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2023年09月30日(土)
パール兄弟 結成40周年〜ありがとう、ヤッシー〜

パール兄弟 結成40周年〜ありがとう、ヤッシー〜@原宿クロコダイル


ライヴの前に行った菊地昇さんの個展で、デヴィッド・バーンやトーキング・ヘッズの写真を観ていたのでした。

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パール兄弟ゆかりの地、原宿クロコダイルで40周年のお祝い。同時にヤッシーこと矢代恒彦さんのメモリアル。ひとの死は自然の摂理なれど、末っ子がいちばん早く亡くなるなんてね。入場時にガーベラの花一輪と、「ヤッシーへメッセージを」という紙片が渡される。ステージ前に献花台と遺影。といっても、すましたヤッシーはポップな赤い額装で飾られている。アー写でも使われていたこの写真、格好いいよね。好きだったなあ。なんて思っていたら、MCでサエキさんが「双羽黒に似てるっていってたよね! 元北尾ね!」とかいいだして笑ってしまった。そう、フロアは常に笑いに溢れていた。しんみりしつつも楽しくお別れ出来てよかったな。パール兄弟はそうでなくちゃ。

各々のスケジュールやコロナやらで、バンドセットは本当に久しぶり。その間にヤッシーは亡くなってしまい、追悼ライヴとかやらないのかなと思っているうちに一年経ってしまった。最後のステージは亡くなる2ヶ月前、ビルボードのホットボンボンズ。逃してしまった。入場前隣に並んでいたひとと話していて、「(ビルボードでは)確かにすごく痩せたなと思ったけど、まさかあれが最後になるなんて」「このまま追悼も何もやらないの? ってずっと気になってて」といっていた。実現してよかった。エスケンやバンド仲間には伝えてあったそうだが、観客は彼の病状を知らずに演奏を楽しんだ。上田現のときみたいだな。やっぱりいつが最後になるか判らない。行けなかったことを悔やんでいる。

というか多分、ボンボンズだと皆「エスケン大丈夫か? 最後迄やれるのか?」みたいな感じでエスケンに注意が集まっていたと思う。フロントマンだからというだけでなく、年齢的にも大きな挑戦だったからね。それをしっかり支えていたのが、ヤッシー最後の演奏だったんだ。



エスケンまだまだ元気でいてね!

ヤッシーがパールに参加するようになったのは『PEARLTRON』のあとくらい。私が上京してパール兄弟のライヴに行けるようになった頃には、もういるのがあたりまえだった。いない方が珍しかった。その後五男坊として正式メンバーというか兄弟になってからは、いない訳がない。「TRON岬」や「青いキングダム」で、あのシンセの音が聴こえないことに愕然とした。窪田さんの負担がかなり増えているようにも感じた。いつにも増してエフェクターを切り替える回数が多く、長年聴き慣れたものとは違う音がカラフルに繰り出される。かなりたいへんそうではあった。そしてこちらは聴こえてこないアナログシンセのあの音を脳内で鳴らす。悲しい作業だが、これがまた鮮明に思い出せるのだ。唯一無二のヤッシーの音は、こうやって聴き手の心に生き続けるのだなと思う。

実際窪田さんは音づくりに関してかなり参ってるようで、というか亡くなったときの「困る!」という言葉が顕著だったが、困り果ててる、途方に暮れてるという感じだった。まだどうやればいいか判らない、正解を探している最中、というか今やってるこれが正解なのかどうかすら判らないといっていた。勿論音に関してだけでなく、長年の音楽仲間が、しかも後輩というか弟のような存在が自分より先に鬼籍に入ることになってしまい、こちらの想像など及ばないくらいのダメージがあったのだと思う。あまりそういうところを表に出さないひとだが、というか実際ステージ上でそういう姿を見たことがないが(自分の勘当という名の脱退時でさえ「どうも自分には人情というものがないくさい」っていってたよね! ガッチガチに義理堅いくせに!)、下を向いたり、顔をしかめたりする場面が何度もあった。サエキさんがいつもの感じで軽妙な(そしてときどきデリカシーのない・笑)トークで場をまわして、まわし過ぎて何かいおうとしていた窪田さんが話すのをやめてしまったりもしたのだが、それはサエキさんの配慮なのかもしれないな、とちょっと感謝。

2ndセットでは、音源から抽出したヤッシーの音を吉田仁郎さんがPCから鳴らしてくれた。どんなにホッとしたことか。脳内補完をする作業から解放されると同時に、ああ、ヤッシー本当にいなくなっちゃったんだとまたさびしくなる。それでも思い出話に笑いは絶えない。アナログシンセと手弾きに拘り続けたこと、病状が進むなか「もう好きなことだけやるんだ」と煙草をやめなかったこと等、彼なりの頑固さを新たに知り、だからこそ誰にも真似出来ないあの音が鳴らせたのだなと改めて納得したりした。あと窪田さんが「パール兄弟はサエキくんとヤッシーがいれば成立するから」って伝えていたって話にも驚いたな。それを受けてバカボンが「なにぃ〜!」っていって笑いに変えてたけど、そんなこといってたのか。

そうそう、サエキさんの優しさにジーンと来たことがひとつ。PC操作で「画面上に音符を置いていく」演奏が増えて、もう手弾きの演奏なんて古いんですよみたいなことをいっていた、という話から「何いってんの、手弾きのプレイヤーが減ってってるからこそ貴重なんじゃない!」ってめっちゃ早口でいったの(笑)。これ本人に伝えたのかな、伝わっているといいな。

演奏はいつもすごいんだが、いつにも増して凄味に満ちていた。ブレイクやヒットがズバズバとキマる。ヤッシーのパートを埋めるべくアレンジを変えていることで緊張感があったのかもしれない。最前にLAから来たというカップルがいて(!?)、そうなるともうサエキさんがめっちゃ構って、何度も英語で話しかけたりサインボールあげたりしてて、「○。○○○娘」でジャクソンマイケル(本日苗字→名前で呼ぼうぜという流れになってた)の「スリラー」とスネークマンショーの「ジャパニーズ・ジェントルマン・スタンドアップ・プリーズ!」の引用になる流れは恒例だけどそのパートがすんごい長くて、めちゃめちゃ下ネタを英語で呼びかけて、あのふたりずっとニコニコご覧になってたけど大丈夫だったかしら…楽しんでくれてたらいいけど……とこっちが不安になる程だった(笑)。それにしてもバカボンの「ハーッハッハッハッハ」(「スリラー」のアレ)の完コピは素晴らしかった。何度もやらされてたけど。

新曲も2曲あり、同世代の友人に亡くなるひとが増えてきたことを描いた歌詞にしみじみとし、こういうの聴くとやっぱサエキさんすごいなとなり、バカボンのスティックも聴けたし(やっぱすげえ格好いいなー!)松永さんは演奏もツッコミもサエキさんの話聞いてないところも安定の通常運転で頼もしかったし、窪田さん(9/18)とバカボン(9/28)のお誕生日祝いもして、悼みとお祝いが同じ日にあることに混乱しつつ、久しぶりに集まって故人の思い出話に花を咲かせられたことに感謝する。こうしてみると、亡くなってすぐではこんな風に明るくヤッシーを送れなかっただろう。

パール兄弟はずっと聴いていくだいじなバンドのひとつ。きっかけをつくってくれたのは教授だった。そうそう、コロナの影響で中止になってしまった矢野顕子さんとの共演、ひっそり待ってますからね。中止にならなければ、ヤッシーとやのさんの共演が聴けたんだよなあ。34年前、ヤッシーはまだ兄弟じゃなかったからね。機会は永遠に失われてしまった。やっぱりさびしい。

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setlist(サエキさんのツイートより引用)

1st set
01. Warning Sign(トーキング・ヘッズカバー)
02. メカニックにいちゃん
03. 馬のように
04. TRON岬
05. 歩きラブ
06. アニマル銀行
07. 導火線(新曲)
08. 青いキングダム
2nd set
09. らぶデカ
10. 予想したい(以上ヤッシートラックと)
11. 田舎
12. 火の玉ボール
13. ゴム男
14. 色以下
15. ○。○○○娘
16. 快楽の季節
encore
17. バカヤロウは愛の言葉
18. 僕らはここにいる(新曲)

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三年計画、期待して待ってます!


