世界に柱が出現したらどうなるだろう? なんてことも考えた。ディストピアを描く作品にもさまざまなカラーがあるが、松井周と前川知大、そして岩井秀人にはある種の共通点があるように思う。絶望をカラッとした笑いに転じることで、「生きる」ことを否定しない。イキウメもハイバイも、改定を繰り返し乍ら数々の代表作を再演する。岩井さんはevangelistよろしく各地へ(外国へも)足を運び、松井さんはサンプルの看板を背負い積極的に越境する。前川さんは劇団の文芸部やドラマターグと議論を交わし、聖書を編纂するかのごとく台本を書く。ふと思う、イキウメで『狭き門より入れ』を再演出来ないかな。「世界」に何をされるか分からない今こそ観てみたいな。



2019年05月16日(木)
『君と河をのぼろう パール兄弟 2019』

『君と河をのぼろう パール兄弟 2019』@Shibuya CLUB QUATTRO


終わってみれば三時間超。いんやはやすごいな!

「盆暮れのパール」も今は昔、年イチのパール兄弟です。いやいや、全く活動してなかった時期もあるので有難い。どなたか「パール兄妹の屋号を守り続けてくれたサエキさんに感謝」とツイートされてたけどその通りですね。ひとりのときもパール兄弟と名乗っていたなあ。本当に有難うございます……。

といいつつ、段取り魔のサエキさんはいろいろこれいわなきゃあれやらなきゃと終始あたふたしており、突っ込みたくなる程落ち着きがない。その昔窪田さんが「サエキくんをいじるのは娯楽」といってましたがその通りですね。でもパールのファンじゃないひとから「演奏はすごいのにヴォーカルがねー」とかいわれるとカチンとくる複雑なファン心理。そこがいいんだよ、そこが! サエキさんには他にかえがたい声を持ってるんだからよう! とはいうものの、サエキさんボイトレの効果ちゃんと出てますよね。そりゃあまだ不安定なところありますけど、昔に比べれば全然ねえ。

シュッとしてるといえばまっちゃんがダントツで、まーお素敵。オシャレだし。BPM速い曲を叩くときはルイス・コールにフォームが似ているというのは新しい発見であった。脇をしめてコンパクトに叩くんですね。というか以前はもうちょっと重い音とフォームだったと思いますが、恐ろしく巧いまま演奏も変わっていくのだなと思ったり。バカボンも坊主で節制が習慣づけられているのかやはりシュッとしてて、「快楽の季節」のソロはディストーションかけたかのような歪んだ音でビリビリのソロを披露。これも巧いが天井知らず。スティックは出てこなかったがコントラバスも弾いて(ボウイングもあり)、聴きなじんだパールの楽曲を新たな瑞々しさで聴かせてくれます。能ある鷹は爪を隠す程勿体ぶらないですね! 最高か!

やっぱり日頃のメンテはだいじねとかいってると、窪田さんが椅子用意してて曲ごとに座るのが気になってくる。だ、大丈夫? いや、アコースティックギター弾くときは座奏だからってのはいいんですよ。ちょっと空くとすぐ座るんだよ、譜面かえるときとか。それはいいんだ、演奏以外に頓着ないひとだってのは重々承知で…服装とかもそうだし……でも心配になっちゃうんだよー。足腰だいじ! まだまだお元気で演奏聴かせて! 「ケンタッキーの白い女」を筆頭に切れ味鋭いカッティングはますます研がれております!

さてこの夜のゲストはMOONRIDERSのおふたり、岡田徹さんと鈴木慶一さん。岡田さんプロデュースの『未来はパール』『PEARLTRON』からの楽曲を中心に、岡田さん参加の(!)パールのナンバー、パールのバックによる(!!)MOONRIDERSのナンバーが演奏されました。サエキさんが詞を書いた「9月の海はクラゲの海」は絶対やるよね、あとはどれかななんて思っていたら、岡田さんが登場しての一曲目が「ニットキャップマン」、虚を衝かれてもうから泣く。うええええサエキさんやパールと縁のない曲もやるのねそれはたまらん、ていうかどうしよう、セトリの予想が全くつかなくなったぞ。「ニットキャップマン」大好きなんだよ……矢野顕子さんのカヴァーも何度聴いたことか。ていうか過去形じゃなく今もしょっちゅう聴いてるよ。“いつもつながれてた雑種ドックが 声をからして”のところでいつもダーと泣く。なんならこの言葉を思い返しただけで泣く。ということで今泣いてる(やばい)。「いとこ同士」も、K1さん曰く「リリースしたときのライヴで一回やったきり」という「羊のトライアングル」も聴けて、こんなプレゼント誰が予想したかよ〜素晴らしい夜になるとは思っていたけどよ〜うえええええ(泣いてる)。

しかし曲間のおしゃべりではずっと笑っていた。K1さんの一声でそれ迄詰めてきたアレンジがパーになったり(笑)、シンセサイザー黎明期だったので仕込みが大変だったり。貴重な話だわ。打ち込みは当時音色の種類が少なかったんで、「いとこ同士」のキックはかしぶちさんが手で打ったって話に笑った。「なんで手?」「やー、キックしか録らないのに足でやるのは……って」だって。

