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2016年11月13日(日)
『華麗なるリベンジ』

『華麗なるリベンジ』@シネマート新宿 スクリーン1

原題は『검사외전(検事外伝)』、英題は『A Violent Prosecutor』。2016年作品。今年の一月に渡韓したときあちこちで予告編を目にしていた『検事外伝』がなにやら素敵な邦題になって公開されましたよ。か、華麗……?

いやーしかし面白かった、良質エンタメ。熱血検事が冤罪で収監、かつて送り込んだ犯罪者たちにリンチを受ける、やがて刑務官や服役囚たちから信頼を得て先生と呼ばれるようになる、個室なんかももらっちゃう、その個室を自分好みに飾ってたりする、賄賂も差し入れもあるよ! そこへ彼の無実を証明できる新入り詐欺師が入所してくる……。『ショーシャンクの空に』?『親切なクムジャさん』?『検察側の証人』? さまざまなモチーフが連想されますがそのさじ加減がいい。コメディ演出も絶妙で、笑いで許せる隙がある。しかし筋が通っている。検事は収監されたことで自分を省み、事件にならなかった数々の罪を償い、冤罪には裁判で決着をつける。

映像はスタイリッシュ、シーンを時系列順には並べず観客の興味をひき、のちにその謎を明かすという展開も巧み。詐欺師が筆跡を練習していたサインが誰のものかわかったとき、その使いどころが判明したときのカタルシス! 詐欺師がソウル大学のスタジャン着るシーンなんて、一瞬なのに客席にドッと笑いが起きました。テンポ、リズムがいい!

詐欺師とか潜入捜査官とかスパイってホントに怖い職業。変装と言ってもたかがしれてる、基本的に素顔を晒しているから面は割れてるし、ひとりきりだし、己の口八丁手八丁だけがたより。余程の度胸がなきゃ出来ない……と思わせられる場面も多く、詐欺師は何度も命に関わるようなピンチに直面する。ところがこの映画、悉く笑える展開で危機を脱してしまう。だんだんそれが観客にも周知され、「あっ大丈夫大丈夫、ハラハラするけど悲劇にはならない!」とある意味安心して楽しめる。こういうとこも巧いなあ。

ファン・ジョンミンとカン・ドンウォン、全くタイプの違うふたりがバディになるという設定も楽しい。ふたりとも決して褒められる人物ではない、欠点も多い。しかしどちらも頭がキレる。バディなのに離れて行動する。ジョンミンさん演じる検事は、檻のなかからドンウォン詐欺師に指示を出す。裏取引で手にした携帯電話、面会での対話のなかにひそませるヒント。検事は策を練り、詐欺師は瞬時にその意図を理解する。聖書の一節が暗号になるくだりは韓国ならではだなあと思う。登場人物の育った背景を説明せずとも通じますもんね。

まーそれにしてもふたりとも、自身のチャームを存分に発揮しておりました。ジョンミンさん、鳶色の瞳が物語る物語る。それをまたいい光の具合でカメラが撮ってる。声の力、しなやか立ち居振る舞いが法廷シーンで発揮される。「私は罪を償った」と宣言するときの格好よさと言ったら。詐欺師を個室に招待してチキンでもてなし、取引成立! となったときの表情の、なんともいえない色気もな……。ここで色気使ってどうするのよ…素敵すぎるわ……。ドンウォンさん、かわいいかわいい。「顔は殴らないで!」と言っても素直に「そうよね〜そんな綺麗な顔に傷つけられないわよね〜」とか思う。若い頃のSMAP中居くんが大柄になった感じです。顔立ちも、ときどき見せる邪気を含んだ表情も似てるよねえ。詰めが甘く嘘も下手、よくもまあこんな甘々で詐欺師やってこれたな…いや、前科9犯てことは全部バレてるのよね。懲りないね、アホなのね……てな人物像だけど、なんというか……「美形のオ・ダルス」といってしまいたいくらいの愛嬌なのだ。素晴らしいひとたらしっぷり。

しかしかわいいには最強がいたのだった。ジョンミンさんのライバル検事を演じたパク・ソンウン。おまえ、かわいい! 天然か! 仲間外れにしないでよ〜僕だって仕事デキるんだぞ、えっここで活躍したら有名になっちゃう? ドラマ化されたりして! どうしよう! がんばる! みたいな。実際仕事はデキる。小心者だけど善人、正義感はあるけど矮小な人物(酷い言われよう)。それをあの大型犬みたいなソンウンさんが演じるわけですよ。ちょっとした表情や口調に虚栄、保身、見栄をにじませる。アクション俳優のイメージが強かったけど、コメディリリーフの実力もあったのだなと感心しきり。

本編以外にも楽しみがありました。前日観た『弁護人』で新聞記者を演じたイ・ソンミンがゴリゴリの権力側。恵まれない環境から努力でのしあがった主人公が法廷で戦うという同じ図式、その仕上がりの違いが興味深い。

そしてですね…『新しき世界』好きからすると、これでもかってくらい面白要素がてんこもりでして。まずキャストがめっちゃ被ってるんですわ。皆が悪者に見える!(笑)エレベーターはそのままドアが閉まる筈ないし駐車場ではろくなことが起こらないと思うよね……。朝鮮族ネタも出てくるし、詐欺師が検事をヒョン(兄さんというか兄貴というか。心を許したいうか親しみが一段階あがったときに使われる)って呼んだ瞬間をひとつの盛り上がりにしているし。おまっそれ潜入捜査官がヤクザのNo.2をヒョンって慕っててそんでどうなったよ!(いろいろ混同中)

ジョンミンさんとソンウンさんの面会シーンでは、収監されているジョンミンさんが帰ろうとするソンウンさんに「気をつけて帰れよ」ってニヤニヤしながら声をかける。これ、新世界と同シチュエーション、立場が逆…なんなの…狙ってるの……? 「ドゥルワ」(「来いよ」。『新しき世界』のジョンミンさんの台詞で流行語にもなった)とか言うシーンもあるしさ〜〜〜。


(ここだけ抜き出した動画があがってるとこにも笑う)

まあそんな訳で心中で悲鳴を何度あげたことか。楽しかった……ちなみに今作の音楽監督はファン・サンジュン、ジョンミンさんの弟さんです。仕事で組んだのは初めてだとか。選挙運動でドンウォンくんが踊りまくるとこの選曲よかったですねー。

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・輝国山人の韓国映画 華麗なるリベンジ
いつも詳細な作品紹介有難うございます〜!

・【インタビュー】ファン・ジョンミン「静かに見えながらも燃える目をしているように演じました」|韓スタ!
法廷シーンはワンカット。「ラブ・ユー」はドンウォンさんのアドリブだったそうです。カ〜ひとたらし!

・シネマートで今やってます。『華麗なるリベンジ』|Cinem@rt Magazine
これはよいレヴュ〜。ひとことキャプションも笑える