撮影OKタイムがあったの。いやホントキレッキレよな


黒縁メガネかけてるとzoffの広告のヌートバーに似てたのよ。唇薄いとことか

・Foods & Drinks┃原宿クロコダイル
フードメニューの画像がないのが悔やまれる。
クロコダイル、十数年ぶり(もっとか?)に行ったけどごはんおいしいね……普段ライヴハウスでガッツリ飲食しないけど、この日は着席だったし、開演迄余裕あるし、サさんがここおいしいよといっていたのでオムライスを頼んだらふわふわ玉子で、しかもちゃんと巻いてるやつがきておいしかったー! 他のメニューも気になるものが沢山あった。限定の冷やし中華は早々に売り切れていた。昔は店名にちなんでワニのステーキとかあった憶えがあるが、今はもうないようだった



2023年09月29日(金)
赤堀雅秋一人芝居『日本対俺』

赤堀雅秋一人芝居『日本対俺』@ザ・スズナリ


地を這う者を蟻の視点で見つめ、「そういう人物」を第三者の視点で描く。鳥瞰の作家。

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1. COVID-19
2. インフラ対策
3. 8050問題
4. 無敵の人
5. SDGs
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作・演出・出演:赤堀雅秋、総合演出:大根仁。5本立てのオムニバス。

スズナリはみちみちの満杯。そうそう、こういうの久しぶり。こういうのが好きだったんだよと思い出して開演前からせつなくなったりする。THE SHAMPOO HATの前身はパフォーマンス集団で、ショーレストランが活動の拠点だったとのこと。こうした短編もよく上演していたのかもしれないと思いつつ観る。

ほぼ素舞台で、演目ごとに椅子、看板、ベンチ等のちょっとした調度品が用意される。開演1本目の設定がサウナ。当然全裸。ツカミは完璧。前方席だったが前張りがチラチラ(きちんと?)見えていたので、ある意味安心して観る。サウナから工事現場、年老いた父と中年の息子が住む家庭、ベンチ、スナックと場面は移り、それぞれ人生どん詰まりの52歳男性が毒を吐いたり弱音を吐いたりする。そこにいるのは下品で、差別的で、不潔に見える人物。それを観て笑いつつ、身につまされる観客。

赤堀さんの筆に凄みがあるのは、醜悪な自分を見ている自分、を見る観客、という地点に迄しっかりリーチするところだ。差別なんかしません、ではなく、つい差別してしまう自分がいる。下劣で卑しくなってしまう自分がいる。そんな人物は第三者からこう見えている。それを見てあなたは笑うんですか? 顔をしかめるんですか? 気付けば切っ先が自分に向いている。人類が滅びればいいんだよーという台詞は、常々自分もそう思っているだけにグッサリ。無責任だからそういえちゃうんだよね。人類は好きではないけど、だからって未来の人類のことを今の人類が投げちゃっていいことにはならないのだ。

唸ったのは「無敵の人」パート。おそらく『動物園物語』をモチーフに、無差別殺人を起こそうとする人物を描いているのだが、ハッキリそれを「無差別殺人ではない」といっているところ。弱い女子どもを狙う。「誰でもよかった」なんて都合のいいことはいわない。そしてその人物は、結局行動に移さない。というか、行動に移すのをだらだらと先送りにする。あのとき話しかけられた人物が立ち止まらなかったら? 話を聴こうとしなかったら? そんな危ういバランスのなか、赤堀さんはいやいや乍らであっても彼の話を聴く人物が登場するものを描く。

そこに希望を見る。そうだった、このひとはどん底からちいさくて仄かな光を描くひとだった。

転換時に山下敦弘監督のロードムービーを上映。かつて好きだった女性を男3人で訪ねていくというストーリー。赤堀さん、水澤紳吾さん、松浦祐也さんのわちゃわちゃドロドロした会話がこれまたヒドくてせつなくて、はあ困ったねえ、生きていくしかないのかねえと思うのだった。

それにしても衣裳(坂東智代)が絶妙。赤堀さんの作品って、どこで見つけてくるんだっていうすんごく冴えない、でも本人は精一杯おしゃれして身だしなみを整えてるってことをギリギリ観客に感じさせるコーディネートの人物が毎回出てくる。今回でいったら「8050問題」の、デリヘルを家に迎える人物の格好ね。

日替わりゲストは大倉孝二さん。久々に大倉くんの凶悪な歳下キャラが観られて楽しかった! この日はカメラが入ってたんだけど、本人たちも放送出来ないかもっていってた(笑)。お金を返してとやってくる人物(ゲスト)と、返せないという人物、という設定以外は即興だったらしい。田中哲司さんゲストの回を観た方の話を聴いたけど全然展開が違ったわ……大倉くんδ發Tシャツ着てお弁当持参で、赤堀さんと一緒にお弁当食べたりしました。どう出るか読めなさすぎて、キャーキャー怖がる赤堀さんが見ものでした。

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(やっぱカレンダー買うべきだったか)(卓上カレンダーだったらきっと買ってた)

・赤堀雅秋一人芝居「日本 対 俺」┃日日是、滝沢恵
カーテンコールで赤堀さんが「これが劇団の解散公演です」って言ってたのだけれど。
それが本当に本当なのかはわからんけど、もしそれが本当なのであれば、そんな瞬間を劇場で立ち会えて良かったなと、そう思った。

赤堀さんの書いた台本の芝居に9年ぶりに参加できたこと。
めちゃくちゃ楽しくてうれしかった。

そうそう映像観たとき滝沢さんだ! って思ったのです。でもクレジットがなくて気になってた。
やっぱり出演されてた。うれしいな。黒田さん出演の回も観たかった。
解散、これ迄明言はしていなかったと思う。今回の公演のチラシで大根さんが「解散」ってワードを出していて、そう…なのか……? と思っていたんだけど、劇団員もその辺ハッキリいわれてないのだなあ。
ていうか大根さんってホントそういうとこデリカシーないわね(毒)。
劇団のSNSは機能していて、所属俳優の情報等は今でも更新されている。
THE SHAMPOO HATの公演、今でも密かに待ち続けている



2023年09月21日(木)
SPC 26th Anniversary 高橋徹也27thデビュー記念日『see the light 2023』

SPC 26th Anniversary 高橋徹也27thデビュー記念日『see the light 2023』@Star Pine's Cafe


「声の波紋」のあの声が、一週間経った今も耳にこびりついている。

「約十年振りの再会となった山本隆二さんとのデュオ演奏」(後述ブログより)。10年前を振り返りつつ、そこにあるのは最新型。27周年おめでとうございます。Star Pine's Cafe(SPC)も26周年おめでとう。

私が高橋さんのライヴを初めて観たのは2013年、佐藤友亮(sugarbeans)さんのピアノとのデュオ編成でした。まさに10年前。その時点で、高橋さんはデビューして既に16年半くらい経っていたことになります。2005年に『ある種の熱』をリリース後、長い沈黙期間に入った(らしい)高橋さんが新作『大統領夫人と棺』を携えシーンに復帰(?)したのが2013年。その間断続的にライヴは行われていたようですが、山本さんがレコーディングやライヴで参加していた時期は『Reflections』『ある種の熱』辺りだったそうなので、完全に入れ違いだったんですね。2013年リリースのライヴアルバム『The Royal Ten Dollar Gold Piece Inn and Emporium』でのkeyは上田禎さんだったので、山本さんの演奏をライヴで聴くこと自体が初めてでした。

ちなみに2004年リリースの『Reflections』は現在入手困難、この通り高値が付いております…ってか自分が血眼で探してたときより相場上がってんな。結局手に入れられてない。『REFLECTIONS 2018』で全曲聴けたときはとてもうれしかった。そうそう、この日のエレベーターでの会話、忘れがたい。見ず知らずの人と思わず感想を交わしてしまうくらい素敵な夜だったのです。

このとき「何故再発出来ないか」という話をされていました。リアルタイムで体験していない『Reflections』シーズンと山本さんは、手が届かない憧れの音。それが今夜聴けることになった。「入手困難、再発困難」に閉じ込められている楽曲を、さまざまな企画とともにライヴで披露してくれる高橋さんのアイディアには毎回唸らされます。