思い出話に花が咲き、でもその思い出のなかには故人もいて、笑い乍らもしんみりとし。窪田さんも今年還暦だからなあ。生年月日は1959年9月18日とスラスラ出てくる、やはり若い頃に好きになった御仁の基本情報は頭から消えないものですわ。ちなみに身長は177cmですよ。デビュー当時は窪田さんがいちばん歳下でしたが、ふと思い立って調べてみたら、矢代さんが1960年生まれだった。というわけで、パール兄弟も来年還暦バンドの仲間入りです。これって貴重なことだなあと今更実感したりして。ふりかえれば窪田晴男のギターを聴き続けてもう33年ですよ。ほらもう初めて聴いた年代とかも憶えてるあたり、病が重い。一生いちばん好きなギター弾きですわ。

岡田さんが古希を迎えたということでサエキさんがはりきってケーキや鏡割り用の樽を用意して皆でお祝い。「誕生日四月なんだけど」とボソッという岡田さんに皆大笑い、「いいんですよこういうのは皆が集まってるときにやってお祝いしないと!」というサエキさんに皆で拍手。岡田さんがふと話し出す、「還暦には未来が見えたけど、古希は未来が見えなかったの」。静まり返るフロア。「でもね、一年前くらいにサエキから声かけてもらって、リハやって。そしたらそれが未来になったね。(今回のタイトル)パールと河をのぼったんだ。バンドでやるのも久しぶりだったんだ」。ここでまた泣く。もう、なんて夜だ。

アンコールは全員でTHE BANDの「The Night They Drove Old Dixie Down」のカヴァー。南北戦争で失われたものを南部側から描いた歌。K1さんたちがアグネス・チャンの香港公演で演奏したときのエピソードを披露、「そのとき会場にいた黒人女性から『Go Home!』っていわれたんだ」。そういえばスズカツさんの『欲望という名の電車』でもTHE BANDの曲が使われていたなあ。音楽(作品)に罪はある? 当日配布されていたサエキさんによる訳詞は、繰り返される議論を思い出させたのでした。



2019年05月12日(日)
『AFTER HOURS TOKYO ’19』

『AFTER HOURS TOKYO ’19』

ウェーイ二年ぶりにAFTER HOURSが東京で開催です。前回(12)がメンツといいアテンドといい文句なしの素晴らしさだったので待ってた〜、待ってたわ〜。ライヴハウスを行き来する街なかフェス(稲泉りんさんのツイートで知ったがサーキットイヴェントっていうんですね)なので、天気に左右されないのもいい。出演者は搬入等あるので晴れの方がいいですよね、今年はいい天気! よかった。

今回は4ステージと、ちょっとコンパクトになりました。仕方ないけど被りで諦めたのものも沢山あった、結局Crestには行かずじまい。贅沢な悩みですな。堪能したー、腹いっぱい胸いっぱい足腰ガクガク。長丁場なのでまずは腹ごしらえ。出店も気になったんだけど、いかんせん食べるスペースが少ないのでね。ウマイウマイと食べていたら、

■5kai(O-EAST 2nd Stage)
出遅れて最後の一曲しか観られなかった……またその最後の一曲が凄まじかっただけに無念。本人たちたとえに出されるのは本意ではないかもしれないけど、54-71好きにはたまらんもんがありました。抜けのよいドラム、メロディアスでロングトーンバリバリなベース、やばいヴォーカル。最後の咆哮はマイクオフ。大歓声。京都のバンドなのでなかなか関東で観る機会がなさそう。次回東京でやるのはいつですか……。

■downy*(O-EAST)(*=フル。以下同)
前回の教訓を踏まえ、早めに視界が開けているところを探します。もうひとの背中を見ているだけなのはいやなんじゃー。思えばあのとき、青木裕さんの実体はステージにいたのだった。今は音だけがいる。出会いがもう音だけだったので、なんだか不思議な気分だな。
それにしてもEASTの壁面は映像が映える。一月に観たときはリキッドの横長の空間を覆い尽くすような色彩が圧倒的だった。EASTの壁面は吹き抜けになっている分、映像全体を観ることが出来る。赤を基調としたハコの内装に映像が重なり、他では観られない色になるところも格好いいな。
と、安心して(?)映像を堪能出来るのも演奏に隙がないからか。秋山さんのドラミング、ホントすごいわ……。「㬢ヲ見ヨ!」始まるとギョッとするよね。



■Aiming For Enrike(O-EAST 2nd)
Tobiasのほぼ真後ろ、間にあるの柵だけ。ちょっと見上げる形になったんですが、スキニーのジーンズを履いている脚がまー綺麗。アスリートのような筋肉がついていた。この脚でハイハットとバスドラを自在に操るわけですね。弦とドラムのデュオ編成で踊れるってのが特徴的。場の空気がガラッと変わりました。
しかし入場制限が怖いので、一曲で移動。ううう名残惜しい……昨年の来日公演がホント素晴らしかったんで今回のツアーもどっかつっこみたい! なんとかいる間にもう一度観たい〜!

一曲目!

