セクサロイドは眠らない

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2001年09月09日(日) 僕は、幸福に突き動かされて、激しく彼女の中に。もっと奥に。もっと深く。

上司に付き合って少し遅い帰宅をした僕のアパートの部屋の前に、何か置かれている。よく見ると、小さな鳥がうずくまっているのだ。羽を怪我して、動けなくなっているようだ。

可哀想に。

僕は、鳥をそっと抱き上げて、部屋に入った。羽を消毒してやる。抵抗する元気もないのか、僕に体を預けている。

--

「クミコさん?」

土曜日の夜、軽く友人と飲んで別れた後、夜の繁華街をフラフラしていると、職場の先輩のクミコさんとバッタリ出くわしたのだ。よく見れば、目が真っ赤で、手にはハンカチが握られている。

「あら。」
クミコさんは、僕に気付くと、無理に笑顔を作った。

「恥ずかしいところ見つかっちゃったな。」
2歳年上のクミコさんは、困ったように立ち尽くして。

「どっか、飲みに行きませんか?あ、いや、迷惑じゃなかったら。」
「え?あ、うん。そうしよっか。」

クミコさんと、こうやってプライベートで飲みに行くのは初めてだな。と、思いながら、僕は、ちょっと胸が高鳴る。とびきり美人というわけではないけれど、いつもひたむきに仕事に取り組む、素敵な先輩だったから。

席に着くと、僕は、何を離し掛けていいのか分からなくて、クミコさんが口を開くのを待った。

「恋人とね、別れたのよ。」
「え?」
「不倫だったの。馬鹿みたいでしょう?私、自分がもっとしっかりした人間だと思ってた。あんなつまんない男に引っ掛かるなんて思ってなかった。それなのに、気付いたらはまってて。結婚してもらえるって信じてて。本当に馬鹿だわ。」
「その男のこと、本当に好きだったんだ?」
「そんなこと、分からないわ。寂しかっただけなのかもしれない。」

彼女は、また、泣き出しそうに顔を歪める。

--

クミコさんを送って部屋に戻ると、カゴの中でじっとしている鳥に声を掛ける。

「やあ。どうだい?怪我の具合は。
僕は、今夜、少々酔っている。素敵な人と飲んで来たんだ。」

--

それから、僕とクミコさんは、電話を掛け合って長く話をするようになった。

そうして、休日、公園で初めてのデート。

「こんなデートができるとは思ってなかったわ。」
カジュアルな服装に、ほとんど化粧気のない、幼く見える彼女。

「あの人と付き合っていた頃は、いつも会うのは夜だったの。ちょっと大人っぽいスーツ着て。あの人がくれた香水をつけて。電話を待つばかりだった。誰にも見られないように、すぐホテルに行って。」

僕は、彼女を抱き寄せる。腰に手を回して、そっと口づけする。

「ねえ、私の部屋に来ない?」

--

女性らしい装飾が何もない、仕事の資料が少々散らかっている部屋。

「お茶、いれるね。」
台所に行こうとする彼女の手首を掴んでそっと引き寄せると、僕は、彼女の唇に何度も何度も、キスをする。

「汗、かいてるわ。」
「かまわないよ。」
汗ばんだ首筋に、激しく音を立てている心臓に、僕は口づけする。彼女は僕にしがみつく。僕は我慢できずに、彼女の中に割って入る。

「あいつと比べて、どう?」
「馬鹿なこと聞かないで。あなたのほうがずっといい。普通の恋がこんなに幸せだとは思わなかったわ。」

僕は、幸福に突き動かされて、激しく彼女の中に。もっと奥に。もっと深く。

「ねえ・・・。」
「ん?」
「好きよ・・・。」

彼女と僕の声が混ざる。

--

鳥は、すっかり回復して、餌を食べている。

「元気になったみたいだね。僕?僕も幸福さ。」

--

僕とクミコは、さっきから沈黙をはさんで向かい合っている。

「2年すれば、帰ってくるわ。」
「分かってるけどさ。僕達、始まったばかりなのに。」
「ごめんなさい。でも、上司にも推薦してもらったし。海外に行けるチャンスなんて、もう最後かもしれない。男性のあなたには分からないでしょうけど。同期のMさんは、結婚しているっていう理由で、推薦してもらえなかったのよ。」
「どうしても、行きたいの?」
「ええ。」

--

鳥カゴの中で、鳥が暴れている。外に飛び出したくて。

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彼女は行ってしまった。

そうして、予想通り1通の手紙。

自分の力を試したいからと。いつ戻れるか分からないからと。

僕は、鳥を、カゴから出す。

ベランダにそっと置くと、鳥は、僕を見て。

カゴで暴れたせいで新しい傷がついた羽。

傷付くことを怖れない鳥は、ひととき羽を休めて、また飛んで行く。


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