ステージ下手側にハモンドオルガン、フロアに向かってNord Piano 2、中央寄りにグランドピアノ。鍵盤に囲まれ、マイクを隅に追いやった(笑・喋る気ないでしょうと高橋さんにツッコまれていた)セッティングは、要塞にもプライベートルームにも見える。簡単には他者を寄せ付けなさそう……という印象とは裏腹に、高橋さんとのやりとりは静かで流麗。青い炎のような熱さと強さも感じました。ピアノをミュートして弾くところもあり、ハンマーが弦を叩く音がカタカタと聴こえて心地よい。Nord PianoはKORGみたいな音がしてかわいい。オルガンの音色も新鮮。「5分前のダンス」で始まり、2曲目にはもう「惑星」。キエー『The Royal〜』で繰り返し聴いてベースラインが染み付いてる(自分比)「惑星」が、ピアノとギターのデュオだとこうなるのかー! と真顔のまま興奮。そもそもオリジナルの音源で弾いているのが山本さんなんですよね。

『Reflections』にしか収録されていない(確か)「憧れモンスター」と「声の波紋」を聴けたのはとてもうれしかった。圧倒されたのは「声の波紋」。世紀末的風景に引きずり込まれる。地声と裏声が微分音で移行していくメロディは、喉のコンディションにも左右される。少しでもズレたらただピッチを外したように聴こえてしまう。この揺らぎこそブルーノートというのだろうが、それに「声の波紋」と名付ける辺り、自身の声をよく知っている。

2004年の楽曲? この日のために用意されたかのようじゃないか。この編成で演奏されるのを待っていたかのよう……というのは5年前の『REFLECTIONS 2018』でも思ったこと。高橋さんの演奏と歌は、常に当時の再現ではなく、いつでも最新型なのだ。「新しい世界」と「ユニバース」を同じ日に聴いたのも個人的には初めてのことで、盆と正月がいっぺんに来たかのような気持ち。納涼のつもりで来た筈なのに(笑)。涼やか乍らもエキサイティングな夜になりました。

うれしかったのは、当時の曲だけでなく、山本さんが離れてからのナンバーも聴けたこと。後述のセットリストに収録アルバム併記してみたけど、初めて一緒に演奏したであろう曲が1/3くらいか? 「The Orchestra」は『a distant sea / 遠い海』でのストリングスアレンジが強く印象に残っていたので、ピアノとギターによるデュオアレンジには新鮮な驚きがありました。高橋さんと山本さんの“今”が結晶した美しさ。

「個人的にいちばん辛い時期に一緒に活動してくれた」「やりたいことがあるのでバンドを辞めたい、といってきたときも感謝しかなかった」「そもそもは鹿島さんが、鹿島さんときどきそういうとこあるんだけど(笑)『高橋、何もいわずこのひとと一緒にやってみてくれないか』と山本さんを連れてきた」「久しぶりに会ったので、リハの方が緊張していた。思い出話をしたりして。本番の方が自然にやれている」。貴重な話も沢山聴けました。「SPCは、南青山MANDALAでよくライヴをやっていたときに、吉祥寺にこんなところがあるんだよと紹介されて出るようになった」。同じMANDALAグループですからね。貴重といえば、「デビュー時に制作のひとがいろいろ考えてくれて、僕のイメージカラーを作ってくれたんです。それが緑だったんですねー」「それでこの色なんです(と『My Favourite Girl』のシングルを見せる)」という話は初めて聴いた。それに因み、この日の衣装は明るいグリーンのサマーセーター。「別に僕緑が好きって訳でもなかったんですけど」「ひとりなのにメンバーカラー(笑)」って自分でウケてました。

デビュー当時の話、「辛かった」時期の話、そして今。「今日は自然に話せた感じがします」「この身が果てる迄音楽を続けていきたい」「ずっと聴いてくれている方も、途中乗車の方も、分け隔てなく感謝しています」とポツリ。根拠不明の明るさを振りまくことをせず、静かに自らのキャリアを展望する。青い炎は高橋さんのなかにもあるのだと感じました。

「ピアノが入るとやっぱりいいですね」「僕の曲ってピアノが合うと思うんですよね」。確かに。このところsugarbeansさんが多忙を極めていることもあるのか、バンドセットでもピアノがないことが増えている。勿論G、B、Drsのトリオ編成ではロック、ジャズのスリリングで骨太のグルーヴを体感出来るところがたまらないのですが、どちらも聴きたいと思ってしまうところはありますね。ご本人もソロ、デュオ、バンドと、ライヴのカレンダーのバランスを考えているのかもしれません。

本編ラストの丸腰(っていうな)「八月の疾走」にも驚いた。以前も一度観たことあるような? でもそのときより開放感があったというか、照れてんじゃねーぞという決意が感じられました(笑)。スタンドマイクで、長い腕を振りまわして唄う。これも最新型の高橋徹也。かつて川島道行が初めてスタンドマイクで唄ったとき「丸腰!」「丸腰だ!」と騒いだものですが(ヒドい)、ギターが身体の一部になっているような印象のひとが楽器を手離して唄うと驚きますよね……いやいや格好よかったです。

昨年は「世界で3枚しかない」『怪物』テストプレス盤をじゃんけん大会でプレゼントしていましたが、今年は件のデビューシングル3枚(だったかな)を、「もらってってください!」と最前列のテーブルにピャーっと置いて帰って行かれました。ラブレターを渡す女子高生か。ちなみにこの日のタイトル“see the light”は、新曲「夢に生きて」の一節なのだとか。タイトルにしといて演奏しないというね(笑)。ソロで1回、バンドで1回しか披露されおらず、まだ聴けていません。いつ聴けるかな、憧れが新たにひとつ増えました。そういえば高橋さん、次回山本さんと共演するのはオリンピックの年にでも……といってたけど、これって4年に一回くらいという意味だったのかそれとも来年のことなのか。来年でも全然いいわよ〜! またの機会を待っています。

ところで「新しい世界」、1月の『高橋徹也 × 小林建樹』でもギターとピアノのデュオで演奏されましたよね。なんだか道場めいてきて面白いな……これからもいろんなひとのピアノで聴いてみたいです。

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"see the light 2023" setlist(高橋徹也 official Blogより)

01. 5分前のダンス(『ある種の熱』)
02. 惑星(『ある種の熱』)
03. 怪物(『怪物』)
04. 憧れモンスター(『Reflections』)
05. The Orchestra(『The Endless Summer』)
06. La Fiesta(『ある種の熱』)
07. 声の波紋(『Reflections』)
08. 新しい世界(『夜に生きるもの』)
09. Praha(『Style』)
10. My Favourite Girl(『POPULAR MUSIC ALBUM』)
11. 真夜中のドライブイン(『POPULAR MUSIC ALBUM』)
12. 夜のとばりで会いましょう(『ある種の熱』)
13. ユニバース(『NIGHT & DAY, DAY & NIGHT』)
14. 星空ギター(『NIGHT & DAY, DAY & NIGHT』)
15. スタイル(『Style』)
16. 八月の疾走(『Style』)
encore
17. 夜明けのフリーウェイ(『The Endless Summer』)

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・27年目のメンバーカラー┃夕暮れ 坂道 島国 惑星地球
自分にとって作曲することとは、生きた記録のようなもの
どんなことがあっても作曲、そして音楽を続けて行けたら
「どんなことがあっても」という言葉に覚悟。こちらも聴き続けたい。ここでいうのもなんだが、インボイスとか愚政の極みよな〜!
「この身が果てる迄」という」発言は、山田稔明さんが体調を崩された影響もちょっとあったかも知れない。入院したの、高橋さんのライヴ当日だったんだよね……。フリーランスは身体が資本。ライヴハウスのキャンセルや諸々の事務処理もたいへんだし、何より心のダメージが大きい。少しでも不安が軽減される環境があるといいのだが……

・夏祭りの思い出もよかったですね、粉もん大好きな話(笑)


昨年のリクエストライヴでは、あまりの映像喚起力にエドワード・ホッパーの『ナイトホークス』は吉祥寺にあったのかなんて思っていたのだが、一年経ってある種の回答が出た。てか『ベンジャミン・バトン』の表紙って『ナイトホークス』だったのか! という訳でこれを機に購入


おまけ。かわいい



2023年09月17日(日)
第7世代実験室『たかが世界の終わり』

第7世代実験室『たかが世界の終わり』@テアトル新宿


本来そこにいる筈のない、いてはならない存在であるカメラが捉える。誰にも見られていない筈の家族の表情を。母親がやさしく子どもの頰を両手で包む、その姿を。

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余命宣告を受けた青年(藤原季節)が帰郷する。自分が間もなく死を迎えることを家族に伝えるため帰ってきた彼は、そのことをいいだせないまま家族から歓迎され、そして拒絶される。妹(配信当時は佐藤蛍、現在は佐藤ケイ)ははしゃぎ、弟(内田健司)は敵意を隠そうともせず、弟の妻(周本絵梨香)の気遣いは空回りし続ける。母親(銀粉蝶)は彼を突き放し、そして解き放つ。父親は不在のまま。おそらく過去にも未来にも。