いやもうダワさん呼んでくれて有難うですよ。「PONZU SAIKO」は「ポン酢最高」だよ(前回来たときおいしさに感動したらしい)

という訳で「PONZU SAIKO」のフル動画

■OOIOO(duo MUSIC EXCHANGE)
久々。ヨシミちゃん変わらんなー、面白いギターの音も弾き方も見てくれも言動も。もはや妖精じみてる。100年後観ても変わってないのではないか。100年後は自分が死んでるから観られないよ〜。

■LITE*(duo MUSIC EXCHANGE)
楠本さんの機材トラブルで、代替機? を繋ぎなおしたりそれもまだダメだったりと、セッティングに結構時間かかってました。武田さんのアンプからもずっとノイズが出ていて「これ、消せませんかね……」といろいろやってたり。PAの方のツイートを見たけどduoは構造上音づくりも難しいそうですね。ヒヤヒヤして見守っていましたが、始まった演奏は全く問題なし。ユニゾンが肝のバンドでもあるので、互いの音が聴こえなかったらアウトなところですが、タイム感を共有出来てるのだろうな。アクシデントの多い海外ツアーで場数踏んでる強みもある。これはAFTER HOURSに出ているバンド皆そうじゃないかな。対バン、イヴェントも多いので、工夫をこらしたコンパクトなセッティングをスピーディーに運び、日々変わるハコの機構を使いこなす。
武田さんのど真ん前で、ギターアンプの音も直撃。で、そのアンプがまた爆音だったので耳がやられた。耳栓忘れたのは迂闊だった。しかしこんな近くで聴ける+観る機会なかなかないわと手元足下顔をまじまじと見ていた結果、武田さんは瀬戸康史に似ている(黒目がち)と気づいたのは新しい発見であった。
井澤さんは相当演奏に没頭していたのか、最後の一音を鳴らすとそのままステージをあとに。あとの三人はにこやかに手を振って出ていかれました。



この間、川さんがステージ袖にちょっとずつちょっとずつ自分の楽器を運び込んでおり、その様子がちょっと面白かった。結構押していたので、少しでもセッティングの時間を短縮したかったのだろうな。

■mouse on the keys*(duo MUSIC EXCHANGE)
という訳で慌ただしく転換。清田さんも飛田さんもドラムセットのセッティングをお手伝い、いそげいそげとばかりにサウンドチェック。この日のゲストヴォーカル、稲泉りんさんもパッと出てきてササッとマイクチェック。稲泉さんも多くのプロジェクトに参加している歌のプロ、頼りになる!
「SEなしでいきまーす」と川さん。前回同様、ハケる時間も惜しいわといわんばかりに始まりました。ドジャーン、「spectres de mouse」。ギャー。序盤はモニターの音が聴こえなくなっていたか(清田さんめっちゃ視認してた)ちょっと演奏がバラけてヒヤリとしましたが、やがてそれも解消。お得意ハードコアなピアノトリオナンバーから憂いを帯びた美しいエレクトリックサウンド迄、50分セットの使い方が巧い! 結成13年とかかな、当初は「Clarity」のような曲がこのバンドから生まれてくるとは予想出来なかった。『tres』は本当にエポックメイキングなアルバムだった。
稲泉さんの、場の掌握っぷりもすごい。途中から入って「Pulse」、一度ハケて「Stars Down」と、コンディショニングが難しそうな流れにも関わらず登場から場の空気をガラリと変える。全ての音が一度消え、しばしの静寂、直後の第一声、フロアに響き渡る歓声。「Stars Down」のクライマックスは忘れがたい。佐々木さんのコーラスもりんさんの声ととてもマッチしていた。
前回から二年、バンドの新しい魅力を披露した『tres』からのナンバーをAFTER HOURSのステージで聴けたことがとてもうれしい。
前日のパラシュートセッションで川さんのドラムセットが私物じゃなかったの、こっちに前日搬入とかしてたのかな、と思っていたら、今度は飛田さんのギターが私物じゃなかった。川さん曰く「飛田くん昨日の月見ルにギターおいてきちゃったんでenvyの(河合)ノブさんに貸してもらったの、これがAfter Hoursですよ」つってたけどそんなことあるのか(笑)。でも新旧envyの交流があってよかったね。
「今度は首振り過ぎてむち打ちになっちゃって」「毎回命がけですよ」。うん、そうですね……としかいいようがない、このひとらには。だから聴く方ものんびり出来ませんよ!
前方にいたのでどのくらい埋まっているか分からなかったんだけど、川さんが「出ていかれるんですね」「Explosion In The Skyを観に行くんですね」「いいんですよ、また観に来てくださいね」とか客をいじるので不安になる(笑)。実際は入場規制がかかっていたそうで、ひとはみっしりいたらしい。前回のWESTも入場規制あったし、そろそろEASTで観たいですねー。downy観てしみじみ思ったけど、映像使うバンドにEASTの壁面は強みでしょう。




