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2011年02月18日(金)
『沼袋十人斬り・改訂版』

THE SHAMPOO HAT『沼袋十人斬り・改訂版』@シアタートラム

さすがの老犬、いつもより多くまわっております。早くも今年のベストになりそう。

初演は昨年の、新型インフルエンザによるキャンセルで観られなかったのです。今回やっと観られて嬉しい。単語ひとつひとつを慎重に選択した上で、シンプルなものへと磨きに磨き上げた台詞はもはや円熟の域ですが、その台詞の背景をより深く分厚く感じさせられたのには感服しました。それにしてもこういう手法で来たかと驚きもしたし、それに伴う演出をこうあてはめるかと言うことにも驚いた。自分たちのことを老犬と言うだけある。老境の焦燥と攻撃性、突破口への嗅覚と経験による引き出しの数。

背景を感じさせる容量について。例えば「この赤ん坊プリンの匂いがする」と言う、500円玉貯金泥棒のこうちゃんが発した台詞。彼は赤ん坊の匂いを嗅いだことがない?赤ん坊を抱いたことがない?ミルクと言わずプリンと表現したと言うことは?……この台詞には、それを発した人物の心情、生まれ育った環境、それ迄の経験値等々を想像する余地が無限に含まれる、その上詩的でもある。

別府は何故携帯電話を持っていたのか、何故そのことを星とリンゴちゃんには内緒にしていたのか、その背景。「どんな思いをして貯めたと思ってんだ」と言う500円玉貯金を父親(の遺骨)との北海道旅行でパーっと使ってしまう、その背景。盲人の女性が携帯電話で夫と罵りあいのケンカをした後、そのつまらない原因を解消するべくそっと友人に連絡する、その背景。前後の時間をも想像させる。別府と父親はどんな関係だったのか、どう暮らしてきたのか。帰宅して盲人の妻の死体を発見した夫は、どんな思いだったか。

これら想像を喚起させる台詞の数々は、観ているこちらの想像のキャパシティの限界をあぶり出すことにもなる。恐ろしいなー、なんでこんなことが書けるの……。

赤堀さんのあの微細な台詞を板に載せられる役者さんたちの力にも圧倒させられました。ほんっとーに微妙で繊細な言葉たち、だからこそちょっとした解釈の違いでニュアンスが出せないものばかりだと思う。黒田さん演じる雇われマスターリンゴちゃんの戦争話、あれを告発ではなく間をもたせるための世間話にする不気味な軽さ。飛び降りようとしている女子高生を説得する星の切実さが裏目裏目に出てしまう不器用さ。こうちゃんの善人面とその場しのぎのいきあたりばったり、こうちゃんの妹が踊るフィギュアスケートの無様さと輝き。40過ぎの男同士のハグは、最初に笑いが起こり、徐々に静まり返っていった。あのびみょ〜〜〜〜〜うなニュアンスを出せるひとたちってなかなかいないのではないか。すごく難しいと思うよ……。

そういう意味では役者としての赤堀さんもすごい。ブリーフ一丁のちょデブ(ゆるめ)が、空になった500円玉貯金用のペットボトルを手に立ち尽くしている図ってほら文字にするとすごく間抜けでしょう?なのにこのシーン、泣きそうになりました。ほらーここもびみょ〜〜〜〜〜う。間抜けさと悲しさ、どっちかにちょっと傾いただけでも印象が変わる。この、赤堀さんの全部晒しますの覚悟みたいなものがここ数年…『その夜の侍』辺りから顕著と言うか凄まじい程。赤堀さん主演で全部晒します路線、野中さんを主役に据えた日常に潜むハードコア路線、日比さん主演のちいさな幸せとちいさな不幸が絶望的に膨張する路線といった劇団のレパートリーから考えていくのも面白い。どうなるんだろうこの劇団。

そして演出。小さなエリア内での大冒険と言う赤堀ワールドを今回はエセ歌舞伎で見せた。ええっこうくる!?しかしこれがまた絶妙。なんちゃってツケやなんちゃって見得、キマらない『三人吉三』の名台詞、「がんばれ!」「学芸会!」と言ったかけ声、幕を使ったチェイス劇。スズメバチの大群を金色の紙吹雪で見せたのにもシビれました。ロマンティストー!『その夜の侍』『立川ドライブ』での新機軸の演出を経てこう来たか…ホントまだまだ解らないし、興味が尽きない。

やだ泣いちゃう、やだ格好いい、やだすごい!ああこのひとたちシャレじゃなくて命懸けでやってる(血圧的に)、死にものぐるいでやってる(呼吸器的に)、とゲラゲラ笑い乍ら戦慄する二時間十分。傑作。