食卓で家族が互いを抉り合ういたたまれなさがテネシー・ウィリアムズの作品を連想させ、アメリカ的な印象を受けた。土地に縛られそこで一生を終える者と、その土地を捨てた者。残された者は出て行った者に羨望と憎しみを抱き、同時に出て行けない自分に自責と諦観を覚える。実際は1990年代のフランスの話。物理的な距離感は凝縮される。走れど走れど故郷から遠ざからないアメリカの土地の広大さは、欧州の比ではない。その代わり、では、どうして彼は出て行った/出て行けたのか、そして家族は出て行かない/出て行けなかったのか? という心理的な面に興味が移る。

長男はつらいよという話として観ていたところもあった。青年が家族、そして子どもを持たないことについて、弟とその妻が遠回しに、あるいは直截的に、手を替え品を替え話題にする。男の子がいない、ということも。家はどうする? 年老いた親をどうする? 弟は青年を責める。お前が出て行ったから。その後、妹の直接的なひとことで、青年が家族から孤立している理由のひとつが明かされる。

印象的だったのは、その箇所がさらりと流されたことだ。そして以降、その単語は出てこない。演出上の狙いなのかは判りかねたが、聴き逃したひともいたのではないだろうか。青年が故郷を出て行き家族を持たない原因をそのひとつに集約しないという意志が感じられた。家族間の問題は、そんな簡単に結論づけられるものではないのだ。

食卓でのダイアローグはやがてモノローグへと移行する。それに伴い、空間そのものも変容していく。具象のテーブル、椅子、調度品に白く大きなシーツがかけられ、その上を青年が歩く。弟が追いかける。投げられた膨大な量の言葉は宙に舞い、着地の瞬間を待っている。演劇でしか表現しようのない、美しい光景をカメラは見事に捉える。故郷の光景も、家族とのやりとりも、やがてくる死も思い出になる。青年は過去も未来も、必然のものとして待っていたかのような表情で迎え入れる。家族は思い出のなかへと遠ざかっていく。食卓には、家には死が横たわっている。青年が迎える死、そこからさほど間を空けず訪れるであろう母親の死、やがて消えてなくなるであろう家。

映画化され話題になったジャン=リュック・ラガルスの戯曲(原訳『まさに世界の終わり』)を、内田健司の演出、武井俊幸の撮影で。コロナ下の2020年10月に舞台作品として制作され、一回限りの無観客上演を手持ちカメラ一台でワンカット撮影、配信した作品。本編はノー編集だろうか、数箇所消音されたところがあったが、これはノイズを消したか、台詞の詰まりや躓きを後で上書きしたか。開演したら停まらない(停められない)舞台作品の臨場感と緊張感、ここぞというシーンがキマる映像作品のアングルと没入感が同時に味わえるという、稀有で貴重な出来栄えだった。演者の力量、スタッフワークの充実、ハコの磁力。全てが必然の奇跡のように集まった。

観客は舞台を、本来はいられる筈のない場所から体験することになる。食卓の横で、兄を罵る弟の声を聴く。弟の妻の困惑を聴く。階段の前で妹の夢と現実を見る。そして子どもたちと一緒に、呑んだくれる母親を見る。観客は“家”に放り込まれる。カメラは気配を見せない。第三者がいたら決して話さなかったであろう言葉、見せなかったであろう表情が、次々と豪速球で投げ込まれる。家族の秘密を堂々と覗き見する矛盾に、後ろめたさすら感じる。鏡の前で青年が独白するシーンで、一瞬だけ撮影者が映り込む。ここで初めて、自分が身体をガチガチに強張らせて映像に見入っていたことに気付く。それ程のテンション。観客は、カメラを通してある家族の破壊と再生の一夜を共に出来るのだ。なんて幸せなことだろう。

さいたま芸術劇場での上演。ガラスの光庭から開巻し、ガレリアを通ってNINAGAWA STUDIOへ入る。現在大規模改修工事中、心のふるさとさい芸のあちこちが観られ涙ぐむ。当初は屋外のシーンもあったそうだが、悪天候により急遽屋内のみの上演になったとのこと。対応力に驚く。リハを相当数重ね、緻密に画角も練ったのだだろうと感じる仕上がりだったのだ。蜷川組で鍛えられた瞬発力とリカバリは受け継がれている。エンドロールに、所謂役名がついている演者だけでなく、リアルタイムで転換、照明、音響に携わった全てのひとが“出演”としてクレジットされていたことにも胸が熱くなる。舞台をつくりあげた全員が映像に残されている。余韻を残す幕切れだった。

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・鑑賞後、映画版は兄と弟が入れ替わっているとのことで衝撃を受ける。マジか

・三原順の『はみだしっ子』に出てくる鳩の喧嘩のエピソードも思い出しちゃった。鋭い嘴も爪も持たない平和の象徴は、それ故相手に致命的な攻撃を与えられずお互い傷ばっか増えるっていう。びえー


翌日目にしてウワアアとなるな、リビングルームはデスルーム……

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・劇場公開決定!#たかが世界の終わり トレイラー


・#playthemoment┃配信舞台『たかが世界の終わり』特設サイト
「いま、目の前で」を封じられた僕たちが、
配信という形で「一期一会」を全力で果たそうとした、
誠心誠意、努力と工夫の結晶です。

『第7世代実験室』は、さいたま・ネクストシアター有志メンバーを中心に結成された演劇企画ユニット。2020年2月、旗揚げ公演『勝手に思うから』でその一歩を踏み出しました(そのときの感想はこちら)。コロナがまだ“新型ウイルス”というくらいの呼ばれ方をしていて、じわじわと公演の延期や中止が増えていた頃。藤井風じゃないけど「コロナとともにデビュー」したようなもので、彼らは茨の道を歩むことになります。公演を打てない、稽古で集まれない。旗揚げ公演を打った新宿ゴールデン街劇場は、コロナ禍のあおりを受け同年8月に閉館してしまいます。ところがこの集団のバイタリティーは逞しく、その後茨の道どころか獣道をバッサバッサと切り開いていくのです

・ダイナナチャンネル by 第7世代実験室
YouTubeチャンネルを開設し、リモート演劇シリーズを配信。3年半で91本(!)の動画がアップされています。DIYで舞台制作から、撮影、編集、配信のセッティング、サイト運営も。頭が下がるこの情熱。コロナによる制限が解除されつつあるこれから、彼らはどんなものを見せてくれるだろう? 期待を持って長く観て行きたい集団です

・第7世代実験室onlineshop
グッズもあるよ。今回の上映で興味を持たれた方、是非に〜



2023年09月16日(土)
LÄ-PPISCH『CLUB CITTA' 35th Anniversary レピッシュ〜動〜』メモ

・客入れと客出しの音はDJ ISHIKAWA。いてくれて心強かった

・限界を無視する尋常じゃない爆裂炸裂暴走ライブを3時間超えでぶっ続けたレピッシュ 、ちなみに今年還暦だ!【ライブレポート】┃ぴあ音楽
Text:中込智子だと即わかる、このひとにしか書けない素晴らしいレポート。めちゃめちゃいいレポだけどツッコミがすごいのでクレジット見る前にこりゃ中込さんだろと思った(満面の笑み)。Photo:緒車寿一もうれしい! ちなみに終盤ホーンがこぞってヨレてきたの、酸欠だったんだと思う

・LÄ-PPISCH 〜動〜┃MAGUMI official website
ライヴ写真満載。タイガースユニ着て満面の笑みの恭一に注目。そしてマグミの「前掛け」(っていってた。こういうとこすごいマグミ)、後ろで観ていたのでサロペットだと思ってたけどジャケットだな。こういうのなんていうの、エプロンジャケット? そうだよなサロペットだと脱ぐのたいへんだもんね…(脱ぐの前提)。今回も脱いだ服は畳んでましたか?(配信で確認、畳んでなかった)