川さんむっちゃ楽しそうだなーよい笑顔

■Explosion In The Sky(O-EAST)
視界が、ないー。そして暑いー。半ば朦朧とし乍ら聴く。またこれが優しい音でね……轟音なのにゆりかごにいるかのよう〜。どんどんぼんやりしてくる……今思うと脱水だったのかもしれん。ドリンクかえもせず休みなしで観てまわっていたからなあ。改めてちゃんと聴きたいことですよ。

EASTの2Fから出ると、SCHECTERのブースでLITEレス山本さん(前日の松下さん発言に倣ってみた)のサイン会が始まっておりました。楽器のブースなのでプレイヤー以外のひとが寄ってっていいんだろうかと遠巻きに見ていたら、井澤さんが「書きますよ!」と声をかけてきてビビる。何も買ってないのにもらっていいんですか? と訊くと「いいんですよいいんですよ、もらってほしいんですよ」と気さくにサインしてくれましたよ…い、いいのか……太っ腹……。ミニポスターを用意してくれてるメーカーも太っ腹。三人のサインを有難くいただきました。楠本さんのをもらうときに機材大丈夫でしたかと訊くと、「ねえ、壊れちゃったの」とフニャーとした笑顔。演奏してるときとのギャップにこちらもフニャーとなる。流れ的に最後になる武田さんは、寄っていったときにはもうサインを書き終わっており「ハイどうぞ」とテキパキ渡してくれました。貴重な体験をした。

■Boris(duo MUSIC EXCHANGE)
久々、NINのサポートで出たとき以来か。スモークがすごくてあまり見えません(笑)。そしてあのデカいサイズの銅鑼、duo規模の広さで聴くと迫力あるわ……ドシャーン! ドシャーン! て。ギターアンプを6台くらい積み上げていて(いつもこれくらいだっけ?)かなりの爆音だったんだけど、銅鑼の生音ちゃんと聴こえたもんな。流石に耳がやばいのでなるべくスピーカーから離れて聴いてたけど格好よかった。

■SOIL &“PIMP”SESSIONS*(duo MUSIC EXCHANGE)
envyの真裏。なにげにひとが少なくてですね。社長もタブくんも「踊るスペースが沢山あるねー」というてましたが、実際踊りまくれてよかった。でも、そういうときこそいいステージをするんだよ俺たちはと宣言して鳴らした音の引きの強さよ。持ってかれた。
丈青が満面の笑みで弾き倒してて素晴らしかったですね…MCが長くなると思ったのか途中勝手に帰ろうとするしね……。「おじいちゃんお薬の時間? 勝手に帰らないで!」ってタブくんにつっこまれてました。断続的に観ているけど、タブくんが社長ばりに話すようになって、ふたりでコントみたいなやりとりをやるようになったのはいつ頃からか。酸素は相変わらず使っているけど、最近はさほどフラフラになってませんよね。でも音はより鋭利になってますよね。すごいな……アホがつく程巧いってのは前からだけど、身体の器官がより進化しているといおうか。で、その進化した音で「Spartacus Love Theme」や「Moanin'」のカヴァー等しっとりパートも挟んだりして、メリハリも心地よい。終盤はenvy終わりのひとたちが移動してきて、いい感じで盛り上がりました。ブッキングの難しさを考えちゃったりもしたけど、ま、また出てほしいな……。

“Standing Against Things That Ruin Art”、こういう場があることに感謝。もう次回開催が待ち遠しいですよ、有難うございました〜!

-----

・公式サイト
(2017年分はこっちにアーカイヴされてます)

・『アンダーグラウンドではなくインディペンデントが集う』MONO、envy、downyが主催フェス〈After Hours〉を語る┃Mikiki
祭りのあとということで、終わってから読むとまた面白い。そうだよ仕切りが沖縄在住のロビンさんて、たいへん(笑)




うう、うまそう……いいにおいしてたよー。EASTとduoの入口前にあるからもう気になって気になって。飲食スペースがちょっとあるとうれしいなーとは思うんですけどね。でもあのエリアでそれは難しいだろうなあ。どこかで食べられる機会を待ちたい



2019年05月11日(土)
Yasei Collective × mouse on the keys『パラシュートセッション Vol.69』

Yasei Collective × mouse on the keys『パラシュートセッション Vol.69』@月見ル君想フ




-----
Yasei Collective:松下マサナオ(Ds)、中西道彦(Ba, Synth)、斎藤拓郎(Gt Voc, Syn)
Guest:タブゾンビ(Tp/SOIL&”PIMP”SESSIONS)、柳下”DAYO”武史(G/SPECIAL OTHERS)
---
mouse on the keys:川昭(Drs)、清田敦(Key)、新留大介(Key)
Guest:セノオGEE(MC/ex. 灰汁)、根本潤(Sax/Power)、飛田雅弘(G)、佐々木大輔(Tp, F.Hr)
---
Substage:沖メイ(ZA FEEDO)
---

パラシュートセッションとは「フロアに二組のアーティストが対峙するようにセッティング、交互に一曲ずつ演奏をする」という月見ル君想フの名物企画。お互いのセットリストを知らないまま演奏する1st set、完全フリーセッションの2nd setと、どこに着地するか判らないってことで「パラシュート」なのかな。天井に本物のパラシュートを張るという美術も素敵。パラシュート幕を介したミラーボールの光がフロアに降る様子がとても綺麗。月面スクリーンといい、月見ルは場作りに拘りがあっていいなあ。



