セクサロイドは眠らない

MAIL  My追加 

All Rights Reserved

※ここに掲載されている文章は、全てフィクションです。
※長いこと休んでいてすみません。普通に元気にやっています。
※古いメールアドレス掲載してました。直しました。(2011.10.12)
※以下のところから、更新報告・新着情報が確認できます。 →   [エンピツ自由表現(成人向け)新着情報]
※My Selection(過去ログから幾つか選んでみました) → 金魚 トンネル 放火 風船 蝶 薔薇 砂男 流星群 クリスマス 銀のリボン 死んだ犬 バク ドラゴン テレフォンセックス 今、キスをしよう  俺はさ、男の子だから  愛人業 

DiaryINDEXpastwill


2002年02月06日(水) ショートカットで華奢な体つきに似合わず、彼女は服の下に柔らかく弾む乳房と情熱的な心を隠し持っている。

ショートカットで華奢な体つきに似合わず、彼女は服の下に柔らかく弾む乳房と情熱的な心を隠し持っている。

彼女を抱くと、分かる。彼女は、そうやって行きずりのセックスでもしていなければ、自分の情熱に飲みこまれ溺れてしまうのだろう。

思いがけず激しくて切ない喘ぎ声に、僕は驚いた。

「私を抱いてくれる?」
と、震える睫毛で訊ねて来た時には、それに気付いていなかった。

「いいよ。」
と、僕は、他の女の子達を抱くように無造作に彼女を抱いた。

「ありがとう。」
と、彼女は僕の目を見ずに、答えた。

--

「何で、僕と寝たいの?」
「勘違いしないでね。誰でもいいの。私を愛さない人なら。」
「愛は嫌い?」
「大好きよ。大好き。」
「じゃ、なんで?」
「好きな人がいるの。でも、彼と一緒にいられない間、私は私の心を誤魔化すために、誰かと寝るの。」
「で、僕?」
「かまわない?」
「かまわないよ。愛がないのも、それなりに得意だ。」

そんな会話で始まったから、もっと冷たいセックスが待ち受けているのかと思った。彼女の、染められていない漆黒の髪のように拒絶してたたずむセックスが。

だが、予想を裏切るその情熱に、僕は驚く。

「すごいんだな。」
「やめてよ、その言い方。」
「誉めてるんだ。」
「しょうがないのよ。こうでもしてないと、私、彼のストーカーになっちゃいそうなの。」

彼女の目は相変わらず僕を見ないまま、彼女の舌が僕を捉える。僕が思わず声を上げたところで、彼女は聞いてやしないだろう。そう思うと、なぜか急に気が楽になり、僕は彼女の愛撫に身を任せる。他の女の子達を抱く時よりも、ずっとリラックスできる。彼女は、他の愛を想い描きつつ、彼女の海に僕を飲み込む。

--

僕は、彼女が恋人と会えない週末は、いつも彼女の部屋へ行くようになった。

「あの人、奥さんがいるのよ。」
「ふうん。」
「最近、妊娠したんですって。あの人、嘘吐きなの。」
「それでもきみは彼を好きなの?」
「ええ。」
ため息のように、答える。

「狭い一本橋で、向こうから彼の奥さんが来てて、こっちから私が歩いて行ってるの。避けたほうが落ちるのよ。避けなければ、彼の愛が手に入るの。」
「そんな嘘吐きの男なんか、放っておけばいいのに。」
「本当にね。どうして放っておけないのかしら。つまらない男なのに。」

彼女の部屋の窓に、雨の水滴がつき始める。彼女が流せない涙を、空が代わって流しているように。

「私ね。」
彼女は、規則正しい雨音で眠たくなった僕の耳に、ささやくように言う。

「勇気がないの。」
「勇気?」
「ええ。自分の気持ちを自分だけで抱き締めておく勇気。」
「僕だって、勇気なんかないさ。」
「ごめんね。」

謝らなくていいよ。

僕は、眠りに落ちた。

--

目を覚ますと雨はあがっていて彼女は眠っていた。肩に毛布を掛けると、僕は部屋を出た。

--

僕は、男をホテルのロビーに呼び出して、話をしている。

「で。僕はどうすればよかったのかな。」
男は、大人のしぐさで、煙草を吸う。

「もう少し、余計に彼女の愛を知ってやるべきだったと思いますよ。」
「彼女の愛?」
「気付きませんでした?」
「ああ。気付かなかったな。そんなこと、言わなかったから。」
「僕には随分と言ってましたよ。」
「だが、もう遅いだろう。彼女は、いなくなってしまった。手紙も残さずに薬を飲んで。」
「奥さんが妊娠したことに絶望したんじゃないんでしょうか。」
「妻が?」
「ええ。あなたのこと、嘘吐きだって言ってました。」
「妻は、妊娠などしてないよ。」
「え?」
男は、静かに煙草の煙を吐き出す。

「そもそも彼女は、僕のことなんか愛してなかったんだよ。」
「嘘です。彼女はあなたを・・・。」
「誰でもいいんだって言ってた。誰か好きな男がいて、その男への気持ちが処理しきれないから、他の男とも寝るんだって。」

どういうことだろう?彼女の愛していた男は、誰?週末毎に彼女と僕は寝ていた。他に男がいるとも思えない。

僕は、無意識に立ち上がり、フラフラとホテルの入り口に向かって歩く。

男の声が背後からする。
「彼女の恋は、我々がどうにもできるものじゃなかった。放っておくしかなかったんだろう。」

僕は、立ち止まる。
「でも、彼女は出口を求めて、苦しんでいた。」
「それより、きみ自身の恋をどうにかするほうが先だったと思うがね。」

僕は、振り返るわけにはいかなかった。多分、目が赤くなっているから。

誰かの恋より不可解なのは、僕自身の恋。


DiaryINDEXpastwill
ドール3号  表紙  memo  MAIL  My追加
エンピツ