セクサロイドは眠らない

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2001年08月29日(水) 彼の愛撫の感触が。彼が私の中に残した火照りが。彼の痕跡が体のそこかしこに

街角で彼の姿を見つける。

「あ!」
思わず声を上げる。彼の肩に手を掛ける。だが、振り返ったその人は、彼ではない別の人。

「人違いでした。ごめんなさい。」
頭を下げて、謝る。

目に涙がにじむ。

--

ベッドで寝ていると、玄関で音がする。

「戻って来てくれたの?」
私は玄関に走って行く。

胸をドキドキさせて、言う。
「おかえりなさい。」

そこで目がさめる。

--

角を曲がろうとする彼の後姿を見つける。

「待って!」
追い駆けて行くが、角を曲がったそこには誰もいない。

私は、失望のあまり、しばらくそこに立ちつくす。

--

彼がいつものように仕事で遅く帰宅して、ベッドの私の横に大きな体を滑り込ませる。私は、彼の冷たい足に、自分の足を絡めて、抱きつく。彼の匂いがベッドの中に満ちて。

彼は、大きくて不器用な手で、私のパジャマを脱がせようとする。ボタンがはずせないで焦っている彼のことを笑いながら、私は自分でパジャマを脱ぐと、彼の服も脱がせる。

彼の口づけは、ゆったりと、暖かく、愛撫は緩慢で不器用だ。時々力が入り過ぎるので、「痛いわ」と言うと、「ごめんごめん」と謝りながら、でも、彼の顔は真剣そのもので、私が壊れるとでもいうかのように、そうっとペニスを挿入してくる。それだけで、もう、私は頭の中が光でいっぱいになって、彼の動きに合わせて、脳の奥に閃光が刺す。彼が私の名前を呼ぶ。私が彼の名前を呼ぶ。

「ねえ。」

彼の広い背中にしがみつこうとして。

そこで目が覚める。

彼の愛撫の感触が。彼が私の中に残した火照りが。彼の痕跡が体のそこかしこに残っているのに。でも、彼は、ここにいない。

もう。ずっと。

私は、ただ、彼のことを想って。彼がここにいないことに耐えられなくて。泣いて。それから服を着て、無駄だと分かっていても、夜中であっても、彼を探しに出掛ける。

--

「ねえ。ここ、どこ?」
「病院だよ。」
「私、なんでここにいるの?」
「少し話を聞きたいと思ってね。」
「何の話?私は忙しいのに。早く終わらせてね。彼を探しに行かないといけないから。」

--

やれやれ。

彼女の診察を終えると、医師は、眼鏡を外して、ゆっくりと拭く。

恋人を切り刻んで250以上の「部分」に分けてしまった女。その一部が紛失しているが、幾つかの死体の断片から彼女の歯型が検出され・・・。

警察の資料に目を通しながら、医師は、彼女の焦点の合わない美しい瞳を思い出す。

もしかして、被害者の男は幸福だったのかもな。

だが、報告書には、愛の深さを記述する欄はない。


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