月見ルのブログから(画像をクリックするとオリジナル画像に飛びます)NEW PONTA BOX × Yasei Collective パラシュートセッションの様子を拝借。壮観! ちなみに月見ル店長のツイートによると、今回のライヴにポンタさん来てたみたいです。

フロアライヴなので、従来ステージとして使われるところも客席になる。一段高いところにずらりと椅子が並んでいる様子も面白い。予約番号順だろうと開場時間のちょっと前に着いたら、なんと来た順の入場とのことで乗り遅れ(しまった……)二階席から観ました。でもここの二階って、演奏を天井桟敷から観るような感覚で楽しいんだよね。Yasei側(とサブステの沖さん)は殆ど死角になってしまったんだけど、motkの演奏はガッツリ観ることが出来ました。セッティングは上記画像のとおりなんですが、飛田さんと佐々木さんの立ち位置どこなん…機材があるとこだろうけど狭すぎないか、ひとひとり立てるスペースがやっとあるくらいじゃないか、演奏しないときどうするんだろう……と思っていたら、おふたりは(従来の)ステージ縁にお座りに。近いにも程がある、一列目のお客さん緊張しそう(笑)。

ジャンケンにより先攻motk、後攻Yasei。motkは1st setの時点でゲストを皆出しちゃった(…いやまあ、楽曲構成上ね……)ので、曲によってはプレイヤーが3対7になることも。松下「そっち人数多過ぎ! 音デカ過ぎずるい!」川「やー、なんかわかんなくて沢山呼んじゃった」「音が大きいのはデフォなんで」松下「お客さんオレらが演奏したら『音ちっちゃ』って思ったよ!」と罵りあいが展開されました(笑顔で)。いやそんなことなかったですよ……どっちも地音がでけーでけー。それにしても川さんにここ迄ズバズバいうひと知らないんで、松下さん貴重だわー(笑)。2nd Setのときも「そっちがまとめちゃうからいうことなくなっちゃったじゃん、俺ら主催なのに」「motkレス川昭で対バンしたい」とかいうてて大笑いしました。川「松下さんのバスドラヘッドを見て)いいなー、ネコちゃん。僕も描いてもらおうかな」松下「いいでしょー、これ今日出演してるメイちゃんに描いてもらったの。描いてもらえば?」川「ま、今日のドラムセット僕のじゃなくて月見ルのなんだけどね」(場内爆笑)なんて微笑ましいひとときもありましたよ。

そんな両者なので(?)演奏もバチバチ。特に川さん、相手のアウトロに喰い気味で演奏を始めるシーザー(動物のお医者さん)っぷり全開。一曲目が「最後の晩餐」でしたし、こういう形式燃えるんでしょうねー。観てるこっちも燃えた燃えた、やんややんやの喝采です。自分たちが演奏してないときはハケずにそのまま相手の演奏を見ることになるんだけど、そういう「ただ観て聴いてる」ひとがステージ(フロアだけど)にいるってのも面白くて面白くて。私の席のほぼ真下がYaseiのセッティングだったので、彼らが演奏しているときはmotkの面々がこっちを向いている訳です。何もせず。ニヤニヤしてたり、腕組んで真剣に見てたり、無の顔で見てたり。お正月にこたつ入って皆でテレビ見てるみたいな図式でしたね……いいもの見た。

飛田さんがコンスタントに参加するようになり、佐々木さんがFlやChoを兼任するようになって、楽曲に新しい魅力が加わった。以前はホーンが入っている楽曲をプレイヤー不在で演奏することになったときは、そのパートに何も加わらないままだったり、Saxパートを佐々木さんがTpやF.Hrで演奏することもあった。今はホーンソロがあった箇所に飛田さんがノイズで切り込んで、そのまま残響をアウトロにすることも。「reflexion」が顕著ですが、このアレンジが劇的に素晴らしい。この日は、それ迄座奏していた飛田さんが(従来の)ステージ上にあるスピーカー横に駆け上がってフィードバックノイズを鳴らしたもんだからドッと歓声わきましたよね。これもズルいといわれてしまいそう(苦笑)、格好よかった! ネモジュンの演奏を久々に聴けたのもうれしかった。そしてセノオGEEさん! 川さん曰く「現在鍼灸師。僕もやってもらってめちゃくちゃ効きました、身体に不調のある方は是非」とのことで、久しぶりのライヴだったようです。爆音の演奏を縫うように通る強い声。個人的にはMCというより、ひとりで凛と立つ詩人のような印象を持ちました。キレ者。