・BIB┃中目黒にあるA℃TSが運営しているSHOPです。
「前掛け」、ここのだ(執念)。ジャケットでもなくそのままエプロンだった


「二日間」というのは勿論タイガース優勝とライヴのことですね

・2023.9.18「CLUB CITTA' 35th Anniversary レピッシュ~動~」┃diary of Kyoichi-WEB
「現ちゃんとタイガースの事で騒いでた記憶もリアル過ぎて」「よく出来た1日だな〜という乾燥芋」
乾燥芋な(微笑)。スタッフへの敬意も


「45歳以上の諸君」というのは、来場者の年齢層調査があったので(笑)。50歳以上の枠を設けなかったのは優しさか? ちなみに10代もちょっといたっぽいが、多分親子で来てたとかそういうのだと思われる

・『パヤパヤ』などヒットで人気爆発 レピッシュが結成40周年、フロントマンが明かす亡くなった上田現との約束┃ENCOUNT
「そんなに仰々しく約束はしてないけどね(笑)」と本人がいってる通り、この惹句はどうかと思う(笑)


お知らせだけしつつしっかり動画編集して載せるとこ、しっかり者のバンドの末っ子……てかこの動画の方が配信されたものより音がいいぞ!? なんでだ…プラットフォームによって音質違うんかな……


いやはや無事終わってよかった。これからも宜しくですよ


ホントありがとね

・「弾けるとウソをついて」キーボードでバンド加入! 猛練習の日々から“紅白4回出場”まで、奥野真哉が語る音楽人生 | fumufumu news
ハッタリから始まったといってもすごい練習してるよなあ。レピッシュに合流したとき連日リハを8時間以上やってたそうだし。というかそれにレピッシュのメンバーも付き合ってる訳で

・LÄ-PPISCHのCLUB CITTA'ワンマンを生配信、家でもカラオケでも鑑賞可能┃音楽ナタリー
近頃はカラオケルーム配信ってのがあるんですね。便利な世の中になったものです



2023年09月15日(金)
LÄ-PPISCH『CLUB CITTA' 35th Anniversary レピッシュ〜動〜』

LÄ-PPISCH『CLUB CITTA' 35th Anniversary レピッシュ〜動〜』@CLUB CITTA'


彼らは「ストリッパーズ」の歌詞そのもの。もらう方にも勇気がいる「プレゼント」を、闇のなかから差し出してくる。受け取らない理由は何もない。

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MAGUMI(Vo, Tp)/ 杉本恭一(G)/ tatsu(B)
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奥野真哉(Key, Sx / SOUL FLOWER UNION)
増井朗人(Tb, Perc / Codex Barbès)
矢野一成(Drs / MOON・BEAM)
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DJ ISHIKAWA
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「ヒデキ還暦ィ!」なんていってたマグミが還暦か……あれ、これそもそもこれいったのマグミだっけ? こんなこというのマグミ以外にいないだろ、でも元ネタってあるのかななんてなんとなく検索してみたら、出てきたのは西城秀樹さんご本人が実際に還暦を迎えたときの記事ばかりだった。そしてマグミはやっぱりいってた。しかもこれ今年7月のことじゃん……ずーっといってるんだな(にっこり)。

という訳で、マグミが還暦を迎えるというのと、バンドと縁の深いCLUB CITTA'が35周年、というお祝い。マグミ曰く「25周年からのベストメンバー」で臨むという。和やかにお祝いするかな〜そんなワケないだろ〜ンナコッタァイイヤそこにあるのは楽しみだけだ。

とはいうものの、20周年のときの上田現のことを思い出す訳です。アナウンス通り、重い腰痛だと信じていた。あれが最後のステージになった。今回はどうだろう? 同じようなことがいずれ起こってしまうんだろうか? それは誰に? 大丈夫だ、そんなことはないと自分にいい聞かせつつ、それでも注意深くステージに目を向ける。まあ、お互いこの歳になれば、いつだってこれが最後かもと思いつつ観ていくしかないのだろう。もはや年齢も関係ないかも知れないが。

だいたいこの日を迎えられたのは奇跡に近い。矢野くんは福岡から来てくれた。増井くんは死にかけてた。闘病を続けていた洋一は亡くなった。そして松本大英はぶどう園を始めた。大英のはちょっと意味がわからない、と思いつつなんか和むというか救いだわね。メンバーや関係者が無事揃うというのは当たり前のことではないのだ。揃ったとして、ライヴが無事終えられるという保証もない。

そんな不安も若干あったのだが。ちょっと見てくださいよこのセットリスト。

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setlist(公式より

01. 美代ちゃんの×××
02. サイクリング
03. F5
04. タンポポ
05. 楽園
06. ハーメルン
07. Mad Girls
08. Good dog
09. Second Wind
10. room
11. party
12. 柘榴
13. miracle
14. 東京ドッカーン
15. 胡蝶の夢
16. リックサック
17. プレゼント
18. VIRUS PANIC(90's TERRORIST)
19. LOVE SONGS
20. Magic Blue Case
encore1
21. Hard Life
22. CONTROL
23. ANIMAL BEAT
encore2
24. パヤパヤ
25. KUMAMOTO

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これで3時間。バカなの? マグミがセットリスト組んだそうですが、自分で自分の首を絞めるようなセトリを自分で組んで結果ヘロヘロ(というかアニキが「ボロボロ」つっててそっちのがしっくりくると思った。ホントボロボロ)になりつつもやり切る、これぞレピッシュのフロントマン。正直encore1ではゲラゲラ笑いつつおいおい大丈夫かと真顔になり、encore2ではおいまだやるんかやれるんかうれしいけど、と鬼の形相になってた。私が。観る側も呑気に観てられない。

いやだってさ、ヴォーカル〜ホーン〜アクション(彼の場合歌の世界を伝えるためのジェスチャーでもある)〜ヴォーカルそんでホーン、みたいなアッパーな曲をこんな終盤に固めて…ずっとそういう構成でやってきてるけど……いつ息吸うねん。以前酸素(ボンベ)吸ってる時期もあったけど今回はどうだったんだろう、見えなかったけど。声はよりハスキーになり、ますますヒデキに似てきたなあと途中で気づき、以降ずっと「ヒデキ……」と含み笑いをしつつ聴いてたとこもあります。何が呑気で観てられないだ、充分呑気じゃないか。いやさ、シリアスとバカは紙一重というのはレピッシュに不可欠な要素であり、だから自分もずっと聴いているんだなと思った次第です。最高。まだまだ元気でいて。

で、仕事で30分遅刻したんですよ(…)。「ハーメルン」の後半に入場したんですが、ソールドアウトしたというだけありフロアはパンパン。前に行く余地がない。でもチッタは、最後列からでもステージがちゃんと見える。ホントいいハコよな、35周年おめでとうと思いつつ上手側壁沿いを確保しひとごこちつくと、マグミが「現ちゃんがtatsuの脳に入ったからな」とかいう。「ホントはやる予定じゃなかったんだけどね」といって「Mad Girls」が始まった。何? 何したの上田!? またか! キエーなんだったのと終演後に訊くと、なんでもtatsuが曲順を間違え「楽園」の前に「Mad Girls」のイントロを弾いちゃったとのこと。あれベースから始まるからね…にしてもtatsuがそんなミスをするのはとても珍しいので、上田のせいになったと(笑)。いいぞ、これからも何かハプニングがあったら全部上田のせいにしよう。何せ自分が脱退してから初めてレピッシュがライヴやるとき「大丈夫か? 俺行かんでいいか?」といったひとですからね。呼ばれなくてもきっと来てる。前日、阪神タイガースが18年ぶりにセ・リーグ優勝したのできっと浮かれてる。

ここで我に返る訳だが、タイガースが前回セ・リーグを制覇したのは2005年だった。そのとき上田はまだ生きてた。ということは(も何も)、上田の死後初めてのVだったのね。もうそんなに時間が経ったのかというのと、タイガースそんなに優勝出来なかったんかというのでしみじみする。そりゃ恭一も浮かれる。


この絵、現ちゃんも洋一もいるのよ。

マグミがいうには「昨日決まってくれてよかった。今日になってたら恭一がどうなってたか…」。応えて恭一「ここ(マイク前)にiPadおいて試合見とる」。やりかねん。そこで昔話になり、当時はスマホちゅうか携帯もなかった、テレビやラジオの実況しかなかった、ツアー先でライヴ終わると打ち上げにも出ず即ホテルに戻ってテレビ見てた、地方だとテレビもやってなかったり……という話からtatsuが「現ちゃんとふたりでタクシー乗りに行ってたよね」とツッコむ。前日のアニキのツイートを思い出して文字通りブフォッと吹きましたよね。


