セクサロイドは眠らない
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2002年05月24日(金) |
本当のことを言うと、私は、そこいらのエッチな本に出てくるお姉さんみたいにセックスが好きだとは思わない。 |
「ねえ。ねえ。」 私は、クッションを抱えて、彼の背後で甘えた声を出してる。
「うん。もうちょっと待って、な。」 彼は、背を向けたままやさしく答える。
そこいらに散らばってる、彼の撮った写真を取り上げて眺める。
うーん。好きだなあ。好き好き。彼の写真が好きなのだ。彼と繋がってるから、好きなのだ。それはなにげない風景。自然の一片を切り取った写真。派手ではないけど、見飽きない。だから、彼に興味を持って、彼としゃべって、もっと彼を好きになった。
だけど、彼の撮る写真はやさし過ぎて、見る人に当たり前の寄り添ってしまうから、彼の写真に注目する人は少ない。どうして分からないかな、という歯がゆさと同時に、彼の良さが分かる数少ない人間でいることが誇らしい。
「ん。終わった。」 彼は、明日の取材で使う機材の手入れを終えて。
私は、彼の膝に乗る。
「ねえ。今度のお休み、どこ行く?」 「今度の土日?仕事だ。」 「えー?つまんない。つまんないよう。」 「ごめん。」
彼は、最近では、食べるために写真を撮る。
「埋め合わせは?」 「んーと。じゃあ、明日のランチ。」 「いいの?」 「うん。ちょっと時間取れそうなんだ。」 「わーい。」 「ごめん、な。」 「ううん。いいの。それよか。ねえ。しよう?」
彼はしょうがないなあ、という顔で、私の服を脱がせる。
私は彼に抱かれるのも、大好き。
本当のことを言うと、私は、そこいらのエッチな本に出てくるお姉さんみたいにセックスが好きだとは思わない。むしろ、くすぐったくて笑い出したくなることのほうが多い。
だけど、彼に抱かれるのが好き。彼の胸の厚みを感じるのが。彼の体臭が私を包むのが。
ねえ。
あなたも、いつか、同じくらい私を好きになってくれるといい。
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彼の作品をあちらこちらで見掛けるようになったのは、私にとって、嬉しいことなのか悲しいことなのか、良く分からなかった。
最近、変わったよね。
と、人は、彼の写真を見て言う。
良くなったよ。
という人もいれば、
前のほうが良かったな。
という人もいる。
ともかく、彼の作品は、変わった。うまく言えないけれど、輪郭をはっきり現すようになった。見る人をハッとさせるようなものを撮るようになった。そこに暖かさのようなものは相変わらず存在していたけれど。
「ねえ。今夜は?いつ帰るの?」 私は、しつこいぐらい彼の行動を気にするようになった。
「ごめん。今日は、打ち合わせがあってね。さきに寝ててよ。」 彼の声は、いつも謝ってばかりになった。
「変わっちゃったね。」 「え?」 「あなたも、写真も、変わったよ。」 「じゃあ、ずっと同じでいろって?それじゃ、駄目なんだよ。分かるか?スタイルは、脱ぎ捨てて行くものなんだ。スタイルは問題じゃないんだよ。表現したいものが何かなんだよ。」 「分かってるけど。」
なんか、違う。
スタイルだけじゃない。
むしろ、スタイルに合わせようと、中身まで変えようとしている。
泣いている私を置いて、彼は黙って出て行ってしまった。
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幼い日の恋は終わった。
甘えてばかりの。泣いてばかりの。子供っぽい恋は終わった。
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「久しぶりね。」 私は、体の線を強調するような服で、彼に微笑む。
「誰かと思った。」 彼も、高価な仕立ての服で、笑い返す。
彼の写真集の出版パーティで、私達は、再会した。彼は、腕を絡めていた女性に耳打ちして、彼女をどこかに行かせると、 「今日は、忙しいの?」 と聞いて来た。
「いいえ。空けてるわ。あなたに会えると思って。」 本当だった。
「じゃ、抜け出そう。」 「いいわね。」
私達は、大人同士のように笑い合って、こっそりと部屋を出る。
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「すごいな。」 彼が溜め息のように言う。上で動く私の体に身を委ねて、彼はとても無防備だ。
「何が?」 「きみがだよ。」 「変わったでしょう?」 「ああ。こんなにいい女になるなら、きみと別れるんじゃなかった。」 「嬉しいこと、言うのね。」
女は、その一言が欲しくて、別れの後で美しくなることを決意するのよ。
「あの頃、僕ら、本当に子供だったよな。」 「ええ。」 「僕もひどかった。」 「私も、甘えてばっかりで。」
彼は急に体を起こすと、私を下に組み伏せて激しく腰を動かす。
私は、悲鳴を上げて、彼の勢いに飲まれる。
こんなに激しい人だっただろうか?
私の下半身も、溶けて行く。あの頃とは違う。最近では、誰とだって、こんな風に自分を溶かすことができる。
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「なあ。やりなおさない?」 ベッドで目を閉じたまま、彼は言う。
「また、気が向いたら電話するわ。」 私は、彼を置いたまま、身支度を整える。
「もう、行くの?」 「ええ。お先に。」 「僕を置いて?」 「忙しいの。」 「それ、復讐?」 「何言ってるの。」 「そんなやり方する女じゃなかったよなあ。」 「スタイルは、変わるのよ。変えていかなくちゃ、負けてばっかりでしょう?」 「そんなこと、昔言ってた男がいたよな。」
彼は、苦く笑って。
「行くわ。」 「ああ。」 そう。スタイルは、絶えず脱ぎ捨てて。
だけど、それはなんだかひどく寂しい。
そんなにまでして勝ち取りたかったものって、なんだっけ?
思い出そうとして、私は、そこに立ち尽くす。
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