スタートダッシュからオラオラのmotkを受け、パラシュートセッション最多出演の松下さん率いるYaseiの皆さんは流石におちついてらっしゃる。「ズルい」といいつつマイペース、しかし演奏はめちゃめちゃ好戦的。特にドラムね、そりゃそうですよね。三月にmotkのゲストとして観たときは「三人体制になって初のライヴ」で様子見だったところもありそうでしたが、この日はもう「最初っからトリオ編成だったんじゃないの」ってなこなれ具合。ゆったりしたBPMも、ヴォコーダーを介したメロディも、motkとは全く違う音像であり乍らハードコア味がすごい。共通点があるとすれば美メロと複雑なリズム、そしてちょうエモーショナルってとこか。相性めちゃよくねー?! なんで今迄交流なかったかなと思うくらいです。一触即発みもすごくて、なかよく対バンとか絶対出来なさそうなところもいいわ。リスナーは人間関係とか気にせず無責任に聴けるからいいね……。というわけでまたの機会がもう待ち遠しいですよ。

2nd setでタブくんとスペアザ柳下さんが登場、ようやくYasei側も人数増えた。といっても2ndは全員くんずほぐれつの「何も決めてません、ノンストップで完全フリー」だったのでもうチーム分けもありゃしません。40分くらいだったかな、めまぐるしく変わる先導者とソロイスト、一見休んでるように見えて次に出すフレーズやリズムを仕込んでいるひととどこ見りゃいいのと目がまわる。時折川さんが新留さんに指示出してましたね、Yasei側もそういうのあったのかな。お互いの企みがどう作用したか、それは薮の中。タブくんは序盤からバッキバキのソロを披露し、めっちゃ花形オーラ出てました。飛田さんが時折スマホをいじっていて「何やってんだ……アプリでも探してるのかな?」なんて思ってたんですが、〆はその飛田さんのスマホから飛び出した音声(「楽しかったね、また会おうね」みたいな文言)でした。ええ〜なんて粋なエンドマーク! このカードを出してくる飛田さんもすごいがそこでピタリと〆に持っていけるプレイヤー全員もすごい。皆さんニヤっとしてましたね。練りに練られたひとつの曲みたいなエンディング、二度と聴けないとはなんて貴重。ライヴ続きになっちゃうなとちょっと迷ってたけど行ってよかった、さあ明日は待ちに待ったAFTER HOURS!



2019年05月04日(土)
『良い子はみんなご褒美がもらえる』

『良い子はみんなご褒美がもらえる』@赤坂ACTシアター

トム・ストッパード作品ということで襟を正して行きましたが、オーケストラの演奏は美しく、ダンサーたちのフォーメーションも美しく、トライアングルの扱いに苦笑し乍らも(吹奏楽部パーカッションパートだったものでな……)楽しく観ました。いや、こないだ関ジャムでも「シンバルとトランペット同じギャラなの?」とか笑われてたもんでな……。それはさておき、「俳優とオーケストラのための戯曲」という副題のとおり、いちばん楽しんでいるのは役者とオーケストラかもしれませんね。これはやり甲斐あるだろうなあ。ちなみにオーケストラも出演者なので、オケピではなくステージ上で演奏していました。

ストッパード作品なのでやはり哲学的といおうか、内容を理解出来たかというと怪しいことこの上ない。自分のなかで組み立てたのは、ひとは誰でも自分のオーケストラを持っており、自由に音楽を奏でられるのだということ。窮屈で互いを監視するような社会のなかで、あるパートが行方不明になったり、失われたりする。そんなときプレイヤーを、楽器を取り戻すことは出来るのか? ということ。興味を惹かれたのは今作の作曲家、アンドレ・プレヴィン。今年の二月に亡くなったばかりの方ですが、ユダヤ系ドイツ人で、ナチスの迫害を逃れアメリカへと渡った人物です。社会情勢の混乱のなか出生証明が失われ、実のところ年齢がハッキリしないとのこと。そうした人物が、自由なふりをした不自由な世界で鳴らしたい音楽を描いた、と思うとまた違った聴き方も出来る。

自分のオーケストラを万全の状態で演奏させたいひとりと、オーケストラを持っていることにも気づかないひとり。監獄は病院と呼ばれ、罪人は病人と呼ばれる。病気か健康かは、ときの指導者によってくるくると変わる。堤真一も橋本良亮もめちゃめちゃ身体がキレるひとですが、今作ではそれを封じています。『39 刑法第三十九条』での堤さんを強烈に憶えている者としては、うれしい気持ちになったりも。橋本さんはもっと動きたいんじゃないかなあ(というか自分がそういう橋本さんを観たかったというのもある)とも思いましたが、ダンサーたちと対峙するシーンはやはりキレッキレで瞠目しました。どちらが「病人」なのか観客に問うと同時に、その観客に「病人」は自分なのでは? という気づきを喚起させる役割もある。タフな仕事をブレずにやっている印象でした。すごいなあ。

ブラックユーモアもたっぷりなストーリー運びのなか、嫌みでない笑いを生んでくれたのは小手伸也。外山誠二はまさにトライアングルやシンバル、失敗したら台なしで、成功するのがあたりまえというようなプレッシャーの大きい役。その昔、とあるバレーボール選手がセッターというポジションについて「勝っても目立たない、負けるとワタシのせい。納得してやってるからいいんだ」と仰ってましたがそれを思い出しましたよね…すごいだいじな役まわりなんだってば、わかってくださいよ……。斉藤由貴は要所をキリリと締めてくれました。その名演が記憶に新しい『母と惑星について、および自転する女たちの記録』の再演に出演しなかったのは、この舞台でスケジュールがうまっていたからかな?