これな。よりにもよってtatsuがこの話出してくるとは。この日tatsuはマグミに「還暦のこといってないけどいいの?」と話を回そうとしたりしててニコニコした。こんな光景を観られるなんて、歳とってよかったーと思うことのひとつだね。

それにしてもこの日のライヴは良かった。いつもそういってる気もするが。佐々木美夏さんがレピッシユの音楽は見事な発明品だったギリギリのところでいろんなものが成り立っていたと書かれていて、その通りだと改めて実感するライヴだった。スカからニューウェイヴ、DJ不在のヒップホップ、郷愁のなかに寂しさや恐ろしさが潜む風景や、非現実的な世界を描く歌詞。ポエトリーリーディングでもラップでもないアジテーション、唱歌にすらなり得る美しいメロディ。そしてパンクとハードコアのアティテュード。これぞ本来の意味でのミクスチャー、としかいいようがない。

ピースは欠けていき、バランスも危うい。かつての姿ではない。それでもこのバンドは生きている。「柘榴」に涙し、「Tears」のエピソードに笑う。「歌詞書くとき、現ちゃんに曲渡されて『熊本の歌にするなよ』っていわれたんだけど最後に『あんたがたどこさ』って(入れちゃった)」「『Tears』は最初女性ヴォーカルに提供する話があったんだけど、俺にしか唄えん歌詞を書いたった」。これ私初耳だったと思う……有名な話なのかな。このマグミの「現ちゃんの楽曲は渡さん、俺がいちばん唄える」というような発言は以前からある。頑固さは変わらない。そのことをうれしく思う。

しっかしその、今月還暦になる頑固な男がチッタにタッチ☆やると迄は予想してなかった。「LOVE SONGS」恒例、ステージ〜フロア最後方を往復するクラウドサーフ。イントロドンでトリハダ立ちましたよ、あの蒸し暑いフロアにい乍ら。いやでもまさか、いくらなんでもと思っているうちにマグミがいそいそと服を脱ぎはじめ、体型の変わらなさに感心し、いやそれでも…と思ってる間に飛び込んでしまった。待ってましたと腕まくり(比喩)のひと、えっやんの!? と大慌てのひとが、マグミをサポートするため走っていく。落ち着いて(心配そうにも見えたけど)フロアに目をやるtatsu、復路で「がんばれー!!!」と連呼しギターを弾き続ける恭一。あそこで泣くとは思わんかったと毎回いってる気もするが、やっぱり泣いた。やるといったらボロボロになってもやるんだな。感動的な光景ではあるが、いつ迄これがやれるんだろうと思いもする。かつて「この身体が使えるかどうかなんだ」といったマグミ。やっている限りは観ていきたい。

「25周年からのベストメンバー」、奥野さんには感謝ばかり。当時も思ったけどホント有難うだよ…Saxも吹けるようになってさ……先日話題になってたインタヴュー(後述)によると、もともと全くの鍵盤未経験者だったのに弾けますつってキャリアが始まったそうなのでSaxも吹けますいうたら吹けるんだな。普通は吹けない。西の子で、寅キチで、キャラクターもどっかおかしくて(失礼)、この気難しいバンドにするりと馴染んで。彼がやってきたとき、マグミは「思ったよりすごい風を持ってきた」といった。「ラルゴ」じゃないけど、10ルピー払って待っていた風がきたんだ。あるいは「Second Wind」か。これからも宜しくね。

件の心霊現象もとい上田現象は後日配信のアーカイヴで観ました。上田が映ってそうでちょっと怖かったけど。ホントのところ全然怖くないけど、全然映ってていいけど。『パンドラの鐘』じゃないけど、「化けて出てこい」よ。奥野さんと共演してみたくない? てか配信でチッタにタッチ観られるのすごいいいですね、フロアにいてはこのアングルでは観られない訳で。そしてこのとき、フロアを泳ぐマグミを見つめる恭一の優しい笑顔が胸に迫った。こんな表情をしていたのか……。この日マグミは恭一のことを「幼なじみ」といった。

終わってみれば充実、だけでなく、やっぱりマグミのいう通り「何だコイツら」と畏怖さえ感じる内容。結果だけを見せる、これがレピッシュというバンド。来年はツアーがあるそうです。やったね、待ってる。



2023年09月08日(金)
『復讐の記憶』

『復讐の記憶』@シネマート新宿 スクリーン1


原題『리멤버(リメンバー)』、英題『Remember』。2022年、イ・イルヒョン監督作品。『華麗なるリベンジ』の監督第2作、ということだったので、社会問題を提示しつつも軽やかに復讐を描くエンタメ作品再び? くらいに思っていた。とはいえ宣美や惹句は不気味なトーンに満ちている。そもそも『華麗なるリベンジ』の原題は『検事外伝』で、“リベンジ”というワードは原題に入っていない。日本の配給会社が、同じ監督の作品だと連想しやすいように邦題をつけたのだろう。

そして冒頭にも書いた通り、今作は2015年のカナダ、ドイツ映画『手紙は憶えている』のリメイク。家族を殺されたアウシュビッツ収容所からの生還者が、今ものうのうと暮らしている元ナチス兵に復讐するストーリーとのこと。観終わってからそのことを知り、あー、となる。そりゃ舞台を韓国に置き換えればこうなるわ。主人公が復讐するのは、元関東軍の軍人と親日派(当時のあっちでいえば売国奴と同じくらいの意味)の関係者だ。

イ・ソンミン演じるおじいちゃんにはとにかく時間がない。癌は末期。認知症も進んでいる。何故この年齢になる迄待っていたかというと、資金を貯めるため、妻が亡くなるのを待つため、子どもたちが新しい家庭を持ち、幸せに暮らしているのを見届けるため。気の遠くなるような時間を、彼は復讐の準備に費やしてきた。想像を絶する精神力だ。その間ベトナム戦争にも出征している。

悲しいのはその、ベトナムで培ったノウハウが役に立っていることだ。施錠された建物に侵入する。音を立てずにひとを殺す。生き残るため身体に叩き込まれたことは、記憶が薄れていく今もなお有効なのだ。復讐する相手の名前を手に刻み、薄れていく記憶を何度も呼び起こし、おじいちゃんは着々と計画を進める。『殺人者の記憶法』や『メメント』でもあったこの「実用としてのタトゥー」描写は、恐らく『手紙〜』にもあるのだろうと想像する。強制収容所に連れてこられた者たちは、名前を奪われ、刺青された鑑識番号で呼ばれた。この「奪われた名前」は、朝鮮総督府の創氏改名に繋がり、物語の謎を解く大きなカギとなる。5人目の標的はどこにいる? 巧いアレンジだ。

監督と共同脚本を手がけたのはユン・ジョンビン(今作の企画・製作も)。『工作 黒金星と呼ばれた男』の脚本・監督を務めた人物でもある。史実に基づいたフィクションをエンタメに仕上げ、爽やかであると同時に重い余韻を残すという離れ技をまたも見せてくれた。そうなのだ、良質のエンタメだった。人間食べ食べカエルさんが「ジジイ同士の取っ組み合い」と書いてて大笑いしたが、いやホントジジイが取っ組み合いまくるし、普段はボンヤリな感じのおじいちゃんが突如覚醒して殺し屋ばりの銃使いを見せるし、凄惨な場面も非常に見応えがあった。あと韓国映画の交通事故のシーンてどうしてこうも怖いのか。車道が広いからめちゃめちゃスピード出せるしすごい迫力。

ソンミンさんの実年齢は54歳なので、キレの良いアクションがまだまだ出来る。むしろお年寄りの演技の方が大変だったかもしれない。常に猫背で動作もゆっくり。手の動きもぎこちなく、しわがれた声で話す。見事でした。

ナム・ジュヒョク演じる若者とおじいちゃんのバディっぷりもよかった。お互いをフレディ(おじいちゃん)とジェイソン(若者)って呼び合っているのがもうおかしい、よりにもよってこの名前。バイト先(後述)でのニックネームなのだが、ふたりが楽しそうに働く描写はこの映画に不可欠なものだった。おじいちゃんが復讐心を隠してきたように、実は若者も自身の崩壊寸前の生活を隠している。本心を見せず、そつなく働いているだけな筈だった職場で、ふたりはひとときの安息を得ている。

