セクサロイドは眠らない

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2001年12月01日(土) 「ねえ。セックスの上手さって、技巧じゃなくて才能だと思うのよ。」

妻の帰りを待つ、グラスの手が震える。

多分、彼女は今、あの男に抱かれている。彼女がどんなに上手に痕跡を消しても、私には分かる。

彼女が帰宅してくる頃には、私はグラスを片付け、ベッドで眠っているふりをするだろう。彼女も、私が眠ってなどいないことを知っていて、気付かぬふりをする。そうして、二人とも、眠っているふりをしながら、朝まで、どうにも手のほどこしようのない結婚生活について考えることだろう。

--

「おはよう。」
彼女は、化粧で上手に目の下の隈を消し、完璧な笑顔で微笑む。

彼女のほうが出勤時間が早い。彼女は、小さなデザイン会社を経営している。

「昨日は遅かったのかい?」
「そうでもないわ。」

知っているくせに。ああ、知っているよ。

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正直で傷付き易い彼女。私は彼女と一緒に傷付くことこそが、彼女を理解できる手段だと考えて、彼女と結婚することを望んだ。彼女も、それを望んだ。

そうして、私は、彼女とたくさんのことを話し合った。

彼女は、自分のことを「夫に恋する女」だと言っていた。「いつまでも、この魔法が解けなければいいのに。」とも。

だが、ある時点から、彼女は私と話をする時、どこか上の空になった。

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「ねえ。セックスの上手さって、技巧じゃなくて才能だと思うのよ。」

あの日、なぜ別の男と寝たのかと私が彼女を責めた時、彼女はそう言ったのだ。

「才能?」
「ええ。私は、才能あるセックスに巡り会ってしまったの。」
「それだけが理由なのか。ただ、それだけが?結婚生活にはもっと大事なものがあるだろう。セックスだなんて・・・。」
「本当にそう思う?」

私には答えられなかった。

でも、彼女があの美貌の若者と寝るのには別の理由があることを知っている。彼は、彼女を理解しようとしない。ただ、性の対象としてのみ、彼女に興味を持つ。そして、彼女はあの若者と一緒にいることで安らぐ。

「彼のセックスが見せてくれるものはね。飛躍する才能。解放する才能。考える暇を与えない熱情。あなたにはないものばかりなのよ。」

なんと残酷な言いぐさ。

「でも、僕は誰よりもきみを理解している。」

彼女は、私に殴られた頬を冷やしながら、言う。
「理解って支配と似てるよね。」

そうだ。理解は容赦ない。見て見ぬふりなどしてはくれない。

そうして、彼女は、欲張りだ。理解されることを望み、理解されないことを望む。両方望むなんて間違っている。

私は、そんな彼女から離れられない。

--

「じゃあ、仕事行くわね。」
「なあ。」
「ん?」
「今夜、ちゃんと話し合おう。」
「何を?」
「結婚生活について。きちんとしよう。」
「今のままでは駄目なの?」
「ああ。駄目だ。」

--

夜、彼女は帰って来ない。

電話が鳴る。あの若者からだ。

「彼女、今僕の部屋で・・・。」
彼は、泣いている。

どうして泣くのだ?なぜ、彼女は、ここではなく、きみの部屋にいるのだ。彼女はどうしているのだ?答えなさい。と言いながら、私は知らず知らずに涙を流す。

「少し・・・、疲れたと言ってました。」
彼が、ようやく答える。

「そうか。じゃあ、そのままもう少し眠らせてやってくれないか?」
私は、他にうまい言葉が見つからないまま、受話器を置く。


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