父親の帰りを待つ息子役にはシム・ウンギョン。キャスティングが発表になったとき、あのシム・ウンギョン? と驚きました。大好きな映画『怪しい彼女』のあの子、ヘプバーンオマージュの衣装がとっても似合っていた、かわいらしいあの子! 今回は犯罪者(扱い)の息子役ということで服装は地味めでしたが、少年役の扮装がやっぱりかわいらしい。綺麗な日本語発音には驚かされました。ほんのりあるなまりがこどもという役柄にとても合っていて効果的。日本のマネジメント会社に所属しているとのことで、これから日本での活動も増えていくのかも。また舞台で観たいなあ。

フルオーケストラを舞台にあげる作品なので、それなりに大きな劇場が必要になります。本国ではそんなことないのだろうけど、日本だと観客とのバランスをとるのが難しかったのかな。空席がぼちぼちあって、そこはちょっと残念でした。



2019年05月02日(木)
FEVER 10th anniversary / TOKYO No.1 SOUL SET presents『THREE ROOMS』

FEVER 10th anniversary / TOKYO No.1 SOUL SET presents『THREE ROOMS』@LIVE HOUSE FEVER

1日に行きました。朝イチで『ハイ・ライフ』、そして後述の『BONE MUSIC展』とハシゴ。よう遊んだ……。

3回シリーズの2回目、ゲストはtoe! 願ったり叶ったりですわー。ラッキーにも最前確保、ソウルセットもだけどtoeをこんなに近くで観られるって滅多にない。美濃さんがギターふりまわすと顔にネックが直撃しそうでヒヤヒヤした。迫力! 柏倉さんはDischord-Tシャツ着用、いいねいいね。

そもそもこのFEVERの内装設計を山㟢さんがやっているんですが、出演するのは初めてとのこと。ええ、そうなの? 杮落しとかで出てるんだと思ってた。山㟢「ちょっと関わってまして……」美濃「だいぶでしょ」山㟢「いやー、お待たせしました」とかいってました。GW最終日にROVO野音のゲスト出演を控えており、「天気いいといいねー」とビッケ。

それにしてもこの二組、なれそめは何だったかなー、昔聞いたような……と思っていたのですが、俊美くん「えーっとね、すごい昔のことでね、忘れちゃった」。……俊美くんらしいですね。このシリーズの俊美くんはいろいろ自分のことを振り返ることにしているようで「皆に感謝」「俺いっつも忘れちゃうし、話も飛ぶし、皆が助けてくれてるんだよね」「よく今迄皆許してくれてたなあって」と川昭のようなことを(笑)ずっといってるんですが、それに対してまあビッケが容赦ない。「そうだよ!」「こんななのに俊美くんがラジオ番組ふたつも持ってるってのがおかしいよね! リスナーに助けられてるよね!」というわいうわ。俊美くんも「そうだね」という始末、それをずっと笑って聴いているヒロシくん。と、メジャーにいた頃よりなかよしな感じがしますわね。ハコの大きさもあるのかリラックスした三人が観られます。ビッケはここ数年ずっとこんな感じですが、この日の俊美くんなんて物販Tシャツに「ユニクロで980(780だったか?)円」のパンツ、帽子もなくて前髪おりてて、お風呂入りたてでうちから歩いてきましたか? ってな風貌です。か、かわいいな! ビッケに「どうしたの?」なんていわれてました。アンコールでは帽子被って出てきて「やっぱ被ってないと、カツラがないみたいで落ち着かないね……」とかいってた(笑)。

そんなですが演奏は素晴らしく、今回のシリーズではつくづくいい「バンド」だな、そしてビッケってなんてすごい言葉を紡ぐひとなんだろう、と改めて思うことしきり。リキッドのはしっこで聴き続けてきて、そのリキッドが新宿から恵比寿に移転して、たまに野音で大泣きして、そして今はFEVERの至近距離で聴いて。飽きないどころか一生もんの音楽だと思えてきている。

アンコールは「カヴァーとか考えたけど、せっかくだから普段やらないことをね」と、山㟢さん+ビッケと俊美くんで「27,8」!!! おおおおい!!!!! 夢か。走馬灯か。走馬灯はやばい。山㟢さんはagで優しい音。よってPAもちょっと抑えめで、ビッケのパートがはっきり聴こえる。いろんな意味で滅多にない……。ビッケ曰く「いっつも爆音なんで自分が何いってっか聴こえないのよ。いやー俺こんなこといってんだーって思った!」だって。

それにしても山㟢さんが敬語で、「ハイッ」とかいうのを見られたのは貴重だった。思えばソウルセットの皆さんも五十代ですもんね。卓球が心配して連絡してきたお母さまに「俺もう51だから大丈夫だよ」っていった話を思い出したりして。自分の年齢も振り返ってみたりして。いやあ、自分の人生にソウルセットの音楽があってよかった。7月のゲストはTHE SKA FRAMES! 後輩後輩ときて〆は大先輩です。俊美くんが「toeは機材が沢山あるけどスカフレイムスはひとが沢山います」っていってウケた。ステージ袖の柏倉さんも大笑いしてた。楽しみ〜!