終盤、おじいちゃんにある「習慣」が甦るシーンがある。ふたりは単なるバイト仲間ではなかった、確かに心が通った瞬間があった。おじいちゃんの記憶は、そして人生は、恨みと悲しみだけではなかったのだ。やるせない話だがちょっとだけ救われる思いだった。

しかし終わってみればかなりのおおごと、スケールのデカすぎる復讐になった。子どもたちが独立してたってどんだけ余波が……とは思いました。しかも被害者の何人かは内密に処理されたようなので(今後の国交に影響するので、と両国の話し合いでもみ消されたっぽい)闇は深いなと改めてゾゾゾ。

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・輝国山人の韓国映画 復讐の記憶
いつもお世話になっております。音楽監督は『華麗なるリベンジ』に引き続きファン・サンジュン。ジョンミンさんの弟さんですね

・アルバイト募集 - アメリカンレストラン&バー TGIフライデーズ
仲間をニックネームで呼び合い、性別や年齢、国籍に関係なく、全員でお客様のハッピーの為に協力し合っています。個性はバラバラですが、チームワークは抜群です。「楽しいことが好き」「人を喜ばせることが好き」な方は特にウェルカムです。
おじいちゃんと若者のバイト先。最後の協力んとこに名前が出ていたので実在するんだ〜と調べてみたら日本にもあるんだ! 行ってみたい〜! ニックネームで呼び合うのはこのお店の慣例なんですね。楽しそうな職場だったよね……(涙)



2023年09月03日(日)
小林建樹 ワンマンライブ『BLUE MOON 〜不思議な夜をご一緒に』

小林建樹 ワンマンライブ『BLUE MOON 〜不思議な夜をご一緒に』@Com Cafe 音倉


分析〜実験〜検証〜実験を繰り返す。しかしその種がコンプレックスによるものから、というのは意外だったし、以前だったら話さないことだったのではないだろうか。話す機会がなかったともいえるが。

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下北沢駅の改札を出ると、いつもとは違うトーンの喧騒。ホイッスルの音頭と、わっしょい、わっしょい、という掛け声が聴こえてくる。会場であるCom Cafe 音倉の前も神輿の通り道。笑顔で練り歩く法被姿の集団を、通行人がスマホで撮影している。数年ぶりのお祭りで、地元のひとたちはとてもうれしそう。

会場内は外の騒がしさからは無縁の世界。開演時間を5分程過ぎた頃、少し緊迫したアナウンスがスピーカーから流れた。このくらいのキャパの会場でわざわざマイクを使って? 何事かと身構えていると、配信トラブルで開演がもう少し遅れるという。

珍しいことではないのでそうなんだ、くらいに思い、そこからさほど時間も経たず開演したのだが、小林さんが最初のMCで「配信の方ごめんなさいね、あとで……」みたいなことをいう。んん? インターミッション中にメールを開けると、今回の配信を行っているtigetから『主催者からのお知らせ』が届いていた。どうやら“ライヴ配信”が出来ないということだったらしい。つまりリアルタイム視聴が出来ず、アーカイヴ映像をライヴ後に配信する形になったとのこと。

ライヴ終了後にtigetから改めてメールが届いた。本来は七日間だったアーカイヴ視聴期間を二週間に延長するとのこと。「本公演は素晴らしいライブでしたのでどうか繰り返してご視聴のほどお願い申し上げます。」と書かれていたところが好もしかった。

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という訳で観る側は呑気に待つだけだったのだが、バックステージは結構ワタワタしていたのではないだろうか。出てきた小林さん、後ろ髪が一房ハネている。たまたまだろうが、なんだかお風呂から慌てて出てきたみたいでつい笑ってしまう(失礼。いや、かわいくてね)。いつもとはちょっと違う雰囲気のなか演奏が始まった。面白かったのは、小林さんの挙動がなんだかペンギンみたいになっていたこと。ギターを弾くときに、ヨチヨチといった音が出そうな足踏みをしている。BPM120くらいの楽曲が続いていたからというのもあるが、ひとつひとつのテンポを確認し乍ら、マーチのように前進しているようだった。その歩みとともに、配信大丈夫なのかな? と不安になっていたフロアも落ちついていったように思う。

足踏みなので立ち位置は進まないが、時間は進む。生まれた先から消えていく音楽は、水に絵を描くような時間の芸術だが、それによって刻まれた記憶は聴き手の心に残る。

ライヴが行われる季節や日程に合わせたタイトルと、それに沿った構成、選曲は毎回の楽しみ。しかし今回の『BLUE MOON 〜不思議な夜をご一緒に』は、タイトルが発表された時点で期待せずにはいられなかった。“不思議な夜”というワードが入っている。2ndアルバム『Rare』収録の曲だ。『Rare』は小林さんとの出会いのアルバムで個人的に思い入れがある。特に「不思議な夜」「トリガー」は、ダークトーンの曲調、切迫と焦燥に満ちた歌詞とヴォーカルに惹かれ、当時繰り返し聴いていた。しかしご本人が「2ndは本当に作るのが苦しかったアルバムで、演奏すると当時のことを思い出してしまう」「アルバムジャケットの写真、死相が出てるとか遺影とかいわれてた」と仰っていたことが気になっていた。その冥さを魅力に感じた自覚があった。

これは軽々しく2ndの曲やってほしい〜とかいえないな。音源はあるし、ライヴも当時聴けたのだからそれで充分なのかも、なんて思っていた。『Rare』からは「祈り」しか演奏しない時期も長かったように思う。

思えば3rd『MUSIC MAN』が出たときは、アルバム制作費について生々しい話もしていた。ご本人のキャラクターもあり(関西弁というのも大きい)、決して不快にはならない話し方だったのだが、「レコード会社は音楽を売ることによって利益を出さなければならず、それはアーティストにとって決して良い影響ばかりではないのだ」と思ったことを憶えている。しかし、メジャー時代にこういった制作のノウハウとやりくりを学んだことは、その後小林さんが個人で活動するにあたって役立っているともいえる。『Emotion』が出たときのライヴで、前のアルバムの売り上げが新しい作品の制作費になるという話から「お金、だいじですよね」と話していたことを思い出す。

そして何より、メジャー在籍時より演奏も声も安定している。ライヴのスケジュールを自分で組めるようになったからでもあるだろうが、今は公演日に合わせ、しっかりコンディショニングすることが出来るのだろう。

近いところでいうと、メジャーから離れた高橋徹也、山田稔明も、ときどきライヴのMCやブログで今だからこそ振り返れる当時の経験を語っている。曰く「莫大な制作費(広告費等も含む)がかかっていたことを後で知った」「(メジャーとの)契約がなくなって一番お金がない頃、たくさんのレコードや機材を売った」。そんなふたりは今、業界の制約から離れたところで、自分の作品をリスナーに届けるために最適な環境と個性的な企画を次々用意し、日々精力的な活動を行っている。そして高橋さんも山田さんも、体調について、ライヴに向けてどういった準備をするかについて話す。フリーランスであること、音楽で生きていくことへの自負を感じる。

今はwebを通して個人で作品を発信出来るツールが増え、そこから利益を得ることも出来る。そうしたシステムが発達する過渡期から試行錯誤を続けてきた音楽家たちに、改めて尊敬の念を抱く。

話がまた逸れていると思うでしょう、いやいやこれが「魔術師」に繋がるのだ(笑)。6月に発表され、この日がライヴデビューだった新曲は、不安な今の社会につけ込む輩を魔術師に喩えたものだ。曲を紹介するときのMCで「輩」「許せない」という強い言葉を使っていた。そこには確かに怒りの感情があった。社会は確かに便利になっている、しかしその裏では、儲かりさえすればいいと考えるひとたちもいる。バズりさえすればいい、注目を集めればこっちのものと、甘くてわかりやすい、おまじないのような言葉を使ってひとを騙す。

あ〜ホント腹立たしい。なんて凡人はストレートに思ってしまうが、そこは音楽の魔術師(といってしまおう)小林さん、こうした“不安”や“怒り”の感情を作品に昇華する手腕が光る。社会の、人間の闇を見つめ、そこに光をあてる。持っている力を善悪どちらに使うのかという話だ。しかしここでいきなり『エコエコアザラク』の話を出すが(なんでや)、邪悪なものこそが悪を吸収することもある。さて、小林さんは白魔術師か黒魔術師か。どちらに振ることも出来る複雑さが、やはりこのひとの能力であり魅力なのだ。それは同じくこの日がライヴデビューだった「cau cau」もそう。ネットショッピング依存の危うさが人なつこいメロディにのせ唄われる、非常にユニークかつ印象に残る曲。

