セクサロイドは眠らない

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2002年02月20日(水) にじんだ血を舐めて、僕は、彼女に入り込み、彼女が壊れそうになるくらいに激しく中から揺さぶった。

「どう?これ。」
「お似合いでございますよ。」
「少し、地味じゃない?」
「お客様が華やかでいらっしゃいますから、これくらい控えめのほうがお客様の美しさが引き立ちますよ。」

僕の勤める店にうなるほどの金を落として行ってくれる、その美貌の女性の肩からジャケットを脱がせながら、僕は耳元でささやく。
「今日、夜は?」

彼女は、かすかにうなずいてから、
「今日試着した分、全部戴くわ。」
と、僕の目を見ずに。

顔だけで、服を何着も買える女。

そのうつむいた睫毛に苦悩の色を見てとると、僕は、まぶたに口づけたくてどうしようもなくなる。

--

夜、彼女が僕の胸で小さくため息をつく。

すっかり化粧が落ちて、しっとりとした大人の女はどこかに行ってしまい、不安げな少女の顔が現われる。

地位も財力もある男に守られて、無邪気に生きて来た女。僕に会うまでは。

僕は、他の男に守られている女が大好きだ。いつも、そんな女に惹かれてどうしようもなくなる。自分の力以上のものを手にしていて、それがあまりに強大なので、それを失うことを怖れて心を千々に乱している様を見るのが大好きなのだ。

「ねえ。怖いの。」
「何が?」
「あなたが。ううん。そうじゃない。この恋が。」
「終わらせたい?」
「終わらせたくはないけど・・・。」
「素敵じゃないか。怖いなんて。」
僕は、彼女のヒリヒリするような不安がいとおしい。

「子供がね。」
「うん。」
「学校に行きたがらないの。」
「何年生になったんだっけ?」
「小学校二年生よ。」
「で、どうしたいの?」
「私、今まで他の人に任せっきりだったから。少し・・・。傍にいてやらないと。」

僕は、彼女の言ったことなんか聞こえなかったみたいに、彼女に強く口づける。さっきまで、心地良く漂っていた肉体が、また熱くなって来た。

「ねえ。待ってよ。話を・・・。」
「待たない。」
僕は、彼女の肩に歯を食い込ませる。

きゃっ、と、彼女はうめく。

にじんだ血を舐めて、僕は、彼女に入り込み、彼女が壊れそうになるくらいに激しく中から揺さぶった。

彼女は、すぐに応えてきた。僕の腕にしがみつく。そうだ。子供の事なんか忘れてしまえ。僕の愛撫に応える余裕があるならば、子供のことなんか。

喘ぎ声が響く。

会話は要らない。

--

彼女がシャワーを浴びて身繕いをし、部屋を出て行った後、僕は、彼女が忘れていったビーズのマスコットをベッドの下から拾い上げる。

「子供がおそろいで作ってくれたのよ。」と嬉しそうに言ってたっけ。

僕は、窓を開けてそれを投げ捨てる。

結婚した女が子供のことを理由に一緒にいる時間を減らし始めたら要注意だ。恋を少し冷静に見る余裕ができた証拠。本当は恋の代価を払うのが怖くなって来たくせに、子供が子供が、と言えば相手が納得すると思っている。

僕は、そんな時、女を困らせてやる。

本当に僕を捨てられるのなら、捨ててみればいい。

後悔するよ。

と、額に掛かる柔らかい髪の毛で。美しく鍛えたしなやかな体で。きみを一番知ってるのは僕だよ、と語りかける指で。困らせる。

彼女達は、与えられることばかりに慣れていて、失うことに慣れていない。だから、慌ててしがみついてくる。

贅沢な苦悩に身をやつして。

そんな様子にしか、僕は興奮しないから。

--

「ねえ。いい加減にしてくれないかな。これで二回目だよね。」
僕は、怒って見せる。

彼女は、ビクッと、全身を震わせる。

子供のことで学校に呼ばれて、と言い訳する彼女を睨み付けて。

「でも・・・。」
「もう、いいよ。出てってくれないかな。」
「そんな・・・。」
「僕は、子供のことで手一杯なきみからおこぼれの愛情をもらう気はないんだ。」
「ねえ、聞いてよ。」
「聞かない。どうせ、子供のことだろう?なら、子供を取ればいい。僕なんかのことは忘れて。」
「ひどい・・・。」

彼女の目から涙が溢れ出す。

僕は大袈裟にため息をついて、ベッドに腰を下ろす。

「本当に最後にする気?」
彼女が震える声で訊ねる。

僕は、何も答えない。

ただ、彼女に向かって悲しげな目をして見せて、それから目をそらす。

さよなら、と、小さな声で。

ドアが悲しく音を立てる。

--

彼女は、来る。

そう思って、待っていた。

思ったより早く、その時は。

「何しに来たのさ?」
僕は、ひどく冷酷に言い放つ。

「あなたを選んだの。」
「子供じゃなくて?」
「ええ。」

彼女の瞳は、あらぬところを見ていた。

「震えてるよ。」
僕は、彼女の肩をそっと抱く。

「私、ひどいことを。」

僕は、彼女の髪の毛に、唇を付ける。

「僕のために?」
「ええ。あなたに会いたくて。」
「じゃ、ひどいことじゃないよ。」
「いいえ。ひどいことなの。私、子供を・・・。」
「言わないで。」

僕は、彼女の唇をふさぐ。

言わないで。きみの苦悩はもう充分に伝わって、僕をこんなに興奮させている。

言わないで。楽にならないで。苦しんで。

僕は、彼女をきつくきつく抱き締める。

「こんな私でも?」

もちろん。

僕が待っていたのは、血。

天使のようなウェンディのママより、残忍な愛の殺戮者を、僕は欲する。


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