-----


『ロシアゴスキー』で紹介されていて気になっていた「肋骨レコード」、タイミングよく展覧会が! 実物観られてうれしかった〜。『ロシアゴスキー』は再放送中なのでまた紹介番組観られると思いますよ
・BONE MUSIC展 〜僕らはレコードを聴きたかった〜┃公式サイト



2019年05月01日(水)
『ハイ・ライフ』

『ハイ・ライフ』@ヒューマントラストシネマ渋谷 シアター2


いやはや、久しぶりのクレール・ドゥニ監督作品はやっぱり強烈。

序盤から見るからに糸吊って撮ったんだなーという無重力の表現があり、「SF映画ってお金かかるもんなあ、手づくり感がかわいいなあ」なんてちょっとクスッとしたりして。そういう箇所は本編中何度かあったのだが、それすらも濃密な鑑賞体験にしてしまう強度がありました。怖い怖い、あっという間に虜です。どなたか「ソダーバーグ版『ソラリス』、『月に囚われた男』、『アンダー・ザ・スキン』に通じる、好きな人はとことん好きなんだろうが自分にはよさが伝わらない」とツイートされてましたがそれそれ、まさにそれ。実際観ている間ソダーバーグ版『ソラリス』のことを思い出していました。ワタシの人生ベストの何本かに入る映画です。

宇宙を漂う「7」の船。乗組員は全員重犯罪者で、死刑、終身刑を免除される代わりにある実験に参加している。その指揮をとる医師も犯罪者。船は他の星に降り立つこともなく、地球へ帰る保証もない。あらゆる欲は船のなかで消費され、リサイクルされる。排泄物は水と飼料になる。乗組員たちは実験体として再利用される。自慰用の「箱」からの分泌物は廃棄されているようだったが、果たしてどうか。想像もつかない高所での生活、ハイソサエティな生活? ハイ・ライフをすごす彼らの長い旅。ジュリエット・ビノシュの肉体と、ロバート・パティンソン、ミア・ゴスの面構えの説得力。

それでもリサイクルには限界がある。閉塞的な空間での人間関係にも限界がある。脱出の先の死と、留まり続け死を待つことの違いは何だろう? 父と子がとった行動には未来という名の可能性があった。一度「ここから逃げ出したらどうなるか」という場面を見せられていたにも関わらず、つい笑顔になってしまう。開放感がこんなに爽快なものだとは、その開けた場所というものが、絶望的な「無」の隣にあった場合、それでもひとは扉を開けてしまうのだ。生まれるのは肯定ばかり。

終盤出会う「9」の船は、ライカやベルカ、ストレルカへのオマージュもあるだろう。一時期(今でも断続的に、か)ソ連の宇宙開発に関しての文献を読みあさっていた。その興味は何かというと「地上からの助けが絶望的となったとき、その船の乗組員は何を考え、何をし、どうなったか」だ。今作におけるミア・ゴス退場シーンのようなこと。つい声に出す言葉、一瞬の間と突如起こる変化。名シーンだ(編集も見事!)。実際(物理学的にも)こうなるかは怪しい。つい「ブラックホールに人間が吸い込まれたら」なんて検索してしまったが、見ることが可能だったとして、人間の目にはこうは映らないらしい。何せ光をも呑み込むブラックホール、目に出来る時間の流れも変わってしまうからだ。実際に目撃することはまず叶わない。宇宙空間で孤独に命を落とした者が何をしたか、誰も知らない。

それがどんなに残酷なものでも、知らないものを見たい欲を満たすことが出来るのは、自分が安全圏にいるからだ。好奇心は留まるところを知らない。この作品はそうした欲をも満たす。作品中の食欲や睡眠欲、性欲と同じように。近年、ライカはロケット発射直後にはもう死んでいたという説が有力だ。そのことに少し安堵していたりもする。「9」の乗組員にも、「7」の彼らにも、等しく死は訪れる。それが少しでも安らかなものであることを願う。
(20190708追記:しかしこういう記事を見つけてまた悲しくなってる。しかもこれMAGUMIのRTで知ったの。当然上田現のことを思い出す訳でね……→・片道切符だった、宇宙で死んだ犬の話┃VAIENCE

映画の闇は宇宙の闇を見せることが出来る。宇宙にも映画にも、畏怖の念を浮かべずにはいられない。この作品の闇、登場人物の表情は、これからもことあるごとに思い出すだろう。

-----




各国予告編。うう、夢に出そう

・映画『ハイ・ライフ』にオラファー・エリアソンが参加!?┃Casa BRUTUS
監督とビノシュ出演ということ以外何の情報も入れずに行ったので、エリアソン参加というのもエンドロールで知りました、予期せぬプレゼントという感じ。美術、音楽、どれもがシビれるほど魅力的でした、つーか好みで好みで

・クレール・ドゥニのSF新作『High Life』(2018)、ついに公開へ┃IndieTokyo
パンフレットにも載っていましたが、当初にキャスティングは主人公=フィリップ・シーモア・ホフマン、医師=パトリシア・アークエットだったとのこと