語感や響きを優先するので意味が通じない歌詞になったりするんだけど、「魔術師」や「cau cau」は違った、といっていた。昨年から「ライヴを再開」し、意欲的に制作を続けていることに、やはり意志を感じる。いいたいことがある。知らせたいことがある。

そして、ライヴを再開してからのMCでは、後日談的な話が多いことにも気付かされる(「キャベツ」が生まれた経緯はもっと前に話してたか?)。「cau cau」に際しての、今は落ちついたけどネットショッピングにハマっていた時期があった、という話もそうだが、この日いちばん興味深かったのは、「他人に提供する曲と自分の作品の完成度が同じにならないことがコンプレックスだった」ということだった。松浦亜弥さんに提供した「灯台」(!)を唄う前に話したこと。

提供曲には自分のなかにあのアーティストのあのヒット曲、といったお手本的なものがある。真似している訳ではなく、コードやリズム等仕組み的なものがあり、それに沿って作る。80〜90%くらいに迄仕上げて納品出来る。対して自分の作品は、70%くらい迄しか仕上げられない。完成後もライヴでいろいろ試し続ける。すると正解と思えるものが見えてくる。でもこれがコンプレックスで、なんで自分が唄う作品と、ひとに提供して唄ってもらうものに違いが出てしまうんだろうとずっと思っていた、というのだ。

これが冒頭に書いたエウレカ! だった。視界が開けた気分だった。どうしてこうも分析〜実験〜検証〜実験を繰り返すのだろうと不思議に思ってはいたのだ。勿論このひとの作る曲にはそれだけの多面性がある。そして毎回楽曲と演奏の違う面を見せたい、ライヴは文字通り生きものなのだからということ、自分の楽曲にはそうしたプリズムのような魅力があることを、実演で聴かせたいという気持ちがあるのかなと思っていた。当の本人は、ひたすら完成や正解を追い続けていたのだ。楽しいからやっているというより(やればやる程いくらでも発見があるだろうから楽しくはあるだろうが)やはり探究だ。

これは〜……その探究をずーーーーーっと続けてもらいたいなあなんて残酷なことを思ってしまうな(笑)。同じ楽曲の弾き語りでも、ピアノのときとギターのときがある。鍵盤と弦の違いを確かめているのかも知れない。そんなん、聴き手からすれば両方聴きたいに決まってるだろうがよ〜。聴き手の業が深いともいえるが、同時に小林さんのアーティストとしての業の深さも見てしまった感じだ。

「正解」という言葉を「ジャスト」に置き換えてみるともう少し理解出来る。ご本人にはああ、これだ! と、パズルのようにピタリとハマるコードとリズムがあるのだろう。しかし聴く側からすればどのパターンも興味深く、魅力的で、エキサイティングなのだ。どれも正解に聴こえる(笑)。それこそ「みんなちがって、みんないい」(みすゞ)というやつだ。

そして恐らく、ご本人がいくら正解を探し続けても、曲の方がそうさせないのではないか。そんな曲を作ってしまっている。やはり彼は怪物だし、生み出されるものも怪物なのだ。曲単体だけではない、曲間のブリッジも毎回変える。その度景色が変わる。作曲とアレンジは地続きになり、新しい物語がいくつも生み出されていく。

それにしても、ご本人はコンプレックスだといっていたが、これだけ複雑な要素を持つのに表出がポップな自分用の曲を、他人が唄うのは難しいのでは……。平山みきの『鬼ヶ島』の話思い出しちゃった。これ近田春夫プロデュースで、作・編曲と演奏がビブラトーンズ(=人種熱)のアルバムなんだけど、窪田晴男たちが凝りまくったアレンジでバックトラックを作って、「こんなオケじゃ唄えない」と平山さんが泣いたのを見て「勝った!」と喜んでたという逸話があり……若気の至りだったと後日窪田さん反省されてましたが(笑)。最終的に平山さんはこれを唄いこなした(すげえ)。名盤です。

ということは、高橋徹也は平山みきなんだな(!?)。1月の高橋さんとのライヴで「満月」を共演する際、「自分の歌をクセのある声のひとに唄ってほしかった」と話していたが、高橋さんの澄んだ声による「満月」は格別だった。今の小林さんは、(提供曲ではなく)自身の作品を他人が唄うとどうなるか、という方向にも興味がいっているようだ。お、この種はだいじに育てたいな……私がいうのもなんだが。

ポリリズムの検証は一旦落ちついたようだ(この日の選曲によるものかもしれないが)。コードの一音一音、リズムの一拍一拍を確かめるように演奏する。そこに一瞬のひらめき、新しいアイディアを反映させていく。ギターにカポをかまし、高音のピッキングを聴かせる。転調をギターでもピアノでも使う、『君たちはどう生きるか』で久石譲のミニマルミュージックに衝撃を受けたと実演し乍ら話し、そのあとの演奏で同じコード進行を挿入する。「どう?」というように客席に微笑む。パーカッシヴなヴォーカライズから地声のスクラッチを聴かせる。「正解を探す」旅に同行させてもらえるうれしさを噛みしめる。

待望の「不思議な夜」は、なんとピアノ! 音源ではアコギのカッティングが印象的なあの曲を、だ。「不思議な夜ご一緒に、ってなんやねん」とセルフツッコミされてましたが、そこから恋愛だと思うんですよねと繋げていた。「ひと月に満月が2回あった(=ブルームーン)」8月を振り返りつつ夏を見送る。秋の気配はまだ遠いが、夏の名残と「SPooN」を聴けてうれしかった。

セットリストは名古屋公演終了後に。

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setlist

Ag:
01. COLONY(『青空』)
02. Am6(『Shadow』)
03. 満月(『曖昧な引力』)
04. cau cau(『Mystery』)
05. From Yesterday(『Mystery』)
06. 魔術師(新曲)
07. Silence(『Music Man』)
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Pf:
08. Sweet Renndez-Vouz(『曖昧な引力』)
09. 祈り(『Rare』)
10. 灯台(松浦亜弥提供曲)
11. 夏の予感(『Music Man』)
12. 3minutes(『Rope』)
13. 不思議な夜(『Rare』)
14. 花(『青空』)
15. SPooN(『Rare』)
encore
16. ペルセウス(新曲)
17. 最初のメロディー(『Blue Notes』)

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その他。


物販はライヴ終了後。お品書きは開演前に発表されていたので、あちこちから「アクスタ!?」という声が聴こえザワザワしてた(笑)。こういうフレーム型のがあるんですね。というかこちらが本来のアクスタなのではないか


レコードジャケット飾ればいいじゃんといわれてしまうとぐうの音も出ないが、アクリル板を持った高橋さんがアクリルスタンドになっているというところがアートでですねとだんだん当初の趣旨から違うものに……高橋さんのプロポーションがアクスタにピッタリという話からじゃなかったのか

・衣裳はアロハ2種にジーンズ、ニューバランスのスニーカー。あとビーズのチョーカーみたいなの着けてた。爽やか

・「先月は病に臥せっておりまして」「咳が酷かったので不安だったんですけど大丈夫でしたね」……いやちょっと血の気がひいたわ。いわれなければ全く気づかないくらい、強くクリアな歌声でしたが……。水飲む回数も少なかったし。あの声が失われなくてよかったと胸を撫で下ろした。いやホントおだいじにですよ……


今年のフジでアラニスを聴けたことでいろいろと記憶の扉が開いたな〜。アラニスに出会えてよかった……。そしてこの日は私に小林さんを教えてくれたにゃむさんと久々に会えてうれしかった! 開演前姿が見えず心配していたら、名古屋遠征帰りでギリギリの会場入りだったとか。間に合ってよかった〜

・フェイクニュース、おまじないのような言葉。先週ジョンジェさんもいってたなー。表現を生業とするひとたちが警鐘を鳴らしている。受けとるこちらも気をしっかり持たないと、なんてことを思う

(20230912追記)
・夏のライブ、唄い終えました♬┃小林建樹オフィシャルサイト
アルバム制作も大詰めのよう。楽しみにしています!